October 25, 1999

パトリックさん、バームガートさん、お疲れさま
HERE COMES THE GIRLS - volume 10 / GIRLS DON'T COME (SEQUEL/NEECD 327)
 1990年にスタートしたガール・グループのコンピレーション・シリーズ「HERE COMES THE GIRLS」のVOL. 10がリリースされました。サンディー・ショウの「Girl Don't Come」に引っかけたタイト
ルは、文字通りシリーズ最後を意味しています。そして、最後の大盤振舞いとしてか、2枚組56曲入りです。お買い得ですね。その分中身が薄いというわけではなく、選曲と解説は、いつものミック・パトリックとマルコム・バームガート両氏が行なっていますから、御心配なく。英国パイ音源によるものです。付け加えますと、パトリック氏は、ガール・グループばかりではなく、スペクターの研究家としても知られています。
 さて、10作目となるとさすがに新鮮さは感じられません。マスト・アイテムには違いはないのですが、個人的に「ちょっと飽きたかなぁ」ってとこです。目玉になる曲がない、というのも理由のひとつかもしれません。いや、実際には面白いカヴァー曲もあるんです。たとえば、Simone Jacksonの「Ain't Gonna Kiss Ya」。オリジナルは米国のガール・グループ、The Ribbonsで、テディ・ベアーズのメンバーだったマーシャル・リーブがプロデュースし彼自身のレーベル、Marshからリリースされた曲です。同じくSimoneによる「Pop Pop Pop-Pie」もキュートなカヴァーです。Donna Douglasが歌う「He's So Near」なんて曲もあります。オリジナルは不発に終わったケーデンス・レコードのJean Thomasで、日本でも「お熱をあげて」というタイトルで出ていたようです。つまり、資料的価値が大きい反面、楽しむには小粒ぞろいという印象です。もっとも、限られたレーベルから250曲以上を紹介してきたわけですから、当たり前といえば当たり前ですね。
 ところで、Vol.8につづいてカラベルズの歌が聴けるのがうれしいです。70年代に発売されたオールディーズのオムニス盤で、初めて彼女達の「ユー・ドント・ハフ・トゥ・ベイビー・クライ」を聞いてファンになったのですが、正直それ1曲しか知らなかったものですから。20年間何やっとんねん、ですね。彼女達のハーモニーは絶品で、ベスト盤を見かけたら、ぜひ手に入れたいデュオです。
 また、レスリー・ゴーアの「She's A Fool」、ジャッキー・デシャノンの「Needle And Pins」をフランス語でカヴァーするペチューラ・クラークもオツなものです。そして、彼女の「Just Say Goobye」で幕を閉じます。
September 10, 1999

 フジTVの人気番組「料理の鉄人」も9月をもっていよいよ大団円となるようです。そこで、きょう取り上げるのは「料理の鉄人」のテーマ曲です。それじゃぁ、あまりにもロン・ハワード監督には失礼というものですので、改めて申し上げます。「バックドラフト」のサントラ盤です。実際、ショップでは、「料理の鉄人」のテーマはこれだ!!なんてポップが付いていたくらいですから、映画と音楽の結びつきは思ったほどの印象がなかったのでしょう。ぼくも一応テレビで見ましたけど、「あっ、鉄人の音楽だ」って思いました(^^;。ハンス・ジマーも、フジTVのために作曲したのかと思うくらいピッタシ収まっています。まぁ、どちらも「炎」が主役ですけど。
 ところで、最近国内盤が再リリースされたようですが、ついでに「消火の鉄人」とでもタイトルも変えたらよかったのに。
さて、スペクターとはあまり関係のないものを取り上げるのか、疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。このバックドラフトの音楽を担当したのはハンス・ジマーですが、注目してほしいのは、編曲を行なったシャーリー・ウォーカーです。クラシックなどの管弦楽の世界ではアレンジとはいわず、オーケストレイションと呼ぶようです。したがって、アレンジャーはオーケストレイターとなり、なんだか箔が付いたようような感じになります。
 アレンジは、スペクター・サウンドのかなめでもあるわけで、ジャック・ニーチェやペリー・ボトキンJr.に始まり、ニック・デ・カロや、トム・ベル、ボビー・マーチン、ジェリー・マリガン(彼はジャズ端ですが)など、ポップス系のアレンジアレンジャーに興味が広がるのは当然のことです。で、つい映画音楽のほうまで手がのびてしまった、というわけです。もっとも、ぼくのスタートがラロ・シフリンの「スパイ大作戦」ですから、元に戻ったとうべきでしょう。昔話ですが、中学生の頃、マカロニ・ウエスタン「大西部無頼列伝」のサントラ盤を買ったんですが、これがまた「荒野の用心棒」の亜流のようだけども、じつにカッコイイ音楽でした。作曲は、ブルーノ・ニコライ。ところが、最近知ったのですが、ニコライは、あの巨匠エンニオ・モリコーネの右腕としてオーケストレイターをやっていたんですね。亜流のように聞こえたわけです、同じ人間が編曲してたんだもの。そのニコライですが、ヴァージンやタワーレコードのような大きなショップでは、彼のコーナーがあるくらい日本でもメジャーになりました。よかったね。
 ところで、ハーバード・W・スペンサーという名前をご存知でしょうか。彼は、「スター・ウォーズ」のオーケストレイターです。指揮棒振っているジョン・ウィリアムズの写真を何度も目にしていることから、すべてのスコアをジョン・ウィリアムズが書いていたと思っていたのに、意外にも核となるモチーフしか作曲していなかったのでした。映画音楽の世界では、はっきりとオーケストレイターをクレジットしているのは案外少ないように思われます。以外にも、ポップスの世界のほうがアレンジャーを意識している、ということでしょう。

