『レッドアスカ・ホワイトレイ』外伝

戦艦アスカ様の最後 後編
「5万メートルの彗星」


  

「何だあれは!!」

 冬月がユニゾンを包んでいる12本の真っ赤な水柱を凝視しながら唸った。

 加持の席に付いている電話が鳴った。

「艦長だ」

「こちらレーダー室!発砲したと思われる敵艦距離50000以上!精測距離外」

「加持!!一体あれは何だ!!」

 冬月が加持に問い掛ける。

「綾波海軍は戦艦の主砲弾に染料を詰めています・・・」

「それは知っている!」

「時代ごとに変わりますが大抵戦隊ごとの固有の色が有ります」

「だからどうした!」

「あの色は第一戦隊です!敵の最強の戦艦戦隊です!!」

  

「よっしゃああああ」

 第一戦隊旗艦等身大の艦橋で臨時戦隊司令葛城ミサト中将が叫んでいた。

「「トウジ」、「ケンスケ」より入電、ワレ旗艦二追随デキズ」

「後で来いといいなさいっ、艦長、今の速度は?」

「30ノット!」

 日向マコト大佐が答える。

「30ノットおお?!まだ出るでしょ!機関が焼けても構わないわ!!」

「了解、機関全速」

「等身大」は56センチ砲弾を吐き出しながら北碇艦隊へ34.6ノットの高速で向かって行った。

  

 加持の視界に入っていた「ユニゾン」が突然閃光に包まれた。「等身大」の放った56センチ砲弾4発の内3発が「ユニゾン」に命中。指令塔、一番砲塔天蓋、後部甲板に命中。一番砲塔天蓋に命中した砲弾はそこにはられた装甲板を突き破り、主砲弾薬庫に到達、そこで遅動信管を作動さした。

 加持は信じられない思いで「ユニゾン」だったものを見ていた、アスカ帝国海軍の誇る巡洋戦艦、重装甲でうたわれたアスカ帝国海軍のフネがいとも簡単に沈められようとしている。

 「ユニゾン」と呼ばれた鋼鉄の城は艦尾を上に向け海中へと消えようとしている、加持の心の中で何ともいえぬ思いが渦巻いていた、彼はそれをあるモノへの憎しみへと変化させた、50000メートルの彼方にいる戦艦「等身大」への憎しみに。

 加持は帽子を目深に被り直すと敵戦艦への接近を命じた、奴の装甲を破るにはもっと接近しなければ。 北碇艦隊が第一戦隊へと目標を変え、最大速力で接近していく。その間にも等身大の56センチ砲弾が降り注ぎ、「ガギエル」が脱落、「ジェリコ」も速力を落としていた。

「砲術、いけるか?」

 加持が聞くと砲術長はいけますと答えた。

「砲撃開始!」

 その直後アスカ様の8門の53センチ砲、その内の4門が発砲した。

 それとほぼ同時に56センチ砲弾が命中する。

「損害報告!」

 加持が叫ぶとすぐに返事が帰ってきた。

「艦首甲板に命中弾一、左舷中央にも命中弾一、戦闘行動に支障無し!!」

 その報告を聞いて加持は帽子をあみだに被り直した。

 海戦は、後にニューヨーク沖海戦と呼ばれる戦いは今の所「等身大」に不利な状況となっていた。53センチ砲8門の「アスカ様」に加え、「アラエル」、「ジェリコ」も射撃を開始したからだ。「等身大」には53センチ5発、52センチ4発、38センチ6発、20センチ砲無数を浴び、表面上は廃艦寸前の状態となっていたがぶあつい装甲に守られた主要部分はほとんど損害を受けていない、1800ミリの装甲が全てを弾き返してしまったのだ。

 北碇艦隊も無傷では済んでいない。「アスカ様」といえども大落角で命中する56センチ砲弾を防ぎ切ることはできず、4番砲塔が沈黙していた。

「いけます、射撃を本艦が引き付けていれば沈められます、「等身大」を!」

 その加持の言葉に何か複雑な表情で答えようとしたとき、冬月の身体が加持の視界から掻き消えた。「等身大」の放った56センチ砲弾が「アスカ様」艦橋を直撃したのだった。

 加持は異様な匂いで目を覚ました。頭がひどく痛む、と言うよりは身体が痛い。左目を開けてみる、何も見えない、右目を開ける。艦橋の中は煙と鮮血と身体の破片でつい先程とは別の所の様に見える。艦橋の割れた窓から外を見てみる。「等身大」の他に写真で見た51センチ砲戦艦が二隻見える。味方の方を見ると「ジェリコ」は横転し、「ガギエル」は炎上、「アラエル」も無事ではない。加持は通信士に全艦にたいし音声回線を開かせ、床に落ちていた帽子を拾い目深に被ると命令を出した。

