アスカ!?すぐに出かける用意して!!
ええ! 驚くわよアスカ!! まぁいーから早く! 10分もしないでそっちに着くわよ!
カン カン カン カン カン カンカン カン ・・・・・・・・・。
二人分の 足音が 響く 。
速い。 歩いている リズムでは ない。
走って いた。
真っ直ぐ 前だけを 見据えて。
その向こうに あるものに 一瞬でも早く 辿り着きたいから。
だから 彼女達は 走って いた。
足音を 響かせて いた。
彼は 走らなかった。
悲しみは どこかへ 消えた。
不安は 喜びと なった。
焦りは 穏やかさに 変わった。
・・・でも。
懐かしさは 増した。
安堵は 新しい そして 懐かしい 温もりを 求めた。
だから 彼は 歩みを 進める。
・・・時折 彼は 振り返る。
懐かしい 気持ちを 確かめたくて。
だから 彼は 振り返る。
だけど 彼は 立ち止まらない。
彼は もう 立ち止まらない。
その瞳に 迷いは ない。
彼女は 笑って いた。
分かったから。
自分の 全てが。
自分の 場所が。
自分が どれだけ 見られているか。
そして、
自分が、 何をすべきなのか。
・・・それは、
生きる 事。
幸せと言う名の 未来を 掴むこと。
・・・ひとりの 人が 掴めなかった それを
からだの すべてで 感じること。
それは、もう、手の中にある。
聞こえる・・・足音・・・
あの優しい娘の 気配
必死に、駆けてくる・・・
よく、わかる・・・。どれほど、苦しんでいたのか・・・。
だから・・・。
まだ・・・泣いてるのかもしれない・・・
駆けながら、アスカはそんなことを考えていた。
嬉しいけど・・・
目から、今にも涙が零れてしまいそうでたまらない。
肺とは別に、苦しくて苦しくてたまらない。
不安じゃない・・・もっと、心地よい・・・悲しい・・・?何かが、両目から流れ出てしまいそう。
だが、その苦しさは どうすれば消えるのか知っている。
きっと・・・。
確かめる事ができさえすれば・・・。
「・・・いた・・・!」
ゲートへと繋がる無機質な通路の向こうに、やっと見つけた。
「彼」と「彼女」が見える所まで全力で駆けて、
アスカは、足を止めた。
「え・・・!?それ・・・。」
未だ震えている指を向けて、少女の髪を指す。
「はぁ、はぁ・・・・・・。ふう。だから、驚くっつったでしょ?」
追いついてきたミサトが後ろから明るく声をかける。
だが、アスカは聞いてはいなかった。
声が、震える。
「レイ・・・よね・・・?」
レイも、少し驚いていた。
アスカが、こんな声を出すとは思わなかった。
いつもの気配ではない。
不安に満ちて、・・・怖がっている・・・。
そう・・・ アスカ・・・
心の中だけで小さく微笑んで、レイはシンジの手を放した。
ゆっくりと、アスカの方に歩いていく。
「・・・レ・・・イ・・・。」
アスカの声がどもっている。
だが、今度は不安だけではない。
レイは、そのまま・・・
体を、アスカに重ねた。
アスカが安心するように、両手を栗色の髪に当てる。
優しく、ささやく。
「ええ・・・わたしは、綾波 レイ・・・。
わたしは、もう いなくなったりしない・・・。
約束、したもの・・・碇くんにも、あなたにも・・・。」
ミサトとシンジも、寄ってくる。
アスカは・・・顔が見えないのでわからないが・・・。
「・・・ただいま・・・アスカ・・・。」
優しく髪を撫でてそう言った瞬間、彼女の肩が震え出した。
レイの肩を掴んで、泣き始める。
「レ・・・ぇ・・・うぇ・・・えっ・・・・・・」
細いアスカの手を、シンジが包む。
さあ、帰りましょ、三人とも。・・・・・・私たちの うちに
ミサトさん・・・先に帰っててもらえませんか?
ちょっと寄りたい所があるから・・・
そう・・・。分かったわ。でも・・・ふふ、遅くならないようにね?
