May 27, 1999

 音壁新聞の更新が滞っております。原稿は、ほぼできていますので、もう少し 待っていてくださいね。そのかわりというわけじゃないですが、CDレヴューでお茶を濁させてくだ さい。
 リイシュー・レーベルの老舗Collectablesが、がんばっています。LPからCDに移行しはじめた時 期は、ライナー無しクレジット無しという、ずいぶん乱暴なつくりでしたが、最近はデザインも綺 麗ですし、クレジットもきちんと入れてくれるようになりました。ライナーも英国のACEと比べる と、十分とはいえませんが、そこそこの情報は得られます。
 そのCollectablesから、スカイライナーズの40周年記念2枚組のCDがリリースされています。ジ ミー・ボウモントのソウルフルなリード・ボーカルを中心とするスカイライナーズは、洗練された 白人ドゥー・ワップ・グループとし
て、最高のグループといえ るでしょう。個人的には、クレスツの ジョニー・マエストロやディオンも大好きで甲乙付けがたいですけど。
 また、リズム&ブルーズにフル・オーケストラを導入し、成功した先駆け的存在であり、スペク ターのウォール・オブ・サウンドへの道を開いた、といっても過言ではありません。やっぱ、ちょ っと過言だなぁ。
 彼らの代表曲である「Since I Don't Have You」は、1959年にキャリコ・レーベルからリリース され、TOP20のヒットを記録した名曲です。紅一点のジャネット・ヴォーゲルが絡むエンディング のハイ・ノートは、何度聴いても鳥肌が立つほどスリリングですね。そして、そのジャネットがリ ードを取る「When I Fall In Love」、「I Can Dream, Can I」も、少しハスキーな歌声がまた、 たまりません。
 40周年記念というくらいですから、いまも活動しているわけですが、ジャネット・ヴォーゲルだ けは、極度の鬱病のため、自殺を図り、1980年の2月に亡くなっています。美人であるがゆえ、な お残念です。以後、ドナ・ガイカーが代わりを務めているそうです。
 さて、このCDセットには、「Since I Don't Have You」、「When I Fall In Love」をはじめ、 キャリコのおもな作品は、すべて網羅しています。また、ジミー・ボウモントがジュビリーに残 したソロ作品「The Loser」、再結成したオリジナル・メンバーが1974年にキャピトルで録音した 「Where Have They Gone」、さらに「Since I Don't Have You」を含む5曲のアウトテイクまで、全40曲が 2枚のディスクに収められています。付け加えますと、レイ・ピーターソンが歌った、ジェリー・ ゴフィン=バリー・マン作の「I Could Have Loved You So Well」もカヴァーしてます。コレは買 いです。
 ところで、ビリー・ニコルスのオクラ作品のCD化は、それなりの意味を認めます。が、手放し で、すばらしいとホメあげるのは最近のコマッタ風潮ですね。このスカイライナーズのような本 物をきちんと紹介しなければいかんと思い、取り上げました。ビリー・ニコルスを聴けば、オク ラになった理由がわかるというものです。意欲と完成度は違うものであることを正しく指摘すべ きで、それを踏まえたうえで薦めるべきでしょう。ぼくは、スペクター・ファンですから、スペ クターの作品なら、どんなものでも欲しいと思うわけです。で、そのどんなものでも「すばらし いよ」なんて、人に薦めようなんて思いません。レアなレコードほど、つまらないものが多いの が、世の常というものです。
April 25, 1999

このサイトをご覧になっている方で、レコードを買ったことがない、なんていう人はいないと思います。ということは、最初に買った1枚というのがあるはずですね、あたりまえですが。
そこで、ぼくが最初に買ったレコードを紹介しましょう。これです。
人気TVシリーズのサントラ盤「スパイ大作戦」。
ぼくの家にステレオ・セットが入ったのは、けっこうおそく、1971年ころだったと思います。サンスイの家具調のもの
でした。じつは、ちょっと前にオモチャに毛の生えた程度のステレオ・ポータブル・プレーヤーを買ってもらっていたので、レコードはというと69年のことでした。
お店には、シングル盤と4曲入りのコンパクト盤が置いてありましたが、お得度を考えて、コンパクト盤を選んだのですが、いま思えば正解だったようです。DOTレーベルでリリースされた「スパイ大作戦」は、このコンパクト盤以外はないということです。ジャケットもメンバーの写真が写っているシングルよりも、文字だけでデザインされたコンパクト盤を気に入ったのでしたが、オリジナル・アルバムのデザインをもとにしてあったと知るのは10年経ってからのことです。
もちろん、「おはよう、フェルプス君……例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないからそのつもりで。なお、このテープは自動的に消滅する。成功を祈る。じゅわわわわ(消滅の音ね)」という大平透の名調子も入っています。
ところで、当局も毎回毎回テープレコーダを壊しちゃかなわん、ということで「このテープはただちに処分すること」といわれて、我らがフェルプス君がしょうがなくテープをゴミ焼却炉に放り込んだり、池に沈めたりする回もありましたね。
付け加えておきますと、第一シーズンでは、リーダーがダン・ブリッグスでしたから、「おはよう、ブリッグス君…」と指令のメッセージは流れました。
さて、サントラ盤といっても、テレビで流れるものと、レコードでは若干アレンジが違っており、がっかりした記憶があります。たとえば、これがいちばん肝心なところなんですが、メイン・タイトルでは、ストリングスとトライアングルによる緊張感あふれるイントロが省略さています。23年後、ようやく正真正銘のオリジナル・サントラ盤が、GNP Crescendoからリリースされ聴くことができます。秒数にして49秒。これじゃ、当時、商品にできなかったわけです。
オリジナル・サントラ盤と銘打っても、実際にはオリジナル・スタッフがオリジナル・スコアをもとにレコード用に再録したものを指していますから、いまでも映画とレコードとはなんか違う、ということはままありますね。劇伴と鑑賞用とは違うものだ、と割り切らないといけないのでした。

