行く末。
 人には、運命がある。
 成功、失敗・・滅び。
 僕は・・滅びを享受しようとした。
 それは叶えられた。
 もはや残された命は限られたものになっている。
 何かを成そうということも思いつかないままに今を生きている。
 存在しない希望にすがるつもりもない。
 父への誓いを立てられないことは明白である。
「・・レイ・・」
 傍へ近付いてくる少女の名を呼ぶ。
 紅い瞳、蒼い髪、白い肌。
 異質な雰囲気を持つ少女レイ。
 僕に与えられた慰め・・。
「父上に会ってくる・・。少し出かけよう」
「はい・・」
 それは戯れだった。
 何の想いも持たない者の、無機質な言葉。
 レイは、そんな僕にただいつもの冷たい紅い瞳を向けて頷くだけだった。

「彼女の瞳には希望という光は映っているのだろうか」(イカリ・シンジ)



「硝子細工の少女」


次章「願いは、生きること・・されば、翼を得よ」


*ベース世界感:「殻の中の小鳥」及び「雛鳥の囀」(パソコン18禁ゲーム)
 キャラクター:「新世紀エヴァンゲリオン」   (アニメーション)


作者:山村ひかる


「父上・・願いの儀に上がりました」
 荘厳な、けれど虚飾に満ちた部屋を訪れる。
 決して無駄な虚飾ではないことは解っている。
 実務一辺倒だけでは成り立たない世界もある。
 けれど、好きにはなれない。
「うむ・・シンジか・・。入れ・・」
 扉に来訪を告げてから、間を置いて落ち着いた声が中から返る。
「失礼致します」
「・・・・」
 光に満ちた扉を潜り部屋へ入る。
 ともすれば、臆してしまいそうな威厳と風格に満ちた男・・父ゲンドウは、いつものように執務の机に肘を突いて、情けない息子を迎えていた。
「いよいよ・・決心をしたか?」
「いえ・・その儀ではありません。今日一日の外出の許可を得たいと思いまして、お願いに上がった次第です」
「・・ふん・・まあいいだろう。勝手にするが良い」
 明らかに失望の声であった。
 イカリ家の誓いを立てると思っていたのかもしれない。
 イカリ家の者は、その才を持って十五歳を迎える前までに忠誠を示す。
 ある者は、力。
 ある者は、知恵。
 ある者は、運。
 だが、僕には何も無かった。
 もう時は近い。
 十四歳の誕生日に与えられた少女は、何も示せない僕に対しての慈悲であることは解っていた。
 だが、その父の失望をよそに僕は淡々と日々を過ごしていた。
「ありがとうございます・・」
 深々と頭を下げて退室する。
 願いは叶えられた。
 だから、どうという変化があるとは思えないが、思いついたことに対する責任もある。
 僕は、部屋へ帰って外出の準備を始めた。

「何の意味も成さない戯れ。でも、それが大切だと思えることがある」(イカリ・シンジ)

「いい風だ・・決して部屋の中では味わうことの出来ない、生命が溢れている・・」
 緑の絨毯に身を投げ出して、風を味わう。
 さらさらと風が頬を通り過ぎて髪を梳いて行く。
 悪戯混じりの気まぐれさに溢れた風に、草の匂いを感じる。
「・・・・はい」
 少女は、僕の言葉に短く頷いた。
 彼女の手には、軽く摘む物ということで軽食の入ったバスケットが握られている。
 相変わらずの無表情。
 少しは場所を変えれば変化があると思ったのだが・・。
 もっとも、それが目的での外出ではないので、別段何とも思わないのだが。
「本当に・・いい風だ」
 目を閉じる。
 土の生々しい感触を背に感じる。
 近く雨が降っていた所為もあってか、地面は湿っている。
 踏み固められた硬い感触ではなく、湿り気を帯びた柔らかさ。
 むせ返るような草の匂いとあいまって、外の世界ということを一層強く意識させられる。
 乱暴な、けれど強い力を持つ雑草の生命の香り。
「・・・・シンジ様、お召し物が汚れます・・」
 ややあって、遠慮がちの声が聞こえる
 珍しく、変化がある声。
 感情が篭っている彼女らしからぬ声音。
 そう思ったのは一瞬。
 記憶の糸の中、言葉が纏ろう。
 気付かなかっただけか・・。
「ああ・・そうだな。だとすれば、何とする?」
 目を開けて体を起こす。
「代わりに・・レイ、君が汚れるかい」
 ぽんぽんと優しい仕種で僕の背中のゴミを払う彼女。
 その手が止まる。
「御命令とあれば・・厭いません」
「・・そうか、ならば命令はしない・・」
 そういってまた草に寝転がる。
「・・・・はい」
 再び目を閉じて彼女の言葉を聞く。
 間違いない。
 言葉が揺れている。
「レイ・・君の話を聞かせてくれないか・・この草のベッドに眠る伽として・・」
「・・それは・・」
「命令だ」
 彼女の言葉を先に発する。
 明らかに困っているというのが解る。
 いや、困るであろう事柄を聞いたのだ。
「はい・・」
 悲しみの音色が・・聞こえた。

