遙かなる空の向こうに

第24話:答えを、聞かせて・・・・




 ゴンドラは、ゆっくりと天の高処を目指して昇っていった。
 様々なアトラクションに隠されていた景色が、視線が昇るにつれて徐々に現れてくる。稜線の彼方、沈みかけている夕陽が再び大きくなって視界に飛び込んできた。
「綺麗だね・・・・」
 シンジはゴンドラの横の窓から眼下の光景を見下ろし、感慨深げにそうつぶやいた。
 第三新東京市。第三までの芦ノ湖の湖畔に接し、四方を山に囲まれた要塞都市。今は第四、第五の芦ノ湖を数に加え、また復旧が始まったとはいえ街の各所に戦火の傷跡を色濃く残している。
 しかしそれでも、赤い夕陽を照り返してダイヤモンドのように煌めく湖面、対照的にその身を緑の炎で燃やす山々、そして暗闇の中に半ば沈み込もうとする高層ビル群は、そこにある種幻想的な世界を紡ぎあげていた。
 目を真下に転じると、親子だろうか、子供の手を引っ張って我が家に帰ろうとする母親と、まだ遊び足りないのか列に並ぼうとする男の子がいる。そしてその脇に立つ父親の背で眠っている、幼い女の子の姿。
「・・・・平和がこんなにいいものだなんて、改めて知ったよ・・・・」
 その対極に位置する状況を知っている者だけが浮かべられる笑み。シンジはそのほほえみを浮かべながら、眼下の光景をしみじみと眺めていた。
「ほんとに、いいね」
 噛み締めるように、もう一度つぶやく。
 レイは、向かいの席に座るそんなシンジを、じっと見つめていた。
 確かに、ゴンドラの外に広がる景色は美しかった。
 今までは、景色に関心などかけらも示したことはなかった。そこに木があり、集まって山があり、太陽が昇り、沈んでいる。あるいはビルがそこに立っている。そう、今までの自分にとって、風景とはそれだけのことだった。
 美しい、と感じること。
 それ自体が、驚くべき事だと思う。今まで知らなかった感情。それを知ることができる、また意識せずに美しいと思うことができる。レイにとって、すばらしい事だった。
 しかし、今の彼女の関心は外にはない。その「美しい」と感じる今の自分を生み出してくれた相手・・・・シンジと、このゴンドラの中に二人でいるということを、レイは強く意識していた。
「しっかりやんなさいよ」
 アスカの言葉が、脳裏に鮮やかに蘇る。押された肩に、彼女の手の温かさが思い出される。そのときの彼女の表情を直接見ることはできなかったが、どんな気持ちで自分を押し出してくれたかは容易に想像が付いた。
 思いは、秘めていても何もならない。
 それを伝えて初めて、自分の心の内は相手に届くの。
 思いを伝えなければ、それは何も思っていないのと代わらない。
 少なくとも、相手にとってはその程度の認識でしかない。
 だから、行動するの。それがどういう結果になるかは分からなくても。
 足を踏み出さなければ危険はないけど、とどまっていると絶対、いつか誰かに追い抜かれてしまうわよ。
 アスカは、そしてわたしの肩を押してくれた。
 アンタは歩き方をまだよく知らないんだから、今は背中を押してあげる。アタシは走っていけるから、アンタはまず、一歩を踏み出しなさい・・・・。
 そう。アスカは自分に今日という日を譲ってくれた。
「絶好の機会なんだから」
 にっこりと笑って・・・・心の内につらい思いをしながら、それでもにっこりと笑って背中を押してくれたアスカ。
「そう・・・・ね」
 その思いに、応えるためにも。
 その思いを、無駄にしないためにも・・・・。
 わたしは、思いを、伝える。
 内心の決意。しかしシンジはレイのそのつぶやきを、自分への返答とうけとったらしい。
「やっぱり、綾波もそう思うよね」
「え、え?」
「あんな戦いがあったからこそ、今の平和が、すごくいいものに思えるんだよ・・・・そう、思えるんだ」
 突然話を振られて狼狽するレイに気づかず、シンジはさらに言葉を継いだ。継いで・・・・不意に、その声が小さくなる。
「そうだよ。平和は、いい。でも・・・・」
 でも、それを見ることなく逝ってしまった人も、多いんだ。
 様々な出会いと別れ。仰ぐ旗は異なっていても、友人と呼ぶことので来た人。守るべき者を守り死んでいった人、守りきれずに、死んでいった人。そして守られたがために今を生きている人。
 悲しみ、喜び。つらさのあまり、足を止めたいと思ったこともあった。それでも前に進んでいき、そして今の自分がいる。一人の力ではなく、この世にいる人、いない人の力を借りることができたから。
「・・・・だから、できればこの光景を、一緒に見たかった・・・・な」
 シンジはそのまま、しばし口を閉ざした。
 あえて名前を出さなかったが、レイにはそれが誰を指しているのか即座に分かった。
「・・・・彼は・・・・」
 やおら、シンジは口を開いた。つぶやくようなそれは、レイに聞かせるためのものではなく、自らの心の内で反芻するもの。
「彼は、自分よりも僕たちを選んでくれた」
 未来を与えられるべき生命体。それはたった一つ。そしてその切符を、彼は笑って譲ってくれた。
「だから、僕らは今こうしてここにいることができる」
 譲られた切符は苦難の道のりを経て、今に至っている。