「全艦撤退、全速力で離脱せよ」

 その命令に各艦から抗議の通信が入ったが、加持はこう答えた。

「諸君、収穫の季節、我らの夏は終わった。だがまだ秋と冬は始まってもいない。諸君らは脱出せよ、そして次の収穫の時まで堪え忍ぶのだ。この「アスカ様」が君達を助けていられる間に、未来へ、耐えそして打ち勝たねばならぬ未来へと脱出するのだ。これからの諸君の健闘を祈る。さようなら。以上」

 加持はマイクを置いた後、「等身大」の方を向いた。操舵に敵艦へ最大戦速を命じた後、朝焼けをバックに接近してくる敵艦を見つめながら思った。

 俺は戦艦の、アスカ帝国最大の戦艦の上で死ねるわけだ。

 加持は帽子をあみだに被り直したあと、艦橋にいた兵士達に「ごくろう」と言った、その瞬間、アスカ様艦橋に56センチ砲弾が飛び込んできて、加持リョウジ大佐以下の艦橋要員を分子レヴェルへと分解した。神聖アスカ帝国海軍大佐加持リョウジ、彼は、問題が無いわけではないが満足のいける死に方をしたことは間違い無い。

  

 加持が戦死した後も、アスカ様は「等身大」に接近していた、だが、彼女ももう死んでいた。

  

 ○六三○時。砲撃戦が終わった後も「アスカ様」は浮いていた、しかし艦内の火災が主砲弾薬庫に到達。朝焼けで真っ赤に染められた「アスカ様」は2000メートルの高さの火柱を上げ、永遠の眠りについた。昇る太陽に染められた真紅の世界、そこが戦艦「アスカ様」が最期を迎えた場所であった。

 「等身大」艦橋では葛城中将以下全員が「アスカ様」に対し、勇敢な敵に対し敬礼を送っていた。

 

『レッドサン・ホワイトアスカ』外伝   

 「戦艦アスカ様の最後」 完   


後書き

何も言うことは有りません、ただ加持をどうするべきか最期まで迷いました。

では皆さん、また会う機会まで。さようなら。


 ゲンドウ教入信希望者及び12式臼砲さんへの感想はこ・ち・ら♪   


逃げた作者の趣味がばれる(笑)あやしい語彙解説

 戦隊:1隻もしくは複数の戦艦、巡洋艦などが形成するチームのこと。これを核に駆逐艦などの護衛艦がついて艦隊を形成する。なお、空母の場合は特別に航空戦隊と呼称される。

 遅動信管:命中した瞬間に爆発してしまうと、砲弾はその表面を焼き払うだけでさしたる被害を与えない。そのため、目標に衝突してから数秒、もしくは数十秒後に爆発するようにセットしておき、物理的エネルギーで装甲を突き破った後に爆発するようセットされた信管のこと。なお、衝突した瞬間に爆発するような信管を着発信管という。

 大落角:50000メートルの彼方から砲撃する場合、砲弾は直線的にではなく、上に撃ち上げて放物線状に落下するコースをたどる。ために砲弾はほとんどが上から「降ってくる」のである。なお、中編解説で記した「砲戦距離の増加による矛盾」で記した落下地点の計測だが、綾波枢軸はこれを、現場海域にいる戦艦「ナオコ」からのデータ送信によってクリアしている。

 〇六三〇時:軍隊が使う時間の書き方。要するに6時30分。


管理人(ではない人)のコメント 

加持 「あ、おれってば死んでる・・・・」

ミサト「ふーん・・・・」

加持 「まあ、葛城の手にかかって死ぬのならば、それもまた一興だな。うん」

ミサト「あんた・・・・」

加持 「ん? 何を驚いている? おれはおまえのためなら、死んでもいいとおもっているぞ」

ミサト「・・・・・・加持・・・・」

加持 「ふっ」

カヲル「ということで、12式臼砲さん。外伝の完結、おめでとう。そしてご、苦労様。なかなか異色SSということで、非常に楽しめたよ」

シンジ「加持さんとミサトさん、あいかわらず仲がいいですね」

アスカ「ワタシもシンジと、これくらい仲がいいとね」

カヲル「いつか君はシンジ君を手にかけそうで怖いね。青竜刀でざくっと・・・・」

アスカ「だ、だれがよ!!」


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