たった二日の「長い日々」
by 杉浦康之
あれから、半年が過ぎようとしている。
アスカも立ち直り、シンジ達は以前の生活を取り戻している。
パイロットの3人は、前ほど頻繁ではないにしろ、ネルフに行って訓練や実験をし
ている。
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第3新東京市にあるネルフ作戦部長 葛城ミサト三佐の自宅。
シンジは夕食の後片付けをしている。
炊事・洗濯・掃除・・・いちおう、食事の用意以外は当番制ではあるが、ミサトは、
戦後の残務処理があまりにも膨大なため、半年経ってもまだ片付かないために残業が
多く、シンジが変わりにやっている。アスカは、宿題を手伝ってあげたから、などと
いう理由で無理矢理に当番の交替をさせる。というわけで、ほとんど毎日、シンジが
やってるのが状況だ。
もっとも、シンジは、家事が嫌いな方ではないので、文句は言わない。
そして、もう一人の同居人、アスカは、たった今風呂に入っていった。
バタン!・・・・・・ドタドタドタ、ガラッ!!
「バカシンジィ!!風呂が熱いわよ!!」
「ごめん。」
アスカが真紅のバスタオルを体に巻き付けただけの格好で怒鳴る。
シンジは、「またか」というような表情をしながら答える。
「アンタねぇ、ごめんごめんって言ってるけど、何回目だと思ってるのよ!アタシの
肌はデリケートなんだから、火傷したらどうするつもりよ!!」
このように、アスカに文句を言われるのも日常茶飯事だ。
この前も、トウジとケンスケでゲームセンターへ遊びに行き、いつもより帰りが1
時間くらい遅くなって夕食の準備が遅れたときも、散々文句を言われた。
まぁ、確かに遅くなったのはシンジにも非があるので、ただ言われるままになって
いたが・・・。
「だいたいアンタねぇ、学習能力があるの?いい加減、アタシに最適な温度くらい覚
えなさいよ!だからアンタはバカだっていうのよ!バカシンジ!!」
「・・・・・・。(ムカッ)」
さすがのシンジも、ここまで悪し様に言われたら頭にくる。
「ちょっと、返事しなさいよ!!」
「・・・わかったよ。」
それを聞くと、フンっと言って再び風呂へ入っていった。
怒らないのがシンジらしい。鍛え上げられた忍耐力は伊達ではないようだ。
やっと洗い物を片づけ、リビングでTVを見る。
やるべき仕事を終えた後、のんびりとTVを見ながら過ごす時間、開放感を味わい
ながらくつろぐのは、なんとも心地よい。
「ふぅ、サッパリした。」
アスカが風呂から上がってリビングへやってきた。
「ねぇ、チャンネル変えるわよ。」
アスカは、それが当然のごとく問答無用でTVのチャンネルを変える。
「あっ!」
「何よ。アンタは今までTVを占有できたからいいでしょ。今度はアタシの見たい番
組を見るのよ。」
「・・・・・・。」
占有できたのは、ほんの15分くらいなのだが・・・
シンジの見ていたのはクイズ番組で、出された問題に対する答えに結構自信があっ
て、これから正解が出される・・・というところだったのに、アスカにチャンネルを
変えられてしまい聞き逃してしまった。
まぁ、これくらいで怒るのも大人げないし、アスカにどんな目に合わされるか分か
らないので、何も言わないことにしている。
「あ、そうだ、ねぇアスカ。」
「なに?」
「明日の昼のお弁当は無いから、パンにしてね。」
「えぇ!なんでよ?」
「いや、たまには、朝までゆっくり寝たいと思ってさ。」
実は、夕食のとき、アスカのリクエストで急遽メニューが追加になり、弁当の分の
材料を使ってしまったのだ。もちろん、最初は駄目だといったが聞いてもらえず、逆
らっても無駄だと分かっているので、しぶしぶ承知したのだった。
朝までゆっくり寝たいと嘘を言ったのは、シンジの優しさの表われである。
「なにやってんのよ。お弁当を作るのはシンジの役目でしょ?」
