「約束のキーホルダー」
 CHAPTER 02

The wish is her distress.




・・・パシュッ。
軽いエアの音がして、ドアが開いた。
その音を耳にして、病室の前で待っていたアスカとミサトが、顔を上げた。
「シンジ!レイは!?」
立ち上がり、彼の方に寄ろうとしてアスカは彼の表情に気が付いた。
泣いていたのだろう、充血した眼をしている。だが、その顔には何の表情も浮かんではいない。
シンジは絶句するアスカを見もせず、ミサトに向かって問い掛けた。
「ミサトさん、携帯持ってますか?」
「え・・・、ええ、持ってるけど。」
「貸して下さい。」
シンジらしくもない無愛想な態度に戸惑いつつも、服のポケットから携帯電話を取り出す。
『あたしも心配してたのに・・・、なんでレイの事口にしないのよ?・・・レイはどうなったのよ!』
アスカはそう言いたかったのだが、いつもと違うシンジの様子にとりあえず黙ることにした。
その代りにミサトが尋ねた。
「シンジ君、レイはどうしたの?それにどこに電話するつもりなの?」
「本部のリツコさんに、お願いする事があります。」
シンジは後の質問にだけ答えた。
そのまま、そらで覚えている本部の番号を押す。
・・・が、コール音も鳴らない内に、ミサトが電話をシンジの手から取った。
「急いでるんでしょ?」
「はい。」
「それなら、こっちの方が速いわ。」
只ならぬシンジの様子から気付いたのか、ミサトは発令所への番号を押した。
ミサトの耳に、コール音が響く。
「・・・青葉くん?わたし。リツコに話があるわ。守秘回線に切り替えて、リツコに替わって。急いでるの。」
早口でそう伝える。
「シンジ君、これでいいんでしょ?」
ミサトは、シンジに携帯電話を渡しながら言った。その言葉に、シンジはまたも短い返事を返した。
「はい。」
そんなシンジを見て、いい加減アスカはキレかけていた。
「シンジ、あんた一体なにやってるの!?」
なにか重要な事をしていることぐらいはわかる。・・・しかし、何のためにやっているのか、全くわからない。
だが、シンジはそんなアスカを気にもせず、電話の相手の声を待っていた。
「・・・・・・リツコさんですか?」
『あら、シンジ君?・・・レイはどうしたの?」
シンジは、リツコの返した言葉にほんの一瞬、顔を歪めた。
だが、すぐに元の無表情に戻る。その無表情のまま、抑揚のない声で、シンジは告げた。
「・・・綾波は、死にました。」
「・・・!!」
『・・・そう、死んだの。』
「あんた、死んだって・・・なに言ってるのよ!だったら、なんで呑気に電話なんかしてるのよ!?」
絶句するミサト。
悲痛な声を返すリツコ。
親友を失った反動を、悲しむ素振りも見せないシンジに向けるアスカ。
・・・だが、シンジは三人の反応を全て無視して、次の言葉を続けた。
「・・・綾波を助ける方法があります。」

「・・・助ける方法が、ある!?」
意外すぎるシンジの言葉にリツコは思わず大声を上げた。
リツコの言葉を聞いたその場の人間が、そろってリツコの方を・・・、リツコの持つ電話を見た。
ゲンドウですら、その言葉に反応した。机の端のパネルを操作して電話の音声に耳を傾けようとする。
<SOUND ONLY>と表示したホログラフィが起ち上がった。
「・・・シンジ君、いくらなんでも死人を生き返らせるなんて・・・」
驚きと、多少の呆れを含んだ声でリツコが答えた。
だが、シンジはそれも無視して続けた。
『綾波を初号機に乗せて暴走させ、綾波の体を分解、サルベージ作業で再構成すれば、生き返れる。』
「そ、そんな事、できるはずが・・・」
独り言のように言ったシンジの発案に圧倒され、リツコはくちごもった。
突然、ゲンドウが口を開いた。
「シンジ。死んでしまったのではエヴァとのシンクロはできんぞ。」
『・・・僕が、綾波と一緒に初号機に乗る。』
未だ苦手な父の声。だが、シンジは多少固いながらはっきりした声で答えた。
「無理よ、シンジ君!二人を別々にサルベージするなんて、不可能だわ!」
「・・・サルベージが失敗したら、どうする?」
あまりに無茶な事を言ったシンジに、リツコが反論した。ゲンドウもそれを受けてシンジに問う。
その問いに、シンジはさらに無茶な言葉を返した。
『・・・母さんに、助けてもらう。』
「ユイさんに!?」
思考を遥かに超えたシンジの言葉に、リツコは絶句した。
だが、ゲンドウはそれに応えた。
「・・・わかった。お前はすぐに搭乗の準備をしろ。レイはこちらで手をまわす。」
そう言って、ゲンドウは命じた。 「病院へ連絡してファーストチルドレンの肉体を冷却させろ。レイの脳細胞を劣化させてはならん。
  初号機の凍結を解除。ケイジにてパイロットの受け入れ準備。
   念のため、サルベージ計画の準備も進めておけ。
    一秒たりとも時間を無駄にできんぞ。急げ。」
「は、はい!」「了解しました」「了解!」
スタッフが慌ただしく動き始める。
「しかし、意図的に暴走させ、肉体を分解、かつ、個々を分けてサルベージするなど・・・
マギのサポートがあっても、できるかどうか・・・。」
あまりに突拍子のない計画に、リツコが口をはさむ。だが、ゲンドウはそれにあっさりと答えた。
「マギ三台をフル稼動させる。都市管理機能を犠牲にしても構わん。」
「・・・・・・わかりました。」
何を言っても無駄だと悟って、リツコは諦めた。
『全く、奇跡を前提にした計画なんて・・・。なんて親子なのかしら。』
代わりに冬月が口を出した。
「しかし碇。こんな無茶な事が成功すると本気で思っているのか?」
「・・・・・・。」
「委員会はどうする。もう使う予定のない初号機を凍結解除したら・・・。」
「構わん。私の、レイへのせめてもの罪滅ぼしだ。」
思ってもみなかった答えに、冬月は沈黙した。
『・・・それから、ユイ君への、か・・・。』
数十日ぶりに、ネルフが動き始めた。

