シンジは、黙ったまま家のドアを開けた。
普段なら二人の少女と、ペット一匹がやかましく出迎えてくれる時。
だが、今はそれはない。
レイの顔がふと脳裏に浮かんだ。───そのまま走り出しそうな思考を、理性で無
理矢理押え込む。
全ての感情をシャットアウトした無表情。
熱い思いをかろうじて押さえ切る。
・・・綾波がいない事が、こんなにつらいなんて・・・。
そう考えるのも、一瞬の事。すぐに冷たい意識がシンジを支配する。
───今の彼には、『ただいま』と言う余裕もなかった。
「・・・アスカ?」
自分の部屋の中を見て、シンジは言った。
自分のベッドに、アスカが横になっていた。
『どうしたんだろう?』
疑問が浮かぶ。
ベッドに近寄って、もう一度声を掛ける。
「アスカ?」
「・・・・・・・・・・・・シンジ?」
返事が返ってきた。寝ていたわけでは、ないらしい。
『なら、何をしてたんだろう?』
と、シンジがそれを口にするよりも早く。
のろのろとアスカが立ち上がり、シンジの正面に立った。
『?』
そのまま、シンジに平手打ちを放つ!
パンッ!!
「え?・・・」
その音にシンジは戸惑った。
一瞬遅れて、自分が叩かれた事に気付く。
アスカが、シンジの左腕を強く掴んで叫んだ。
「シンジ!なんで家にいないの!?レイがいなくなってから、ずっと・・・!」
『それは・・・帰ってくるかもしれないから。』
アスカの声に、意識が勝手に、冷静に、自分の答えをはじき出す。
その答えも待たず、アスカは続ける。
「シンジがいなくなっちゃって・・・!あたしはシンジに見捨てられたんじゃない
かって・・・!
あたしが、イヤな事考えてたから・・・!あたし、レイがいなくなってほっとして
て・・・そんなの
イヤなのに!なのに押さえられなくて!・・・」
『アスカ・・・』
沈黙。シンジは、声も掛けられない。
「シンジ、なんであたしを避けるの!?顔も見てくれないじゃない!なんで・・・
!あたしより
レイの方が大事だから、あたしを見てくれないの・・・!?」
『そうじゃない。・・・───そういえば、この頃見てなかった。・・・違う。自
分を、見られたくなかったんだ。』
冷えきった意識が、それだけを認識する。
アスカの言葉につられてか、体が、潤んだサファイアの瞳を覗く。
───その瞳が、記憶を呼び覚ます。
────── 心が、動きはじめる。
・・・赤く澄んだ瞳。
厳しい面持ちで、手を振り上げる少女。
淡い月明かりに浮かぶ姿。
自分の言葉に、そっと微笑んだ彼女。
頬を染めた顔。
懐かしいような、優しいことば。
視界に溢れる光。
どこか遠くを見つめる悲しい目。
────── 胸に彼女への想いが湧き上がる。
荷物を置いて玄関に立ち尽くす少女。
頭の中によみがえる、この一ヶ月で見た様々な表情・・・。
────── 目をそらしていた記憶がよみがえる。
・・・声が小さく、細くなる。
──── 背中に回された腕が落ちる。
───── 脈が弱くなり
────── 息が途絶え
─────── 鼓動が止まり・・・
───────── その顔は安らかに
────────── 笑ったまま凍りつき
──────────── 暴走しそうな感情を、一筋の希望で繋ぎ止め・・・
「・・・・・・」
頭に、なにかの呟きが響く。
「・・・・・・・・・」
『・・・え・・・?』
「・・・、・・・・・・・・・・・」
『これは、声・・・?誰の・・・・・・シンジの?』
体を包む感覚───睡魔が、からだの自由を抑えている。
今のアスカが感じているのは、その声と、多少の圧迫感、それに圧倒的な疲労感
・・・眠気。
目は、見えていない───瞳を閉じているから。
「・・・・・・。・・・・・・・・・・・・」
『シンジ・・・。』
何が聞こえているのか・・・はっきりとした言葉にはならないが、アスカは
その意味を汲み取っていた。
言葉にならない声にアスカが思ったのは、少しの悲しみ。
───いや・・・涙。
「・・・。・・・・・・・」
『シンジ・・・。』
───眠気が、強くなってきた。
アスカは、睡魔を振り払うように、重い目を開けた。
ぼんやりとした視界に映るのは、大きく開かれたリビングの窓。
光の差し込む薄暗い部屋。
横から自分を見つめている、シンジの目。
そして、そのすぐ脇を照らしている、月の光。
『レイ・・・』
ぼんやりと少女の名を思ったその時、またシンジの声が聞こえた。
───それは頭の中では具体化してくれなかった。
しかし、アスカは、自分の応えをしっかりと心に刻みつけた。
「!・・・あ・・・!あや、なみ・・・ぃ・・・・!・・・・・・・」
シンジの視界が、涙で歪む。
そのまま、膝をつく。
シンジの心には、どうしようもない嵐が荒れ狂っていた。
「レイがいなくて、シンジに余裕がないのはわかってる・・・でも・・・!
