「約束のキーホルダー」

CHAPTER 05


In The Moonlit Dreams


シンジは、黙ったまま家のドアを開けた。
普段なら二人の少女と、ペット一匹がやかましく出迎えてくれる時。
だが、今はそれはない。
レイの顔がふと脳裏に浮かんだ。───そのまま走り出しそうな思考を、理性で無 理矢理押え込む。
全ての感情をシャットアウトした無表情。
熱い思いをかろうじて押さえ切る。
・・・綾波がいない事が、こんなにつらいなんて・・・。
そう考えるのも、一瞬の事。すぐに冷たい意識がシンジを支配する。
───今の彼には、『ただいま』と言う余裕もなかった。

「・・・アスカ?」
自分の部屋の中を見て、シンジは言った。
自分のベッドに、アスカが横になっていた。
『どうしたんだろう?』
疑問が浮かぶ。
ベッドに近寄って、もう一度声を掛ける。
「アスカ?」
「・・・・・・・・・・・・シンジ?
返事が返ってきた。寝ていたわけでは、ないらしい。
『なら、何をしてたんだろう?』
と、シンジがそれを口にするよりも早く。
のろのろとアスカが立ち上がり、シンジの正面に立った。
『?』
そのまま、シンジに平手打ちを放つ!
 パンッ!!
「え?・・・」
その音にシンジは戸惑った。
一瞬遅れて、自分が叩かれた事に気付く。
アスカが、シンジの左腕を強く掴んで叫んだ。
「シンジ!なんで家にいないの!?レイがいなくなってから、ずっと・・・!」
『それは・・・帰ってくるかもしれないから。』
アスカの声に、意識が勝手に、冷静に、自分の答えをはじき出す。
その答えも待たず、アスカは続ける。
「シンジがいなくなっちゃって・・・!あたしはシンジに見捨てられたんじゃない かって・・・!
あたしが、イヤな事考えてたから・・・!あたし、レイがいなくなってほっとして て・・・そんなの
イヤなのに!なのに押さえられなくて!・・・」
『アスカ・・・』
沈黙。シンジは、声も掛けられない。
「シンジ、なんであたしを避けるの!?顔も見てくれないじゃない!なんで・・・ !あたしより
レイの方が大事だから、あたしを見てくれないの・・・!?」
『そうじゃない。・・・───そういえば、この頃見てなかった。・・・違う。自 分を、見られたくなかったんだ。』
冷えきった意識が、それだけを認識する。
アスカの言葉につられてか、体が、潤んだサファイアの瞳を覗く。

───その瞳が、記憶を呼び覚ます。





────── 心が、動きはじめる。



    ・・・赤く澄んだ瞳。


    厳しい面持ちで、手を振り上げる少女。


    淡い月明かりに浮かぶ姿。


    自分の言葉に、そっと微笑んだ彼女。


    頬を染めた顔。


    懐かしいような、優しいことば。


    視界に溢れる光。


    どこか遠くを見つめる悲しい目。





────── 胸に彼女への想いが湧き上がる。


    荷物を置いて玄関に立ち尽くす少女。


    頭の中によみがえる、この一ヶ月で見た様々な表情・・・。






────── 目をそらしていた記憶がよみがえる。




・・・声が小さく、細くなる。

──── 背中に回された腕が落ちる。

───── 脈が弱くなり

────── 息が途絶え

─────── 鼓動が止まり・・・

───────── その顔は安らかに

────────── 笑ったまま凍りつき

──────────── 暴走しそうな感情を、一筋の希望で繋ぎ止め・・・



「!・・・あ・・・!あや、なみ・・・ぃ・・・・!・・・・・・・」
シンジの視界が、涙で歪む。
そのまま、膝をつく。
シンジの心には、どうしようもない嵐が荒れ狂っていた。
「レイがいなくて、シンジに余裕がないのはわかってる・・・でも・・・!
 それじゃ、あたしはどうすればいいの!?
  あたし・・・シンジがいないと、また一人になっちゃうよ・・・!」
───シンジには、それを聞く力もなく。
「シンジ・・・!お願いだから、いなくならないで・・・!
──────今のチルドレン達には、悲しむ以外に術はなく・・・。





