『レッドアスカ・ホワイトレイ』外伝

戦艦アスカ様の最後 中編
「死闘、ニューヨーク沖」


   

 綾波枢軸の輸送船団(SY船団)の護衛戦力は、北碇艦隊に襲われる可能性が高いということが判明していたため普段なら考えもできないほどの強力な部隊が配属されていた。

 船団を守る羊飼い達の戦力は綾波海軍旧式戦艦「ナオコ」それに英国海軍本国艦隊の数少ない生き残りである「キール・ローレンツ」の二隻と「ダミー」級護衛駆逐艦16隻、「相田」級軽巡2隻で編成されていた。

 護衛艦隊旗艦「ナオコ」の逆探が電波を捉えたのは午前2時30分、艦隊司令官丸山直之少将はここで判断を迫られた。

 ここはやり過ごすべきだろうか・・・・情報によると敵の有力な水上砲戦艦隊が出港していると言う・・・旧式戦艦二隻と水雷兵装をほとんど持たない護衛艦で何ができるんだ?・・・・・・・

 ”あれ”は到着までしばらくかかる・・・最悪だ・・・いや、そうだ我々の任務は羊を守ることだ、ならば選択肢は一つじゃないか・・・

「各艦へ打電、電探作動、最大戦速」

  

「アスカ様」艦橋では加持大佐がレーダーが敵輸送船団を発見したという報告を受けていた。

「大佐、いつ攻撃開始できる?」

 冬月の問いに制帽を目深に被ったまま加持は答えた。

「お望みとあらば今すぐにでも、命中はしませんけどね」

「全く、血税の無駄使いだな」

 戦艦の主砲の長射程化が生み出した矛盾について、冬月は不満があるようだ、ただその言い方があまりにも直接的で容赦無かった為、加持は制帽をもっと目深に被り直した。

  

 距離32000mまで接近した時、水平線上に幾つもの閃光が瞬いた。恐らく敵の主砲射撃だろう、しかし向こうは53センチ砲連装4基の「アスカ様」に51センチ連装4基の「アラエル」42センチ連装4基の「ガギエル」、38センチ連装4基の「ユニゾン」「ジェリコ」。

 それに対する我が護衛艦隊は40センチ連装4基の「ナオコ」と38センチ連装1基、4連装2基の「キール」だけだ、圧倒的不利だ。勝てるとしたら、あと30分、そう、それだけ持ちこたえれば・・・・・・・・

  

「弾着!1番、遠。2番、近。3番、近。4番、遠。敵一番艦を夾叉!!」

「アスカ様」の艦橋にその報告が入ると、加持は帽子をあみだに被り直し、嬉しそうな口調で電話の向こうの砲術長に話し掛けた。

「いいぞ、砲術。私はケルベロスを飼っている気分だ!」

「貴方をサタンと呼ぶのは海軍規則に違反しますか?艦長」

 その台詞を聞いた加持の口元はV字型に釣り上がっていた。

 轟音、そして振動。「ナオコ」より放たれた4発の40センチ砲弾のうち2発が「アスカ様」のアントン砲塔天蓋と舷側装甲部に命中、そしてその全てを弾き返したのだった。

 そしてその直後、「アスカ様」の放った砲弾4発が「ナオコ」に命中。1番砲塔天蓋、指令塔、3番砲塔前盾、艦尾に命中した。

「大佐、敵の戦艦を本艦と「アラエル」だけで叩けるかね?」

 冬月の問いに機嫌の良い加持は歌うような口調で答えた。

「十分いけます、大将」

「では「ジェリコ」「ユニゾン」「ガギエル」に輸送船団を追撃させ給え」

「了解しました」

 これで綾波は30隻の大型タンカーと輸送船を失うのか・・・大収穫だな。

「ナオコ」は満身創痍、「キール」もほとんど同じ、勝ったな。

 二人の指揮官がそう考えていたちょうどその時、変針を終えた「ユニゾン」を真っ赤な12本の水柱が包んだ。ニューヨーク沖海戦の本番が始まったのである。

  

後編予告

とうとう現れた戦艦「等身大」、北碇艦隊に56センチ砲弾が降り注ぐ

次回「5万メートルの彗星」


あとがき

今回は「佐藤調」を押さえて書いてみました。いやあ加持が主役だなあこりゃ。丸山様、戦艦主砲の長射程化の矛盾と30隻の輸送船と戦艦2隻の価値についての解説は任せます(逃げ)


 ゲンドウ教入信希望者及び12式臼砲さんへの感想はこ・ち・ら♪   


少しウソの入った(笑)やさしい語彙解説

SY船団:綾波枢軸の命名基準に従って(その基準については関係資料がなく不明)命名された、アイスランドへと物資を運ぶ輸送船団の名前。加持大佐の言によれば「スイカよこせ船団」だというが・・・・。

護衛駆逐艦:前編解説で記した対潜チームや護衛船団を形成し、主に自軍艦艇の防御を主任務にする駆逐艦のこと。敵艦との戦闘を主任務にする従来の艦隊型駆逐艦と異なり、「安価に」「短期間に」「大量に」作られることを目的としており、徹底的な設備の簡略化を計って建造されるか、旧式化した艦隊型駆逐艦を改装してこれにあてている。もっとも他の装備を削っている分、対潜・対空能力だけは充実しており、下僕ボートにとっては恐怖の対象となっている。

逆探:レーダーは自らが電波を発し、それが対象物に当たって戻ってくる物を受信して敵の存在を確認する。逆探はこの発信されたレーダー波をとらえることで、発信源である敵を探知しようというものである。

