心臓が高鳴る。
 シンジ様の求め。
 まだ、シンジ様の真意は量り兼ねているわたくしがそこに居る。
「・・・・」
 沈黙は答えにならない。
 揺らぐ気持ち。
 互いの吐息が聞こえる。
 わたくしを抱くシンジ様の腕の暖かみが伝わってくる。
「レイ・・」
「どうしたのですか・・突然・・」
 腕に力が入ったような気がして訊ねる。
 答えを促しているのは痛いほど解る。
 けれど、天秤はまだ落ちてはいない。
 どちらへでも、と揺らいでいるだけなのだ。
 ・・いっそ、心なんて捨ててしまえば良かったのかもしれない。
 そうすれば、こんなに切なくなることなんて無いのに・・。
「・・・・」
 シンジ様はしばらく黙った後、照れくさそうにわたくしに気持ちを伝えて下さった。
 それは、わたくし達の・・始まりの言葉でした。

「生きることに、希望の火が灯る。そう思えた・・告白でした」(アヤナミ・レイ)



「硝子細工の少女」


終章「流れて行く時の中で、果てを見る瞳」


*ベース世界感:「殻の中の小鳥」及び「雛鳥の囀」(パソコン18禁ゲーム)
 キャラクター:「新世紀エヴァンゲリオン」   (アニメーション)


作者:山村ひかる


「レイ・・この間・・外出したよね」
 僕は、彼女の質問にぽつりぽつりと語り始めた。
「あの時・・色々なことを知ったんだ。草の息吹・・大地の匂い・・君の心・・」
 そう、つまらない事と笑われるかもしれないけど・・。
 あの戯れの時間に、僕は生きている事を感じてしまったのだ。
 確かにそれまで見ていたこと、感じていたこととは違う感じ。
 僕は、ずっと死んでいた。
 そう思い続けていた殻から飛び出してしまった。
 そして、殻から飛び出した雛は・・一人の少女に見とれてしまったのだ。
 ゆっくりと、彼女に自分の気持ちを曝け出す。
 自分でも噛み締めるように、確かめるように、経緯を語る。
 ふと、床に就いてその日を振り返って、急に言い様の無い不安に襲われたことや、それで彼女を用も無いのに呼んだこと。
「急に・・本当に急に・・そう思えるようになってきたんだ」
 レイに伝わっているのか・・不安な気持ちが・・。
「・・レイ」
 震えている腕。
 拒絶されてもいいと思いつつも、恐怖している。
 彼女だけが唯一の望みであるかのように。
 その糸が切れてしまわないように必死に手繰り寄せている。
「わたくしは・・」
「・・・・」
「シンジ様に触れることが・・最初は恐かったです」
「え?」
 恐いという言葉に腕の力が緩む。
 ぱっと悪い方向の考えが駆け巡っていく。
「わたくしは・・この家にこの身を売られました。それは仕方ないことと諦めております。ですが、このわたくしの心は常にここ以外の場所に馳せていました・・。いつか、この家から出ることを夢見て・・」
 レイは、そっと僕の腕を外して、蝋燭をテーブルに置いた。
 その顔には笑顔が湛えられている。
 穏やかな笑い。
 今までの総てを振り返り、総てを受け入れているような・・深い微笑み。
「シンジ様のことは絶対好きにならない・・。そんな子供じみた誓いを立てたりしてました。けれど・・実際会ってみて・・その決意は崩れてしまったのです」
 告白・・そう、告白に照れたのかはにかむ彼女。
 頬を赤く染めて・・僕をその紅い瞳でじっと見ている。
「優しさではないけれど・・シンジ様のわたくしに無関心は・・嬉しかったです。でもそれと同時に淋しかったです。・・わたくしにそれ程魅力が無いのでは・・なんて思っておりましたので・・」
「・・・・」
 腕を伸ばす。
 彼女はそれを受け入れるように一歩僕の方へと足を進める。
 抱きしめると折れそうなくらい華奢な彼女は、僕にすべてをまかせるとでも言うように体を預けてくる。
「でも・・すべてを失ってしまうことが恐くて・・」
 不安に揺れる瞳。
「愛しては・・いけないと・・目を背けておりました・・」
「レイ・・」
「・・・・」
 今にも泣き出しそうな彼女の顔。
「大丈夫だよ・・僕はここにいる・・」
 そういって、僕はレイと口づけを交わして・・彼女をベッドへといざなった。

「愛しい少女の体が、僕の腕の中で震える。大丈夫だよと声を掛ける僕の声も、あるいは震えているかもしれない」(イカリ・シンジ)

