「戦自の一部が引き上げていきます。」
オペレーターの一人が声を上げた。それは今なお銃撃戦の続くこの発令所にとっても吉報といえた。しかし、発令所には一つの救いをもたらすものでもなかった。ある者は椅子の影に隠れある者は銃を構えたままの姿でモニターを凝視していた。ただ一人冬月だけは苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。
(ゼーレめ。もう出し惜しみはしないということか・・・碇、もう時間がないぞ。)
「量産機が下降を始めました。」
発令所のネルフスタッフは誰もが沈黙していた。冬月以外にその意図を知る者はなかったが誰もがいいしれぬ不安を感じた。硬直したその場では、発砲される銃声と、マヤの啜り泣く音だけが響いていた。
ミサトは戦自の混乱をよそに初号機に近づいていく。通路だということにも構わず、車を乗り入れ、その上に転がっている死体の山を気にすることも踏みつぶしながら疾走させる。タイヤが死体の上に乗り上げ、車を振動させるが、ハンドルに取り付き、神業のようなハンドル捌きを見せ、直角の角を曲がる。
その間も、シンジは助手席で踞ったままであった。激しい揺れによって体をドアに打ち付けられるのにも構わずに無気力に座り続けている。ミサトは敢えて声をかけないようにしていた、彼女にはもう話すべきことは残っていなかった。ミサトに出来ることはシンジを初号機まで連れて行くことしかなかった。好むと好まざるに関わらず今の状況は彼を必要としているのだ。
ゲイジに無理矢理乗り入れると数人残っていた戦自の兵士によって銃弾が飛んでくるが、ミサトは構わずに疾走させる。正面にいた何人かの兵士に車を突っ込ませ、引き倒す。その様子に呆気にとられていた者を車から転がり出て打ち倒す。戦自の方でも量産機の登場により情報が混乱しており、ゲイジの中の兵士は大半が引き上げた後であった。
目に付くところに兵士の姿はなくなり、ミサトは車に戻ってシンジを引きずり出す。
「さっさと来なさい。アスカを一人で戦わせる気なの。」
そう叱責してシンジをほぼ無理矢理に初号機のエントリープラグまで連れていき、押し込む。シンジはただ黙々と従っていく。シンジがエントリープラグに乗り込むのを見届けるとミサトは一人で初号機の起動を始めた。
アスカが呆然としていたのは決して短い時間ではなかった。しかし、その間も九機の量産機はその白い機体を誇示するかのようにゆっくりと弐号機の上空を旋回している。その白き姿はまるで、裁きの天使の降臨を想わせた。
徐々に高度を下げて来ていることに気づいたアスカは思わず身構えた。その弐号機の様子の変化に気づいているのかいないのか、上空の機体には何の変化も見られず、ゆっくりと降下してくる。
それを見上げるアスカの顔に明らかにそれとわかる笑みが浮かぶ。その表情は先ほど戦自の部隊に対して攻撃を加えていた時のあどけないとも幼いとも感じさせる笑みとは異なり、周りに不敵な印象を与える笑みだった。
彼女はそれらを直感によって敵と認識した。しかし、敵を前にして、しかも明らかに戦力差が歴然としたこの状況でもアスカの中に恐怖はなかった。今、アスカの脳裏には使徒に乗っ取られたエヴァ参号機との戦闘のことも、第14,15使徒に対する敗北も、暴走した時の初号機の強大過ぎると思われるような力のこともなかった、絶対的な保護下にあるという認識と誰にも負けるはずがないと言う自信があるのみだった。だから彼女は呟いた疑問も挟まずに。
「早く下りてらしゃい。返り討ちにしてやるわ。」
弐号機は肩のところからプログナイフを取り出ししっかりと身構えた。
量産機は弐号機を取り巻くように着地し、その背中の翼のようなものを外し、その手に持つ。それは量産機の背丈ほどの長さをもち、中程に持つところをこしらえた対称な形の刀のような武器だった。飛び道具になるような武器は一体も持っていなかったが、弐号機も手持ちの武器は今持っているプログナイフのみ、誰の目から見てもさらに戦況が悪化したようにしか見えなかった。
