遙かなる空の向こうに

第37話:晩餐の夜





 レイが帰ってきてから、もう30分になる。まだ、あの子は部屋から出てこない。
 玄関の扉が開いた気配がしたとき、アタシは夕食の下ごしらえをしているところだった。
 ただいま、という小さな声が聞こえて、廊下に顔を出したときには、部屋に入る彼女の後ろ姿が見えただけだった。
「おかえり」という言葉にも、振り向きもしなかった。
 少し、心配ではある。
 その態度と、何より一緒にいたはずのシンジと帰ってこないことに。
 彼女は受け入れられたのか。それとも拒絶されたのか。
 どちらともとれるし、どちらともとれない。
 心配だけど、それはアタシから聞くべきことじゃない。だから、アタシはそんな想いを心の底に押し込めて、台所で料理を作り続けた。
 ほどよく昆布ダシの利いたスープと、野菜の煮付け。煮付けといっても、醤油やなにやの調味料を好みの量混ぜて、そこにぶつ切りの野菜を煮込んだだけの単純なもの。それがおいしいのは、やっぱり大量につくってこそ。
 メインディッシュに鶏肉のオーブン焼きを入れてみた。肉のだめなレイには、豆腐を使ったソテーを用意する。そのほか、サラダにパスタに、バスケットいっぱいのパンとバター。
 テーブルには糊の利いたクロスをかけ、ナイフとフォークをそれらしく並べる。とっておきのグラスをそれぞれの席に立てていき、バスケットをおいて一段落。
「ちょっと、作りすぎたかなぁ」
 背後に控える皿の数々に、アタシはそう思った。
「でもまあ、食べちゃえば同じ、かな」
 だって、このくらいはしなくちゃ、ね。
そう思ったとき、ようやく廊下の向こうから部屋の扉が開く音。程なくして、レイが台所に姿を見せた。制服から私服に着替え、手にはエプロンを持っている。
「これ」
 並んでいる料理の数々におどろく彼女に、アタシは気づかないふりして声をかけた。
「レイ、ちょっとスープ味見してくれない? いま手が離せなくて」
「・・・・うん」
 アタシの言葉に、彼女は手早くエプロンをつけ、鍋の前に立つ。小皿を手に、鍋から少しすくって渡すと、彼女はそれを冷まして一口。
「ちょっと、塩があるといいかな」
「オッケー、じゃ足しといてくれない? アタシはオーブンの方を見るから」
 オーブンの扉を開くと、香ばしい鶏肉の香りが鼻を突く。
「よっし、いいできになったかも」
 鉄板にこぼれ落ちた油をスプーンですくい、上から回しかけるとぱりぱりという音とともに皮がはじける。食欲を刺激する音と匂い。
 それに混じって。
「アスカ」
 彼女が、アタシを呼んだ。振り向かなくとも、彼女がアタシの方を見ているのはわかっていた。だからこそ、アタシはわざとオーブンをのぞき込んだまま返事をした。
「なに?」
「聞かない、の?」
「なにを?」
 アタシはスプーンを動かしつつ、うわずりがちな声をかろうじて押さえ込んで答えた。
 レイはその反応に、ちょっと考え込んだ様子だったが。
「どうして今日、私が学校に来なかったの、とか。その・・・・ミサトさんから、何か聞いてない?」
「聞いたわよ。見たわよ――全部、ね」
 すべて。何から何まで。今までミサトやレイの口から聞いていたことを裏付けるかのような文字の羅列を。
「そう・・・・」
 そう言ったきり、レイは黙り込んでしまった。
 アタシはそのまま、ひとしきり油を回しかけ、再びオーブンの扉を閉じる。
 そして振り返り、レイの方を向き直った。大きく息を吸い、
「で、ちゃんと、言えた?」
 レイの表情が、はっと変わるのがわかった。
「アスカ・・・・」
「ううん、帰ってきたってことは、言えたんだよね。そうじゃなきゃ」
 見上げた夕暮れ時のマンションの窓。ただ一つともっていた灯り。
 何を話していたのかは聞かない。だって、アタシにはわかる。