「たまにはパンもいいと思うよ。もともとアスカはドイツで暮らしてたわけだしさ。」
「よくないわよ!!」
アスカにしてみれば、ヒカリ達と話をしながら、シンジの弁当を食べるというのが
楽しみで学校に通っているのだ。そうでなければ、大学を卒業しているアスカにとっ
て、学校はつまらないものでしかない。
「今から買ってくれば?」
「もう、店は閉まってるよ。」
「まったくしょうがないわね。朝までゆっくり寝たいからなんて理由が通用すると思
ってるの?」
「いや、だってさ・・・。」
「だってって何よ。自分勝手じゃないの。自分のわがままをアタシにまで押し付けて
いいと思ってるわけ?」
「・・・・・・(いい加減、頭にきた!)」
「ちょっと、返事しなさいよ!!」
「・・・わかったよ。」
シンジは顔を背けて、吐き捨てるように返事をする。
「なんで顔を背けるのよ。ちゃんとこっちを見て返事しなさいよ!失礼でしょ!!」
「・・・うるさいなぁ。」
「!!・・・・・・なんですって・・・もう一度、言ってみなさいよ。」
アスカは、今にも激発しそうな感情を押さえて聞き返す。
まさに、嵐の前の静けさといった感じで・・・。
「うるさいって言ったんだよ。」
「言うに事欠いて、うるさいとはどういうことよ!!」
とうとう、というか、やっぱり爆発した。
「うるさいからうるさいって言っただけだよ!だいたいアスカは自分のことを棚に上
げて、わがままだの自分勝手だの言ってさ。それに、いつもバカバカ言って、僕が
傷つかないと思ったら大間違いだ!!」
「何よ!!バカにバカって言って何が悪いってのよ!!バカバカ、バカシンジ!!」
「もう、やってらんないよ!!」
シンジは、捨て台詞を残して部屋へ戻っていった。
「そうやって、すぐ拗ねて。だからバカだっていうのよ!!」
そうやって、シンジの部屋に向かって叫ぶ一方で、
(また、やっちゃった・・・。なんで、喧嘩しちゃうんだろう。)
「ただいまぁ。あぁ、毎日毎日残業で、過労死しそうだわ。」
しばらくしてミサトが帰ってきた。
リビングにアスカだけがいるのを見て、
「あれ、シンちゃんは?」
「知らないわよ!」
「なによ、またケンカしたの?アンタ達、ホント好きねぇ。」
いつものことか、といった感じでミサトも特に気に留めない。
ちょうど、そのときシンジが部屋から出てきた。手にはバッグを持っている。
「あれ?シンちゃん、バッグ持ってどうするの?」
「出て行くんですよ。アスカと暮らすなんて、もうたくさんだ!」
「ちょっと待ちなさいよ。出て行くったって・・・」
「大丈夫ですよ。別に行方不明になるわけじゃないですから。出て行くだけです。」
「ちょっと、アスカ、謝りなさいよ。」
「なんでアタシが謝らなくちゃいけないのよ!出て行けばいいのよ!そんな奴。」
「じゃ、ミサトさん、お世話になりました!!」
「あ、ちょっと待って・・・。」
「止めないでください!!」
ミサトがシンジの腕を取ったが、シンジは振り解いて行ってしまった。
「シンちゃん・・・。」
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シンジは、夜の道をトボトボと歩いている。
勢いで飛び出してきたので、後のことを考えていなかった。家を出てから、どのく
らいの時間が経っただろう。
「ふぅ・・・どこに行こう・・・」
ケンスケのところへ行ってみたが留守だった。またどこかでサバイバルしているん
だろう。どうやら、休日、平日を問わないらしい。
夜も遅くなっているので、家族で住んでいるトウジのところに行くと迷惑になるだ
ろうということで頼みにくい。
というわけで、シンジは路頭に迷っていた。
しばらく考えあぐねていたが、
「しかたないな。ジオフロントに行くか。」
ネルフ本部の休憩室かどこかで休めばいいだろうなどと、納期直前のプログラマの
ようなことを考えながら駅に向かった。
駅が見えてきたとき、見覚えのある人の姿があった。
