光が揺らぐ。
 燭台の灯火が心もとなくなる。
 この部屋の風景の寿命もあと僅かというところだろうか。
 消えてしまうなら、それでも構わない。
 瞬間に、輝けるのなら。
「・・・・」
 だが、少女は僕が呼ぶ前に訪れ、新たな灯火を燭台に置いて立ち去っていった。
 命を長らえる部屋の景色。
「・・また、それもいいだろう」
 沈黙の女神は、今日も微笑まなかった。
 名をアヤナミ・レイという。
 ・・僕に与えられた、少女という形の人形。
 そして最期への情け。
 この屋敷に身を置く僕に対する父の最後の愛情。
 窓の外を見ると、暗雲が月を覆い隠して永久の闇を世界に降臨させていた。
 やがて、僕も闇に消えるだろう。
 蔑む者に血の洗礼を受けながら。
 それが、イカリという家に生を受けた者の運命なのだろうから。
 才あれば立ち、無ければ消ゆ。
 時の砂は、砂粒の輝きを失った。
 裁きの鎌がいずれは振り下ろされるだろう。
 僕にそれに抗う力は持ち得なかった。
 故に、滅びという結末を見守るしかないのだろう。
 その僕に与えられた彼女は慈悲のパンにも等しい。
 幸せなのだろうか。
「・・・・」
 鳥達の悲鳴が聞こえる。
 雷鳴は近い。
 神々の具現化。
 神話の世界が訪れる。
 僕は、窓の外の絵巻き物語を飽きること無く見つめていた。

「僕は絶望すら感じないまま、ただ与えられていた世界を流れていた。滅びの享受もまた生きる術だと思っていたから」(イカリ・シンジ)



「硝子細工の少女」


序章「心の壁は遥か遠くの魂を守り給う」


*ベース世界感:「殻の中の小鳥」及び「雛鳥の囀」(パソコン18禁ゲーム)
 キャラクター:「新世紀エヴァンゲリオン」   (アニメーション)


作者:山村ひかる


 或る者は、知恵を持ち道筋を変えた。
 或る者は、力で自らの道を切り開いた。
 或る者は、運で生き長らえた。
 無き者は・・何も得られなかった。
 それが、イカリの家である。
「食事をお持ち致しました」
 定時に少女がドアを開けて部屋に入ってくる。
 必要なこと以外、彼女は何も口にしない。
 もう一月以上も経つだろうか。
 蒼い髪と紅い瞳の印象的な少女。
 見るものを神話の世界に誘う、異国の奴隷。
 父であるイカリ・ゲンドウにより買われた少女。
「ああ・・解ったよ」
 カタン、と無機質な音を立ててトレイが置かれる。
 僕は彼女の存在を確かめた。
「・・何か?」
 強い輝きの瞳に浮かぶ疑問。
 不審の表情。
 僕の振る舞いに疑いを向けている。
「綺麗だね」
 紅い・・血の輝き色の瞳に僕は惹かれていた。
 甘美な誘惑。
「・・・・」
 そんな僕の言葉に彼女は、表情を固まらせる。
 どんな顔を見せれば、この主人の機嫌を損ねずに済むか、思案しているのだろう。
 どう演技するか、観察をする。
「・・失礼致します」
 彼女は、感謝の意を表わすように頭を下げて足早に立ち去っていった。
「・・・・」
 主人たる者、これを許していいのだろうか。
 いいだろう。
 僕は、異端者なのだから。
 処分される者に対して与えられた玩具の所有権はない。
 ある意味、彼女以下の存在なのだから。

「血の輝きに、とても心を惹かれる時がある。それはイカリ家の血の所業なのかもしれない」(イカリ・シンジ)

 滅びの時。
 近いようで、遠い時間。
 過ぎ去りし日々は近く、待ちわびる日々は遠くにあるものだと人は言う。
 僕の時間は、この屋敷の端の一室にある。
 滅びを待ちつつ、日々を享受する。
「・・・・」
 少女が訪れる。
 今は、食事時ではない。
「何だい?」
 驚きもしないで、彼女の存在を受け容れる。
 まるで、最初からそこにあったように思い込む。
「・・いえ・・」
 紅い血の色が、やけに眩しい。
 外からの光に揺らぐ瞳。
 心の迷いを、映し出している。
「何故・・シンジ様は、わたくしを抱かれないのですか?」
 冷たい声だった。
 何処か、遊離した不思議な言葉。
 彼女自身の言葉では、ありえないからだろう。
 望まない状況を口にする少女。
「・・どうして?」
 笑顔を貼りつける。
 自然でいて、自然でない、歪んだ笑い。
「・・・・あの・・」
 少女は言葉に繋ぐ、切り出しを捜す。
 けれどその行為は破滅への誘い。
 望まない状況へと自らを追い落とす自殺的行動。
「君は僕に、抱かれたいのかい?」
 迷う彼女を刺す。
 自由意志を解き放つ。
「・・・・いえ・・」
 僕の瞳を探るように見つめる。
 迷うことなど無い。
「ならば・・いいじゃないか」
「・・・・はい」
 僕の強い言葉に、彼女は頷いた。

