『レッドアスカ・ホワイトレイ』外伝
戦艦アスカ様の最後 前編
アスカ帝国海軍潜水艦隊所属熱膨張動力潜水艦「下僕−4009」は、マイアミにある基地への帰途についていた。
アスカ帝国海軍は序盤でこそ縦横無尽の活躍をしたものの、1950年の暮れになると、綾波聯合艦隊により壊滅寸前まで追い込まれていた。そんな中を下僕−4009はマイアミにあるコンクリート製のブンカーへと急いでいた。ちょうどそんな時だった。下僕−4009のソナー員がそれにきづいたのは。
「左舷九時に航走音、複数です」
「敵の対潜チームか?」
「いえ、航走音は綾波海軍の艦隊型駆逐艦です」
「どうしますか?艦長」
中年の艦長はしばらく沈黙した後答えた。
「熱膨張機関作動、19ノットで5分間移動後、潜望鏡深度だ」
「了解、機関長が喜んでますよ、燃料タンクのパッキンが怪しくなってましたから」
1949年になってアスカ海軍の潜水艦が採用した熱膨張機関、艦首のダクトより吸い込んだ水に熱を加えて蒸気にする、その時に発生する圧力を使い蒸気を艦尾より吹き出すことで推進する機関である。海軍は当初その機関を「スチーム・キャタピラー」とするつもりであったが、アスカ皇帝が「アンタぶわくああああ、そんなダサい名前止めなさい!!、そうねえ、熱膨張機関よ!それで決定」と言った為に熱膨張機関と言う奇天烈な名称になったのである。
それはさて置き、下僕−4009は潜望鏡深度へと浮上していた。
「潜望鏡上げ」
指令塔の天井から潜望鏡が降りてくる、艦長が覗き込む、晴天、潜水艦にとって有り難く無い天気だ。九時方向にむけると、水平線上に灰色の物が見えた。駆逐艦は・・・・キズナ級か、その向こうのデカブツは・・・・・・・
「何だあれは!」
思わず艦長が叫んでしまう。その時ソナー員の報告が入った。
「後方に魚雷航走音!!」
「魚雷発射、機関全速」
艦長はそう命令したものの、自分の船が助からないだろうと思っていた。せめて自分の見た物について報告したかったが、それもかなえられぬものだった。
「前方に圧壊音、撃沈と思われます」
その報告に綾波帝国海軍S2動力潜水艦零−7001艦長の碇ゲンドウ大佐は満足そうに頷いた。
フッ、熱膨張艦を追尾できるとは、全てはコアのおかげか。ま、今はそれでいい。そのためのs2機関です、か。
「上に伝えてやれ、もう少し気をつけろとな、それと、その為のネルフです、とも言ってやれ」
通信士が良く分からないことを呟く艦長をほっといて、通信を始めた。
神聖アスカ帝国海軍北碇艦隊の母港であるノーフォークには、現在北碇艦隊のほぼ全力が停泊していた。O級巡戦「ジェリコ」「ユニゾン」それに開戦時印度洋で沈んだ「アスカ・デア・グロッセ」の同級艦「イスラフェル」「ガギエル」、そして改「アスカ・D・G」級「サンダルフォン」「アラエル」。だが、軍港の一番奥に位置する岸壁に遥かに大きな戦艦が停泊していた。神聖アスカ帝国が建造した最強最大の戦艦、その名を「カイザー・アスカ様」と言う。綾波海軍が建造中の戦艦「等身大」が就航するまでは、名実共に世界最強の戦艦である。その最強の戦艦の艦橋で一人の男が港を眺めていた。
彼は艦橋の自分の椅子に座っていた、彼はこの巨大戦艦「アスカ様」全乗員4500名の頂点に立つ男。神聖アスカ帝国海軍北碇艦隊旗艦「カイザー・アスカ様」艦長加持リョウジ大佐である。彼に与えられている任務、それは2週間前パナマを出港したという敵の大規模輸送船団を叩くことである、ただ彼ら北碇艦隊の司令官冬月コウゾウ大将は下僕ボートによる哨戒で位置がはっきりと特定されるまで出撃許可を出さないのだ。全くスイカの収穫はもう終わる時期なのに収穫出来ないとは!。などと思っていると、艦長席についている付いている電話が鳴り出した。
私だ、そうか、間違いないな・・・・よろしい
電話を置くと、彼は通信士に全艦に対し音声回線を開かせると帽子をあみだに被り直してからマイクを取った。
「諸君、収穫の時は来た、出撃だ!」
中編予告
出撃する北碇艦隊、その標的となる輸送船団の戦艦「ナオコ」と「キール」が北碇艦隊に立ち塞がる。次回「死闘、ニューヨーク沖」
あとがき?