淡い水色の髪、ルビーのような紅い瞳。綾波レイだ。今日は、検査の日だったのだ
ろう。
「あ、綾波。」
「碇君。」
レイは、シンジがバッグを持っているに気づくと、
「・・・どうしたの?」
「うん、ちょっとね。・・・アスカと喧嘩して・・・家を飛び出してきたんだ。」
「・・・そう・・・。」
「あ、いや、別に行方を暗ますとかじゃなくてさ・・・。ただ・・・ね。」
シンジは、バツが悪そうに苦笑いをする。
「・・・どこに行くの?」
「寝るところを探しに、ジオフロントに行こうと思って。」
「この時間だと、宿舎の担当官はいないわ。」
「う〜ん、とりあえず、なんとかなるかなって思って・・・。」
「・・・なら、私のところに来ればいいわ。」
自然に出た言葉。レイは、自分でも何故こんなことを言ったのか分からない。単に
シンジが可哀相だからか・・・いや、違う。
「ええ!・・・いや・・・でも、迷惑だろ?ネルフの休憩室ででも寝ればいいし。」
「別に、構わないわ。・・・休憩室で寝ても疲れるだけよ。」
一人暮らしの女の子の部屋に泊まるというのは、さすがにまずいよな、と思ったが、
よく考えてみれば、ミサトの帰りが遅い近頃では、アスカと二人暮らしみたいなもの
だし・・・。そういう意味で、免疫があるので、どうこうする気は起きないからな。
などという、少々情けないことを考える。
それに、ただ寝るだけにジオフロントに行くのも嫌なものである。
「そうだね。・・・お邪魔・・・しようかな・・・。」
「・・・じゃ、行きましょ。」
気のせいか、レイの顔に僅かな笑みがこぼれているようにみえる。もちろん、シン
ジはそのことに気付いていないが・・・。
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場所は戻って、ミサトのマンション。
「アスカ、明日、学校に行ったらシンジ君に謝りなさいよ。」
「ちょっと、なんで、アタシが悪いって決め付けるのよ。」
「今まで、アンタたちの喧嘩を何回も見てきたけど、客観的に見て、いつもアスカの
方が悪いからよ。」
「そんなの偏見よ!ミサトはシンジに甘いから、そういうふうに見えるのよ!!だい
たい、今日はね、シンジが明日の朝はゆっくり寝たいから昼はパンにしろって言う
のよ。職務怠慢じゃないの。それで怒ったら出ていったのよ。」
「シンちゃんが、そんなことを・・・。珍しいわね。でも、たったそれだけで怒るな
んて、おかしいじゃない。」
「知らないわよ!そんなこと!!」
ミサトは分かっていた。他にも色々と原因となることが重なったのだろう。
「シンジ君が、あんなに怒るなんて、よほどのことよ。」
「知らないって言ってるでしょ!いい加減にしてよ!!」
(やれやれ。でも、ま、しばらくすれば、アスカも頭が冷えてシンジ君のありがたみ
が分かるでしょ。強がっていられるのも今のうちね。アスカには、いい薬だわ。
これでアスカも少しは素直になってくれるといいんだけどね。)
ミサトは夕食を食べるべくキッチンへ向かう。
「あれ?今日は、ずいぶんと品数が多いじゃない。なにかあったの?」
「・・・別に。」
アスカは、そっけない返事をする。が、ふと、あることに気付いた。
(そういえば、アタシがリクエストしたんだっけ。あれ?もしかして、あれって明日
のお弁当の分だったのかな・・・。そういえば、シンジに頼んだとき、困った顔し
てたっけ。なによ!それならそうと言えばいいんじゃない・・・。でも、アタシが
ごり押ししたから・・・。風呂も、結構気分次第だし、女の子の体温は変化するか
ら合わせるのも大変だしね。って、アタシったら、何を考えてるのよ。)
「アタシ、もう寝るわ。」
「はい、おやすみ〜。」
アスカはベッドに潜り目を閉じる。
(そういえば、シンジがあんなに怒ったのって初めてだっけ・・・。アタシは、いつ
もと変わらないつもりだったんだけど、何がそんなに頭にきたのかな・・・。バカ