丸山直之少将:この名前は忘れて下さい。「レッドサン〜」とも何の関係もないです。12式臼砲さまがご好意でワタシの名前を使ってくれているだけです(あせあせ)。

水上砲戦艦隊:戦力の中核に戦艦・重巡洋艦など主砲による戦闘を主任務とする艦艇を据えた艦隊のこと。航空機を運用する空母を中心に据えた艦隊は機動部隊と一般に呼称される。

水雷兵装:魚雷発射能力を持つ装備のことをいう。前述したように綾波枢軸の護衛駆逐艦は対潜・対空装備以外の設備を極力削っているため、ほとんどの駆逐艦に魚雷発射管を備えていない。

電探:レーダーのこと。正式には電波探信儀という。

最大戦速:普段から最高速度ですっとばすバカは現代にもいない。同様に艦隊も、通常は燃料効率のよい巡航速度と呼ばれる速度で航行しているが、戦闘時などはそんな悠長なことをいていられないので機関をフルに回す。第一、第二、第三戦速など定められた速度があるものの、その詳細については不明。

戦艦主砲の長距離化が生み出した矛盾:ここにボールを二〇〇メートル投げることのできる投手がいたとしよう。はたして彼は、運動場から校舎を挟んだ向こう側に座っているキャッチャーのミットに寸分の狂いなくボールを投げ込むことが出来るだろうか? つまり、技術力の向上によって戦艦の最大射程距離は増大したが、水平線の向こう、判別不能な状況下にある見えない敵には弾を当てることは出来ない。宝の持ち腐れであるというわけである。

夾叉:船体を左右から包み込むように砲弾が着弾すること。砲弾が遠すぎたり近すぎたりでは測的が明らかに間違っているのだが、左右に包み込むようであれば、基本的に正しい位置に砲弾を撃ち込んでいることになり、あとは確率論で砲弾が命中するまで弾を撃てばいいのである。ちなみに「1番、遠、2番、近・・・・」というのは、「1番主砲から発射された砲弾は敵艦の向こう側、2番主砲から発射された砲弾は敵艦のこちら側に着弾」という意味である。

アントン砲塔:神聖アスカ帝国海軍の基準に定められた砲塔の呼称。アントンは綾波枢軸で言う1番砲塔。ちなみに2番砲塔はベルタと呼称される。

天蓋、舷側装甲:要するに天蓋は砲塔の上側。舷側装甲は船の横っ腹ですね。

30隻のタンカーと輸送船:危険海域を一刻もはやく駆け抜けようとするため、特にこういった任務の輸送船団には最新鋭のタンカーや輸送船が使われる。30隻という数を一挙に喪失することは、新たに輸送船を建造する期間や喪失による輸送サイクルの変化など、ある意味戦艦2隻を犠牲にするすることよりもはるかに深刻な損害となる。まさしく「宝石よりも貴重な存在」なのである。くわえてそこに積載されている物資はアイスランドに展開する綾波枢軸の数百機の航空機を稼働させるのに必要な物であり、それを失うことはアイスランドを無力化されるに等しい。


管理人(及びその他)のコメント

カヲル「さてさて、話はいよいよ佳境に入ってきたね。相変わらずの見事な話の展開。いやいや、12式臼砲さん、すばらしい」

アスカ「・・・・あんた・・・・作者の妄想電波の影響うけてんじゃないの? 台詞がいつもの雰囲気と違うし、なんか台本棒読みしてるような感じが・・・・って・・・・なに、その頭上にぶら下がった爆弾みたいなのは?」

カヲル「作者の置きみやげでね。僕の態度次第で爆発させるって」

アスカ「ふん、こんなものこうしてこうよ!!」

 がっつ〜〜〜〜〜〜〜ん!! ひゅ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!

カヲル「・・・・どうしてシンジ君はこんな暴力女が気になるんだろうなぁ・・・・」

アスカ「ぬあんですってえええええ!! 人がせっかく作者の魔の手から救ってやったって言うのに、その言いぐさはなによ!!」

 どっかああああああああん!!

カヲル「????」

アスカ「????」

加持 「あ〜あ、やっちまった」

アスカ「あ、加持さん(はあと) ・・・・やっちまった、って、なにを?」

加持 「今アスカが蹴った爆弾、見事に32000メートル彼方のシンジ君に着弾したよ。さすがは戦艦アスカ様。初弾命中ってやつだな」

アスカ「・・・・・・えええええ!!

カヲル「シンジ君、今待っていてね! 僕が助けに行くから!」

アスカ「ちょっとまちなさい!! シンジはアタシが助けるのよ〜〜〜!!」

加持 「ふっ、コメントの主役もおれがはらないとな。さてさて、後編はどうなるのか楽しみなことだ。さぞおれのダンディズムが発揮されることだろうなぁ〜〜〜」


逃げた作者のコメント

 いや〜、ホントにこの作品は楽しいですね〜。凄絶な戦艦同士の砲撃戦。血沸き肉踊るってやつですよ。加持がいい役所はっているんですきですしね〜。・・・・あ、船団護衛司令官の名前は忘却の淵に沈めて下さいね。使ってもいいですよと12式臼砲さんには言ったんですけど、やはりアップされたのを見ると恥ずかしい・・・・(あせあせ)。

 ま、今回のコメントはこの辺にしておきます。さすがに本編よりも解説とコメントが長くなるのはまずいっすからね・・・・って、もう長いか(^^;


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