遥かなる空の向こうに・・勝手に外伝(公認?)


  

*注意 このお話は第十二話までを参考に、勝手に私の想像力に任せて書いたものです。

第Y話:存在
   『鏡 参−シンジ−』予告的小説

原作 丸山御大先生

外道 踊りマンボウ

 

 

「1」始まり

 

 体の不調に気づいたのは、いつのことだったろう・・。

 この短い命の与えられた短い時間の中でも・・少女はその日を忘れていた。

 それだけ・・色々なことを、少女は経験していた。

 親友、片思い、・・そして・・想い出。

「でも・・、もう駄目なのね・・」

 左腕が、思うように動かなくなる。

 右足に、しびれにも似た感覚が走る。

 内蔵のどこかがキリキリと痛む。

 目が、かすむ。

 体が、熱っぽい。

 クスリを飲んでも、不調は治らない。

 頭も、痛い。体のあちらこちらの痛みと違い、頭の痛みは、鈍い苦しみを伴っている。

 その苦痛に耐えつつ、少女は無言のまま、鏡の前に立ってみた。

 水色のショートカットの髪、赤い、血の色をした瞳、雪のように白い肌を持った、綾波レイという名の少女。それが、鏡の中から自分を見返している。

「・・お別れ・・なのね・・」

 少女・・レイは、呟いた。

 

 

「2」デート?

 