「・・・・・・」

頭に、なにかの呟きが響く。

「・・・・・・・・・」

『・・・え・・・?』

「・・・、・・・・・・・・・・・」

『これは、声・・・?誰の・・・・・・シンジの?』

体を包む感覚───睡魔が、からだの自由を抑えている。

今のアスカが感じているのは、その声と、多少の圧迫感、それに圧倒的な疲労感 ・・・眠気。

目は、見えていない───瞳を閉じているから。

「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・」

『シンジ・・・。』

何が聞こえているのか・・・はっきりとした言葉にはならないが、アスカは

その意味を汲み取っていた。

言葉にならない声にアスカが思ったのは、少しの悲しみ。

───いや・・・涙。

「・・・。・・・・・・・」

『シンジ・・・。』

───眠気が、強くなってきた。

アスカは、睡魔を振り払うように、重い目を開けた。

ぼんやりとした視界に映るのは、大きく開かれたリビングの窓。

光の差し込む薄暗い部屋。

横から自分を見つめている、シンジの目。

そして、そのすぐ脇を照らしている、月の光。

『レイ・・・』

ぼんやりと少女の名を思ったその時、またシンジの声が聞こえた。

───それは頭の中では具体化してくれなかった。

しかし、アスカは、自分の応えをしっかりと心に刻みつけた。




『ただ・・・嬉しかった・・・』




ん・・・シンジ・・・って、え!?」
周りの様子に気づき、アスカは勢いよく跳ね起きた。
開いた入り口から、明るい日の光が差している。
「昼間!?あたし・・・あれ・・・?シンジは?いないの?」
自分のいる場所がシンジのベッドの上である事に気づき、アスカは部屋の中を見回 した。
だが、この部屋の主は、いない。
───涙が出てきそうになる。
「シンジ・・・!どうして・・・!?」
夢、だったのだろうか。
あの時のシンジの声は。
シンジは、今日もまたいなくなってしまったのか。
「シンジ───!」
ベッドの脇に立ち上がる。
シンジがいない今、この部屋にいても、悲しくなるばかりだった。
「痛!!」
部屋を飛び出ようと足を踏み出して、アスカは足に固いものが当たったのを感じた 。
「───なにコレ!・・・イス?」
そう、ベッドのすぐ側に置いてあったのは、シンジの椅子だった。
その椅子の下に、紙が一枚落ちている。
足をぶつけたため、椅子から落ちてしまったらしい。
なぜか興味をひかれ、アスカはその紙を拾い上げた。
「この字は・・・シンジの?」
その紙に目を通し、アスカは声を上げた。
そして、なめらかな筆跡に目を走らせていく。
その目が、大きく開かれる。
書いてあったのは、他愛もない事。

  洗濯とか、掃除とかはしてあるから。
  食事は、一応作ってあるから、暖めて食べて。
  買い物は、帰りに僕がやるから。

本当に他愛もない───紙に書いておくほどのものではないような文章。
それを、自分の手がすぐに届く所に置いて、シンジは行った。
───どうしてなのか。
・・・そして、短い書き置きの最後にあった文字を見て、アスカは、胸の詰まる思 いがした。

  『大丈夫だから。待ってて』

「───シンジ──────」
書き置きを持った両手が震える。
涙が、瞳に浮かんでくる。
それと同時に、アスカは気づいた。
───ベッドの側にあったイスは、書き置きを乗せておくためではなく。
そこにシンジ自身が座り、眠っている自分を見守っていてくれた事に───。

アスカは、その椅子にそっと腰を降ろした。
そして、シンジの書き置きを見つめる。
その向こうのシンジの笑顔を見ようとして。
長い時間、そうやって見つめ続けていた。
それから、思い出したように顔を上げた。
その表情には、もう寂しさはない。
アスカは椅子から立ち上がって、部屋の外の日の光に向かって歩いていった。
その歩みには、怖れも、頼りなさも、寂しさもなかった。

