「約束のキーホルダー」

CHAPTER 01


LAST FEW MINUTES




彼女の身体は、普通に生活できる限界を越えた。
彼女は、突然倒れた。
そして、病院へと運ばれた。
その翌日、午前10時頃。
第33日。
NERV本部病院。
隔離病棟施設。
患者 綾波 レイ。
付添人 碇 シンジ。


白い光が満ちた室内。
他の病室と代わり映えのしない殺風景な部屋。
あるのは、1つきりのベッド、1つきりのイス。
その簡素な装飾品に、少女と少年が、横になり、座っていた。
少女は、昨日の夕方に担ぎ込まれたときから、今まで一度も目を覚ましていない。
そして彼女の端正な顔立ちが、もう1つの、この部屋の装飾品と言えた。
・・・その儚げな表情が。

『もう、保たないのよ』
シンジは昨日、リツコに聞いた言葉を幾度も思い出していた。
『保たないって・・・昼間は元気だったのよ!?軽口たたいたりアスカと料理した り、
シンジ君に抱きついたり・・・!』
『1ヶ月よ、ミサト。最期まで元気に動けた事の方が奇跡だわ。』
『・・・じゃあ、もう助からないんですか?』
シンジは震えた声で尋ねた。聞きたくない、しかし聞かずにはいられなかった。
『シンジくん、残念だけど・・・。もう、どうしようもないのよ。私には、これ以 上 何もできないわ。』
『そんな・・・!』
『・・・綾波・・・!』

一晩中、泣き続けた。
眠りに就いたのは、深夜、だろうか。
・・・彼女は、朝になっても起きなかった。
このまま、目を覚まさずに死んでしまうのではないか。
そんな絶望的な事を考えるほど、彼女の眠りは静かだった。
「・・・綾波・・・目を覚ましてよ・・・。」
シンジは、さっきから何度も繰り返していた言葉を、呟いた。
その祈りに応えたのだろうか。
唐突に、彼女は目を開けた。
「・・・綾波!」
途端、シンジの声が明るくなる。
「碇くん・・・」
「よかった・・・!もう目を覚まさないかと思った。」
シンジの口にした事を聞いて、レイは顔を強ばらせた。
「碇くん、聞いたの?私の事・・・」
「・・・うん」
リツコから聞かされた話を思い出し、シンジの表情が暗くなる。
「・・・そう。私も、もうそろそろだとは思ってたの。」
「綾波・・・」
「・・・ごめんなさい。黙ってて・・・」
「綾波・・・僕も、アスカにどうして教えてくれなかったのか、聞いたんだ。・・ ・
そうしたら、怒られた。・・・レイの気持ちも分からないのかって。・・・」
「・・・」
レイの表情が、少し柔らかくなった。
「・・・それなのに、僕は何にもできなくて・・・!」
「碇くん・・・」
『・・・そんな事ない。私は、碇くんにしてもらいたい事がある・・・』
心の中だけでレイは呟いた。
その呟きを口に出すかわりに、別の事を話す。
「何だか、さっきから体がヘンなの。ちゃんと喋れるのに、うまく体が動かなくて 。
もうどこも痛くないし・・・」
「・・・・・・」
・・・限界だ。 二人は、その時そう悟った。
『・・・だから・・・1つだけ、聞いておかなくては・・・』
もう、時間がない。迷っている暇すらない。
そう思い、レイはシンジに話し掛けた。
「碇くん。」
「・・・何?綾波。」
「・・・私の事、好き・・・?」
「え!?な、何を・・・っ・・・!」
何を言い出すんだ、と叫びかけて、危うくシンジはその続きの言葉を飲み込んだ。
レイが、真摯な瞳で見つめていた。
『そうだ。今しゃべれる事の方がおかしい位なんだ、綾波は・・・!』
早く、ちゃんと答えなくっちゃ・・・!
『僕は数十秒ほど、レイの顔を見つめ続けて、シンジは口を開いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。僕は、綾波が 好き だよ。」
『同情でも何でもなく、綾波が好きだ。』
きっぱりとしたシンジの答えに、レイの顔が緩んだ。
・・・その言葉が聞きたかった。
碇くん・・・
シンジが、怪訝な顔をした。レイの声が、極端に小さくなっている。
・・・私、今の言葉忘れない・・・
よく、聞き取れない。 シンジは、レイの口元へ、耳を寄せた。
・・・碇くん、私大好き
極上の微笑みを浮かべて、レイは言った。
その時、ようやくシンジは声が小さくなった原因に気がついた。
『時間が、なくなった・・・!?』
「綾波ッ!まだ、死なないでよ!」
必死にレイに呼びかける。だが、レイには、シンジの声は届いていなかった。
聴覚もなくなったのだ。 ・・・だが、彼にはそんな事はわからない。
「綾波!側にいてほしいんだ、だから!死なないで!」

