『貴女』のために
THE END OF Confession
YOU GET TO BURNING/『貴女』のために
「え〜〜〜〜!!お弁当、作ってきてないの〜〜?!」
第3新東京市立第一高等学校 1年A組。
午前の授業が終わり、それぞれ弁当を持って仲間たちのところへ移動してい
る・・・そんな、にわかに慌ただしい教室に、ひときわ大きな少女の声が響き
渡った。
もちろん、その声の主は、惣流・アスカ・ラングレー。
高校生にもなるというのに相変わらずだ。
黙っていれば良い女なのに、こういう持って生まれたものというものは、な
かなか変わらないらしい。
「まったく、なにやってんのよ!アタシに、お昼無しで過せっていうの!」
アスカは、机に両手をつき、目の前に座って心なしか脅えている少年へ怒鳴
りつけた。
当然、怒鳴られている少年は誰でもない、碇シンジ、その人だ。
「だ、だって、昨日は、宿題が沢山あって夜遅くまでかかちゃったんだ。だか
ら、今朝は寝過ぎちゃって・・・。」
シンジもまた、相変わらずアスカに押されまくっている。
教室のクラスメート達は、所定の席について仲間たちと弁当を食べ出している。
もはや、アスカとシンジの恒例のレクリエーションに、いちいち注目する物
好きは誰一人としていない。
アスカの怒鳴り声は更に続く。
「宿題のせいにして、自分の職務怠慢を正当化するわけ?」
「職務怠慢って、お弁当を作るのが仕事じゃないのに。」
「アンタ、バカァ?お弁当を作るのは、アンタの仕事じゃない。それに、宿題
が片付かないなら、アタシに聞けば良いじゃないの!」
アスカは、そう言いながら、両手を机から離して腕を組み、自慢げな表情で
シンジを見た。
それに対し、シンジは、やや眉をしかめて言い返す。
「いつもアスカに聞いてたら、自分のためにならないよ。」
「へえ、凄いわね、って言いたいけど、必死で勉強したって、そんなの忘れ
ちゃうし、大人になっても役に立たないわよ。」
「でも、まったく役に立たないわけじゃないだろ。きっと、必要になるときも
あるよ。」
あまりのアスカの言いように、憮然として答えるシンジ。少々、腹に据えか
ねているようだ。
当然、アスカはアスカで、シンジに言い返されてムッとする。
大きく空気を吸い込み、それを怒鳴り声に変えようと口を開きかけたとき、
「碇君。」
横から少女の声がした。
アスカとシンジは、声の主へ顔を向ける。
そこには、一人の少女が立っていた。
言わずと知れた、綾波レイ。
藍で丁寧に淡く染め上げた絹のように輝く繊細な髪。
一流の芸術家が造り上げた彫刻のような、滑らかで木目の細かい白い肌。
美しく輝き、いくどとなく宝石に喩えられるその紅い瞳は、人を引き付けて
止まない。
そして、その瞳から流れ出る視線は、シンジに注がれていた。
「よかったら、私のお弁当を分けてあげる。」
言いながら、レイは持っていたコンビニのビニール袋の中に手を入れて中
のものを取り出し、それをシンジに差し出した。
だが、シンジは、レイが差し出したものに戸惑ってしまう。
「え?ニンジン?」
レイの差し出したものは、紛れも無いニンジンだった。
「そうよ。ニンジン。碇君、嫌いなの?」
「好きだよ。あ、いや、そういう問題じゃなくて・・・。」
「ごめんなさい。足りないのね。」
レイはそう言うと、今度は、キャベツを取り出して机の上に置く。丸ごとの
キャベツだ。
「綾波、これ・・・。」
「遠慮しないで、食べて。」
いきなり、ニンジンとキャベツを出されて、はい、そうですかと食べる人は
いないだろう。
もちろん、シンジも同じで、レイのすることに、ただ戸惑っていた。
そこへ、アスカがレイに声を掛ける。
「ちょっと、ファースト。こんなの食べられるわけないじゃない。」
「大丈夫。ちゃんと、茹でてあるわ。」
そして、レイは、アスカのほうへ顔を向けると、
「私は、あなたと違って、料理が得意だもの。」
と言い放った。
今のレイの顔。僅かな表情の変化だが、明らかに優越感に浸っているのが見
て取れる。
