気配が、揺れた。
シンジが、表情をわずかに変えた。
気配が、近づいた。
シンジが、コアの前に立った。
影が、揺れ、
シンジは、手を伸ばした。
赤いコアに姿が浮き出る。
その人のかたちをした影を、
シンジは、一瞬のためらいもなく抱きとめた。
───NERV本部第二発令所。
待機中
メインスクリーンの一角に、そう表示されている。
この表示が出ている間は、B級以上のオペレーター達に大きな仕事はない。
よって、彼らはその上司達を交えて雑談などしていた、のだが・・・。
ピンッ
「・・・・・・ん?」
青葉が、声を上げた。
日向との掛け合いを中断し、目の前に表示されているモニターに、目をこらす。
「青葉君?今の音は何?」
リツコが聞いた。
「これは・・・メールですね。・・・メール!?」
青葉は大声を上げた。
メールなど、本部内、特に指令塔では使われない。情報の伝達なら直接回線を開けばいいし、
そうでなければ報告書の形にして送っておけば済むからだ。
にもかかわらず、モニターにはメール受信の通知がしっかりと表示されている。
固い声でミサトが指示する。
「とりあえず、中身を確認してみて。でも十分、気を付けてね。」
ミサトの指示に従い、防壁などを作りながら開封する青葉。
だが、メールは何事もなくあっさり開く。
サイズも低い。・・・プログラムが入るような大きさではない。
「・・・何でしょう、このメールは?」
訝しげな表情でリツコに意見を求める。
ポップアップしたウインドウを、リツコが覗き込んだ。
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To S.I
From Y.I
Process Completed.
Good Bye,Shinji.
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「シンジくん宛て・・・ね・・・。」
やや呆然と呟くリツコ。
次いで、日向が言った。
「このメール、初号機をモニターしている回線から割り込んでます。まさか・・・。」
その言葉を聞き、はっ と顔を上げるリツコ。
メインスクリーンに表示された、リアルタイムで送られてくる初号機の状態。
そのことごとくが、ある単語を並べている。
NO SIGNAL
「信号・・・消失!?マヤ!!」
「はい!」
リツコの声に、キーを叩き始めるマヤ。
求めた情報が、すぐに報告される。
「初号機内部の観測機器がモニターした情報です。初号機から、何の反応も見られません。
エネルギー反応も完全に消失しています。」
外部からの観測をしようとすると、初号機が「怒る」ので調査はできない。
「リツコ、・・・どぉすんの?」
幾分間延びした声で聞くミサト。
「・・・どうしようもないわね・・・。」
気の抜けた返事で返すリツコ。
確かに、どうしようもない。手出しはできないのだから。
「・・・とりあえず青葉君、司令室に繋げてくれる?報告だけでも・・・。」
青葉が、リツコに返事をするより速く、マヤが叫んだ。
「せ、先輩!レイちゃんが、戻ってきてます!!」
「本当!?」
喜びに満ちたマヤの声に、ミサトが叫びかえす。
「本当ですよ!ほら、このウインドウのここ!!」
「ちょっと、小さくて見えないわよ!」
「マヤ、メインに出してくれる?」
「赤木博士、回線 繋がりました。」
「ありがと。」
「先輩、メインに出ます!」
数秒間、声が入り乱れる。
その直後、まさしく海よりも深い沈黙が訪れた。
誰かが、間抜けな声を漏らした。
「・・・・・・はぁ・・・?」
───司令執務室。
コール音。
間隔を置かず音は消え、声が響く。
「私だ。」
『碇司令?』
聞こえてきたのは、赤木リツコの声。
「何だ。」
『・・・初号機が、[停止]しました。』
───意識が、飛びかけた。
全力で、意識を引き戻す。
そうしている間にも、リツコの声は続く。
『初号機からメールが届きました。そちらに送ります。それから・・・。』
一瞬の間。
『ファーストチルドレン、綾波 レイが戻りました。』
───体から、力が抜けていく。
同時に、一つの感情が湧いてきた。
安堵。
体を震わす歓喜でも、自分の所業への後悔でもない。ただ、安堵だ。
「・・・そうか・・・。」
やっとの事で言葉を絞り出した。
『それから、・・・。』
もう一度、間があった。
ためらうような沈黙。
一瞬、その沈黙が永遠に続くような気がした。
だが、ぎこちない響きを伴って、リツコは声を出した。
空気が止まった気がした。
『いえ・・・その・・・。レイの髪が、青く、ないんです。』