「・・ケンスケ君・・」

 その日、レイはケンスケととある公園で待ち合わせをしていた。

「あ、ご、ごめん綾波。ちょっと遅れちゃって!」

 きっちり十分遅れて、待ち合わせの相手、相田ケンスケがやってきた。

「ううん・・急に呼び出したりして・・ごめんなさい・・」

 レイは、笑顔でケンスケにかえす。

「そ、それは・・別にいいけど・・」

 あいかわらずビデオカメラを片手に持っている。

 本人公認の下、堂々といいアングルを求めつつ、少女の素振りを撮っている。

 今では、碇シンジ、惣流・アスカ・ラングレーについで、学園の美少女綾波レイとの距離が無い存在である。

「・・でも、本当に急にどうしたんだい?」

 そういって、ケンスケは一つの封筒を差し出した。

「・・取りあえず、十枚ほど印刷してきたけど・・」

「・・うん、ありがとう・・」

 レイは、ケンスケから受け取った封筒から、その中身を取り出した。

「・・」

 その中の一枚をまじまじと見詰める。

 封筒の中身は、少女、綾波レイの写真だった。

 相田ケンスケの日々撮影しているビデオ。そのビデオからのスチルカットされた写真。

 そのほとんどの写真が、笑っているレイの写真だった。

「・・あの、・・特に指定が無かったから適当に印刷しておいたけど・・」

 レイから連絡を受けて、どのような写真を印刷しておいたらいいのかと思案して、ケンスケはレイの笑顔を中心にスチルカットしておいた。

 シンジには内緒にしたいということで、こちらから連絡を取るのは不味いと判断してケンスケは独断で選んだのだが・・。

「これが・・私・・」

 レイは、写真の中に封じられた自分の笑顔の顔を見て、驚いた。

 戦いの中では見られなかった表情。

 決して豊かとはいえないかもしれないけれど、感情の伴った生き生きした笑顔。

『こんな顔だって・・できる・・ううん・・碇クンが・・アスカが・・与えてくれた・・』

「・・本当に・・私・・」

「・・」

 自分の笑顔の写真をじっと見詰めるレイを、ケンスケは不思議そうに見ていた。

『綾波・・何であんなに真剣な顔で自分の写った写真を見てるんだ』

 何か声を掛けようと思うのだが、なかなか言葉が見つからない。

「・・ケンスケ君・・」

「え、あ、何?・・やっぱり気に入らなかった?」

 ケンスケは、ビデオカメラを置いてレイを見ていたのだが、突然レイが、写真から自分の方に視線を移したのに驚いた。

 その紅い瞳が、自分を真摯に見ている。

 視線と視線が、交わる。

『あ、綾波・・』

 ケンスケの胸が高鳴る。

「ううん・・こんな・・私を撮ってくれて・・ありがとう・・」

 レイは、満足そうに、にっこりと笑った。

「そ、それならいいんだけど・・」

 その言葉に、ケンスケは顔を赤くする。

 学園きっての美少女に微笑まれて悪い気分ではない。

 心の表面では、ケンスケはそう思っていた。

 いや、認めつつも、彼女の心に住まう少年の存在を知っていたから自分の気持ちを隠していたのかもしれない。

『近くに・・いたから・・?』

 顔を赤くしてレイの言葉と表情に反応する自分に自問するケンスケ。

 答えは分かっている。

 打算ではないが、・・今の状態は決して心地良くない訳ではないから、それ以上進もうとして、関係を壊したくないのかもしれない。

「・・それで、ケンスケ君・・。今日もビデオカメラ・・持ってきてるよね」

「あ・・うん・・」

 レイの問いかけに、気持ちを立て直し、手にしているビデオカメラを示すケンスケ。

 彼の今日持ってきたカメラは、どちらかと言うと、画質より、バッテリーの駆動時間を重視したものだった。

 とはいえ、普段の撮影であれば、もう一つのカメラでも十分な撮影時間を確保できるのだが、現在、もう一つのカメラは、とある事故により修理中である。

「そう・・ありがとう・・」

 レイは、座っていたベンチから立ち上がた。

「ケンスケ君・・これからちょっと、付き合ってくれる?」

「あ、うん・・」

 ケンスケは、レイの言葉にドキリとしつつ頷いた。

「・・こっち・・」

 また、カメラを回して自分を撮ろうとする少年の手を引いてレイは、彼を連れて行こうとする。

「あ・・ちょっ・・綾波・・」

 そんな強引なレイに驚くケンスケ。

「・・」

 だが、レイの悲しげな横顔に言葉を失った。

『何だか、いつもと違う・・』

 それは、ケンスケに不安を与えた。

「こっち・・」

 レイの目は、少し遠くを見詰めていた・・。

 

 

「3」満月の下に (レイの回想)

 

「・・」

 レイは、エプロンを見ていた。

 事情を知らないものにとっては、ただのくたびれたエプロン・・それだけにしか過ぎない。

 どこにでもあるような、平凡なエプロン・・。

 碇シンジが、かつて使用していたと言うこと以外には、何も無いエプロン。

 だが、それこそが、レイがエプロンを愛しく抱きしめる理由といえた。

「・・碇クン・・」

 明かりをつけていない部屋に満月の光が射し込む・・。

 光は、優しくレイを包み込んでいる。

「ありがとう・・」

 月光に照らされて、少女の目の涙が光る。

『碇クンに貰ったエプロン・・。買ってもらった服・・。アスカに譲ってもらったヘアバンド・・』

「この部屋には・・想い出がある・・」

 引越しの準備を、シンジに内緒で始めている部屋。

 ここに引越ししてくる時には、ほとんど荷物らしい荷物など無かったのに・・。

 今は、少女の両手では抱えきれないほどの数々の荷物がある。

 そして、それに伴う・・溢れる想い出・・。

「私と・・私の周りの関わった人たちとの・・」

 シンジ、アスカ、ミサト、・・ケンスケ、トウジ、ヒカリ・・、ゲンドウ、リツコ・・多くの人達。

 私のことを・・知っている人達・・。

『私の存在・・』

 関わった物たちに対する執着。

 物に対する・・欲求・・。

 生きていることに希薄だった私が・・、望みを持つこと・・。

『生きること・・』

「私は・・ここに居たいの?・・違う・・生きたい・・」

 以前は生きていることは、すなわちエヴァのパイロットであることだった。

 そのためだけの存在だった。

 戦いが終わり、それから解放された私に残ったもの。

 それは、碇クンとの繋がり、彼への想い、だった。

 私自身は、決して太く繋がったものではない関わり。

 私以前の、私を知っている碇クンとの繋がり・・。

 彼は優しくしてくれた・・。

 それと、彼と、私と関わりのある、少女も・・。

「アスカ・・」

 涙が、とめどなく溢れる。

 ぎゅっと、エプロンを強く抱きしめる。

『感情』

 あい・・じょう。

 ゆうじょう。

 彼女とは・・いい友達・・親友になれた・・。

 それは、決して対等な関係とはいえないかもしれない。

 彼女には、本当に世話になりっぱなしだった。

 時に、姉として、時に、ライバルとして・・。

「・・」

 すくっと、立ち上がるレイ。

 私という存在。

 物に執着する私。

 生きていたいという欲求。

 すべてが・・ここにある・・。

 

 

「4」初めて知る・・心

 