しかし、野菜を茹でるだけで料理が得意だと言うのは変だ。だから、いくら
でも言い返せるはず。
ところが、アスカは押し黙ってしまった。
料理がまったく出来ないアスカにとってみれば、ただ、野菜を茹でるだけで
も立派な料理に思えたのだ。
レイは、ニンジンを手にとって、アスカに差し出す。
「あなたは、これを食べて。」
歯ぎしりをするアスカ。
よりにもよって、アスカの嫌いなニンジンを差し出して、「食べて」もなに
もあったものではない。
「い、いらないわよ!」
それが、アスカに出来る精一杯のことだった。
完全勝利を確信したのか、レイの口の端が僅かに上がった。
「さ、碇君、遠慮しないで食べて。」
レイは机に置かれたキャベツに手を添えると、シンジに促した。
当然、シンジは戸惑うばかりだ。
「シンジ!嫌なら嫌だって言いいなさいよ!」
アスカは、悔し紛れにシンジの肩に掴み掛かる。
と、その瞬間、レイがアスカの腕を掴んで跳ね除ける。
「私の碇君に触らないで。」
驚くアスカ。
が、すぐに持ち直して言い返す。
「な、なんで、『私の碇君』なのよ!」
「今は、私と碇君が話をしていたのよ。だから、今は私のものよ。」
「なに、とち狂ったこと言ってんのよ。とにかく、こんな野菜を丸ごとなんて、
食べられないわよ!」
「私は、碇君に食べてもらおうとしてるの。」
そう言って、レイは、シンジを見る。
「あの、綾波。気持ちは嬉しいけど、さすがにこれは食べられないよ。」
申し訳なさそうに、レイに言うシンジ。
レイは、悲しそうに目を伏せると、
「そう・・・。分かった。」
キャベツとニンジンをビニール袋に入れ、トボトボと離れていった。
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夕方のHRが終わり、生徒達が一斉に立ち上がる。
「シンジ、帰るわよ。」
「うん。」
アスカが、カバンを持ってシンジの席へやってきた。
シンジは、教科書をカバンへ入れている。
「なに、もたもたしてるのよ。早くしなさいよ。」
「うん。」
アスカに急かされて、シンジはその手を早める。
と、そのとき、クラスメイトの一人がシンジを呼んだ。
「おい、碇。客だぞ!!」
「客?」
指を差されたほうを見ると、数人の女の子がドアの外のところに立っていた。
なんだろうと思いながら、シンジはカバンを持って女の子達のところへ行く。
その後ろには、しっかりとアスカがついている。
「えっと・・・僕に何か用かな?」
「碇君に、ちょっと用事があるの。」
女の子の中の一人が、シンジの後ろにいるアスカをチラチラと見ながら答えた。
「用事?」
「そうなの。」
アスカの視線が、心なしか鋭くなる。
代表者らしい女の子は、そんなアスカの視線を気にしながら続ける。
「え〜と、ここでは、ちょっと・・・。あの、別の場所で・・・。」
「うん、いいよ。」
シンジと女の子達は歩き始める。が、アスカも、しっかりついてこようとし
ていた。
「ああ、惣流さんは、結構なんですけど・・・。」
「なんで?」
「碇君だけに用があるから。」
「・・・あ、そう。アタシは邪魔なわけね。シンジ、アタシは先に帰るから。」
「うん、わかった。」
女の子は、しばらくアスカを見送った後、
「じゃ、碇君、来きましょ。」
「う、うん。」
シンジは女の子達についていく。たどり着いた先は、人気の無い校舎の裏。
そこには、一人の少女が立っていた。
「碇君を連れてきたわよ。」
そう言うと、女の子達は離れていく。
シンジは、それを横目で見送り、ある程度離れたところで、前にいる少女へ
話し掛ける。
「あの・・・君が僕に用があるの?」
少女は、顔を上げた。
シンジの脳裏を、ユミの顔がかすめる。
だが、その少女は、パッチリとした大きな目に、深藍の瞳。
紫掛かった長い髪を、リボンでまとめて背に垂らしている。
頬には、そばかすがあり、それがアクセントとなって可愛らしさを引き立て
ていた。
「私、1年E組の、上弦メグミです。」
「あの、碇シンジです。」
シンジだと知ってて連れてきたのだから、わざわざ名乗る必要がないのだが、