八機が身構え、一斉に弐号機に飛びかかった。アスカはATフィールドを展開して量産機の動きを止めその一体の上を飛び越える。すぐさま二体が追って来たが数を分けることは出来た。その動きは俊敏で、華麗ですらあった。対して量産機の方はどこか危なげな様子を見せている。中には先の攻撃で弐号機を見失ったかのように辺りを見回しているものさえもいた。
アスカは正面に迫る二機にATフィールドを投げつける。二機もATフィールドを展開しそれを受け、なおも迫る。片方が右からその手の武器により、袈裟懸けに斬りつける。弐号機がそれを体をひねって交わすと、もう片方がすぐさま斬りつけてくる。アスカはそれをプログナイフで受けるが明らかに押されてしまう。
「こんの〜!」
後ろにとばされプログナイフが欠ける。アスカは新たにプログナイフの先をのばして身構え、全方位にATフィールドを展開する。量産機はなおも迫るが一機だけでは弐号機のATフィールドを中和することが出来ず、空しくそれをたたく。
すぐにもう一機が加わり中和されていくが、その間にアスカは右側に回り込む。そこに予想外のところから衝撃を受けた。他の量産機によって体当たりされ、横に吹っ飛ばされていた。
二機の相手をしているうちに他の量産機も近づいて来ていたのだ。すでにアスカの前には四体の量産機が集まっている。あとの四機は少し離れたところで動きを止め、アスカの方には向かって来なかった、ただ何かを探しているかのように辺りをゆっくりと動いている。ただ不思議なことに一体だけは下りて来た時から動いていなかった、まるで何かを待っているかのように。
しかし、アスカはその機体を気にできる状態ではなかった。ATフィールドの強度、動きの早さなどは間違いなく弐号機の方が上回っているが、明らかに数が違いすぎている。さすがに複数で攻撃されれば受けるだけで精一杯である。次々と繰り出される攻撃にアスカはさすがに恐怖を覚え始めたが、それを否定するように暗い声で呟き始める。
「殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!殺してやる!」
だんだんと声量が大きくなり、最後には叫ぶようになっていた。
弐号機の腕が上がり、1体の量産機に向かって振り下ろされる。その量産機はATフィールドごと後ろに吹き飛ばされ、近づいて来ていたもう1体を道連れにして倒れ込む。その間に背後に回り込んだ1体の攻撃をかわし、傍らの機体を蹴り上げる。
その後の姿は凄絶を極めた、。四体の量産機を相手に弐号機は一機で傷つきながらも、互角に戦った。
鬼神と化した弐号機の中でアスカの表情にも鬼気迫るものがあった。興奮の為か息も荒く、目は見開かれ、唇はつり上がったように笑んでいた。何かに憑かれたような、酔っているかのような恍惚の表情。それは凄惨な美も内包していた。彼女は間違いなく酔いしれていた、破壊という名の美酒に。その彼女の唇からは呪文ででもあるかのように同じ言葉がまだ繰り返されていた。
機体が浅く割け、量産機の腕が飛び、赤い液体が飛び散る。弐号機はその表面の赤い装甲を自らと量産機の体液で染めながらもその攻撃をゆるめようとはしなかった。
発令所ではすでに銃声は途絶えていた。誰もがモニターを呆然とした面持ちで凝視している。先程までディスクの下で泣いていたマヤも銃声が止んだことに気づき這い出し、それを見て目を反らせなくなっていた。