「でも、それ故に彼が見るべき未来は無くなってしまった」
 もう、彼はこの世のどこにも存在しない。思い出という空間をのぞいては。
「この景色を見ることができるのは、本当は彼なのかもしれない・・・・」
 自然と、声のトーンが落ちる。シンジは夕焼けの光景から視線をはずすことなく、しかしその瞳はどこか別の物を見ているようだった。
「・・・・碇君?」
「え?」
 ふっと顔を向けると、レイの顔がすぐ近くにあった。
 白磁のような真っ白な肌。小さな唇、深紅の瞳。互いの息づかいが聞こえそうな距離にいることに、シンジは心臓の鼓動が早まるのを覚えた。我知らず、頬が赤くなる。そして、レイも同じく。
「彼が、好きだった?」
 跳ね上がりそうな心臓を押さえつけ、レイはシンジにそう問いかけた。
「うん」
「一緒に、いたかった?」
「いたかった。あれだけの短い時間しかいられなかったのが、つらかった」
「彼が死んでしまったことが、悲しい?」
「悲しくないなんて思うわけ、無いじゃないか」
「じゃあ、彼が生きていて、わたしたちがいなくなった方が良かったと?」
「だって、死んでしまったんだ。カヲル君はもういないんだよ!」
 シンジは、だんだんとあふれる衝動を抑えきれなくなっていた。知らず知らずのうちに上げる声は大きくなっており、気づいたときには叫び声に近い口調で自分が話していることに気づいた。
「・・・・ごめん」
「ううん。いいの。でも、碇君にそこまで大事に思われている、彼はうらやましい」
「でも、彼は・・・・」
「どうして、彼は碇君に未来を譲ったと思う?」
 唐突な質問に、シンジは面食らった表情を浮かべた。改めてレイの顔を見つめる。夕日を横顔に受けた彼女の顔は、シンジにはどこか神秘的な印象を与えるものだった。
「どうしてって・・・・綾波には、それがわかるの?」
「以前は、わからなかった」
 死。命の終わり。存在の消失。肉体の崩壊。
 昔の自分にとって、死とはそれだけだった。死ぬべき理由は彼女にとっては一つであり、それ以外の考え方などわからなかった。いや、そもそも自分にとっての死以外の考え方があることすら知らなかった。
「でも、今だったらわかる気がする」
 なぜ、渚カヲルが死を選んだのか。いや、より正確な言い方をすれば、なぜ渚カヲルはシンジに未来を譲ったのか。
「誰かと一緒にいたい・・・・そう思う気持ち。一人は、寂しいから。喜び、悲しみ。そんな感情を分かち合う人が、誰もいない世界は、寂しいから」
 彼の生き残る世界は、彼一人。命はあっても、その生きる喜びを分かち合うべき相手は世界のどこにもいない。
「だから、自分一人の世界よりも、碇君・・・・碇君が生きていられる世界を望んだ。そうすれば、命は消えても、心の中に生きていられるから」
 友として、短い時間だったとしても同じ時を歩んだ相手の、心の中で。
「そう・・・・思う」
「・・・・・・」
 シンジは、レイのそのかみしめるような言葉を黙って聞いていた。
 脳裏で、とある台詞がよみがえる。
『人は、思い出を忘れることで生きていける。しかし忘れてはいけないこともある』
 立ち並ぶ墓碑の群。時間は、ちょうど今と同じ夕日の中。父、ゲンドウの台詞が、レイのそれとだぶって聞こえる。
「でも・・・・まだ、今の僕にはカヲル君を思い出すのは苦しい・・・・」
「今は、それでいいの。いつか、話ができるようであれば」
 そう、彼も望んでいるはず。
 レイは内心でつぶやき、そしてさらに、シンジには聞こえない言葉を継いだ。
 わたしは、たぶんその時にはもういないだろうけど・・・・。
「・・・・ところで、一つ聞いても、いいかな?」
 ふと顔を上げ、シンジはレイにそう訪ねた。
「え?」
「綾波が・・・・人の話をするなんてすごい珍しい、って思うんだけど・・・・どうして、そこまでわかるの?」
 レイの心臓が、とたんに跳ね上がった。 
 どうしてカヲルの気持ちが分かるのか。理由は簡単だ。
「それは・・・・」
 消え入るような声。言葉を継ごうとしても、喉はレイの意志に反してほとんど動かない。
「それは・・・・」
「それは?」
 シンジが、一転して黙りこくってしまったレイを不思議がるように聞き返す。そしてさらにそれが、レイの言葉を継ぎづらいものにしてしまう。
 今しかないの。
 今、言うしかないの。
 これを逃したら、自分はもう言うべききっかけを作れない。
 だから、今言うしかないの。
「それは・・・・わたしと・・・・同じだから・・・・」
 赤らめた頬は、夕日に混じってシンジには見えなかった。しかしそれでも、うつむき加減の半身を染め上げる太陽の光、そして影に隠れるもう半身のコントラストは、見る者に瞬間瞬きを忘れさせるほど、美しかった。
「同じ・・・・」
 繰り返すような、シンジの返答。
「彼は・・・・一人で生きるよりも誰かと生きていく世界を望んだ・・・・。わたしも、彼と同じ・・・・誰かと生きていたい・・・・いえ、好きな人と生きていたい・・・・そう」
 膝の上に固めた拳を、ぎゅっと握りしめる。
 落としていた視線をあげ、レイはシンジの顔を正面から見据えた。
「わたしは、碇君と、一緒に生きていたい」