それじゃ、あたしはどうすればいいの!?
あたし・・・シンジがいないと、また一人になっちゃうよ・・・!」
───シンジには、それを聞く力もなく。
「シンジ・・・!お願いだから、いなくならないで・・・!
──────今のチルドレン達には、悲しむ以外に術はなく・・・。
『───ごめんね、アスカ・・・。自分の事ばかり考えてて。アスカ
のこと、考えてあげられないで。』
『・・・僕は・・・綾波もアスカも、二人とも好きなんだ。───ど
ちらかなんて、選べないくらいに。』
『だけど、綾波が帰ってきてくれた時には、すぐに迎えてあげたいん
だ。───すぐに。』
『でも・・・・・今は、ここにいるから。』
『アスカが大丈夫なように、側にいるから。』
『アスカ・・・』
『好きだよ、アスカ・・・・』
出張コメントfrom分譲住宅
カヲル「あやなんでる人・・・・また、これはなんというか珍しい造語・・・・」 作者 「一ヶ月の更新停止なんてなんでもないっすよ。キャリバーンさん。わたしなんか ほら一ヶ月はおろか・・・・ぐあっ!!」 ばきどかぐしゃっ!! アスカ「そんなこと自慢してどうする!!」 作者 「う、うがあっ・・・・」 さくっ レイ 「どうして更新してくれないの? 丸山さん」 作者 「げはっ!!(ばったり)」 カヲル「あーあ、ふたりして生身の人間をいたぶる・・・・」 アスカ「なーに、アンタ自分がいたぶられた方がいいの?」 カヲル「・・・・どうぞご自由にいぢめてやってください・・・汗」 アスカ「うむ、聞き分けが良くてよろしい」 数分経過・・・・ アスカ「ふう、やっとすっきりしたわ」 カヲル「あーあ、なんかぼろぞーきんのようになっている作者だが・・・・まあいい。 キャリバーンさんの第五話、どうだい?」 レイ 「わたし、まだ出てきていないのね。悲しい」 アスカ「シンジに抱いてもらった部分だけ許可」 カヲル「・・・・端的な解説ありがとうございます(汗)。まあ、シリアス小説、しかも 素晴らしい作品にこういったコメントを付けるのは難しいことだからね」 アスカ「170近くコメント付けても、まだダメなの?」 作者 「だめです。作品の雰囲気を壊してしまいそうでびくびくしていますよ」 カヲル「ま、このコメント、期待されているのかどうかもよく分からないからね〜」 作者 「マンネリ化だけはしないように注意しますよ。特にアスカ様が殴ってばかり というこの不公平な構図はたまには・・・・」 アスカ「・・・・なにかいった?(マサカリ片手ににやり)」 作者 「あ、いえ、その・・・・」 アスカ「ねえ、何か、言った?(にやり)」 作者 「・・・・いえ、なんでもないです・・・・」