「約束のキーホルダー」

CHAPTER 03


He felt relieved,but she...




  ――――NERV本部、第一実験場。

 『初号機、凍結解除完了。実験場に到着。』
  『初号機、固定度をAからさらに1コンマ2強化。』
 『サードチルドレン到着。』
『エントリープラグインテリア、換装終了。』
  『初号機、内部異常なし。S2機関も停止しています。』
 『ファーストチルドレンの処置完了。脳細胞の損傷は認められず。』
  『了解。搭乗の準備を急いで下さい。』
『計画開始予定時刻、一一三〇。』

制御室に、次々と報告が飛び込む。
オペレーターが、それを的確に処理していく。
いつものような、ざわついた雰囲気。
だが、基本的に指示を出すだけなので、少しは余裕があるようだった。
「でも、人を生き返らせるなんて、本当にできるんですか?」
指示を出す合間を縫って、マヤが尋ねた。
「わからないわ。・・・でも、二人をサルベージするのは、まず無理でしょうね。 」
静かに断言するリツコ。それに答えるマヤの口調が、つい強くなる。
「でも、それじゃどうするんですか?」
「それこそ、奇跡でも起こらなければ、ね。」
『・・・でも奇跡なんてそう簡単に起こるわけがないじゃない。』
リツコはそう思ったが、すぐにその考えを打ち消した。
・・・・・・これまで、その奇跡を何度も起こして、敵を退けてきたのだ。
・・・・・今度もまた、奇跡が起こってほしい。
・・・・あら?
リツコはふと、自分の顔に笑みが浮かんでくるのを感じた。
『こんなんじゃ、科学者としては失格ね。』
・・・おかしな事を考えるようになったものだわ。ミサトの影響かしら。
そんな事を思いつつ、様々な指示が行き交う実験場を眺める。
「リツコ」
突然背中から掛けられた言葉に反応して振り向く。ミサトだ。
続いて、アスカも入ってくる。
「・・・あなたはなに?アスカ。」
「シンジ君に、危ないからここで見てるように言われたのよ。」
「・・・・・・」
黙ったまま窓の向こうの初号機を見るアスカにの代わりに、ミサトが答えた。
「それで、レイとシンジ君はどう?」
「まさしく、神のみぞ知る、ね。」
「・・・なによ、それ!」
アスカが怒鳴った。
「レイの命が掛かってるのよ!シンジだってどうなっちゃうかわかんないのに・・ ・!」
「・・・本当に、奇跡にでも頼るしかないのよ、アスカ・・・。」
背を向けたまま、静かな声でリツコが答えた。
『もしこれがうまく行っても、サルベージは、おそらく不可能・・・!』
リツコ自身は気付かなかったが、その声はわずかに震えていた。
『本当に、奇跡に頼るしか、ない・・・』
「シンジ、レイ・・・!」
泣きそうな声でアスカが呟いた。
ミサトはそんなアスカに声もかけられず、手持ち無沙汰で立っている。
『予定時刻まで、あと二〇!』
制御室に、報告が響いた。


それから十数分後、シンジが、初号機のエントリープラグの前に立っていた。
プラグは、もう挿入位置に固定されている。
既にレイはプラグに乗せられている。あとはシンジが乗り込むだけだ。
レイの脳を冷やすため、プラグスーツの温度設定が変えられている。
そのため、レイの顔は普段より一層白く見えた。
・・・その顔は、最後に見た時のままに微笑んでいた。
思いがけずその笑顔を見てしまったシンジの視界が涙で歪む。
『だめだ、泣いてちゃ・・・!』
あわてて目をそらし、涙を拭う。
『僕がしっかりしなくちゃ、綾波が死んじゃうんだ・・・!』
もう一度、気を入れ直す。
ちょうどそこに、リツコの声がかかった。
『シンジ君、聞こえるわね?』
「・・・はい。」
『レイは脳死の一歩手前の状態なの。あまり時間はないわ。チャンスは一度だけよ 。それ以上は、
レイの体が保たないわ。』
「はい。」
『EVAが起動したら、すぐにシンクロ率を限界まで上げて。こちらからではシンクロ率には干渉できないから、
EVAには、自力で融合させるしかないの。―――できる?』
「・・・やります。」
できるかどうか、なんて言ってられない。やらなければダメなんだ・・・!
強い返事を返し、シンジは力いっぱい拳を握り締めた。

