・・・パシュッ。
軽いエアの音がして、ドアが開いた。
その音を耳にして、病室の前で待っていたアスカとミサトが、顔を上げた。
「シンジ!レイは!?」
立ち上がり、彼の方に寄ろうとしてアスカは彼の表情に気が付いた。
泣いていたのだろう、充血した眼をしている。だが、その顔には何の表情も浮かんではいない。
シンジは絶句するアスカを見もせず、ミサトに向かって問い掛けた。
「ミサトさん、携帯持ってますか?」
「え・・・、ええ、持ってるけど。」
「貸して下さい。」
シンジらしくもない無愛想な態度に戸惑いつつも、服のポケットから携帯電話を取り出す。
『あたしも心配してたのに・・・、なんでレイの事口にしないのよ?・・・レイはどうなったのよ!』
アスカはそう言いたかったのだが、いつもと違うシンジの様子にとりあえず黙ることにした。
その代りにミサトが尋ねた。
「シンジ君、レイはどうしたの?それにどこに電話するつもりなの?」
「本部のリツコさんに、お願いする事があります。」
シンジは後の質問にだけ答えた。
そのまま、そらで覚えている本部の番号を押す。
・・・が、コール音も鳴らない内に、ミサトが電話をシンジの手から取った。
「急いでるんでしょ?」
「はい。」
「それなら、こっちの方が速いわ。」
只ならぬシンジの様子から気付いたのか、ミサトは発令所への番号を押した。
ミサトの耳に、コール音が響く。
「・・・青葉くん?わたし。リツコに話があるわ。守秘回線に切り替えて、リツコに替わって。急いでるの。」
早口でそう伝える。
「シンジ君、これでいいんでしょ?」
ミサトは、シンジに携帯電話を渡しながら言った。その言葉に、シンジはまたも短い返事を返した。
「はい。」
そんなシンジを見て、いい加減アスカはキレかけていた。
「シンジ、あんた一体なにやってるの!?」
なにか重要な事をしていることぐらいはわかる。・・・しかし、何のためにやっているのか、全くわからない。
だが、シンジはそんなアスカを気にもせず、電話の相手の声を待っていた。
「・・・・・・リツコさんですか?」
『あら、シンジ君?・・・レイはどうしたの?」
シンジは、リツコの返した言葉にほんの一瞬、顔を歪めた。
だが、すぐに元の無表情に戻る。その無表情のまま、抑揚のない声で、シンジは告げた。
「・・・綾波は、死にました。」
「・・・!!」
『・・・そう、死んだの。』
「あんた、死んだって・・・なに言ってるのよ!だったら、なんで呑気に電話なんかしてるのよ!?」
絶句するミサト。
悲痛な声を返すリツコ。
親友を失った反動を、悲しむ素振りも見せないシンジに向けるアスカ。
・・・だが、シンジは三人の反応を全て無視して、次の言葉を続けた。
「・・・綾波を助ける方法があります。」
「・・・助ける方法が、ある!?」
意外すぎるシンジの言葉にリツコは思わず大声を上げた。
リツコの言葉を聞いたその場の人間が、そろってリツコの方を・・・、リツコの持つ電話を見た。
ゲンドウですら、その言葉に反応した。机の端のパネルを操作して電話の音声に耳を傾けようとする。
<SOUND ONLY>と表示したホログラフィが起ち上がった。
「・・・シンジ君、いくらなんでも死人を生き返らせるなんて・・・」
驚きと、多少の呆れを含んだ声でリツコが答えた。
だが、シンジはそれも無視して続けた。
『綾波を初号機に乗せて暴走させ、綾波の体を分解、サルベージ作業で再構成すれば、生き返れる。』
「そ、そんな事、できるはずが・・・」
独り言のように言ったシンジの発案に圧倒され、リツコはくちごもった。
突然、ゲンドウが口を開いた。
「シンジ。死んでしまったのではエヴァとのシンクロはできんぞ。」
『・・・僕が、綾波と一緒に初号機に乗る。』
未だ苦手な父の声。だが、シンジは多少固いながらはっきりした声で答えた。
「無理よ、シンジ君!二人を別々にサルベージするなんて、不可能だわ!」
「・・・サルベージが失敗したら、どうする?」
あまりに無茶な事を言ったシンジに、リツコが反論した。ゲンドウもそれを受けてシンジに問う。
その問いに、シンジはさらに無茶な言葉を返した。
『・・・母さんに、助けてもらう。』
「ユイさんに!?」
思考を遥かに超えたシンジの言葉に、リツコは絶句した。
だが、ゲンドウはそれに応えた。
「・・・わかった。お前はすぐに搭乗の準備をしろ。レイはこちらで手をまわす。」
そう言って、ゲンドウは命じた。