はい。綾波、アスカ・・・行こう
わたしたちも・・・?
うん
「・・・それで!ヒカリにはちょっと話してあったんだけど、みんなに言い訳しておくの、大変だったんだからね!
ねぇシンジ!聞いてる!?」
シンジの手を握ったまま、動ける範囲を飛び回ってアスカが喋る。
少し表情を動かして、アスカがシンジに詰め寄った。
にこにこと笑いながら、シンジはそれを見つめている。
「聞いてるよ。でも、あの・・・耳元だと、少し・・・。」
そう答えながら、冗談めかして顔をしかめるシンジ。
あっさりそれを無視し、アスカは体と口を動かし続ける。
「特に鈴原なんてね・・・!」
口調はきついようだが、その顔は満面の笑みに溢れている。
「・・・はぁ。」
苦笑を浮かべるシンジ。
そして、握った手に微かに力を込める。
・・・・・・記憶では、それは湖の側に足を濡らして立っていた。
一人の少年が、その背中に乗っていた。
だが・・・。
今は、崩れて 跡形もない。
「・・・・・・。」
湖の方へ降りている途中、シンジが立ち止まった。
黒い瞳が、じっと 湖岸を見つめる。
手を繋いでいる二人が、怪訝な顔でシンジを覗き込んだ。
そんな二人に柔らかく微笑み返して、シンジは小さく応える。
「・・・いや。・・・なんでもないよ。・・・なんでも・・・・・・。」
そう・・・、笑っていたんだ。
・・・きっと、今も・・・。
「使徒なんかじゃないよ・・・。」
我知らず、呟きが漏れた。
レイが聞き取った。
横目でシンジを見る。
横からでも、瞳の色が違っても、人を見透かしそうな視線は変わらない。
シンジは安心させるように笑って、手を握ってやる。
使徒じゃない・・・・・・
きっと、天使だったんだ。
「戻ってこれて・・・良かった・・・。」
小さな、小さな呟きに返ってくるのは、
優しい、二対の瞳。
「あ、ら・・・?・・・ない・・・。」
3人で寄り添うように座っていたとき、レイが言った。
レイはブラウスの胸ポケットに手を入れていた。
いつも入れている、キーホルダーが、ない。
「あ・・・返してなかったね。」
シンジがズボンから取り出す。
日の光を受けて、それは銀色に煌く。
「預かってたよ。・・・帰ってきたら渡そうと思ってたんだ。」
受け取るレイ。
彼女は、大事そうにそれを両手で包む。
そして、いつものように 感謝の言葉を紡ぐ。
「碇くん、ありがとう・・・・・・」
「言わなくていいよ。」
シンジはそれを途中で遮った。
「綾波を待ってる時、決めてたんだ。 ・・・綾波が帰ってくるまで、これだけは守っていようって。
だって、約束したから。一緒にいようって。・・・・・・側に綾波のものを置いておきたかったのかもしれないけど。」
微苦笑しながらシンジが話す。
「だから、僕の方が言いたいよ。・・・ありがとう、綾波・・・。帰って きてくれて。」
レイは笑顔で応える。
───もちろん、シンジは知っている。 そう言っても、やはりレイは『ありがとう』と言うであろう事を。
・・・そんな二人に、アスカが口を出した。
「いいじゃないの!・・・何も言わなくても!」
いつものように煮え切らないように見える二人に我慢できなくなったのか・・・少しだけ、口調が強い。
呆れたアスカの表情に、二人が揃って笑い出す。
つられて、アスカ自身も明るく笑う。
ひとしきり笑って しばらくしてから、シンジが言った。
「そうだよね。・・・でも、一つだけ、これだけは、ちゃんと言っておくよ。」
シンジは一瞬だけ湖を見つめ、
「・・・二人とも、大好きだよ。」
二人の少女は、何も言えなくなった。
だが、そう時が経たないうちに 精一杯笑って
心の全ての思いを
ことば にして解き放つ
『・・・・・・大好き・・・!』
全ての
鍵を求める天使たちへ