シンジは、レイを抱えたまま膝をついた。
いくら軽いとはいえ、30Kgはあるのだ。さすがに意識のない人間を抱えたままではいられない。
自分の腕の中から落ちないようにレイを抱え直し、それから、レイの顔を見つめる。
変わらない、目を閉じた顔。
綺麗なラインを描く眉も、閉じた瞳も、
真珠色の肌も、薄い唇も、なにも変わらない。
ただ、髪の色だけが、違う。
記憶にある蒼銀の輝きとは、似ても似つかない。
わずかに茶色がかった黒髪。
「・・・あやなみ?」
少女の名を、呼んだ。
腕の中の少女が別人のような、そんな予感がしていた。
だが、少女はその声に応えた。
数瞬の間をおいて、ゆっくりとレイは目を開けた。
シンジと視線を合わせる。
───その目が放つのも、ルビーの輝きではない。
漆黒。
・・・いや、あえて言うならば、
シンジと同じ色。
「・・・あなたは・・・」
レイがかすかな声を出した。
彼女の脳裏で、記憶が再生される。
早送りの記憶を見、レイは目の前の少年を思い出した。
笑顔を浮かべ、彼の名を呼ぶ。
「・・・碇くん・・・。」
シンジの表情が輝いた。
「綾波!!・・・よかった・・・!」
レイを、自分の方に抱き寄せる。
強く抱きしめられながら、レイはそっとささやいた。
「碇くん・・・ただいま。」
シンジは、一瞬沈黙し、
声を返した。
「綾波・・・おはよう。」
「え?」
思ってもみない返事に、レイは戸惑った。
だが、すぐに微笑む。微笑む事ができる。
「うん・・・おはよう、碇くん。」
シンジの、レイを抱く腕にわずかに力が入る。
レイは、ちらりと初号機に視線を移した。
その黒曜石の瞳から、一粒だけ涙が零れ落ちた。
一粒だけ。
そしてその目を伏せ、体を包む力に、身を委ねる。
シンジが、かすかに呟いた。
綾波・・・やっぱり、目を覚ましてくれたね・・・
───再び、司令執務室。
視線の先に、扉がある。
セキュリティランク・最高クラスの、堅く閉ざされた扉だ。
だが今、その向こうには、扉が開くのを待っている人間がいる。
「・・・・・・・・・入れ。」
長い沈黙の後にゲンドウは言い、ロックを開錠。
薄暗い執務室の中に、人影が入ってくる。
冬月が、喉の底から絞り出したような声を上げた。
「・・・まさに瓜二つ、か・・・。」
入ってきたのは、レイ。
身につけているものが学校の制服とは言え、その姿は半ば強制的な
力で以って、二人にある人物を思い起こさせた。
レイは、ゲンドウの机から5メートルほどの所で足を止め、彼らを見据える。
「レイ・・・。本部病院への入院と精密検査を断ったそうだが?」
まず、冬月が口を開いた。
レイが応える。
「必要ありません。」
素っ気無い返事。
だが、その中には、これまでには感じられなかった感情が見える。
表現するなら、心配させないようにする・・・柔らかい言い方、だろうか。
「・・・何故だ。」
レイは、ゲンドウを真っ直ぐ見据え、こう言った。
「・・・信じられませんか?」
ゲンドウの心臓が、大きく揺れる。
一拍おいて、レイが後を続けた。
「・・・ユイさんから、碇司令へ伝言を受けました。」
その為に、レイはここに来たのだろう。
ゲンドウは、震えの止まらない指で眼鏡を押し上げながら、言った。
「・・・聞こう。」
「・・・『ありがとう』
『ごめんなさい』
・・・『シンジを、頼みます』
それから・・・。」
呆然としているゲンドウ。
レイは、もう一つ、言わなければならない。
瞳に悲しい色が浮かぶが、閉じる事は出来ない。
息を整え、言葉を紡ぐ。
「・・・『さようなら』・・・だ、そうです・・・。」
「!──────、・・・、」
言葉が、出てこない。
組んだ両腕が震えている。頭が混乱しそうになる。
だが・・・仮に何かを喋れたとしても、戻ってはこない。
震えを押さえても、頭が落ち着いても、彼女が戻ってくるわけではない。
だから、行き場のない感情は冷たい水の底へ沈めていく。
これまでも、そうしてきた。
・・・だが、際限無く膨れ上がる今の感情は、押さえきれそうにない。
レイが、背を向けた。
小さい足音と一緒に、後ろ姿が闇に溶けていく。
視界から消えていく。
ゲンドウは椅子から体を上げ、叫んだ。
「・・・ユイ!!」
違う。
あれは、ユイではない。自分が唯一愛せた女性ではない。
その代わりを努めてくれた、自分の知っているレイでもない。
足を止めて、レイは振り返った。
「・・・わたしは、ユイさんではありません。」
わかっている・・・どうしようもない事も、わかっている。
「だから、わたしの居場所はここにはありません。」
視線をゲンドウにしっかりと向けて、言った。