 こういうのって、慣れてしまうんだろうか。
 不思議と、アスカの時のような驚きは感じなかった。むろん、全くないと言えば嘘になる。でも、あのときのように頭が混乱する、なんてことはおこらなかった。
 ただあるとすれば。
 思いを告げられたとき、それがアスカのそれにだぶって見えたことだろうか。
「・・・・僕、と?」
 シンジの問いに、レイはこっくりとうなずきを返した。
 一緒にいたい。一緒に何かをしていたい。一緒に景色を見たい。
 碇君と、一つになりたい。
 心を通わせる。互いの気持ちを分かち合う。
 レイは、そう願っていた。
 だから、シンジにその思いを告げた。
「・・・・まず、ありがとう、っていわせてもらう」
 シンジは、レイにほほえみを浮かべて口を開いた。自分のことを好きだと言ってくれて。
 それは、おそらくレイにとっては戦いよりも勇気のいることだったに違いない。
 しかし、それを乗り越えて自分に思いを伝えてくれたこと。
「綾波の気持ちは、僕に十分伝わったよ」
「・・・・・・」
「僕のことを好きでいてくれる、それはすごいうれしい。でも・・・・」
「でも?」
 レイの表情が、わずかに翳った。
 シンジの言葉を、聞くのが怖い。
 受け入れてくれるのか、それとも拒絶されるのか。
 それが怖い。でも、聞かなくちゃ意味がない。
 だから、レイはシンジの言葉を聞きのがさまいと耳を傾ける。
「でも・・・・まだ、僕はだれかの気持ちに応えられる人間じゃないんだ」
「・・・・・・」
「あ、誤解しないでほしいんだけど、綾波が嫌いだからとか、ほかに好きな人がいるからだとか、そういう訳じゃないんだ」
 表情を曇らせたレイにあわてたのか、シンジはあわててそう言葉を継いだ。そして、先日アスカに語った内容と同じことをレイに再び説明する。
 人を好きになると言うことがどういうことか。
 自分にとってこの人しかいないという思い。
 それが、まだ自分にはわからない。
「・・・・だから。僕にはまだ、綾波のその思いに・・・・応えることができない」
 少なくとも、中途半端な気持ちで応えることは、自分にはできない。
「そう・・・・」
 レイはシンジのその言葉を反芻するように考えていたが、やがて顔をふっと上げた。
「他の人でも・・・・やっぱりそうなの?」
「綾波だからだめ、っていう訳じゃないんだ。もしかしたらものすごくひどいことをしているのかもしれないけれども、僕は今の自分では誰にも返事をすることができない」
 そう、この答え方は残酷なのかもしれない。
 思いに応えれば、幸せにすることができる。応えられないと言えば、悲しみと同時にあきらめもつくだろう。しかし今の自分の返事は、そのどちらでもない。可能性があるように見せていて、その実はそうでないかもしれない。応えている本人がわからない以上、いっそうたちが悪い。
「アスカも、綾波も、僕にとっては大事なんだ。でも、どちらかを選んでくれ、っていわれても・・・・僕には、今はそれはできないんだよ・・・・やっぱり」
「・・・・じゃあ、アスカにも、同じことを言われたのね」
 はっと、あわててシンジは自分の口をつぐんだ。
 そうだ。アスカに告白された、という話は、綾波は知らなかったんだ。
「うん・・・・この間、言われたんだ・・・・」
「そう・・・・」
 一瞬、沈黙が満ちる。
「でも、やっぱり同じように僕は答えたんだ。アスカの気持ちにも、まだ僕は応えられない、って」
「それで、アスカは・・・・?」
「待つ、って。僕が誰かを選ぶことのできるその日まで、待ち続けるって」
 それはある意味、気の遠くなるような苦痛だろう。もしかしたら待って、待って、それで自分には何も残らないかもしれない。
 でも、アスカは待ってくれると言ってくれた。
「・・・・やっぱり、似たもの同士かもしれない」
 レイはそういって、窓の外に視線を投げた。いつしか観覧車は頂点を越え、ゆっくりと下降し始めている。夕日が徐々に稜線の向こうに隠れ、変わって夜の暗闇がゴンドラを包み始めた。
「わたしには・・・・碇君しかいないもの。だから、わたしも、待つ」
「綾波・・・・」
「答えを、聞かせてくれる日まで・・・・待つの・・・・」
 それが、こうやって今生きている自分のいる意味だから。
 答えは自分の望むものであればいい。でも、そうでなくても、仕方ない。
 大事なのは、自分の思いを覚えていてほしいこと。
 そのために、自分はここのいるのだから。
 レイは輝き始めた星空を見上げ、内心でそう、つぶやいた。
 シンジは、レイのその姿を、惚けたように見つめていた。
 暗闇に浮かび上がる横顔。
 きれいだ・・・・。
 今までも綾波の顔を何度か見てきたが、今日ほどきれいだと思ったことはない。
 その理由は、やはり自分の意志を強く持って・・・・人を好きだという思いを持っているからだろうか。
「人を好きになるって、すごいことなんだ・・・・」
 シンジは小さく、小さくそうつぶやいた。
「自分も、そういう顔をすることができるんだろうか・・・・」