「ここ・・」

 レイは、ケンスケを伴って自分の過去に住んでいたマンションに来ていた。

「・・?ここは・・?」

「私の・・昔住んでいた場所(ところ)」

「え、・・あ・・そ、そういえば・・」

 周りの建物を確認して、その場所の特定をしてから、頷いた。

 確かに、学校に届けられていた住所に間違いないだろう。

「ふうん・・こんな部屋だったんだ・・」

 土足のまま、部屋に入り部屋を見回すケンスケ。

 部屋、といっても、ほとんどコンクリートの壁と、埃の積もった床。

 そんな無機質な部屋の中、ただ一つ、血の跡のあるパイプベッドだけが、人の住んでいたという証を示していた。

「ケンスケ君・・この写真、碇クンに渡してくれる?」

 ほとんど何も無い部屋の中、唯一の存在物であるパイプベッドに興味を示すケンスケにレイは話しかけた。

「え・・?な、何?」

「これ・・碇クンに・・ケンスケ君から、渡してくれる?」

 レイは、待ち合わせの時に、ケンスケから渡された写真を彼に再び渡した。

「・・?どういうこと・・」

「・・私に残された時間はもう残り少ないの・・」

 レイは、疑問の目で自分を見つめるケンスケに、静かに語り始めた。

 

 

「5」想い出に囲まれた部屋で (レイの回想)

 

「これ・・碇クンの・・過去・・」

 レイは、シンジの聞いていたSDATを手に取った。

「私に・・教えてくれなかったけれど・・」

 あれから、何度かその音楽を聴いていた。

 ミサトに、その音楽の内容を聞いてみると、ベートーベンの第九・・歓喜の歌といっていた。

 そう・・彼のよく口ずさんでいた歌・・。

 初対面のはずの私に、馴れ馴れしく話し掛けてきた少年・・。

 渚カヲル。

 シンジの決断による死を望んだ彼。

 それを見守っていた私・・。

「碇クンは・・彼の死を決断として選択した・・」

『まだ、それは碇クンの心の傷としてそれは残っている』

 彼は、死んでいない・・。

「碇クンの中で・・生きている。・・存在している・・」

 人の想いの中・・生きる。

「ここに・・私はいる・・生きている」

 幾重にも重なった想い出は、自分の周りの関わりある人達から与えられたもの・・。

 それは、逆にいえば・・私も、関わりある人達に与えている。

『私という存在を』

「だから・・私は失われても・・私という存在は・・少なくとも私の周りでは消えない・・」

 カメラをいつも手にしている少年、ケンスケに写真・・ビデオを撮ってもらっているのも・・多分・・私という存在を残しておきたいという思いからだろう。

「恐いの・・私が消えるのが・・」

 レイは机の上にある鏡を手に取って自問自答する。

「・・そう・・そうよね・・」

『恐いわよね・・レイ』

 

 

「6」彼女に関わる者達への・・遺言(コトバ)

 

「それで・・ケンスケ君・・もう一つお願いしたいんだけど」

 自分に関する話をした後、レイは、驚きの目で自分を見ているケンスケに続けて話をする。

「・・」

「私の・・すべてをそのビデオに収めて欲しいの・・」

「・・綾波・・」

 ごくり、と唾を飲み込むケンスケ。

 にわかに信じがたい事実を告げられて、けれど、レイの真剣な瞳に、決してそれが嘘ではないと彼には解った。

 故に、その言葉は・・遺言にしか聞こえなかった。

「私が・・生きていること・・を・・伝えて欲しいの・・」

「・・シンジにかい?・・」

 ケンスケの言葉に、レイはびくりとする。

「そう・・。碇クンや・・アスカに・・」

「・・でも、その再生さえうまくいけば・・大丈夫なんだろ・・」

「ううん・・体は戻っても・・記憶は失われるの・・」

「・・」

「それは・・ある意味、私という存在の死だから・・」

「解った・・でも、綾波がシンジに伝えようとすることを・・僕が聞いてもいけないだろう・・。ビデオカメラの使い方を教えるから・・一人で撮って欲しい・・」

「・・」

 ケンスケは、少しでも想いを寄せた相手の心の告白をこれ以上聞く気にはなれなかった。

「うん・・ごめんなさい・・ケンスケ君・・」

 レイは、ケンスケよりビデオの使い方を習って、愛しき人達へのメッセージを録画した・・。

 