やはり、戸惑いがそうさせているのだろう。
しかし、あのとき・・・ユミと初めて出会ったときほどではない。
「あの、今、付き合ってる人っていますか?」
「いないけど。」
メグミの問い掛けに、すぐに答えるシンジ。
パッと、メグミの表情が明るくなる。
そして、メグミが、次の言葉を言おうと口を開きかける・・・が、
「でも、僕は、好きな人がいるから。」
シンジがそれを遮った。
メグミは、その状態のまま硬直する。その瞳が揺れている。
目を横へ逸らすシンジ。
「・・・そうなの。分かった。」
メグミは、震える声で短く言うと、踵を返して走り去っていった。
メグミの姿が見えなくなると、シンジも、後ろへ振り向いて校門へと歩いて
いく。
シンジは、これで良いんだと思った。だから、後悔は全く無かった。
校門へ近づくと、その傍に立つ人影がシンジの目に入った。
「綾波・・・。」
その人影は、レイだった。
「碇君!」
レイもシンジに気付いた。そして、シンジへと走り寄ってくる。
小走りに近づいてくるが、もう少しでシンジに辿り着こうとした、その時、
ズザザァッ・・・
石に躓いて転んでしまった。
慌ててレイの傍へ行き、しゃがみ込むシンジ。
「綾波、大丈夫?」
「う、うん。」
シンジは、レイが痛そうにしながら上体を起こして、制服についた埃を振り
落とすのを見守っている。
レイが倒れた。自分を待っていたレイが倒れた。
だがまあ、レイが勝手に走ってきてコケたのだから仕方が無い。
「綾波は、ずっと僕を待ってたんだね。でも、足元に気を付けないとダメだよ。」
「うん。・・・うっ。」
レイが、うめき声を上げた。
よく見ると、腕に怪我をしてしまっている。
その痛みに顔を歪めるレイ。
赤い血が流れ落ちてゆく。・・・というほど、大袈裟な怪我でもない。
シンジは、ティッシュを取り出して、レイの腕の傷口を拭き取る。
「ありがとう、碇君。用意が良いのね。」
「そんな。ティッシュくらい、殆どの人が持ってるよ。」
「そうなの。・・・私、3人目だから。」
「それは、関係ないと思うよ。」
シンジは立ち上がって、レイに手を差し出す。
その手を取って、立ち上がるレイ。
シンジは、手を離そうと力を抜いたが、レイがギュッと握ったままで離そう
としない。
「綾波、手を離してくれる?」
「イヤ。」
「イヤって・・・。」
「お願い。碇君が、あの人のところに帰るまで。それまで・・・。」
レイは、そう言って、懇願するようにシンジを見つめる。
シンジは、すぐに頭を横に振った。
だが、レイは、諦めない。
「分かってる。見つけるから。でも、今は、碇君なの。だから・・・。」
そのまま少しの間、二人は見詰め合っていたが、やがて、シンジが口を開く。
「行こうか。」
「うん。」
嬉しそうに肯くレイ。
そして、シンジとレイは、校門を出ていく。
レイは、シンジの隣を歩いてゆく。
握り返してくれることの無いシンジの手を、しがみ付くように握り締めながら。
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その夜・・・
シンジは、夕食の洗い物を片づけてリビングへと入ってきた。
ミサトは風呂、アスカは寝転がって雑誌を読んでいる。
そして、アスカに見向きもされていないTVが、虚しく騒いでいた。
「ねえ、ビデオを見たいんだけど、いいかな?昨日は、宿題で忙しくて見れな
かったから、見たいんだ。」
なんだかんだと言いながら、アスカにお伺いを立てるシンジ。下僕根性丸出
しだ。
「うん、いいわよ。」
お許しが出た。
シンジは、意気揚々とリモコンを手に取り、再生キーを押す。
すぐに、録画した番組が画面へ映し出された。
そこには、なぜだか、中学生だか高校生だかの男女の姿があった。
勉強机とシングルベッド。その風景からすると、どちらかの部屋にいるらし
い。少年は、ベッドの上に膝を抱えて座っており、なんだか鬱状態に入ってい
る。少女のほうは、そのベッドの傍らに立ち、ブラウスのボタンを外している。