 アスカは、どこにもいなかった。
 携帯電話を呼び出したら、留守番電話がでた。
 閉園時間を迎え、園内は閑散としている。出口へと向かって歩く人々。しかしそのどこにも、アスカの横顔を見つけることはできなかった。
「アスカ、どうしたんだろう」
 シンジはレイに尋ねるが、レイはそれには答えようとしない。
「本当に、先に帰っちゃったのかな」
 シンジは途方に暮れたように、あたりをみまわす。
「どうして、帰っちゃうんだ・・・・」
 綾波に好きだと言われた。
 それはうれしかった。そして同時に、アスカのことを思い出していたのも事実だ。
 だから、何となく・・・・そう、何となくアスカの顔を見たかった。
 しかし、アスカはどこにもいない。
 アスカは、もしかしてこのことを知っていたんじゃないだろうか。
 今日一日の行動を振り返り、シンジは唐突にそう思った。
 シンジの横にはレイがいた。最後の観覧車で、レイが好きだと言ってくれた。そのすべての場に、アスカはいなかった。一歩引いて、常にレイとシンジが二人でいるようにしていた。
 そう、まるで最後のお膳立てを整えるかのように。
「だとしたら・・・・」
「え?」
 我知らず声にでていたのだろう。辺りを見回していたレイが、驚いたようにシンジの方を振り返った。
「なに?」
「あ、いや、何でもないよ!」
 レイの問いかけに、あわてたようにシンジは手を振る。
「・・・・やっぱり、アスカ帰っちゃったみたいだね。留守電にメッセージ入れて、僕らも戻ろうか」
「・・・・うん・・・・」
 レイはシンジの提案にうなずきをかえすと、ベンチにおいておいた荷物を取りに行く。
 シンジはその後ろ姿を眺めながら、再び考えに沈んだ。
 だと、したら・・・・。
 