20 March 1999

 火山さんが、BBSに書き込まれた「BE MY BABYを歌っているフランス 人のリイシュー」のことですが、「SOPHIE/全曲集」のことでしょう、たぶん。それで、 無駄遣いしちゃいましたよ、昨日。
彼女ソフィーは、1963年4月にドリフターズが歌ったゴフィン&キングの作品「When My little Girl Smiling」のカヴァーでレコード・デビュー、そして翌1964年に映画「アイドルを 探せ」で映画デビューしたそうです。「アイドルを探せ」は、日本でもおなじみのイエイ エ・ガール、シルヴィー・ヴァルタンが主演した映画ですが、その主題歌も大ヒットした ことはご存知の通り。で、ソフィーですが、当時日本で、どれくらい話題になったかはち ょっとわかりません。ただ、シルヴィー・ヴァルタンとフランス・ギャルの間をいくよう なアイドルだとか。歌は正直どうってこと無いですが、シルヴィー・ヴァルタンの兄のエ ディ・ヴァルタンや、「雨上がりの天使」の映画音楽やプレイ・バッハのピアニストで有 名なジャック・ルーシェが音楽監督をしているのが興味深いところでしょうか。フレンチ ・ポップスのお好きな人には、コレクションに1枚加えてみてもいいかもしれませんし、 アメリカのヒット曲のフレンチ・カヴァーに興味のある方にも楽しめる1枚でしょう。
ちなみにアメリカのヒット曲は、

Blame It On The Bossa-Nova
I Don't Understand
Free Me
Remember Diana
Be My Baby
Wishin' And Hopin'
Never In A Million Years
Let People Talk


などが歌われています。


で、「Be My Baby」は、「Reviens Vite Et Oublie」というタイトルになっていて、Les Surfsも 歌っていることは、すでに音壁新聞で紹介しています。意味は「早く戻ってきて、そして忘れて」 でした。で、ソフィーのヴァージョンですけど、イマイチです。
「Never In A Million Years」は、1937年の映画の主題歌だそうで、リンダ・スコットの歌は、 62年に56位になるヒットを記録しました。一応、英語がオリジナルの曲にはオリジナル・タイト ルも併記されていますが、なぜか、「Never In A Million Years」は「LES JEUX SONT FAITS」と いうフランス語タイトルだけです。