やがて、少女が、スカートのファスナーを下ろしながら、少年の座っている
ベッドへと近づいていく。
『好きな者同士、こうするのが自然なんですよ。』
そう言いながら、少女は、少年の肩に手をかけて顔を近づけていく。
なんだか良く分からないシチュエーションだが、少女が少年に迫っているよ
うだ。
そして、その二人の唇が重なり・・・
画面が、再生前のTV番組のものへと戻ってしまった。
シンジが、停止したのだ。
「あれ?おかしいな・・・。」
そう呟きながら、ビデオの巻き戻しをするシンジ。
しばらくして、再び再生する。
だが、以前に録画したものが映し出されるだけで、目的のものではなかった。
シンジは、ビデオテープを取り出して見てみるが、確かにこのテープだ。
しかたなく、録画インデックスを画面に映し出してみる。
「ああ!無い!!」
シンジが録画したものは、録画インデックスの中に無かった。
「あれ?変だな。予約して、3回も確認したのに・・・。なんでだろう?」
そのシンジの様子に気付いたアスカが、申し訳なさそうに言う。
「シンジ、ごめん。アタシが別のやつを録画しちゃった。」
あの目を背けたくなるようなクサい学園ドラマみたいなのは、アスカが録画
したもののようだ。
「アスカ・・・なんてことするんだよ。」
まるで、失意のどん底に落ちたかのように覇気の無い声で言うシンジ。
「ごめんごめん。今度からは、気を付けるから。」
事の重大さに気付かないアスカは、軽い調子で謝った。
しかし、それがシンジを逆撫でした。
アスカのほうへ振り向くと、怒りに任せて叫ぶ。
「なんだよ、アスカはいつもいつも!ごめんじゃ済まないよ!」
面食らって、思わず引いてしまうアスカ。
さすがのアスカも、本気で怒っているシンジを見て、少し萎縮してしまう。
「ご、ごめん。で、でもさ、また再放送がやるんじゃない?」
「今だって再放送なのに、今度は、いつやるか分からないじゃないか!それに、
昨日のは、絶対に見逃せない、『星野ルリ・サーガ3部作』の最終話だった
のに!!」
「え?ほしの?最終話?」
シンジが何を言っているのか、アスカには理解できないでいる。
そんな番組があったかな?・・・などと記憶を辿っていくが、思い当たるも
のが無い。
そんなアスカに構わず、シンジは続ける。
「そうだよ、ルリちゃんだよ!ルリちゃんの話だったんだ!お姫様姿・・・。
ルリちゃんの、お姫様姿が見たかったのに!!」
「ルリ・・・。ああ、『宇宙戦艦ヒマワリ』とかいうやつね。」
アスカは、どんな番組だか分かったが、番組名が間違ってる・・・。
それが、更にシンジを逆上させてしまった。
「違うよ!『機動戦艦ナデシコ』だよ!!」
「少し間違えただけなんだから、大声で怒鳴らなくたっていいじゃない。それ
より、ルリって・・・ああ、あの、すかした女の子のこと?」
「なっ!ルリちゃんは、すかしてなんかないよ!」
「すかしてるじゃない。クールを気取っちゃってさぁ。なによ、いちばん子供
のくせに大人ぶっちゃって。なにかあると、『私は少女ですから』って都合
の良いこと言うし。あんな、こましゃくれた子のどこがいいわけ?」
なかなかどうして、アスカは見ていないようで見ているらしい。
しかし、ルリちゃんに対する許されざる暴言の数々。作者の私に喧嘩を売っ
ているのか?・・・おっと、そんなことはどうでもよい。
ルリちゃんに、ほんの少し嫉妬しているのだろう。だけど、アニメキャラに
嫉妬するのも、どうかと思うが・・・。
しかし、普通なら怒ってしかるべきなのに、シンジは、怒るどころか微笑んだ。
「その冷めたところが良いんじゃないか。」
「アンタって、ああいう子が好きなの?」
思わず、頬を染めるシンジ。
「そ、そうだよ。僕は、ルリちゃんが好きなんだ。」
思わぬシンジの告白。
たいていの女の子なら、ここで、引きまくってしまうところだが・・・
「ふ〜ん、なるほどね。」
アスカは腕組をして、なにかに納得したように肯いている。
なにに納得しているのか分からないシンジは、怪訝そうにアスカを見守る。
アスカは、ひとしきり肯くと、