 どんな言葉を飾っていても、言いたいことはただ一つだけだから。
「だから、ごちそう、作らなきゃって思って待ってたの」
「・・・ありがとう」
 レイは、それだけを言った。
「シンジは?」
「私だけ、先に」
「・・・そうだね」
 答えがでたにしても、二人で帰ってくるのはない、か。
 そう思って、ふと考えた。
 シンジの奴、いったいどんな顔でレイの言葉を聞いていたんだろう。そう思ったら、何となくおかしくなった。
 アタシは目を閉じて、想像してみた。
 びっくりしていたかな。それとも神妙な顔で聞いてたのかな。さすがに笑ってはいないだろうから。・・・・結局、想像できなかった。そういえば、アタシがアイツに言ったときも、顔までは見てなかったし。
「アスカ」
「え、え?」
 苦笑いが顔に出ていたのだろうか。レイがアタシの方をまじまじと見ていた。あわてて表情を取り繕う。
「あ、レイ、うしろの戸棚から、お皿出してくんない? シンジももうすぐ帰ってくるだろうし、すぐ食べられるようにしとかないと」
 レイはうなずきを返し、皿を取り出し始めた。アタシも、スープに使う深皿を別の棚から取り出す。
 しばし、かちゃかちゃと陶器のふれあう音。
「―――まだ、答えはでてないの」
 唐突に、レイが言った。
「え?」
 アタシはさりげなく聞き返すのに、ひどく苦労した。声がうわずってしまいそうで、怖かったけどなんとかうまくいったようだ。少なくとも自分にはそう思えた。
「碇君には、明日、って言ってある」
「なに、すぐに返事、もらえなかったの?」
「急に、なんて言っても碇君が困るだけだもの」
「そりゃそうだけど、アンタそのためにわざわざシンジの奴を呼び出したんでしょ!」
「碇君にも、考える時間が必要だと、思うの」
「そんなこと言って、自分に――」
 そこまで言いかけて、アタシは声を荒げている自分に気づいた。
 なんでそこまで悠長に、という言葉を飲み込んだ。自分に残された時間のことを、なんて口が裂けても言えなかったから。
 ――それに、アタシが言わなくても誰よりレイが知っていることだし。
 だからアタシはただ一言、
「そ、じゃ、明日の前夜祭、ってとこかしらね」
 精一杯笑いながら、それだけを言った。
「どっちが勝っても負けても恨みっこなし、レイ、約束だからね!」
「・・・・うん」
 レイは小さくうなずく。そして。
「―――!」
 アタシはとっさのことで、何が起こったのかわからなかった。
「アスカ」
 耳元で呼びかけられて初めて、レイがぎゅっとアタシに抱きついてきたのに気づく。
「なに、どうしたの? また気分でも悪いの!?」
 狼狽した問いかけに、レイはアタシの耳元で小さく首を振る。
「そうじゃないの。アスカ・・・・」
 さらに力強く、レイはアタシを抱きしめた。その暖かみに、アタシの声は尻すぼみに小さくなっていく。
「ほんとに、ありがとう・・・」
「レイ・・・・」
 抱きしめ返した彼女の身体は、暖かかった。
 本当に、暖かかった。


 シンジが戻ってきたときには、食事の準備はあらかた整っていた。しかしアイツは、やっぱり小さな声でただいま、って言って帰ってきて、そのまま部屋に籠もってしまった。そのまま10分、15分。
「あー、ホントオトコって奴は! ちょっと悩み事があるとこれだから!」
 アタシは時計と料理をにらめっこしながらそれでも待ったけど、20分が限界だった。レイはといえば、椅子に座ったまま微動だにしない。ペンペンは時折冷蔵庫から顔を見せるけど、アタシたちの食事が始まってないのを確認したらまた首を引っ込める。
「・・・・あれ、そういやミサトは?」
 この食卓に座るべきもう一人のことを思い出した。レイに尋ねても、さあ、という返事が返ってくるばかり。先ほどどたばたという音が聞こえたから、部屋には戻っているのだろうけど。
