September22,1998


vol.8







魔女ジニーのコケティッシュな面影ははまったく無い、つまらないほど真面目なカントリー・フレーバー漂うポップ・アルバム。アレンジは、サン時代のジェリー・リー・ルイスやエルヴィス・プレスリーのアレンジを手掛けたビル・ジャスティス。
また、エンジニアのひとりとしてスタン・ロスの名が連ねてある。



ルックスも歌もキュートなキャロライン・ノヴァク。アルバム最後の曲が、
ブライアン・ウィルソンの「キャロライン・ノー」とは洒落ている。

可愛い魔女は、スペクターを選ぶ
 フィル・スペクターは、ニューシネマの代名詞となった映画「イージー・ライダー」に運転手付きのロールスロイスで現れる麻薬ブローカーの役で出演した。冒頭のわずか数分のシーンでしかなかったが、その役者ぶりはなかなかのものだった。とくに、頭上を通過するジェット機にビクッと身をすくませるカットは、権力を持ちながら、そのじつ小心者である彼自身を投影しているようで印象に残るひとつだ。「イージー・ライダー」は、スペクターと親交の深かったデニス・ホッパーが監督した1970年の作品で、1966年に英国でリリースされたアイク&ティナ・ターナーの「River Deep-Mountain High」のアルバム・ジャケット用の写真もホッパーが手掛けている。
 ところで、スペクターが役者として映画に出演したのは「イージー・ライダー」が初めてと思われるが、じつは、1965年9月からNBC系列でスタートし、5年間も続いた人気番組「可愛い魔女ジニー(原題/I Dream of Jiannie)」にも、スペクターはこっそり出演していたのである。この「可愛い魔女ジニー」は、日本でもNET(現テレビ朝日)系列から66年8月より放映され、好評を博した人気シリーズのひとつ。
 物語は、宇宙パイロットのトニーと同僚のロジャーがテスト飛行中に事故が発生、無人島に不時着。トニーは、救助を待つ間に拾った壷からキュートでセクシーな魔女ジニーを助け出した。独身を謳歌したいトニーだったが、一目惚れされたジニーに「殿」と慕われ、いっしょにロスで暮すコトになる。「おとなのおとぎ話」といったファンタジック・コメディーだ。
 主役のジニーには、バーバラア・イーデン、トニーは、日本でも話題になったテレビ・シリーズ「ダラス」のJR役として注目されたラリー・ハグマンが演じた。原作とプロデュースは、今ではベストセラー作家として知られるシドニィ・シェルダン。そして、制作は、スクリーン・ジェムズであった。
 さて、われらがスペクター君の出演したエピソードはというと、第3シーズンの第6話「グループサウンズで行こう」だった。アメリカでは、「Jeannie, the Hip Hippie」というタイトルで1967年10月17日に放送された。
 おおまかなストーリーはこうだ。上司であるドクター・アルフレッド大佐の奥さんアマンダは、ボランティアでチャリティ・バザーの余興係を担当していたが、決定していた人気ロック・バンドはメンバーのひとりが怪我をして土壇場になってキャンセル。急遽、代わりのバンドを探さなければならない。一方、トニーは3年ぶりの、大佐は5年ぶりの休暇をようやく取れたばかりだったが、そのあおりを食って取りやめの危機に。そこで一肌脱ごうと、ジニーは街に出て、若者を適当に魔法でスカウト。楽器も歌もできない4人が集められたが、ここもジニーの魔法で、ヒップなグループに大変身。調子に乗って、全国制覇を夢見る。そして、全米一の芸能プロモーターに売り込みに行き、見事気に入ってもらえる。ジニーのお陰で休暇を取れたトニーだったが、グループの全国ツアーのための運転手として付き合わせられるハメになってしまうのだった。
 スペクターのどこかイカサマくささを地でいく役どころは、全米一の芸能プロモーター。興味深いのは、その役名である。アメリカ版では、Steve Davisとなっているところ、日本語吹き替え版では、「フィル・スペクター」とそのまま本人の名前で登場していることだ。当時、フィル・スペクターの知名度は、お茶の間レベルでは、まったく無いといっていい。はたして、どういう意図で「スティーヴ・デイヴィス」ではなく、「フィル・スペクター」を用いたのか。早い話、「ジョン・スミス」でも「ロイ・パーカー」でも日本の視聴者にとっては違いは判らなかったのである。
 さらに付け加えなければいけないことは、ジニーがスカウトしたバンド役でトミー・ボイスとボビー・ハートも出演していることだ。しかも、グループ名は、ボイス&ハート。もちろん、劇中で彼らの歌"out & About"も披露している。
 話が前後するが、チャーミングなテーマ・ソングを提供したのが、バディ・ウェスとユーゴ・モンテネグロのコンビだった。このテーマ曲をちゃっかり拝借したのが、ヤン富田プロデュースの「ドゥーピース/ドゥーピータイム」だ。これだけなら、紹介する意味はないのだが、偶然とは面白いもので、このアルバムにはスペクターのプロデュースしたロネッツのヒット曲「恋してるかしら」のカヴァー・ヴァージョンが収められているのだ。スペクター・サウンドにちょっぴりテクノの味付けをされた「恋してるかしら」は、このアルバムの目玉ともいえるもので、カヴァーとしては、たいへん良い出来である。
 「可愛い魔女ジニー」というキーワードに、ともに「スペクター」が引っ掛かるとは、やはりタダモノではない。


このページは、友人でイラストレーターの奥山和典氏の貴重な資料をもとに構成しました。




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