バカって言うからかな。アイツの顔を見ると言っちゃうんだよね。そう・・・頭で
は分かっているのよ。でも・・・なんで口から出ちゃうんだろう。本気で、そんな
こと思ってないのに・・・。)
好きな男の子に構って欲しくて、ちょっかいを掛けてしまう。アスカの場合も多分
に漏れない。そのことは、アスカ本人も、なんとなく自覚している。
いつもいつも、優しく受けられてしまうので、もどかしくてしかたがない。シンジ
に甘えたい一方で、自分など相手にされていないのではないかという不安があるのだ。
(シンジって、いつもアタシの言うことを聞いてくれるよね。でも、優しすぎて逆に
頭に来るのよ。やっぱり、普段は我慢してたのかな。我慢せずに、突っかかって来
ればいいのに。って、出来ないわよね、アイツには。シンジは誰にでも優しいし。
でも、誰かに優しくしてるのを見ると嫌な気分になるのってなんでだろう・・・。
シンジの優しさを一人占めしたいからかな・・・・・・。なんか、いつもの喧嘩と
違う。なんで、こんなに不安になるんだろう・・・。いつもは、こうじゃないのに。
いつもは、アタシが怒って、シンジも・・・。そういえば、たまに言い返してくる
けど、ほとんどアタシ一人で怒って、アタシ一人で不機嫌になってるんだっけ。少
し時間が経つと、シンジが謝りに来て・・・。アタシが悪いのに・・・。シンジ
が・・・。でも、いなくなっちゃたよ・・・。どうしよう・・・。)
「シンジ・・・。」
そうつぶやくと、一筋の涙が流れる。
(そう、アタシが謝らないと・・・。明日、謝ろう・・・。)
決心すると心の中が軽くなり、しばらくして夢の世界へと入っていった。
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年代ものの団地郡。そこに住む人は少ないだろう。
その団地の中のひと部屋に綾波レイは住んでいる。
「入って。」
「うん。お邪魔します・・・。」
ベッドと小さなタンスと冷蔵庫。相変わらずの殺風景な部屋。
シンジが、この部屋を訪れるのは何回目だろうか・・・。
レイは、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してシンジに差し出す。
「はい。」
「あ、ありがとう。」
そして、途中のコンビニで買ってきた弁当を二つ取り出して、その一つをシンジへ
差し出す。
「食べて。」
「いや、もう夕食は食べたんだよ。」
「・・・そう。」
それを聞くと、レイは、シンジの分は袋へ入れてベッドに腰掛けて食べ始める。
ゆっくりではあるが、無心で食べている・・・ように見える。
シンジは、椅子に腰掛けて、そんなレイを見つめている。
レイは、一息つく。シンジが自分を見ていることに気付と、なぜだか自然に頬が赤
くなってしまう。
「・・・どうしたの?」
「あ、ごめん。じっと見てられると食べにくいよね。・・・綾波って、いつもそうい
うのを食べてるのかなって思って。」
「そうよ。」
「そういうのばかり食べてると栄養が偏って体に良くないよ。」
「・・・いいの。」
レイには、自分の肉体に対する執着はないため、その手の健康保持に対しても無関
心になるのは当然だろう。もう、変わりは無いのに・・・。
「よくないよ!もっと自分の体を大切にしないと。」
力を込めて言うシンジの言葉と姿を見て、更に頬を赤くした。そんな自分に戸惑い
ながら、レイは再び食べ始める。
シンジは、それを見ると、所作無げに辺りを見回すが、ふと、時計が目に泊まる。
時計の針は、10時を差そうとしている。
(アスカ、明日大丈夫かな。自分で起きられるのかな。)
と、そのとき、あることに気付く。
「あ、しまった!!」
「どうしたの?」
「カバンと教科書を持ってくるのを忘れた。学生服は持ってきてるのに。」
「明日、昼にでも取りに行ったら?」