「いいわ。ではシンジ君、エントリープラグに・・・」
「先輩、・・・ちょっと待って下さい」
指示を出そうとしたリツコを、マヤの声が止めた。
「どうしたの?マヤ。」
「・・・初号機内部に、エネルギー反応が発生しています!」
「・・・エネルギー反応?まだ電源は入っていないのよ!?」
「S2機関が動いています!」
リツコは心の中で舌打ちした。
『よりによってこんな時にトラブルなんて・・・!』
急にあたりが緊張感に包まれる。そこに、シンジの声が響いた。
『綾波っ!!』
「どうしたの、シンジ君!」
『プラグの、ハッチが閉まって――――綾波は中にいるのに――――!』
オペレーターの一人がほとんど悲鳴のような声で叫ぶ。
「まだ開閉信号は送っていませんよ!?」
「そんなはずは・・・!原因を探ってみて、急いで!」
「ねぇ、レイに何が起こってるの!?」
アスカが叫んだ。だが、リツコには答えている余裕はない。
さらに、窓の向こうに異常が起こった。
「エントリープラグに信号、初号機に挿入されています!」
「また!?原因を早く出して!」
リツコには、心当たりはあった。だが、証拠はなにもない。
「初号機の全てのデータをモニターして!」
とりあえず、今できるのはこれ位しかない。
「エントリープラグ内にLCLが注水されました!」
「エネルギー反応、増大!」
「S2機関のエネルギー、コアに集中しています!」
「双方向回線が強制開放されました!」
「ノイズが混じってきています、正確なモニターは困難です!」
「プラグ内のカメラが反応していません。パイロットをモニターできません!」
「っ・・・!」
『・・・リツコさん!』
シンジの声が、リツコの耳に割り込んだ。
「何?シンジ君。」
『初号機のシンクロ率は!?』
・・・シンクロ率?そんなものがあるはずがない。レイは・・・死んでいるのだ。
すぐさまそう考えたリツコに、マヤの声が響いた。
「先輩、シンクロ率はありませんが・・・」
「もちろん、あるはずがないわ。」
マヤの報告に、リツコは強い口調で答えた。
「いえ、それが・・・ハーモニクスは計測されているんです。それが・・・」
「ハーモニクス!?・・・変ね。それがどうしたの?。」
「―――通常の平均値の10倍を越えているんです。」
「・・・なんですって!?」
・・・ハーモニクス?文字通り共鳴しているとでも・・・!?
・・それなら何が何と・・・!?
・まさか、本当に・・・?
「逆探に成功しました!これは、・・・エ、EVA側から信号が発信されています!」
「!・・・そう。これで決定、かしらね。」
「・・・何がよ!?一体何がどうなってるの!?」
いい加減たまりかねたようにアスカが叫んだ。リツコは、そんなアスカに静かに口を開いた。
「つまり。レイは助かるかもしれないって事。」
「・・・え・・・?」
呆けるアスカ。
それにつられたかのように、慌てた空気が落ち着きはじめる。
「・・・S2機関の出力が安定しました。エネルギー反応は、依然健在です。」
「プラグ排出信号、発信します。・・・反応、ありません。信号を拒絶しています。」
「ノイズ、消失しました。これも初号機からの影響だったようです。」
「エントリープラグ内のカメラの回線が繋がりました!」
そして、プラグの中の様子を見て、アスカは凍り付いた。
―――エントリープラグの中にあったのは、白を基調としたプラグスーツ。
―――ただそれだけ。
「!!な・・によ・・・こ れ・・・?レイは・・・?・・・。」
「・・・リツコ、これって、シンジ君の時と」
「そうね。」
そんな言葉を交わす二人に、アスカが呟くような声で言った。
「レイは・・・どうなったの?」
『―――リツコさん?綾波はどうなったんですか?』
リツコが答えるより早く、シンジの声が響く。
「・・・シンジ君、成功よ。レイは無事に初号機に取り込まれたわ。あなたは乗らなくて
いいわよ。」
『―――綾波は大丈夫なんですね?』
「ええ、そうね。まずは第一段階終了、という所かしら。」
『―――わかりま「・・・レイは?どこに行ったの?」
アスカは、今度はミサトに問い掛けた。
「アスカ。これって、シンジ君の時と同じ状況なのよ。レイは今、LCLに溶けた状態なの。
これでサルベージに成功すれば、レイは戻ってくるわ。 シンジ君が乗らないで済んじゃったのはよかったかもね。」
「・・・ホントに、戻ってくるの?」
「ええ・・・。前はうまくいったから、今度も大丈夫でしょ!」
説得力のある説明ではない。
が、普段と変わらないミサトの明るさで、アスカの不安は少しは軽くなったようだ った。
『・・・レイが、戻ってくるんだ・・・。』
アスカの顔が緩んだ。―――が、その直後、微妙に表情が険しくなった。
―――アスカの胸に、複雑な思いが横切る。
ミサトはそれを見ていたが、何も言わなかった。
・・・いや、何も言えなかった。
「しかし・・・本当に、奇跡が起こっちゃいましたね、先輩・・・。」
未だ信じられない様子で、マヤが言った。
「・・・そうね。」
『奇跡、か。これまでの奇跡も、貴女が起こしてきたんじゃない?』
今日初めて、リツコは奇跡が起こった事に感謝したくなった。
だから、リツコは、ガラスの向こうの初号機に、小さく静かに呟いた。
「・・・ねぇ?碇 ユイさん?」
そして、心の中で呟く。
『ユイさん―――お願いだから、あと一度だけ、奇跡を起こして・・・』


CHAPTER 03 Ended.



キャリバーンさんへの感想はこ・ち・ら♪   


出張コメントfrom分譲住宅

カヲル「知っているかい? この作者キャリバーンさんは、高校生なんだそうだ」

作者 「そりゃ知ってますけど。高校生離れしたこの文章表現具合をみて、高校生って言うのは信じられないけどね。実は20代半ばのむさいおっさんが名前かたって・・・・」

カヲル「・・・・その節操のないギャグは、いつか君のクビをしめるよ。注意した方がいいね」

作者 「うくっ・・・・ここのところ、自分以外の人の心を推し量ることが極端に下手なことに気づいた自分・・・・(^^;」

カヲル「そんなの前からじゃないか。「こんな作品(「遥かなる〜」)を書いているんだから、きっと繊細で人の心を察知するのがうまい人だろう、なんて思ってくれる人がいるとでも考えていたのかい?」

作者 「いや、そう言われたんですよ・・・・あんな小説書いているのに、きみってほんと他人の心の動きにズブなんだねえ、って」

カヲル「はははははっ。それはかわいそうに」

作者 「いーんだいーんだ。いじいじ」


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