 そこで、シャーリー・ウォーカーの登場です。彼女の映画音楽での最初の仕事は、コッポラ監督の「地獄の黙示録」で、シンセサイザー奏者としてでした。その後、作編曲家に転向します。編曲家としては、ハンス・ジマーの「バックドラフト」、ダニー・エルフマンの「バットマン」、ブラッド・フィーデルの「トゥルー・ライズ」があり、コンポーザーとしてクレジットされたものにはジョン・カーペンター監督作品「エスケープ・フロム・LA」、「ザ・フラッシュ」、「デイズ・オブ・サンダー」、アニメ作品「バットマン/マスク・オブ・ファントム」があります。「バットマン/マスク・オブ・ファントム」では、ハンス・ジマーがシンセサイザー奏者として参加しています。
 当然のことなあがら、彼女自身がタクトを振ることもあり、「バックドラフト」でも振っています。ただでさえ、女性指揮者は少ないといえますから、男中心の映画音楽界では希有な存在でしょう。しかも、「バックドラフト」や、「バットマン」など、重厚なゴシック・ホラーの響きから、最初は女性とは思えませんでした。スター・ウォーズのカラッとしたサウンドもいいのですが、湿度のある重々しいサウンドもたまらないものを感じます。いま、シャーリー・ウォーカーは、最も気になるコンポーザー/オーケストレイターのひとりです。
August 06, 1999

 BBSのほうで、ジャック・ニーチェのネタが書き込まれていましたので、今日はニーチェ絡みのCDの紹介でもしましょう。
 それにしても、ニーチェがアレンジしたペトラ・クラークの楽曲が4曲あり、未発表の曲として「Nana」と「Me About You」があったとは、興味深い情報でした。どうもありがとう、火山さん。
 さて、そのニーチェ絡みのCDとはCollectablesからリリースされた「The Very Best Of Preston Epps / Bongo Rock (COL-CD-6040)」です。
 プレストン・エプスは、朝鮮戦争の時に海兵として沖繩に配属されて、そのころボンゴをマスターしたのだそうです。彼のデビュー曲「ボンゴ・ロック」は1959年に14位を記録する大ヒットとなりました。続く「ボンゴ・ボンゴ・ボンゴ」は、60年78位にチャートイン。そうです、この曲こそが、ジャック・ニーチェのアレンジャーとしての初ヒット曲なのであります。CDには、「ボンゴ・ボンゴ・ボンゴ」のステレオ・ヴァージョンが収録されています。また、そのB面にあたるニーチェ作の「Hully Gully Bongo」も収められております。めでたし、めでたし。
 しかし、いまどきベスト盤として10曲入りとは、チト寂しいです。どれもボンゴが鳴り響くだけのよく似たものだから、10曲もあればベリー・マッチというのでしょうか。はたまた、こんなヘンテコな曲ばかり1時間も聴いたら、頭までヘンテコになってしまうよ、という親心かもしれません。そんでもって、収録曲の少なさで、浮いた予算をパッケージにつぎ込んだようです。透明のトレイから、ボンゴの写真が、ボンゴ、ボンゴと目に飛び込んできます。もちろん、スピーカーからもボンゴ、ボンゴと、視覚聴覚の両面攻撃の嵐であります。さらに、盤面も豪華総天然色写真入り。これだけ凝っても、実にあっさりとしたライナーノートは、さすがCollectableです。プロデューサー、アレンジャー、リリース年度、主なミュージシャンくらいは書いといてほしいのですがねぇ。と、難癖つけましたが、もちろんイージーリスニングものとしては、結構イケてます。
 そのイケてる1曲が「Bongos In Pastel 」です。女性スキャットをからめたトロピカルな雰囲気は、ボブ・トンプソンを思わせ、上品なラウンジものに仕上がっております。ボンゴがあまり気にならないのがオシャレ。こりゃ失礼。
 そして圧巻は、ニーチェとエプスの共作による、12分を超すフル・ヴァージョンの「Call Of The Jungle」です。サウンド・エフェクトを多用した音作りは、マーティン・デニーのお株を取ったエキゾチック・ワールドです。何語かわからない男女のコーラスも呪術的で、いやがうえでも怪しいムードを盛り上げてくれます。貴方のお部屋は、ひとときのあいだ密林と化してしまうはずです。寝苦しい夏の夜をさらに暑くしてくれるでしょう。