「シンジ様の言葉は戯れでした。それ故にとても残酷な言葉でした」(アヤナミ・レイ)

 戯れなのですね。
 本当にわたくしのことを聞きたい訳では無い。
「わたくしは・・シンジ様のいらっしゃるお屋敷に・・売られました。それが総てです」
 過去など・・今のわたくしには意味の無いこと。
 わたくしの想いも同じ。
「・・・・そうか・・・・」
 深い溜め息。
「すまないな・・レイ・・聞くべきではなかった・・」
「・・・・」
 その言葉に心を掴まれた想いだった。
 突き放すように、冷たく言ったつもりだったのだが・・感情に支配されていたのかもしれない。
「今、ここに居る。それでいいのだよね・・」
「・・・・はい」
 優しい言葉。
 傷つけと慰めという受け取り方も出来るが、今のわたくしには到底出来ない事だった。
「レイ・・今の言葉は戯れだった。だが、君の言葉を聞いて気付いたよ。戯れなどで聞く事柄ではないとね・・」
「・・・・いえ、シンジ様は、シンジ様のなさりたいようになさればよろしいのです。わたくしなどにお心遣いなどなさらなくても・・」
 可愛げの無い言葉。
 自分でも良く解る。
 だけど、こういう言葉しか言えない。
 このままだと・・崩れてしまいそうだから。
 心の砂が乾いてさらさらと風と寄り添っていくように・・。
「じゃあ・・膝枕・・してもらおうかな・・」
「え?」
 明らかな動揺がわたくしの中を駆け抜ける。
「・・ふふっ・・」
 見るとシンジ様は目を開けてわたくしの顔を見ていました。
 その顔は今までわたくしが見たことのない笑顔に満ちていました。
 シンジ様の笑顔・・。
 そのことを考えて頬が熱くなっているのを意識する。
 自分でも気付かないうちに頬を染めていたのだろうか。
「レイ・・」
 わたくしの名を呼ぶシンジ様。
「あ・・は、はい」
 言葉が揺れる。
「畏まりました・・」
 どきどきしながら・・わたくしはシンジ様と共に草の絨毯の上で過ごしました。

「少女と過ごした時間に執着を感じ、飛び立ちたいと思う僕がそこに居た」(イカリ・シンジ)

「レイ・・」
 部屋の中で蝋燭に灯を点す少女。
 ぼんやりと光が部屋を闇から解き放つ。
「はい」
 相変わらずのそっけない返事。
 冷たさに支配された事務的な声。
 だが、そう感じない自分がそこに居る。
「・・今、君を抱きしめたいといったら・・君は拒絶するかい?」
 試す。
 僕の言葉に、彼女の心が揺り動くか解らないが・・。
「・・!」
 レイの顔色が変わる。
 嫌悪にも見えるその顔は、迷いに彩られていた。
「シンジ様の・・お望みならば・・わたくしは・・」
 瞳を逸らして答える彼女。
「・・レイ。僕のことは構わないから・・君自身の言葉を聞きたい・・」
 そんな彼女に近寄る。
 拒絶されるなら・・それでもいい。
 軽蔑されるなら・・それも仕方ない。
 でも、上手く躱されるのは・・辛い。
 そっと、彼女が驚かないように抱きしめる。
「・・シンジ様・・離して下さい。危ないですから・・」
 手にした蝋燭を示す彼女。
「答えるまで・・離さない・・」
「・・・・」
 レイは黙って考えているようだった。
 静寂と沈黙に支配された部屋に、静かに蝋燭の燃える音が響いていた。



・・続く。





山村ひかるさんへの感想はこ・ち・ら♪   
・・・・て、どっかで見たことあるなぁ。このアドレス(爆)



管理人(以外)のコメント

加持 「シンジ君、なにをしているんだいったい、膝枕なんかどうでもいいから、そこでがばっとレイを押し倒さないか・・・うむぅ」

ゲンドウ「加持君」

加持 「おや司令。こんなところで何をしておいでで?」

ゲンドウ「何を、とは私の台詞だ。黒ずくめの服装にほっかむり。ご丁寧に顔に迷彩塗装を施して双眼鏡片手に、何を見ているのかな?」

加持 「そう言う司令こそ、全身黒タイツに暗視装置までつけて・・・・」

ミサト「ふう・・・・類は友を呼ぶ、ね。何やってるんですか二人とも!」

ゲンドウ「うぉ、葛城三佐!」

加持 「この完璧な偽装を、おまえどうやって見破ったんだ?」

ミサト「完璧な偽装って・・・・昼間に黒ずくめの格好で、どこが偽装なのよ。かえってめだちまくってるわよ」

ゲンドウ「ぬ、道理で暗視装置がつかえないわけだ」

加持 「そうか、加持リョウジ一生の不覚」

ミサト「ほらほら、そんなことしている間に、あの二人どっかいっちゃったじゃない〜まったく」

加持 「・・・・つまり、葛城も俺たちと考えていることは一緒だった、ってことか」

ミサト「あ、しまった・・・・あせあせ」

ゲンドウ「私のレイを、私のレイをかえせ〜シンジ!」


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