「ったくどいつもこいつも・・・・レイ、ちょっと隣行って、ミサトの奴ひっつかんで来てくれない? どうせ飲んだくれてるんだろうから!」
 アタシはシンジの奴を引っ張ってくる。その言葉に、レイは心配そうな顔でアタシを見た。
「レイ、さっきの今でいきなり顔あわせんのも、あれでしょ? ほらほら、そんなことより、ミサトを呼んでくる、ほら!」
 レイの背中を押してドアの外に出してから、アタシは小さく一つ、咳をした。
 さて、と。レイはもちろんだけど、アタシだって、今日はシンジの奴を呼びに行くのにはちょっと勇気がいるんだから。
 こんこん。
 シンジの部屋の扉を、ノックした。
「シンジ、帰ってきてるんでしょ? ご飯、できたんだからさっさと出てきなさいよ。いまミサトも来るんだから」
 しばしアイツの返事を待った。
 部屋の中からは、沈黙が返ってきた。
「シンジ?」
 再び扉を、今度は強く叩いた。やっぱり、沈黙。
「なにしてんの? 入るからね!」
 扉を開けると、暗闇がアタシの目の前にあった。
 その中でシンジは一人、ベッドに腰掛けてうつむいていた。
「シンジ」
 呼びかけても、返事はない。部屋の中に入ると、その気配を感じてか、ぴくり、とアイツの身体が震えた。
「なに、してんのよ。電気もつけないで」
 手探りで捜したスイッチを入れると、蛍光灯の強い光が、しばし目を灼く。
「ほら、そんなところでうじうじしてないで、さっさと着替えて、キッチンに来る! せっかくのごちそうが、さめちゃうじゃない!」
 それでも、アイツは顔すら上げなかった。そこまでが、アタシの我慢の限界だった。つかつかと歩み寄ると、アイツの肩を強くつかんだ。
「アンタ、いい加減にしなさいよ! ちょっと悩みができたくらいでそのざま!? レイが、どんな気持ちでアンタに話をしたと思ってるの!」
 選んでほしいなんていうのは傲慢かもしれないけど、今結果を出したいから。だから、レイはアンタに話をしたんじゃない。
「アスカ・・・」
 その言葉に、シンジはのろのろと顔を上げた。その顔には、苦悩の色が深く刻まれていた。
「綾波から、聞いたの?」
「聞いたも何も、そんなことくらい知ってるわよ!」
「知ってるって・・・」
「レイがアンタに、アタシとどっちが好きか、答えてほしいって言ったんでしょ? どうせアンタのことだからどっちも好きだから選べないなんて思ってるかもしれないけど、それってどっちにとっても失礼なことなんだって、わかってる!?」
 仁王立ちになって。
 アタシはアイツを見下ろしながら、さらに言葉を継いだ。
「別にアタシもレイも、どっちが勝った負けたを競ってる訳じゃない。もしアンタがレイのことを選んだからって、それでアタシが引き下がる訳でもない。そんなことくらいわかってると思ったけど、違うの?」
「じゃあ」
 そう、シンジは聞いてきた。
「じゃあ、どうしてわざわざ、綾波は聞いたの? もしアスカの言うとおりだったら、何も今じゃなくたっていいじゃないか。まだ、綾波がここに来てから一ヶ月もたっていないっていうのに」
 それは、と言いかけて、アタシは少し口ごもった。
 どうして、今じゃなければいけないのか。
 その理由ははっきりとしている。でも、それをシンジに教えるわけにはいかない。
「それは」
「それは?」
「それはそう・・・ほらもう鈍いわね。考えてごらんなさいよ。最初に来た時と今のレイ、比べてみてどこがどう変わったと思う?」
「綾波の・・・・そうだね、ずいぶん、笑うようになったし、話もするようになった。それに」
「それに?」
「それに・・・・なんか気恥ずかしい言い方だけど、きれいになったような、気がするよ」