ピッ、
とシンジは電話を切った。どことなくほっとしたような雰囲気がある。
「シンジ君・・・ホントにレイを生き返させられるの?」
目が点になっているアスカの代わりに、ミサトが聞いた。
シンジは、それにあっさり答えた。
「わかりません。」
そんなシンジを見て、アスカはふと不安にかられた。
「シンジ、おかしくなったんじゃないよね?レイが死んじゃって、アタマ変になったんじゃないよね?
  大丈夫だよね?」
シンジの腕を掴んで、必死に呼びかける。
確かに、もしレイが生き返ってくれたら、とは思う。だが、本当にそんな事ができるとは思えない。
シンジはそんなアスカにも短く答えを返した。
「・・・大丈夫だよ。アスカ。」
その目は、病室の中を見つめていた。

数分もしないうちに、何人かの医師がやってきた。彼らは急いでレイを移動式のベッドに乗せる。
そのまま、何かの処置をしながらどこかへ運んで行った。
シンジは、それも待たずに本部の方に歩き出した。
その腕を掴み、アスカはシンジを引き止めた。
「シンジ!なんでレイのこと見てあげないの!あたしだってこんなに心配してたのに、
どうしてあんたは気にしないでいられるのよ!」
『・・・あんた、あたしがどんな思いで待ってたかわかってるの?それなのに、レイの
顔も見てあげないで・・・!
あたしだって、シンジに見てもらいたいのに・・・!今は、ちゃんとレイを見てあ
げなさいよ・・・!』
様々な想いが去来する中、叫んだ言葉は悲痛な声だった。
シンジは、その声に、背中を見せたままで応えた。
「・・・ごめん。今アスカや綾波を見たら、泣いちゃいそうだから・・・。今、ぐず
ぐずしてるわけにはいかないから・・・
  ごめん、アスカ。」
シンジは、歩き出した。
アスカが、シンジの腕にしがみついた。・・・そうしなければ、シンジがどこかに行って
しまいそうだった。
二人とも、心で涙を流していた。


CHAPTER 02 Ended.



キャリバーンさんへの感想はこ・ち・ら♪   


出張コメントfrom分譲住宅

カヲル「うみゅー。これはなかなか・・・・」

作者 「心情描写の丁寧さ。特にシンジとアスカの心境の扱いがうまいね〜」

カヲル「・・・・何評論家をしているのかな? 君の本職の「遥かなる〜」本編の更新はどうしたんだい?」

作者 「うぐうっ・・・・(汗)」

カヲル「40000ヒットこえてから50000ヒット越えるまで、君、自分自身の小説を一本もアップしなかっただろう?」

作者 「ぎくぎくぎくっ!!」

カヲル「・・・・はあ、まったく」

レイ 「もう、だめな・・・・」

カヲル「それは前回やったネタだね。しかし君も懲りないねえ。同じネタを何度も何度も・・・・」

レイ 「・・・・絆、だから・・・・」

カヲル「腐れ縁、といった方がいいんじゃないかい? この作者との」

作者 「ぎくうっ!!」

カヲル「とりあえずそれはいいさ。キャリバーンさん。君の作品は惜しくも前後賞、99本目の作品だったよ。もっとも、それが作品の勝ちを損なう訳じゃないけどね」」

作者 「さーて、100本目は誰かな〜」

カヲル「・・・・もう、知ってるくせに・・・・」


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