  ───もう少しなら、我慢できる。
  シンジが帰ってくるまでなら、我慢できる。
  シンジが帰ってきてくれれば、また少し、安心していられる。
  そうしていれば ───レイが帰ってくるまでは、我慢できる───。









『───ごめんね、アスカ・・・。自分の事ばかり考えてて。アスカ のこと、考えてあげられないで。』


『・・・僕は・・・綾波もアスカも、二人とも好きなんだ。───ど ちらかなんて、選べないくらいに。』


『だけど、綾波が帰ってきてくれた時には、すぐに迎えてあげたいん だ。───すぐに。』


『でも・・・・・今は、ここにいるから。』


『アスカが大丈夫なように、側にいるから。』


『アスカ・・・』


『好きだよ、アスカ・・・・』







CHAPTER 05 Ended.




巻末特別収録「とある日の楽園の入り口」


彼は、焦っていた。
その早い歩みの進め方から、それが容易に推察できる。
普通の人の、2倍近い速さで、彼は歩いていた。
その目は、正面ただ一点に注がれていた。
───と。
彼の目の前に、巨大な扉が現れる。
それを認め、彼は唐突に足を止めた。
一度その扉を見上げ、それから浅く深呼吸をする。
そして、その扉に手をかけた。
きしんだ音を立てて、ゆっくりと扉が動いていく。
今。
楽園への入り口が、開かれる──────。





作者:「ちわ〜〜す。・・・あのぉ、なおさーん。いませんか〜?・・・・・・・ む?これは───殺気!?」
アスカ:「食らえぇぇ!!!アスカ様特製マサカリ攻撃ぃ!!!」
  がきぃぃぃっっ!!!
アスカ:「な!・・・なんですって!?受け止めた!?」
作者:「ふぅ・・・。はっはっは、我が魔剣オーロラサークルにかかればそんなマ サカリなど・・・
  あぁぁっっ!?魔剣オーロラサークルが折れたっ!?」
アスカ:「───アンタ、一体何やってんの・・・?(汗)」
作者:「いやまぁ・・・(^^;)。そっちこそ、何なんだ、いきなり!」
アスカ:「なぁぁぁにボケたコト言ってんのよ!?一ヶ月以上も更新しないで、何 やってたの!?この無能!!」
作者:「うぅぅ・・・。テストがあったんだよぉ・・・(;;)。しかもPCが クラッシュしやがって・・・
  マイク○ソフトのバカヤロー・・・。」
アスカ:「まったく何をやってるんだか・・・。で。やっと第5話ができたわけね 。」
作者:「左様で。ところで、なおさんはどこに?」
アスカ:「アイツならどーせ会社でしょ。・・・それはそれとして、コレ、アフレ コだからね。」
作者:「え!?なら、早く用事をすませないと・・・。では、早速。」
アスカ:「今日は、なんだってこんな所に顔を見せたわけ?」
作者:「ちょいと言いたい事があってね。今回のこの話、サブタイトルが何度も変 わったんですが・・・。」
アスカ:「全部で・・・6回くらいかしらね?」
作者:「そのくらいかな。その中に、次のよーな案もありまして。結局使いません でしたが。」

[My True Hearts For You] 「まごころを、君たちに」

作者:「もちろん、夏の映画の影響ですね。複数形がミソです。でも、理由があっ て、使えませんでした。」
アスカ:「『主人公の主観がはいってしまうから』 ね。」
作者:「そう。シンジのセリフということになるけど、それだとシンジの気持ちが 限定されてしまうんだ。
  私は、なるべく読んでいる人に考える余裕を持たせたいから。」
アスカ:「どうにもこだわってるわねぇ・・・。誰もそんな事考えてないわよ、き っと。」
作者:「(;;)。せっかくサブタイトルにも思い入れ全開で選んでるのに・・・ 。」
アスカ:「ま、しょうがないでしょ。強制できるもんでもないし。」
作者:「にゅぅ。まぁ、ヒマな時にでも考えてくださいな。今回のコレ、こういう 案があった事を知ってもらいたかったんです。」
アスカ:「しっかし・・・前回、今回と続いて、随分とあたしをいぢめたわねぇ・ ・・。」
作者:「いーじゃないか。今回、シンジ君に抱かれてるんだし。」
アスカ:「え?そなの?」
作者:「そーです。ここ↓に、説明不足の部分を書いておきます。」