「わたくしの主人たるお方の御心は、遥か遠くにありて触れることは叶わないのです」(アヤナミ・レイ)

 言葉。
 心。
 真実。
 わたくしには『あの方』の本当の心が解らない。
 あの方の言葉は、偽りに満ちていた。
 それは、決して私に向けられた心ではなくて、何処か虚ろを感じさせる言葉。
 虚ろな偽り。
 心が無い状態。
 けれど、それはわたくしにもあるかもしれない。
 何故あのような言葉を口にしたのか、自分でも戸惑っている部分がある。
「・・シンジ様」
 自分は、あの方に抱かれる為に買われた。
 館の主たる方、イカリ・ゲンドウ様にそう言われていたのに。
 その相手であるシンジ様は、まったくそういう事柄に関して口になさらない。
 それは、女としての苛立ちなのだろうか。
 まだ、誰に対しても許していない想いなのに・・。
 抱かれなければ、それでいいではないか。
 そう思う心に反する想い。
「・・一体何をお考えなのですか」
 触れなければ、きっと解らない。
 でも、触れることをあの方は拒絶されている。
 わたくしには、踏み込む勇気が無い。
 そうじゃない。
 踏み込んで、傷つきたくないから。
 芽生え始めている想いに、潰されたくないから。
 どうして、あの方にわたくしがあてがわれたか知っている。
 長くない運命に、館の主の情け。
 このまま、何も持とうともしなければ、散ってしまう。
 けれど・・。
 心を開かなければ、傷つかない。
 たとえ、体を弄ばれても・・心が死んでしまえば、何も感じない。
 わたくしという存在は失われてしまうけれど。
 心を開いて、失われるのは考えたくない。
 だから・・もうわたくしに優しくしないで下さい。
 あの方にとっては、優しさでも何でも無いことは解っているのに・・心が痛い。
 表面的な接触だけでも、辛くなってくる。
 遠ざけるなら、いっそ拒絶して下さい。
 あの方のことを考えれば、考えるほど・・想いが深まっていく。
「・・時間・・」
 想いを、心を、殺してあの方の下へ向かう。
 偽りの時間が始まる。

「少女が部屋を訪れる。言葉少なに、仕事をこなしていく。それでいい」(イカリ・シンジ)

 触れる。
 何気ない仕種。
 僕自身の意識しない悪戯。
「・・・・」
 瞳と瞳が合う。
 僕は、悪戯好きな指先に視線を移して思案する振りをする。
 指先を何度も動かして何故そうしているのか、考える。
 蒼い髪。
 短く切り揃えられた髪。
 部屋を片付けている彼女の背中。
 白いうなじに惹かれたのだろうか。
「・・いや・・何でもない。続けて」
 問いかけに、返事。
「・・はい・・」
 頷く少女。
 残心の言葉。
 揺らいだ感情が言葉に出ている。
 彼女にしては珍しい。
 出会った時から、感情に乏しい彼女。
「・・・・」
 窓の外へ目を向ける。
 鳥達の囀りが聞こえてくる。
 心地良い風景。
 穏やかな、一日。
 それでいい・・。
 余計なことは必要ない。
 与えられた運命がそこにあるのだから。
「失礼致します・・」
 少女が、部屋を去って行く。
 今日も言葉少なに、仕事をこなして・・。



・・続く。





山村ひかるさんへの感想はこ・ち・ら♪   
・・・・て、どっかで見たことあるなぁ。このアドレス(爆)



管理人(その他)のコメント

アスカ「あら、アンタついにシンジをあきらめたのね」

レイ 「・・・どういうこと?」

アスカ「だ、だって・・・・うぷぷ、この小説、アンタシンジにとってはただの「メイド」でしかないじゃない。それに、なんかトップに18禁やらなんとかって書いてあるし・・・・ってことは、アンタはシンジにもてあそばれるだけもてあそばれて、あとはポイ捨て。燃えないゴミってやつだものね」

レイ 「・・・・」

アスカ「そして、シンジはアンタをもてあそんでいるうちに真実の愛に目覚めて、アタシの元へやってくるのよ・・・・・うふふふふ」

レイ 「あなた、妄想しすぎ」

アスカ「なんですって!!」

レイ 「そもそも、あなたの出番はここにはないもの」

アスカ「む、むきいいいいっ!!」

レイ 「碇君が私をもてあそぶなら、それでもいい。それが、私の絆だもの」

アスカ「あ、あ、あ、あ、アンタ!!」

レイ 「それに、碇君と一緒になれるもの・・・・心も体も・・・・だから、私は満足。それでいいもの」

アスカ「・・・・18禁らしいコメントね・・・・汗」

レイ 「あなたは一人で自分を慰めていればいいわ・・・・」

アスカ「・・・・18禁・・・・汗」

レイ 「行かなきゃ・・・・碇君が待ってる・・・・ベッドで(にやり)」

アスカ「ファ、ファーストが、ファーストぢゃないっ!!(汗)」


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