「そういうことなのね。あの子って、アタシに似てるもんね。」
「へ?」
ボケているとしか思えないアスカの言葉。だが、満足そうに納得しているア
スカの表情を見ると、そういうわけではないようにも思える。
とにかく、どちらなのか判断のつかないシンジは、恐る恐る尋ねる。
「それって、どういうこと?」
「だって、あの子って、『バカばっか』が口癖じゃない。アタシと同じじゃな
いの。」
したり顔で言うアスカ。ところが、
「なんだよ、それ。ルリちゃんを、うるさいアスカなんかと一緒にするなよ。」
さらりと、しかも、小馬鹿にした調子でシンジに言われてしまった。とたん
に、アスカの顔が怒りに満ち溢れる。
「なんですって!もう一度、言ってみなさいよ!」
「四六時中熱くなって騒ぎ立てるアスカなんかと、一緒にするなよな。」
「その騒ぎ立てる原因を作ってるのは、アンタじゃないの!!」
「なんで僕なんだよ!人のせいにするなよ!!」
「ふんっ!アンタ、バカじゃないの?!あんな子なんて、いるわけないじゃな
いの!それを、好きだって言って、おかしいんじゃないの?」
「いないなんてことくらい分かってるよ!いいじゃないか、理想は理想で持っ
てたって!ルリちゃんは、僕の理想の女の子なんだ!」
激しく火花を散らせあうアスカとシンジ。
「ふ〜、いいお風呂だったぁ。」
そこへ、風呂から上がってきたミサトが、ビールを片手にリビングへと入っ
てきた。
目にした二人の様子を見て、すぐにどういう状態なのか理解する。
処置無しといった表情をしながらテーブルの脇へ座るミサト。
「はいはい。喧嘩はそれくらいにして、どっちでもいいから、お風呂に入って
きなさいよ。」
毎度毎度、飽きない二人だな・・・などと、ミサトは呆れながらも、さりげ
なく仲裁に入る。
アスカとシンジは、互いから目をそらす。
が、その直後、
「アスカなんて嫌いだ!!」
シンジは叫びながらリビングを出ていった。
そのシンジに、ミサトは驚いた。
確かに、それまでの経緯を知らないということもあるが、それでも、嫌いだ
などと言ってしまうのだから、よほどのことだと思ったのだ。
ところが、アスカはというと、憮然としながらも雑誌を手にとって読み出し
ている。
ミサトは、それからしばらくアスカを見ていたが、TVを見て、ケラケラと
笑ってさえいる。
あのシンジの言葉を、欠片ほども気にしている様子が無いアスカに、ミサト
は尋ねてみることにした。
「ちょっと、アスカ。いいの?」
「なにが?」
「だって、シンちゃんって、ずいぶんと怒ってたじゃない。」
「すぐに頭が冷えるわよ。」
「でも、嫌いだなんて言って出てったのよ。シンちゃんが、あんなふうに怒る
なんて、よほどのことじゃないの。謝ったほうがいいんじゃないの?」
「なんで、アタシが謝らなきゃなんないのよ。それに、どうってことないわよ。」
ミサトは、どこまでも余裕の態度を取るアスカが理解できなかったが、そこ
まで言うのならと、そのまま放っておくことにした。
しばらく後・・・
「アスカ。」
シンジがリビングに戻ってきた。
アスカとミサトが、シンジの方へ振り向く。
シンジは、手に教科書やノートを持ってきていた。
「宿題を教えて欲しいんだけど。」
そう言って、シンジは、何食わぬ顔でテーブルへと座り、教科書のページを
捲り出す。
アスカも、TVの前から離れてシンジの隣へ座った。
「どこよ。」
「これなんだけど、どうすればいいの?」
すぐに、アスカの家庭教師が始まった。
そうして、何事も無かったように勉強をしている。
ミサトは、しばらく、そんな二人を見ていたが、ふっと軽い笑みを浮かべる
と、立ち上がって静かにリビングから出ていった。
やがて、シンジの宿題も終わりかけた頃・・・
「ねえ、アスカ。」
シンジが、アスカに目を向けて声を掛けた。
「なに?」
アスカも顔を上げて答えた。
すると、シンジは、再び視線をノートへ落とす。
シンジは、しばらく、手に持っているシャープペンシルを、ゆらゆらと揺ら
していたが、