 家に帰ると、アスカの靴があった。
 しかし、玄関で「ただいま」といっても、返事は帰ってこない。
 台所に行くと、二人分のご飯が用意してあった。
 
 −−−疲れたので先に寝ます。食器、食べたらあらっといてね
                            アスカ−−−

 たどたどしい日本語でそう書かれた紙が、横にはおかれていた。
 アスカの食器には、使われた気配がない。どうやら、食事をしないまま寝てしまったのかもしれない。
「ご飯、暖め直すわ」
「じゃあ、僕はアスカが起きているかどうか、見てくるよ」
「うん」
 電子レンジの音を背後に聞きながら、シンジはアスカの部屋の前に立った。
 扉を、小さく、小さくノックする。「アスカ?」と呼びかけてみる。
 しかし、返事は帰ってこない。
「遅くなってごめん。帰ってきたんだけど、ご飯、食べる?」
 やはり、返事はない。
 シンジはドアに手をかけ、あけようとして・・・・。
 そこで、手が止まった。
 寝ているかもしれないのに、開けていいものかどうか。
 しばし迷っていると、台所からレイが自分を呼ぶ声が聞こえる。
「あ、うん、今行く」
 そう返事を返して、結局シンジは扉にかけた手を引っ込めた。
 だとしたら・・・・  帰り際の思いつきが、廊下を歩くシンジの肺腑に再びずしりとのしかかる。
 アスカは、綾波が僕に思いを告げることを、知っていたんじゃないだろうか?
 だとしたら・・・・アスカは、それで平気なの?
 自分の好きな人に他の人が好きだって言うのが、平気なの? それをどうして、手助けするの?
 聞きたかった。だから、ドアを叩いた。起きているかどうかを確認した。
 でも、アスカから返事はなかった。
 まるで拒絶されたかのように、ドアは閉ざされている。
 アスカ・・・・どう思ってるんだよ・・・・。教えて、くれよ・・・・。
 シンジは内心で、呼びかけるようにつぶやいた。

 
 答えは、返ってこない。




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