うわああああ、全然ギャグやない! こ、こんなんで良いんですか丸山様。ええとこれが第二作か、次はもう少し考えて書こう。反省反省(涙・・・)
やさしい語彙解説(楽園管理人のお節介です)
潜水艦:読んで字のごとく、水の中に潜ることの出来る航行手段を持った船。この時代、潜水艦というより「可潜艦」が多数を占めていたが、熱膨張機関とコアのおかげで数十日にわたって潜水したまま航行の出来る真の「潜水艦」が生まれつつあった。
下僕-4009:潜水艦の命名基準は、水上艦と違って記号を使うのが通常である。この場合、神聖アスカ帝国において潜水艦を表す「下僕」に、一定の法則に従って数字を付けたものである。綾波枢軸の零-7001も同様である。
ブンカー:コンクリートの屋根で港をおおった、半地下式の潜水艦収納施設。航空機による偵察、爆撃から港に停泊する潜水艦を守るために考案、建築され、各地で良好な実績を上げている。
左舷九時:船はだいたい、自分をアナログ時計の文字盤の中心にいると仮定し、そこからみたどちら方向に敵・味方がいるかを判別する。この場合、ほぼ自分の船の真左に何かがいる、ということになる。
ソナー:水中にいるため視界がゼロに等しい潜水艦が、音によって周辺の状況を探るために使用する機器。それに従事する人間をソナー員という。同様に水上艦が見えない潜水艦を捜索する際にもソナーを使用する。
対潜チーム:潜水艦を沈めることを専門に複数の軍艦が形成するチームのこと。自軍の主力艦隊を潜水艦から守ることを主な任務とする。
艦隊型駆逐艦:対潜チームが潜水艦狩りの設備を有しているのに対し、主力艦隊(この場合は戦艦もしくは空母)に随伴して艦隊を航空機から守るための駆逐艦を指して言う。防空火力と艦隊に随伴するための航洋能力を有したもの。
19ノット:ノットは船が使う速度の単位。だいたい40ノットで時速60〜70キロと考えていれば妥当。従来の「可潜艦」は水中で8ノットも出れば上等だったが、熱膨張機関およびコアを搭載した潜水艦は20ノットをゆうに越える速度を出すことが出来るようになった。ちなみにこのころの水上艦は全速で35ノット以上はゆうにでる。
晴天:航空機が潜水艦を発見するのにもっとも適した天候。どんより曇っていた方が海水の透明度が落ちるため、潜水艦にとってはありがたい天候なのである。
圧壊音:水中で潜水艦が撃破されると、水圧によって船自体がぺしゃんこにつぶれてしまう。その際に出る音が圧壊音で、ソナーがそれを察知することで撃沈を確認する。
O級巡戦:正式にはO級巡洋戦艦。O級とは神聖アスカ帝国の軍艦計画で定められた計画番号のこと。巡洋戦艦は戦艦に優る速度とそれ以外の船を圧倒する火力を持った軍艦のことであるが、この時代は戦艦の速度が著しく上昇しており、計画当初ほどの有力さを持ってはいない。厳密には高速戦艦というべき存在である。
輸送船団:この当時、綾波枢軸はアイスランドに前進基地を持っており、敵の中に飛び地として存在するアイスランドに向けて、そこを維持するための物資を恒久的に輸送する必要に迫られていた。神聖アスカ帝国にとっては、アイスランドを攻略する戦力に不足しているため、物資を断つことでアイスランドの無力化を計ろうとしているのである。
管理人(その他)のコメント
カヲル「・・・・作者め、遂に自分の趣味をこの分譲住宅に持ち込んできたね。同じ様な趣味を持っている(らしい)12式臼砲さんがこんな小説を書いていると知って、むりやり自分のぺえじにのせるよう働きかけて・・・・。、あ、そうそう、12式臼砲さん。この分譲住宅へようこそ。僕は待っていたよ」
アスカ「ぬあああああああにが「戦艦アスカさまの最後」よ!! このアタシを綾波枢軸が沈めようなんて、1000000000年くらいはやいわよ!」
カヲル「まあ話自体はすごく面白いからいいんだけどね。エヴァ小説では珍しい展開だよ。ラブコメでもなく、シンジ君が出てくるわけでもなく。そもそも加持リョウジが主役クラスをはっているんだからね」
アスカ「ふん、艦長が加持さんだからアタシはまだ許すけどね、これでホントにアタシの名を冠した船を沈めようものなら・・・・この分譲住宅、N2爆雷で焼き尽くすわよ!」
加持 「まあまあアスカ。そうかりかりしなさんな。アスカのお望み通り、君が「皇帝」になっているんだからさ」
アスカ「あ、加持さん〜〜〜(はあと)」
加持 「ふむ、おれのダンディがうまく生かされているじゃないか。帽子をあみだに・・・・うん、この表現はいいな」
カヲル「しかし、軍事用語がぽんぽん出てくるだけに、結構分からない人もいるんじゃないかって逃げた作者が解説を付けているけど・・・・」
アスカ「おたく丸出しね。かえって分からないわよ」
カヲル「まあ、原作となっている「レッドサン・ブラッククロス」がかなり高度な小説だから仕方がないけど、これはこれでいいんじゃないかな?」
アスカ「ふん、神聖アスカ帝国が綾波枢軸に負けるのってのが、アタシにはどうしても気に入らないわね。シナリオの変更を要求するわ!」
カヲル「・・・・それは絶対に無理だろうね・・・・まあ、12式臼砲さん。作者はこの続きをものすごく楽しみにしているよ。出来れば外伝だけじゃなく、本編もどこかで書いて欲しいくらいだね」
アスカ「ぶつぶつぶつ・・・・なんでアタシの帝国が・・・・」
作者のコメント
むっきいいいいいいいいい!!
・・・・はっ、これは失礼しました。しかし、しかし、面白いです!! すごくいいです!! はっきり言ってこの作品はドンドン続きを書いてもらいたいです!! 「畑の肥やし」内でも書いているように、この原作の『レッドサン・ブラッククロス』はお気に入りなもので、それを題材にしたエヴァ小説が出てこようとは・・・・まさにワタシにとっては至福の境地。感涙の嵐です。個々の用語も光っていますし、もう言うことは何もないですよ。
さて、12式臼砲さま。ゲンドウ版で無理やりお誘いして投稿いただきまして、本当にありがとうございました。ゲンドウ教本部にも、そうお伝え下さい。