・・・もう、碇くんが何て言っているか、聞こえない。
・・・でも最後に聞きたかった言葉を聞けた。
・・・私には、その言葉で十分。
碇君、一緒にいられなくて、ごめんなさい・・・
・・・さよなら、と続けようとして、言うのを止めた。
他ならぬシンジに教えられたことを思い出し、レイは代わりの言葉を選んだ。
・・・ありがとう・・・
「・・・綾波ィッ!」
消え入りそうなレイの言葉を聞き、シンジは横になったままのレイに抱き付いた。
『あ・・・』
余計な感覚が消えたレイの意識に、シンジの体の感触が鮮明に飛び込んだ。
身体全体にシンジのぬくもり・・・安心させられる暖かさが伝わってくる。
『碇くん・・・!』
しっかり動かない腕を、苦労してシンジの背中へまわす。
歓喜、のような想いで一杯になり、レイは嬉しそうに笑った。
・・・意識が、だんだん薄れてきた。
しかし、恐れは少しもなかった。
・・・どうして恐くないんだろう・・・?
ふと、湧き上がった疑問に、レイは即答した。
『・・・だって、碇くんが抱き締めてくれてるんだもの・・・』
恐くなんか、ない・・・!
・・・碇くん・・・!
シンジの名をささやきながら、レイは腕に精一杯の力を込めて、抱き付いた。
「死んじゃいやだよ!綾波!」
レイの背中を見つめる目に、大粒の涙が浮かぶ。
彼女を抱き締めたまま、シンジは懸命にレイの名を呼んだ。
腕を放したら、もう戻ってこない・・・
そんな恐怖感にも似た考えを抱いて、シンジは必死でレイに呼びかけた。
「綾波!死なないで!」
死んじゃいやだ!
死んじゃいやだ!
死んじゃいやだ!
・・・その時。
・・・スイッチが入った。
半瞬の刹那のうちに、シンジの頭の中のパズルが組み上がる。
『・・・もしかしたら、これで・・・!』
一欠片にも満たないような、僅かな、希望が見えた。
そう思った時。
・・・、トサ、・・・
と、レイの腕がベッドの上に落ちる。
同時に、抱き締めた体の鼓動がゆっくりと・・・止まった。
「!・・・アヤ・・・波・・・」
・・・もう、涙は止まっていた。
なぜか、涙は出てこなかった。
どうしてだろう・・・
胸中で湧いた感情に、シンジは断言した。
『・・・まだ、希望は残ってるからだ・・・!』
レイを放してそっとベッドに戻し、・・・目を閉じたレイの顔を見つめる。
彼女は、笑っていた。・・・この1ヶ月、いつも微笑んでいたように。
・・・・・・
・・・そっと、自分の顔を寄せて、・・・唇を重ねる。
・・・それは、約束の儀式。
「綾波、・・・・・・また目を覚ましてね。」
『・・・待ってるから』
そう言って、シンジはベッドを離れた。
そして、一度だけ振り返り、
いつものように、やさしい微笑みを浮かべて、告げた。
「・・・おやすみ。綾波。」
そして、シンジは部屋を出た。

ただ白いだけの虚ろな光に満ちた室内。
後に残った装飾品は、1つきりのベッド、1つきりのイス。
そして・・・
・・・淡く微笑み続ける少女のみ。


CHAPTER 01 Ended.


キャリバーンさんへの感想はこ・ち・ら♪   


出張コメントfrom分譲住宅

カヲル「やあ、いらっしゃい。キャリバーンさん。この楽園へようこそ。僕は待っていた・・・・」

作者 「すっとーっぷ!! ここは分譲住宅ではない! わ・た・しの場所だ!!」

カヲル「コメントに人を引っぱり出しておいてその言いぐさかい? 管理人ならもっと管理人らしくしたらどうなんだね?」

作者 「う、うくっ・・・・(汗)」

カヲル「しかしまあ、君の駄作小説も多くの人にネタを提供しているようだねえ。僕が出てこない小説で外伝を書いてくれる人が二人もいるなんて。君にはもったいないくらいだよ」

作者 「ま、まあまさしくそのとおりだね。踊りマンボウさんに続いてキャリバーンさん・・・・あうう、ありがたいこって、へこへこ」

カヲル「・・・・やけに卑屈だね」

作者 「自分の小説更新が忙しすぎてやばいんで」

カヲル「かわりに他人の小説で更新しようと?」

作者 「あうー。そこまですっとれーとに言わなくても・・・・」

カヲル「しかし、最近はそれさえもおざなりじゃないか。喜久川さんのエヴァリンク集を見ているかい? エデンの黄昏、ずいぶんしたにあることが多いじゃないか」

作者 「うげっ、カヲル君にもばれてる・・・・」

カヲル「そんなことじゃ、早晩見放されることは確実だね」

レイ 「だめなのね、もう・・・・」

作者 「ぬををっ! い、いきなり出てきてレイちゃんまでっ!!」

レイ 「それじゃ、私は任務があるから」

作者 「・・・・それだけ?(汗)」

レイ 「・・・・さよなら・・・・」

作者 「・・・・・・(大汗)」

カヲル「ほらほら、惚けてないでもっと更新をがんばるんだね。キャリバーンさんにはもう2話もいただいているんだろう?」

作者 「が、が、がんばりますです(汗)」

カヲル「やれやれ、ものぐさな作者を持つと苦労するよ(しみじみ)」


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