「でも・・・。」
レイが、目を伏せて、
「・・・碇司令、本当に、ありがとうございます・・・。」
微笑んだ。
その笑顔は、今は、心を締め上げる。
見る者の心を溶かしていく微笑み。
ユイと同じ微笑み。
・・・だからこそ、自分には辛すぎる。
だが、自分を苦しませるその微笑みでも、今は失いたくない。
そして、それはかなわない。
「ありがとう・・・ございます。」
心から声を出して、レイは退がった。
面影は、闇の彼方に消えていく。
扉が開き、閉じた。
───しばらくして。
ゲンドウは、椅子に身を降ろした。
いつものように両手を組み、いつもは出さない重い、重い息を吐く。
それからさらに時間が経ってから、聞こえないほど小さな声で、ゲンドウは呟いた。
「・・・・・・冬月先生。一人にしてもらえますか。」
冬月は、苦笑し、自分自身を嘲笑して、言った。
「いや。・・・私はそれほど傲慢ではいられんよ。」
その声が広すぎる部屋の隅まで届いてから、
部屋には、無機質な沈黙だけが満ちた。
───彼らの見つめるその先には。
彼らがくぐれなかった、閉じた重い扉がある。
ふたり分の足音が、通路に響いていた。
それまで続いていた話し声が、途切れた。
十度ほど、足音だけが聞こえてから、一人が口を開いた。
「・・・本当に、いなくなっちゃったんだ。・・・母さん。」
「ええ・・・。」
心なしか、二人の歩みが遅くなっている。
隣を歩くシンジに、レイは憂いた視線を向けた。
「ごめんなさい・・・。一緒に、帰れなかった・・・。これが、一番いいと思ったの・・・。」
「・・・いいんだ。綾波は間違ってないよ。」
視線は正面のままで、シンジは答えた。
一度、床に目を落としてから、続ける。
「・・・本当は、実感 湧かないんだ。・・・顔も、声も、全然覚えてないんだ。だから・・・。」
明るい声を出そうとしているのだが、不器用なシンジは、声に混じる感情を隠せない。
自分の声を聞き、足が止まる。レイは、二歩ほど先で振り返る。
「でも・・・。会いたかった・・・。」
レイからは、伏せてしまったシンジの顔が見えない。
そのまま、黙ってシンジの声を聞く。
「・・・会いたかったんだ。・・・母さん・・・。」
レイには、わからない。言うべき言葉が見つからない。
「ぅ・・・っく・・・」
レイが、シンジに近づいた。手を広げて、シンジに抱きついた。
体を重ねてシンジの震える胸を感じ、震えるシンジの呼吸を聞く。
「う・・・ぁ・・・あ・・・。っく・・・、うぅ・・・」
「碇くん。・・・碇くん・・・。」
そっと、名前を呼び続ける。
ユイではない自分には、ユイの代わりができない。
だからレイは レイとして、シンジの側にいるしかない。
「・・・会いたかったのに・・・ っく・・・母さんと、話が、したかったのに・・・。」
───シンジが、レイの背中に回した手は、堅く握り締めたまま。
「・・・碇くん。・・・碇くん。」
「うぁ・・・あ・・・うあああぁぁぁっ!!」
涙が、溢れ出した。
レイには、慰めの言葉はかけられない。
今は、ただ・・・。自分がシンジの支えとなれる事を信じるだけ・・・。
「・・・碇くん・・・。」
何度シンジの名を呼んだか、わからなくなっていた。
だがもう、廊下を満たす悲しい叫びは、聞こえなかった。
───いつのまにか、シンジは泣き止んでいた。
「綾・・・波。もう、大丈夫だから・・・。」
小さいが、幾分 張りを取り戻した声で、シンジが言った。
「ええ・・・。」
答え、レイがわずかに足を引く。
シンジの目の前、数センチの所から、シンジの腫れた瞳を見つめる。
「綾波・・・・・・。・・・!!」
心臓が、跳ね上がった。
シンジの顔が赤くなり、一歩後ろへ。
「・・・どうしたの?」
不思議そうにレイが聞く。
シンジの心が、動き始めた。
「い、いや、ちょっと綾波が近い所にいたもんだから、その・・・!」
───頭は回っていないようだが。
「・・・ふ・・・ふふ・・・。」
レイが、笑った。
その様子に、自分の仕草を自覚して、シンジも笑う。
「・・・はは・・・ははははっ!」
「ふふ・・・。さ・・・。行きましょう、碇くん。」
微笑んだまま、レイは言う。
シンジが応える。
「うん。帰ろう・・・。僕たちの家に。」
頷き合い、連れ立って、彼らは歩き始めた。
再び、通路に足音が響き始めた。
エントランス・ゲート。
ここ本部を街と区別した、重い扉。
その前で二人は立ち止まり、自分のカードを取り出す。
シンジが、先に立つ。
手に持った鍵を、滑らせる。
そして・・・。
扉は、開き始める。
CHAPTER 07 Ended.