「その理由は何でか、思いつく?」
 シンジはそれに、小さくうなずいた。
「じゃあ、その理由、自分がどれくらい変わったかを確かめてみたいと思っても、別に不思議じゃないでしょ? その原因であるアンタに、いったい自分はどれくらい見てもらえているのか。どのくらい、気になる存在なのか。好きだっていったこと、それも含めて、いったいどうなのか、って」
 それにね。
 ――アタシはとにかく口を動かし続けた。思いついたことを、何でもかんでも言っていたと思う。そうでもないと、何か別のことをしゃべってしまいそうだから。
「アンタが今言った、きれいになったような。それを本人の目の前で言ってあげると、どうなるかしら、ってこともふまえて、よ」
 結局自分は何を主眼に言いたかったのか、アタシ自身もわからなくなっていったけど、シンジもやっぱりアタシが何を言っているのかわからなくなっていたのだろう。目をぱちくりとしてこっちを見て、小さく苦笑した。
 そして、
「前にも言ったかもしれないけどホント、アスカもいろいろと大変だね。綾波のこと、助けてあげてさ」
「あったりまえでしょ! 一つ屋根の下に住む女の子同士、何でも相談にも乗らなかったりしたら薄情きわまりないわよ!」
 こればっかりは本当のことだから、胸を張って堂々と言った。シンジはにこりと笑うと、小さくつぶやく。
「女の子同士だから何でも、か。やっぱりそういうもんなんだね――うらやましいよ、それって」
「アンタには三バカトリオって言うかけがえのない親友がいるじゃない」
「でも、トウジと一つ屋根の下っていうのは、あんまし想像できないなぁ・・・」
「む・・・それは確かに・・・・ってともかく、そう思ったら、アタシやレイを困らせるようにそんな悩んだ顔をしない。明日は明日、今日は今日よ! せっかくのご飯が冷めちゃうんだから、早いとこ着替えて来なさいよ」
「あ、う、うん」
 とりあえず勢いで押し切って、部屋を出ようとした。そこに、シンジの呼び止める声。
「アスカ」
「なに? まだなんかあるの?」
 こっちを見つめるアイツの顔は、どこか晴れ晴れとしていた。先ほどの悩み顔が、まるで嘘のようだった。
「なんでもない。ただ・・・ありがとう、っていいたくて」
「ととと突然、なに? ね、熱でもあるんじゃないの?」
 アタシはびっくりして、我知らず頬が赤くなった。シンジがこっちを見つめていることが、さらにそれを助長した。
「ほら、早くしなさいよ!」
 かろうじてそれだけを言って、部屋の扉を閉める。ひんやりとした廊下に一人になって、ようやく胸の鼓動が収まっていく。
 そういえば。
 ふと、そこで思い浮かんだ。
「今日はなんだか、ありがとう、って言われることが多いな・・・・」


「やっはー、すごいごちそうじゃない〜!」
 ミサトの歓声も、だんだん慣れっこになってきた。
 なんだかんだ言っても、結局おいしいものが食べられるのが一番うれしいんであって、それを誰が作ったかは気にしないんだから。
 予想通り、ミサトは喜々として冷蔵庫から取り出したビールの缶を抱えて椅子に座り込むと、まずは一杯、とばかりに一息で缶を開けた。
「ぷっはぁぁ! ごちそうを目の前にするとお酒がすすむわー!」
「ミサトの場合、ごちそうがなかったらそれはそれでやってられないとかいって飲んでるくせに。ただ飲む口実だけでしょ?」
「あ、いったわねアスカ。ちゃんとこんなごちそう作ってくれたことには感謝してるわよ。ほんとありがとね〜」
「・・・・なんか誠意のない「ありがと」、ね」
 そういいつつ、アタシはスープを一口、口に運んだ。
「うん、いい味になってるよ、レイ」
「そう? よかった」
 パンをちぎる手を止め、レイはアタシの方を見て笑った。
「スープって最後の塩加減が大事なのよね」