 不安。
 そう・・僕は消えゆく存在。
 それを受け入れていた時には沸き上がらなかった感情。
 彼女の服を脱がしながら、頭の片隅によぎっていく。
「レイ・・」
「・・・・あっ・・」
 一枚、一枚、震える指でほどいてゆく。
 そうやって彼女に近付く。
「・・綺麗・・だ」
 白い肌が、夜光にぼんやりと浮かび上がる。
 露になった肌に触れる。
 しっとりと指に吸い付いてくるような滑らかな感触。
「あ・・シンジ様・・」
「レイ・・」
 不安を忘れ、彼女に身を沈める。
 けれど、一時の戯れにするつもりなんて無い。
 これが始まり。
 そう、ようやく見つけた・・光。
「あ・・はっ・・ん・・」
 彼女の胸に舌を這わせる。
 青白い月光に照らされた素肌に、ひときわ鮮烈な色彩で飛び込んでくる胸の先の苺を中心に、解らないなりの優しさで舌を動かす。
 僕の舌先に、固い感触。
 頬を上気させて恥ずかしげに、僕のする様を見ている彼女。
「気持ちいい?」
 などと戯れの台詞。
「あ・・そ・・その・・はい」
 生真面目に頷く彼女に、より一層の愛しさ。
 一途に胸を探り、舌を転がす。
「あっ・・あっ・・ひん・・」
 ぴくり、ぴくりと軽い痙攣が、彼女から発せられる。
 その感覚の為だろう、僕の肩に拒絶ではなく反応的な抵抗の行動。
「あ・・だ、駄目・・です」
 か細い声、不安に揺れている。
 けれど、僕は止めるつもりはない。
 むしろ、その言葉に先へと動く。
 空いている片手を彼女の下の秘所へと放つ。
 悪戯を帯びた指先が探る。
 少女の開かれようとする花弁を優しく通り過ぎ、撫でる。
 朝露で濡れたように、しっとりと湿り気を帯びた花弁。
「ん・・」
 跳ねる。
 その仕種に、僕はそれを求めてより深く彼女を探る。
 深遠なる深みに溺れていくように。
「あ・・痛っ・・」
 だが、急に声が変わる。
 僕は探る手を止めて、彼女の瞳を見る。
「シンジ様・・もっと優しくお願いします・・」
 痛みからくる涙で瞳を潤ませている。
 拒絶ではない。
 それを確かめて僕は頷く。
「ああ・・ごめん・・」
 ゆっくりと、内を探る。
 彼女の震えと声、そして跳ねに手探りでより深くへと潜る指先。
「はぁ・・ああっ・・はっ・・やぁ・・」
 時間を忘れて、戯れ探る。
 気がつくと指先に、しっとりと彼女の想いが絡み付いていた。
「・・レイ・・」
「はい・・」
「・・」
「・・」
 僕自身も、彼女と同じように生まれたままの姿。
 彼女が、受け止めてくれる証として、僕を一層強く抱きしめる。
「シンジ様・・」
 耳元で僕の名を呼ぶ彼女。
「・・・・」
 耳たぶを噛み、それに答えて一度離れる。
 そして、僕を彼女の花弁にあてがって貫いた。
「あ・・あがっ・・痛っ!」
 悲鳴が強烈な鮮やかさを持って僕の頭に飛び込んでくる。
 背中に回された手の爪が、痛みから逃れるように立てられる。
「レイ・・」
 だが、僕はそれでもより深く彼女を求めた。
 もっと、彼女を知りたい。
「痛い・・ん・・ああっ・・シンジ様!」
 繋がりから・・一筋の紅い血が流れていた。
 血の契り。
 僕の背中からも、うっすらと血の筋が浮かび上がっていた。
 立ち上る汗の匂いに混じる血の臭い。
 より激しく求めよと叫んでいるような気がする。
 それは動物的な本能から来るものなのだろうか・・。
「あっ・・あっ・・」
 動こうとすると彼女が悲鳴を上げる。
「レイ・・」
「あ・・シンジ様・・大丈夫です・・大丈夫ですから・・」
 僕が行為を止めようとすると彼女はそれを拒否した。
 不安を増した瞳が向けられる。
 忘れようとする行為から醒めかけて、より大きな喪失の不安が湧き出ているのだろうか。
「レイ・・」
「ダイジョウブですから・・」
 気丈にも見せる笑顔。
 続けて欲しいと瞳が訴えている。
 僕は、それに従った。
 愛しさと共に・・。
「はっ・・あう・・あん・・やん・・」
「レイ・・あっ・・ああっ・・」
 男女の声が部屋に響く。
 肌と肌が密着し、離れる。
 まるで獣のような行為にも見えたかもしれない。
 僕はレイを求めた。
 今まで溜めていた想いをすべて打ち込むように・・。
「あっ!レイ・・ああっ・・・・」
「はん・・」
 そして、その声はやがて一つの結実によって途切れた。
 その後は、荒い男女の息が、一つに重なっているだけだった。

「夢は・・醒める。弱々しい朝の日差しにすら屈してしまって・・」(アヤナミ・レイ)