そこには人ならざるモノの争う姿があった。四体の量産機はまだ動いていた、しかしそれらに無傷なモノはいなかった、どの機体も各所に傷が見られ、あるモノは片腕が半ばで無くなっており、あるモノは胸元に大きな傷が走りその白い機体を自らから溢れる赤い液体により染めていた。一方、弐号機の方は各所の装甲板がいくつも裂傷で割けていたが、その動きは素早く躊躇いなく量産機にさらなる攻撃を加えていく。その姿は手負いの獣を思わせ、また白き天使をなぶる赤い悪魔のようにも見えた。
誰もが恐怖に言葉をなくしていた、今の弐号機は暴走したときの初号機を彷彿させる禍々しさに満ちていた。今敵であるはずの量産機よりも一体の唯一の見方であるはずの弐号機に発令所は沈黙に追いやられていた。
どのくらい経ったであろうか警報音が鳴り響きオペレーターがそれぞれのディスクに向かう、それは無理矢理にもその光景から目を反らそうとしたのかもしれなかった。マコトも何とかモニターから目を反らせて思わず安堵の吐息を着いた。しかしそれも長くは続かず、その顔を強張らせる。その視界に入ったものは彼に絶望を知らせていた。強張った声で報告を行う。
「弐号機活動時間、後、60です・・・」
発令所には再びの沈黙が訪れた。
どうも初めまして、初めての投稿であり、初めての作品であるため文章も拙く、かなり違和感を持つかもしれません。これは一様題名から分かる人もあるかもしれませんが、夏の劇場版を予想して書いたものです。だいたいは僕が劇場版を見たときに幾つか浮かんだ場面を繋ぎ合わそうとしていった結果です。アスカファンの方には石を投げられそうですが、劇場版のアスカ復活といわれている場面は僕にはどうしても復活に見えませんでした。あれは敵を排除しようとしている以上の意図はないのではないかと思われたのです。
それは「エヴァシリーズ?完成していたの。」などの台詞はありましたが、あの場面までアスカは病院のベットにいましたし、あの状況を理解しているとは思えなかったことなどから、先のように考えたのです。
その場合のアスカの行動はと考えて出来たのがこれであるのですが、ご不満の方は続きを期待して下さい。どれだけ書けるか分かりませんが。
しかし、今回ほとんど会話がありませんでした。情景描写は拙いし、このようなものでは読んでくれるか他がいないのではないかと少し不安です。今後がんばろうと思っていますので、見捨てないでいただければ幸いです。
ついでにここではある試みをしてみようと思っています。今のところこのネタを使った小説は見ていないのですが(もしかしたら、もうすでにあるのかもしれませんが)、たぶん、反対派が出ると思われます。温かい目で見ていただければありがたいなどと勝手なことを考えていますが、よろしくお願いします。ただ、これはほんの僅かなものですし、使うのは最終話になりますから、あまり気にしないで下さい。
感想のメールを頂けるとありがたいのですが、不評のものでも構いませんし、こうした方が良いなどのご指導のメールも待っています。
管理人(その他)のコメント
カヲル「いらっしゃい、秋月さん。この分譲住宅へようこそ。僕は待っていたよ」
アスカ「これよこれよこれっ!! この絶対無敵のアタシが活躍する小説!! アタシはこれを待っていたのよ!」
カヲル「ほほう・・・・しかしまあ、これってあの春の映画の続きだからね・・・・にやり」
アスカ「だから何だって言うのよ」
カヲル「ほら、病室での一部始終のあったあれの続きの世界・・・・」
アスカ「よ、よけいなことを言うんじゃないっ!!」
どかばきぐしゃっ!!
カヲル「うがっ!!」
アスカ「これはアタシが大活躍する世界! 春の映画との関連は一切ないの!!」
カヲル「・・・・なんか強引なこじつけ・・・・」
アスカ「世界はアタシを中心にまわっているのよ!」
カヲル「・・・・ま、なんとなくラストも予想できるような・・・・」
アスカ「・・・・アタシが死ぬ、なんて言ったら・・・・量産機よりさきにアンタをまっぷたつにしてやるわよ」
カヲル「うっ・・・・せ、凄惨な笑み・・・・汗」