「病院へ連絡してファーストチルドレンの肉体を冷却させろ。レイの脳細胞を劣化させてはならん。
初号機の凍結を解除。ケイジにてパイロットの受け入れ準備。
念のため、サルベージ計画の準備も進めておけ。
一秒たりとも時間を無駄にできんぞ。急げ。」
「は、はい!」「了解しました」「了解!」
スタッフが慌ただしく動き始める。
「しかし、意図的に暴走させ、肉体を分解、かつ、個々を分けてサルベージするなど・・・
マギのサポートがあっても、できるかどうか・・・。」
あまりに突拍子のない計画に、リツコが口をはさむ。だが、ゲンドウはそれにあっさりと答えた。
「マギ三台をフル稼動させる。都市管理機能を犠牲にしても構わん。」
「・・・・・・わかりました。」
何を言っても無駄だと悟って、リツコは諦めた。
『全く、奇跡を前提にした計画なんて・・・。なんて親子なのかしら。』
代わりに冬月が口を出した。
「しかし碇。こんな無茶な事が成功すると本気で思っているのか?」
「・・・・・・。」
「委員会はどうする。もう使う予定のない初号機を凍結解除したら・・・。」
「構わん。私の、レイへのせめてもの罪滅ぼしだ。」
思ってもみなかった答えに、冬月は沈黙した。
『・・・それから、ユイ君への、か・・・。』
数十日ぶりに、ネルフが動き始めた。
ピッ、
とシンジは電話を切った。どことなくほっとしたような雰囲気がある。
「シンジ君・・・ホントにレイを生き返させられるの?」
目が点になっているアスカの代わりに、ミサトが聞いた。
シンジは、それにあっさり答えた。
「わかりません。」
そんなシンジを見て、アスカはふと不安にかられた。
「シンジ、おかしくなったんじゃないよね?レイが死んじゃって、アタマ変になったんじゃないよね?
大丈夫だよね?」
シンジの腕を掴んで、必死に呼びかける。
確かに、もしレイが生き返ってくれたら、とは思う。だが、本当にそんな事ができるとは思えない。
シンジはそんなアスカにも短く答えを返した。
「・・・大丈夫だよ。アスカ。」
その目は、病室の中を見つめていた。
数分もしないうちに、何人かの医師がやってきた。彼らは急いでレイを移動式のベッドに乗せる。
そのまま、何かの処置をしながらどこかへ運んで行った。
シンジは、それも待たずに本部の方に歩き出した。
その腕を掴み、アスカはシンジを引き止めた。
「シンジ!なんでレイのこと見てあげないの!あたしだってこんなに心配してたのに、
どうしてあんたは気にしないでいられるのよ!」
『・・・あんた、あたしがどんな思いで待ってたかわかってるの?それなのに、レイの
顔も見てあげないで・・・!
あたしだって、シンジに見てもらいたいのに・・・!今は、ちゃんとレイを見てあ
げなさいよ・・・!』
様々な想いが去来する中、叫んだ言葉は悲痛な声だった。
シンジは、その声に、背中を見せたままで応えた。
「・・・ごめん。今アスカや綾波を見たら、泣いちゃいそうだから・・・。今、ぐず
ぐずしてるわけにはいかないから・・・
ごめん、アスカ。」
シンジは、歩き出した。
アスカが、シンジの腕にしがみついた。・・・そうしなければ、シンジがどこかに行って
しまいそうだった。
二人とも、心で涙を流していた。
CHAPTER 02 Ended.
出張コメントfrom分譲住宅
カヲル「うみゅー。これはなかなか・・・・」
作者 「心情描写の丁寧さ。特にシンジとアスカの心境の扱いがうまいね〜」
カヲル「・・・・何評論家をしているのかな? 君の本職の「遥かなる〜」本編の更新はどうしたんだい?」
作者 「うぐうっ・・・・(汗)」
カヲル「40000ヒットこえてから50000ヒット越えるまで、君、自分自身の小説を一本もアップしなかっただろう?」
作者 「ぎくぎくぎくっ!!」
カヲル「・・・・はあ、まったく」
レイ 「もう、だめな・・・・」
カヲル「それは前回やったネタだね。しかし君も懲りないねえ。同じネタを何度も何度も・・・・」
レイ 「・・・・絆、だから・・・・」
カヲル「腐れ縁、といった方がいいんじゃないかい? この作者との」
作者 「ぎくうっ!!」
カヲル「とりあえずそれはいいさ。キャリバーンさん。君の作品は惜しくも前後賞、99本目の作品だったよ。もっとも、それが作品の勝ちを損なう訳じゃないけどね」」
作者 「さーて、100本目は誰かな〜」
カヲル「・・・・もう、知ってるくせに・・・・」