「明日さ、ユミちゃんの、お墓参りに行こうと思うんだ。」
そう切り出した。
アスカの瞳がピクリと反応する。
「そうか。もう、1年になるのね。アタシ・・・。」
すっかり忘れていた。
シンジに言われて、アスカはそのこと・・・1年前、ユミが死んだことを思
い出した。
アスカは、心配そうな表情を浮かべ、気遣うように柔らかな声でシンジに尋
ねる。
「夢・・・まだ見るの?」
シンジの見る夢・・・
ユミが、向こうの方から、手を振りながら走り寄ってくる。
だが、
目の前で光に包まれるユミの躰。
目の前で宙を舞うユミの躰。
目の前でアスファルトに叩き付けられるユミの躰。
ユミの躰の周りに広がっていく赤い液体。
激しい痛みに耐えながら、シンジへと赤く染まった手を伸ばすユミ。
シンジも手を差し伸べる。
そして、それは繋がる。
ユミは、必死で、笑顔を浮かべる・・・が、すぐに消え失せ、悲しみの涙が
目から零れ落ちる。
シンジは、ユミの手を握り締めていない。
やがて、握る力が消え、シンジの手から滑り落ちていくユミの手。
・・・シンジの手の平に残った、かつての持ち主へ帰ることのない血。
シンジは、白い手の平を眺めながら答える。
「たまに見るけど、前に比べたら、ずいぶんと減ったよ。」
「そう・・・。」
よかったわね・・・そう続けようとしたアスカだが、喉元で止めて口には出
さなかった。
その代わりに、シンジが眺めている手に自分の手を被せて優しく握る。
顔を上げ、アスカの瞳を見つめるシンジ。
アスカも、何も言わないまま、シンジの瞳を見つめた。
シンジは、アスカの手をキュッと握り締める。
そして、微笑みながら言う。
「大丈夫だよ。一人で行けるから。」
− Fin −
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後書き
アスカ:思い切り、やらかすわね。きっと、怒ってるやつが、沢山いるわよ。
作者:読んでくれた方達は、私のやってることが理解不能でしょうね。
アスカ:あれだけ、凍結の反響にびびってたくせに、こういうことするからねぇ。
作者:だって、あんなにウケてるなんて思っていなかったですから。ああそ
うだ。みなさんに、一言。映画のせいで凍結したわけではないんです。
なんのダメージもありませんから。だからこうして、ラブコメが平気
で書ける訳でして。凍結理由は、『啓示版の過去のログ』を読んでい
ただくと分かります。
アスカ:で、凍結したのに、これを書いたのは、なんでなの?
作者:それはまあ・・・いろいろと、メールを貰いましたから(苦笑)
アスカ:ふ〜ん、『いろいろ』とね。で、終わらせるわけね。
作者:まあ、エヴァ小説ですからね。どうせなら、エヴァと同じやり方で終
わらせようってことですよ。映画が、アレだったんで、「そっちがそ
うなら、こっちもその気。徹底的にやっちゃいます!!」っていうの
が大きいです。
アスカ:全く仕方の無い奴ね。さ・て・と・・・
ドカグシャッ!
作者:うげぇぇぇ・・・。と、突然、なにをするんですかぁ。
アスカ:いやね、カヲルを殴るのもいいけど、アンタを殴るこの後書きも好き
だって言うやつがいるからね。どうやら、この後書きが受けてたみた
いだし。
作者:うう、そんな人がいるなんて・・・シクシクシク。じゃあ、今度は、
後書きを沢山書きましょうかね。こんなのいくらでも書けますよ。
あ、でも、理由も無く殴るのはいけないですよ。
アスカ:アンタ、バカァ?理由なんて腐るほどあるじゃない!なによ、あの
シンジの台詞は!!
作者:きっと、シンジもルリちゃんが好きなんだろうって思って・・・。
だって、ルリちゃんは銀髪でしょ。カヲル君も銀髪だもの。
アスカ:無理矢理こじつけるなぁぁ!!
作者:それに、綾波ストの跳梁跋扈(必死で漢和辞典を調べたらしい(爆笑))
が激しいそうだから、アスカにんとして対抗しないと。
バキゲシゴキッ!
作者:ううっ、痛い・・・。
アスカ:アスカにんとしての行動が、ルリちゃんルリちゃんってわけ?やって
ることがメチャクチャじゃないの!!