June 04, 1999

 What's Newもレヴュー・コーナーと化してしまいそうです。今回は、トム・スコット・ウィズ・ザ・カリフォルニア・ドリーマーズ/ハニーサックル・ブリーズ(ユニバーサル ビクター MVCJ19164)を紹介しましょう。ハル・ブレイン狙いで、何枚 かのジャズ・アルバムを買ったことがありますが、ハル抜きのレッキング・クルーがらみでジャズをゲットしたのは、これが初めてです。一応、分類はフュージョン・ジャズというようですが、フュージョン・ファンに聴かすのはもったいないです。この手のものは、VANDAではあまり取り上げられませんが、ソフト・ロック・ファンにこそ聴いてもらいたいCDです。オリジナル・リリースは1967年。プロデュースは、ボブ・シール。
 メンバーですが、トム・スコットは、どうでもよろし。ギターにグレン・キャンベル、パーカッションに、エミール・リチャーズ、ドラムにジム・ゴードン、ベースはキャロル・ケイ姉御。9人からなるコーラス隊のザ・カリフォルニア・ドリーマーズのメンバーのなかにアル・キャップス、ジョン・ベイラー、トム・ベイラー、ジャッキー・ワードの名が見られます。ジョンとトム・ベイラー兄弟は、ラヴ・ジェネレーションのメンバーとして知られています。ジャッキー・ワードとは、ワンダフル・サマーのロビン・ワードですね。興味沸いてきたでしょう。さらに、ビル・プラマーのシタールを加えて、サイケの味付けを出しています。ジャケットもサイケしております。
 曲目は、ビートルズの「シーズ・リーヴィング・ホーム」、ドノヴァンの「メロウ・イエロー」、アソシエイションの「ネヴァー・マイ・ラヴ」、ジェファーソン・エアプレーンの「トゥディ」、ジョーン・バエズの「ノース」というように、ジャズというよりポップスといったほうがいいかもしれないですね。
 一応、トム・スコットがリーダーですので、サックスやフルートを持ち替え、アドリブで頑張っておりますが、どちらかというとさわやかなコーラスを楽しむボーカル・アルバムと考えたほうがいいと思います。ダバダバダのスキャットを聴いてニール・ヘフティの「シンギング・インストルメンタルズ」を思いだしてしまいました。そこで、ヘフティのCDを取りだしてみたら、なんと、プロデュースはボブ・シールでした。似てるはずじゃん。もちろん、レッキング・クルーのサポートも聞き逃せません。これがデビュー・アルバムとなったトムは、この時19才といいますから、ま、大したものです。
 さて、日本語ライナーには、サポートしているミュージシャンにはまったく触れておりません。残念です。で、ひとつ疑問に残るのは、「ニューヨークにて録音」というところです。たしかに、インパルスはニューヨークのレーベルですが、トム・スコットもLAのミュージシャンであり、そのほかのメンツもLA在住です。そんでもって、わざわざ大挙してニューヨークくんだりまで行くのかしらね。ボブ・シールひとりが、ロスに来たほうが安い、早いと思うのですけど。
 ところで、小川隆夫氏の書き下ろしエッセーのなかで、「ジャズのミュージシャンがロックのレコーディングに参加すると、ちょっと胡散臭い目で見られることがあった」と書いていますが、何をたわけたことを言っているのか、です。スペクターは、ロック・ミュージシャンはあてにならないから、ほとんどジャズ・ミュージシャンしか使わなかったというのに。譜面に弱いイースト・コーストのジャズ・ミュージシャンが、3コードしか知らないガレージ・バンドのレコーディングに参加する、となれば、弁護のひとつもしたくなるだろうし、一格上に置きたい気持ちも、わかりますがね。
 それはさておき、忘れずにジャズ・コーナーにも足を延ばしましょう。

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