 朝が訪れた。
 少女は、ベッドから降りて昨日の行為の後を改めてみた。
 血に紅く染められたベッド。
 夢ではなく現実の行為。
 けれど、それは喜ぶべき事なのだろうか。
 一時、幸せを享受して・・その瞬間は安堵した。
「シンジ様・・」
 無邪気な寝顔の主を見て、レイの瞳から涙が零れた。
「ずっと傍に居させて下さい・・ずっと・・」
 運命の潮流を止める術を、少女は知らない。
 シンジを信じるしか・・ないのだから。
 やがて、彼女の想い人シンジが目を覚ました。
「おはよう・・レイ」
 寝ぼけ眼の彼にはレイの涙はすぐには解らなかったのだろう、のんきな朝の挨拶を照れくさそうに言った。

「僕は・・初めて生きようと・・そう思った」(イカリ・シンジ)

 父親の部屋を訪れる。
 緊張する手が、付き従うレイの手を求める。
「・・シンジ様」
 彼女も不安な顔を隠せないでいながらも、僕の手を大丈夫ですとばかりに握りかえしてくれる。
「ほう・・いい顔になったな」
 扉を叩き、部屋に入るなり僕の父ゲンドウはそういった。
「しかも、メイドと一緒とはな。情が移ったか?」
 軽蔑混じりの声に一瞬怯む。
「それで・・今日来たのは何のようだ?誓いを立てるというのか?」
「はい・・今日はそのことで参りました父上」
「ほう、ではお前は何を持ってイカリの家に誓うというのだ」
 珍しく驚いた顔。
 僕は一度喉を鳴らしてから言い放った。
「僕は、イカリの家を捨てます!それが僕の誓いです!」
 怒鳴るような調子。
 かたかたと足が震えている。
 精一杯の勇気をレイと共に支える。
「・・・・」
 父は、じっと僕を見つめている。
 握った拳が震えているのが解る。
「ほう・・」
 かろうじて、吐くように呟く台詞に怒りの大きさを感じる。
「・・よかろう。勝手にするがいい・・」
 しばらくの睨み合いの後、父はそう言った。
「・・では、失礼致します」
 僕はそういって執務室から出ていった。
「まさか、家を捨てるとはな・・」
 残された父の呟きが出ていく瞬間、僕の耳に届いた。

「不安と安らぎが同居した・・旅立ちでした」(アヤナミ・レイ)

 館を見上げる。
 僕達が出会った場所。
 そして、僕達の心が縛られていた場所。
 しばらく、その館を見つめた後背を向けて、僕達は決別をした。
「よいのですか?シンジ様・・」
「いいよ・・どうせ何も才の無いこの身だからね」
「・・・・」
「あと、レイ」
「はい?」
「シンジ様は止めて欲しいな。もう君は僕に仕える身ではないのだから・・」
「はい・・シンジ様」
 頷いてから、あっと小さく叫び口元に手を当てるレイ。
「ほらほら・・しっかりしてほしいものだよ・・レイ」
「はい・・」
 僕達は庇い合うように寄り添って館から出ていった。
「・・時代からすれば、シンジが正しいのかも知れん。いつまでも家を守るとかそういうことにこだわっているというのは・・愚かなことかもしれないな・・」
 僕達を窓越しに見つめる父に僕はその時、気付かなかった。



・・終わる。



なお、これは蛇足だが・・のちに二人は貿易で成功して財を築き幸せに暮らしたという。




山村ひかるさんへの感想はこ・ち・ら♪   
・・・・て、どっかで見たことあるなぁ。このアドレス(爆)



管理人(以外)のコメント
アスカ「あの二人が、貿易で成功・・・まさか、そんなことあるのかしらね〜」
カヲル「それはどういう意味だい?」
シンジ「人とのつきあい方が人の万倍へたくそなシンジと、そのシンジよりもさらに万倍へたくそなファーストなのよ。いったいどこをどうやって・・・・むー」
カヲル「蛇足に突っかかるなんて、君らしくないね・・・ははぁん」
アスカ「なによ(ごそごそ)」
カヲル「どうして本編に絡まないか、わかったきがするからさ」
アスカ「だから何よ。言ってみなさいよ(ごそごそ)」
カヲル「ほら、レイがシンジ君といちゃいちゃいちゃいちゃしているから・・・・」
アスカ「ほー、よーくわかったわね(ごそごそ)」
カヲル「ああ、ご褒美のまさかりはいいからね(しれっ)」
アスカ「・・・ちぃっ、最近鋭くなったわね」
カヲル「まあ、あれだけ殴られてればね」
アスカ「ふんっ」
カヲル「それはともかく、山村さん。作品完結、ありがとうございました。なにやら逃亡説とか引退説とかありますけど、とにかくありがとう。ものぐさ逃げた作者にかわってお礼を言うよ」


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