巻末特別収録 「違うネタにした方がいいかな、この題名。どうでしょう?(爆)」
キャリバーン(以下、作者)「どうもこんにちは、みなさん。」
レイ「・・・あの・・・。今回は・・・。」
作者「はいはい。シンジ君、来なさいっ!」
シンジ「・・・今度は何する気です?作者さん。」
作者「いや、大した事じゃないよ、ただ突っ立ってればいいから。それじゃっ!!」(作者、退場)
シンジ「・・・一体、あの人は何なんだろう・・・?ねぇ・・・ってだぁぁぁ!!」
レイ「二人っきり・・・碇くん・・・」
シンジ「ま、またかぁ〜!綾波くっつかないで〜!!」
レイ「どうして・・・?わたしは何もしないわ。」
シンジ「力一杯抱きついといて、何言ってるんだよぉ!」(でもちょっと嬉しいらしい)
レイ「碇くん・・・!」
シンジ「あぁぁ、息が首にかかってるぅ〜!!」
レイ「碇くん・・・離さない・・・!」
シンジ「放して〜!!」
レイ「あぁ・・・碇くん・・・。(恍惚)」
シンジ「うぁぁ・・・このままでいたいよーな、このままだとすごくマズいよぉな・・・。」
レイ「・・・あぁ・・・。」(もはやあっちの世界)
シンジ「(どきどきどきどき・・・)」
作者「ほい、おしまい!」
シンジ「あぁ、作者さん!助けて〜!」
レイ「離さない・・・!」
アスカ「むぐ!むぐぐむぐぅ〜!!」
作者「訳:『こら!離れなさい〜!!』。みなさん、例によってソースも見てくださいね♪」
ユイ「レイちゃん、放してあげたら?」
レイ「いいえ。このまま、一緒に遠くへ行きます。」
「あらあら・・・。」「え〜〜!?」「むぐぅ〜!!」(←笑)
作者「さて、今回は言う事もないので、(なら何でここにいるんでしょうね?)
この辺で終わりにしましょう。ユイさん、ありがとうございました。」
ユイ「あまり喋っていないけれどね(苦笑)。あまりシンジをいじめないでね。」
作者「それでは、さようなら!」
シンジ「あ、綾波、遠くにって・・・」
レイ「飛んでいくの。」
バサッ
シンジ「あ、羽根だ・・・。」
レイ「さぁ・・・行きましょう、碇くん・・・。」
アスカ「むぐっぐぐむぅ〜〜〜!!」
Special thanks to FMTTM-Electoric Board.
出張コメントfrom分譲住宅
作者 「くううっ!!」
カヲル「どうしたんだい?」
作者 「『扉は、開き始める。』・・・・うう、うますぎるわぁ〜」
カヲル「確かに、良い作風だよね」
作者 「此の何とも言い難い感覚はさすがだよ」
アスカ「それにくらべて・・・・」
カヲル「この逃げた作者は・・・・」
レイ 「なに、してるの?」
作者 「・・・・3人でからまないで下さいよ〜汗」
カヲル「早く17話を書きたまえ。続きを待っている人は多いのだよ」
アスカ「本当に待っている人がいるのかは分からないけどね」
レイ 「もう、見捨てられているのよ」
アスカ「うんうん」
作者 「ううっ・・・・僕はいらない人間なんだ・・・・」
カヲル「シンジ君の真似をしても」
アスカ「ごまかされないわよ」
レイ 「あなたは、碇君じゃない」
作者 「しくしくしく・・・・」
シンジ「みんな、丸山さんをいじめちゃダメだよ!」
アスカ「シンジ!」
カヲル「なんでまた、彼をかばうんだい?」
アスカ「まさか、なにか賄賂でも・・・・ちょっと!! その後ろにもっているものはなによ!!」
シンジ「ぎくうっ!!」
アスカ「みせなさいっ!!」
レイ 「・・・・・「分譲住宅美少女キャラ写真集」・・・・」
アスカ「シィンジィ〜〜〜〜〜(怒)」
シンジ「ひ、ひ、ひえええええええええっ!!」
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