シンジ、ふと目をさます。泣いている間に、いつのまにか眠っていたらしい。だが 、気分は随分
楽になっている。
ゆっくり辺りを見回し、部屋に不思議な明かりがあることに気づく。
満月の光が差し込んできている。
シンジ、立ち上がろうとR > シンジ、アスカを抱き上げ、リビングの方に行く。
リビングのソファにアスカを寝かせて、窓の方に寄り、月の光を浴びる。
シンジ:モノローグ(?)
「───綾波・・・。」
「──────わかってる・・・。待ってれば、帰ってきてくれるよね・・・。」
「待ってるから・・・帰ってきてね、綾波・・・。」
シンジ、アスカの方に寄り、隣に座る。
アスカの体を引き寄せ、自分に密着するようにする。
シンジ:アスカへモノローグ
以下、本編の最後のセリフへ。


作者:「・・・とまぁこんなものだ。私の力不足のため、アスカとシンジ両方の描 写はできなかったもんで。
  アスカは前回で落としまくってることだし、ちょいと取り返した方がいいかな 、と思って、本編のようになった。」
アスカ:「何だ、結構ちゃんとしてるのね。まぁいいわ。」
作者:「いや・・・『まぁいい』って・・・。(汗)」
アスカ:「うるさいわねぇ。あたしの下僕でもないのに、偉ぶってるんじゃないわよ!」
作者:「下僕なら、それはそれで言われそうだが・・・。
  ちなみになおさん、私はレイな人ではない。 あやなんでる人だ!」
アスカ:「・・・も、いーわ。何言っても聞きそうにないわね、アンタ。」
作者:「うむ!(無意味)では、私はこの辺で失礼しよう。」
アスカ:「(にこやかに)二度と来ないでねー!」
作者:「うぅ・・・しくしくしく・・・(;;)」


キャリバーンさんへの感想はこ・ち・ら♪   


出張コメントfrom分譲住宅

カヲル「あやなんでる人・・・・また、これはなんというか珍しい造語・・・・」
作者 「一ヶ月の更新停止なんてなんでもないっすよ。キャリバーンさん。わたしなんか
    ほら一ヶ月はおろか・・・・ぐあっ!!」
 ばきどかぐしゃっ!!
アスカ「そんなこと自慢してどうする!!」
作者 「う、うがあっ・・・・」
 さくっ
レイ 「どうして更新してくれないの? 丸山さん」
作者 「げはっ!!(ばったり)」
カヲル「あーあ、ふたりして生身の人間をいたぶる・・・・」
アスカ「なーに、アンタ自分がいたぶられた方がいいの?」
カヲル「・・・・どうぞご自由にいぢめてやってください・・・汗」
アスカ「うむ、聞き分けが良くてよろしい」
 数分経過・・・・
アスカ「ふう、やっとすっきりしたわ」
カヲル「あーあ、なんかぼろぞーきんのようになっている作者だが・・・・まあいい。
    キャリバーンさんの第五話、どうだい?」
レイ 「わたし、まだ出てきていないのね。悲しい」
アスカ「シンジに抱いてもらった部分だけ許可」
カヲル「・・・・端的な解説ありがとうございます(汗)。まあ、シリアス小説、しかも
    素晴らしい作品にこういったコメントを付けるのは難しいことだからね」
アスカ「170近くコメント付けても、まだダメなの?」
作者 「だめです。作品の雰囲気を壊してしまいそうでびくびくしていますよ」
カヲル「ま、このコメント、期待されているのかどうかもよく分からないからね〜」
作者 「マンネリ化だけはしないように注意しますよ。特にアスカ様が殴ってばかり
    というこの不公平な構図はたまには・・・・」
アスカ「・・・・なにかいった?(マサカリ片手ににやり)」
作者 「あ、いえ、その・・・・」
アスカ「ねえ、何か、言った?(にやり)」
作者 「・・・・いえ、なんでもないです・・・・」



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