14 February 1999

1995年にエーサイド・レコードからリリースされた「フィル・スペクター・マスタ ーピース・Vol.2 」の解説の中で、ぼくは山下毅雄のことに少し触れたんですけど、その彼の作品集「山下毅雄の全 貌/アニメ特撮編」が昨年暮に出ました。「プレイガール」以来、何年待たされたでしょうか。 「いい仕事してますねぇ」的な職人、坂田晃一や八木正生同様、あまり表に出ることのない 作曲家のひとりではないでしょうか。
 で、きょうはこのCDのレビューでお茶を濁すことにしましょう。
 帯に「早すぎた奇才 山下毅雄の全貌」と書いてありますが、冠コピーとしては、ちょっとヘン と思いますね。だって、ゼーグ・デジネのハミングが印象的な「七人の刑事(昭和36年から44年に かけての放送)」のテーマ曲は番組とともに話題になったし、一分間で12問を答えるスリリングな クイズ番組「クイズ・タイムショック(昭和44年から61年にかけての放送)」のスリリングなテー マ曲も記憶に残っているし、お色気アクション・ドラマ「プレイガール(昭和44年から49年)」の おしゃれで色っぽいスキャットによるテーマ曲も、当時子供だったぼくでも忘れられない一曲だっ たし。 そういえば、「想い出の東京」というコテコテの歌謡曲をペギー・マーチの来日にあわせてプレゼ ントしてました。べつに早すぎたわけでもなく、当時もしっかりと受け入れられていましたから。 ただ、山下毅雄の名前までは気に止めなかったけど、時代にマッチしたユニークな曲で楽しませて くれたことには間違いないでしょう。残念ながらレコード会社に無視されていたせいもあって、し ばらく「忘れられていた奇才」であったことは確かですがね。
 視聴率は振るわなかったけれど、作品の評価が高かった「ルパン三世」の第一シーズンの音楽を 耳にして、そのおしゃれな世界の虜になった人も多いはず。ぼく自身「大岡越前」と「ルパン三世」 が同じ作曲家だと知って合点がいったことを思い出します。しかし、そのルパン三世にしても、 当時発売されたレコードはオリジナルではなくて、馬飼野康二のアレンジによる再録音でした。 第二シーズン以降の「ルパン三世」のオリジナル・サントラ盤は、さかんにリリースされています が、第一シーズンのオリジナル・サントラ盤はいまだにリリースされていません。(ドラマ編はリ リースされてますが)おそらく、マスター・テープが紛失しているのでしょうね。この「山下毅雄 の全貌/アニメ特撮編」にも、「ルパン三世」が収録されていますが、マスター・テープからでは なく、文字通りのサウンドトラックからです。だから、効果音も入ちゃってます。また、6曲中3曲 は1980年にリリースされた「オリジナルスコアによるルパン三世の世界」から選ばれており、解説 にも断り書きなく、看板に偽りありというところです。企画者が力を入れたにもかかわらず音源が 確保できなかったとなると、視聴率が悪かったために、素材テープなども早々に処分されちゃった んでしょうね。だれか、マスター・テープのコピーでも持っていませんかねぇ。
 ところで、その「オリジナルスコアによるルパン三世の世界」はいただけませんでした。特に、 チャーリー・コーセーの歌う「オープニング・テーマ」で「Lupin The Third」の発音が「ルパン・ザ・サード」と完璧なまでの日本語になっております。テレビでは、 ちゃんとした英語だったのにチャーリー君はどうしちゃったのでしょう?
 さて、内容はともかくとして、この「山下毅雄の全貌/アニメ特撮編」の音は悪いです。まあ、 音源が古いということも理解できますが、それでも聴きやすくする努力はするべきでしょう。オリ ジナルを損なわない程度の修正もできるはずです。モノラルであるにもかかわらず音が左右に揺れ たり、スクラッチ・ノイズも処理してないし、エンジニアは何をしとるんだ、と文句のひとつでも いいたくなってしまいます。
 文句ついでに、デザインの苦言をひとつ。たぶん若い方のデザインでしょうね、これは。最近は、 表面的なカッコよさを求めているだけで、デザイン本来の役割を考えていないデザイナーが増えて いるような気がしてなりません。いちいちブックレットを開いて曲名を確認したり選曲するなんて、 面倒くさいでしょう。曲名はケースを閉じた状態からわかるようにするのが親切というものです。 「だって、42曲もあるんだもん」という言い訳は許しません。綺麗に収めるのがデザインってもん です。また、ライナーも読ませるデザインではないですね。「ためになる、いいことが書いてある から、読みたきゃ、ありがたく読みなさい」って感じの官僚的処理です。「小さい文字で文字数も 多いですけど、ぜひ読んでくださいね」という優しさがないです。「1行に収める文字数は20字から 25字が美しく読みやすい」とされていますが、これは基本です。もし、新聞が上から下までが1行に なっていたら、誰も読まないでしょ。そういうもんです、デザインとは。それに、「わたしはデザ イナーじゃなくてアーティストなんだ」なんて威張らないでいただきたい。ミミズでもカタツムリ でもアーティストになれますが、デザイナーにはなれません!プライドを持とうよ。
 ファッション性の高いミュージシャンならいざ知らず、こういう資料性の高いCDは、オーソドッ クスが一番だと思います。それと、「ヤマタケ」はやめましょうね。ぼくらの世代では「マエタケ」 のイメージがつきまといますから。ちなみにぼくは「オオタケ」です。
 いろいろ文句を書きましたが、出たことに大きな意義があるCDとして、ぼくは喜んでいるんです よ、じつは。こういう復刻は、苦労の割に報いが少ないものですが、ぜひがんばって続けてもらい たいと思っています。
 口笛、スキャット、ハミングとボサが聞こえたら山下を疑え、というのがぼくの中での合言葉で す。「七人の刑事」しかり、「大岡越前」しかり、「左武と市捕物控」しかり。さらに出だしのフ レーズまで似ておりますが、そこが「山下毅雄サウンド」の真骨頂なのですね。

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