 

「7」そして、アスカへ・・

 

「ただいま・・」

 ケンスケとのデートを終わらせたレイは、マンションに帰宅した。

 手には、デパートで買ったフォトスタンドが収まっている。

「あ、レイ・・見たわよ。ケンスケと何してたの?」

 帰るなり、アスカが部屋から顔を出してレイを迎えた。

「!・・見ていたの・・?」

「・・どうしたのレイ。・・そんなに恐い顔をして。大丈夫よ、シンジは居なかったし、何も話していないから・・」

「そう・・それより・・これ受け取って・・アスカ」

 レイは、今日買ってきたばかりのフォトスタンドをアスカに手渡した。

「?・・何これ・・」

 アスカは不思議そうにレイからの贈り物を見つめた。

「フォトスタンド?」

 フォトスタンドの中にはアスカ、シンジ、レイの笑顔の写真が入っていた。

「・・これ・・ケンスケが撮っていた・・」

「うん・・ケンスケ君に頼んで、印刷してもらったの・・」

「・・」

 笑顔のレイの写真。

 だが、アスカにとってそれは、不安でしかなかった。

 現実にアスカが向かい合っているレイは、今にも消えてしまいそうなはかなさを持っている。

『遺影・・』

 よからぬ予感が、アスカの心の中をよぎる。

「アスカに、渡したくて・・」

「ちょっと待ってレイ。アタシは、これを受け取るわけにはいかないわ」

「・・」

「どうしたの、レイ・・。何があったの?・・おかしいわよ」

「・・明日、ここを出ることにしたの・・」

「!」

「それで・・アスカにお礼をしたくて・・」

「・・レイ・・」

 アスカには、どう考えてもレイの一つ一つの言葉が遺言にしか思えなかった。

「それと・・お願いがあるの・・」

 レイはそういって、アスカにあることを頼んだ。

 アスカは、そのレイの言葉に・・黙り込んだ。

「解ったわ・・レイ・・」

 アスカには、レイの願いを叶えてやる以外の答えを持ちあわせていなかった。

 

 

「8」最後の晩餐

 

 その日の食事は・・ごく平凡な一日と、同じだった。

 それ以外に、記すべき点はない・・。

 少年は、・・笑顔のまま・・少女と最後の時間を過ごした・・。

 

 

 

「9」作者の言い訳的後書き

 

 どうも、作者の踊りマンボウです。

 この作品を読まれた方は、おそらく「何なの?これ・・?」と思われることでしょう。

 この「存在」という作品は、もともとは「鏡 参−シンジ−」のサイドストーリーとして企画されていました。

 ですが、作者の気分の変化により、「鏡 参−シンジ−」の内容の大幅な変化に伴い、こちらも、次回予告の感じを強めてきました。

 そのため、かなり簡略して書いていますので、その点はご了承ください。

 では、また「鏡 参−シンジ−」にて・・。

 


踊りマンボウさんへの感想はこ・ち・ら♪   


出張コメント・管理人と逃げた作者などなど(笑)

作者 「くううう、ええ話やなぁ〜涙が出てくるわ」

カヲル「おや、君もそう言う話を目指していたんじゃないのかい? 臆面もなく以前は「コンセプトはズバリ感動」とか書いていたくせに」

作者 「いやまあ、それはそうですけどね。こっちの話も泣けてくるなぁ。と」

カヲル「だったらさっさと君も本編を進めればいいじゃないか。「And live in〜」なんか書いてないで」

作者 「いやあれは、だって映画公開前にある程度形を付けておかないと、パクリと思われちゃうから。まあ、そういうわけで」

カヲル「じゃあ外伝「桜の樹の下で」は?」

作者 「あれも、桜舞い散るこの季節でしかできないものですから」

アスカ「速い話、本編のネタが詰まってるんでしょ! はっきりそう言いなさいよ!」

作者 「・・・・その通りです(汗)」

アスカ「はん、自分の限界を越えて手を広げすぎると、いつかコケるわよ!!」

カヲル「本編の君みたいにね」

アスカ「ぬ、ぬ、ぬわんですってえええええええ!!」

 どかばきぐしゃっ!!

カヲル「ふっ・・・・今回はナギサちゃんが上にいないから・・・・コメントが短いな・・・・ぐはっ」

アスカ「・・・・なにわけ分からないこと言って倒れてるのよ、コイツは・・・・」


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