「あら、レイもがんばってくれたんだ。ほんと、ありがと」
 ぐいぐいとものすごいペースで缶を開けながら、ミサトはそう言う。言いながらも卓上の料理を次々と平らげていく姿は、みていてあきれるほどだ。
「しかしミサトってばホントよく食べるわね。ろくに運動もしないと、そのまま豚になっちゃうわよ」」
 アタシの言葉に、ミサトの箸がぴたり、と止まった。同時に先ほどまでの笑顔が消え、ゆっくりと振り向いた顔は鬼神もかくやという表情。
「アスカ、あんたいまなんて言った?」
「あら、ここんところの体重計の針の数字、アタシが知らないとでも思ってるの? こないだ見たけど、あーらいつのまにやら神の領域」
「そんなはずは! ちゃんとデータは抹消しているのに!」
「あら、やっぱりそうだったんだ。図星」
「!」
 しまった、とミサトがあわてて口を押さえる。同時にアタシは心の中でぺろりと舌を出す。そしてきょとんとして顔を見合わせるレイとシンジ。
「こらアスカ、あんたって娘はぁぁぁ!」
 顔を真っ赤にしたミサトが、椅子を蹴って立ち上がった。
 ちょっとやりすぎたかと思ったときには遅かった。手近にあった空き缶をがんがん投げだし、いくつかが逃げ出したアタシの背中にもヒットする。
「あいた、ちょっと、ミサト、やめなさい! 痛い、痛い!」
「うるさい、秘密を知ったからには生かしてなるものか! ここで塵と消えてもらうわ!」
 酔っぱらっているせいもあるのだろう。手近の空き缶を投げ尽くした挙げ句に、傍らの制服から銃を取り出したのにはさすがにアタシも冷や汗ものだった。
 が。
「ミサトさん!」
 鋭いシンジの一言に、トリガーを握ったミサトの動きがぴくり、と止まった。
「確か、拳銃の勤務時間外の携帯には許可がいるんじゃなかったですか?」
「あ、その、これは」
 我に返った暴れ馬・・・もとい、ミサトは、その言葉に手元の銃に視線を落とし、あわてて制服の中にそれを隠す。
「いや、その」
「何にもないこの時期に、まさかわざわざ携帯許可なんか取っていませんよね?」
「ええと、そう、冗談よ冗談、シンちゃんもわかんないかなー」
「リツコさん、怒るでしょうねぇ。またお説教かな。リツコさんのお説教は長いですからね。こないだは確か4時間、缶詰でしたよね。あれは長かった」
 淡々と語るシンジの言葉に、ミサトはどんどんしょげていく。そして。
「・・・・・ごめんなさい。私が悪うございました。だからお願い、リツコにだけはだまってて」
 すとん、と力無く席に着いた。
「どうしましょうか。ねえ、綾波」
 よく見れば、途中からシンジの口調が変わっていたのに気づくだろう。口元には小さく笑みも浮かんでいる。
 話を振られたレイは、そんなシンジと、対照的にしょげかえっているミサトを見て、しばし天井を見上げたが。
「・・・・じゃあ、副司令にも、言わなきゃ」
 ぽそり、といった。
 効果はてきめんだたったらしい。
「げっ! それは、勘弁!」
 裏返った声で、ミサトが顔を上げる。
「リツコの説教より副司令の説教の方がごめんだわ! 高度成長時代の生まれは頭は固いし言うことは古いし、あれは説教じゃなく拷問――」
 そこまで言って、レイとシンジが、笑いをかみ殺しているのに気づく。
 耐えられなくなった二人は、ついに声を上げて笑い出した。
「く、くくくくくっ!」
「あ、あんたたち人を馬鹿にして!」
 冗談だったことに気づいたミサトはさらに顔を赤くして、ぷいとそっぽを向く。そんな仕草もさらに笑いを誘い、いつしかアタシも、その輪の中に加わっていた。
「あ、あははははっ!!」

 ――そう、それは楽しい、夕食だった。




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