作者:でも、こういうのって、初めての小説のときから変わっていないんで
すよ。アスカ様達に、ルリちゃん達の生き方させるっていう壮大な目
的の元に書いてますからね。
アスカ:よく考えて見れば、初めての小説が、『たった二日の「長い日々」』
って、明らさまなタイトリングしてるしねぇ。
作者:反感しか買わないとばかり思ってたけど、妙にウケたんで、これでも
大丈夫なんだなぁって・・・(^^;;;;。で、調子に乗って、アスカ様に
ユリカをダブらせて、Confを書いてたんですけど・・・ふっ。
アスカ:アンタって、どちらかというと、ナデシコの方にハマってるからね。
作者:ナデシコには、泣かされました。2回も。アニメを見て泣いたのって、
「ペリーヌ物語」以来ですよ・・・って、みんな知らないか。ところ
で、レイが可愛いですね。思いがけず、随分と扱いが良くなってしま
った。
アスカ:こ、このレイが可愛いの?また、綾波ストを敵に回そうとしてるのか
と思ったわ。
作者:私の場合、どうでもいいキャラは、まともな書き方するんですよ。
そのキャラについて考えるのが面倒だから(笑)。その証拠に、今ま
で書いてきたものは、アスカ様はイってる女の子なのに、レイはまと
もだったでしょう。つまり、レイに対して、かなり適当な扱い方をし
てきてたということなんです。でも、この話のレイは、本当に真剣に
考えましたからね。
アスカ:どうせ、映画がアレだったから、ファーストも素敵な女の子にしよう
とかって、仏心を起こしたんじゃないの?
作者:うう、バレバレですか・・・。それにしても、ちょいキャラに名前を
付けてしまった。まあ、こんなキャラをパロッちゃう人もいないだろ
うけど・・・って、早速やられたりして(笑)
アスカ:そのキャラの苗字の『上弦』って、なんて読むの?
作者:『うわづる』です。上弦の月って言葉があるでしょ。それの訓読みで
すよ。初めは、『明星』だったんですけど、エリナさんが金星ですか
らね。重なるのがイヤだったから、これにしました。
アスカ:そういえば、「貴女」って、もちろんアタシのことよね。
作者:いや、アスカ様・レイ・ユミちゃん・メグミちゃん等、全員ですよ。
アスカ:「等」?なんか、引っ掛かるわね。
作者:もちろん、ルリちゃんもね。
アスカ:やっぱり・・・。呆れて、ものも言えないわ。
本当に長い後書きになっちゃったな
管理人(その他)のコメント
アスカ「命名。キャラ殺しルリちゃん」
カヲル「・・・だれのことだい、それは?」
アスカ「啓示版参照よ」
カヲル「啓示版・・・・ああ、あそこか。しかしまあ、杉浦さんも外伝では誰か一人、絶対死んでいるよね。アスカにしろ、レイにしろ、むう。死んでいないのはシンジ君だけか・・・・」
アスカ「シンジを殺したら、それこそ杉浦、どうなってもしらないからね〜ごそごそ」
カヲル「そこでマサカリをださないださない」
アスカ「(ちっ、見られていたか)・・・・さて。それはともかく、これでConfessionのシリーズはとりあえず終わり、ということになるのかしら?」
カヲル「杉浦さんが凍結を発表してしまったからね。この先書くつもりのある人がいない限り、ユミちゃんともお別れってことさ」
アスカ「ふっ、いいライバルだったのに」
カヲル「ほんとかねぇ」
アスカ「強敵とかいて「とも」と読む。常識よ〜」
カヲル「なんかどっかで聞いたことがあるな・・・・そのせりふ・・・・はうっ、青柳さんのメールのしぐねちゃに、そんなことが書いてなかったかい?」
アスカ「な、な、何を馬鹿なこと言ってるのよ!! アタシが巨悪で外基地な青柳の言葉を引用するわけなんかないでしょ!! 汗」
カヲル「ふっ、気づかず使ってしまったみたいだね・・・・にやり」
アスカ「むっかあああああ」
カヲル「しかもユミちゃんがこの話では死んでいるからってやけに強気・・・・はううっ!! マ、マサカリを振り上げるのは止めてくれないかぁっ!!」
ごめすううっ!!
アスカ「ふっ、またつまらないものを斬ってしまったわ」
カヲル「・・・・殴り倒したくせに・・・・がくっ」
館玄関へ