「そうだね。どうせだから、明日は学校を休んで、ついでに申請をしてこようかな。」
「申請?」
「宿舎の申請だよ。」
「・・・ここには住まないの?」
レイの顔に寂しさの表情が浮かぶ。
シンジは、そんなレイの表情に戸惑いを覚えるが、
「・・・だって・・・いつまでも厄介になるわけには・・・。」
「いいの、構わない。・・・学校も遠くにならなくて済むでしょ?」
「そうれはそうだけど・・・。でも、女の子のところに住むのは、まずいんじゃない
かなって思って。」
「・・・・・・あの人とは一緒に住んでたのに・・・。」
「あの人・・・あ、アスカか。・・・よく考えたら、そうだね。綾波が、いいって言
うのなら、少しの間、甘えようかな。」
「・・・。(少しの間・・・)」
(よく考えたら、アスカと暮らしてて・・・。全然、そんな意識をしたことがなかっ
たな。そういえば、アスカは、夕食とかどうするんだろう。お風呂の入れ方が分か
るかな。・・・・・・なんで、アスカの心配をしてるんだろう。つくづく、僕って
お人好しだな。)
「・・・・・・君。・・・碇君。」
「あ、何?」
考え事をしていて、レイが呼び掛けていたことに気付かなかったようだ。
レイは、いつのまにか食事を終えていた。
「私、先にシャワーを浴びるから。」
「うん。」
レイは、シャワーを浴びながら考える。
(私、なぜ、あんなことを言ったの?碇君を引き止めたいから?碇君と暮らしたいか
ら?そう、私は、碇君と一緒に暮らしたい。・・・一緒に・・・。碇君と一緒にな
りたいから。一緒に暮らしていれば、碇君と一緒になれる・・・。そう・・・一緒
に・・・。)
何気なくシンジが言った、さきほどの言葉が思い出される。
(『少しの間』・・・碇君は、そう言ってた。私は、ずっといてくれていいと思って
言ったのに・・・。碇君は、ずっといるつもりがないの?なぜ?今まで、あの人と
いたのに、私といてくれないのは、なぜ?・・・。私とあの人と何が違うの?)
一方、シンジは・・・。
(そういえば、初めてココに来たときは、綾波がシャワーを浴びて出てきたんだっけ。
あの時、綾波は・・・。)
思わず顔が赤くなってしまう。あのときは、レイは自分が来ていたことを知らなか
ったから、あの姿で出てきてしまったのだろうと、シンジは思っていた。
シャワールームのドアの開く音がしたので、そちらを向く。レイが出てきた。
あのときと同じ格好で・・・。
「あぁっ!!・・・綾波・・・ちょっと・・・。」
シンジは、赤くなりながら慌てて後ろを向く。
「・・・どうしたの?」
「どうしたのって・・・だって・・・そんな格好で出てきちゃダメだよ。」
「なぜ?」
「な、なぜって・・・僕がいるからに決まってるじゃないか。」
「私は、いつも、これでこのまま寝てるわ。」
「いや、そりゃ、独りのときはそれでいいかもしれないけど、い、今は、僕がいるじゃ
ないか!」
「碇君がいるとダメなの?」
「そ、そうだよ。・・・あの・・・恥ずかしいじゃないか。」
「恥ずかしい・・・分からないわ。」
「と、とにかく、裸でいられると、僕が困るからさ。・・・服、服を着てくれる?」
「そう。碇君が困るのなら、そうするわ。」
「うん。じゃぁ、あの、僕もシャワー浴びてくるから。」
そう言うと、シンジは目を伏せながら滑り込むようにしてシャワールームへ入って
いった。
しばらくして、シンジが出てきた。
レイはベッドに腰掛けて本を読んでいる。制服を着て・・・。
「あれ?制服・・・。」
「服は、これしか無いから・・・。」
「え?制服しかないの。でも、寝難いんじゃない?・・・そうだ、体操服でも着たら
どうかな・・・。」
「そうね、そうする。」
そう言うと、レイは、おもむろに制服を脱ぎ始める。
「あっ!!」
慌てて後ろを向くシンジ。
(確かに、独りで暮らしていれば、恥ずかしいとかいう感情も学べないよな・・・。)
しばらくして着替えおわったレイが、
「碇君、もう、寝ましょ。」
「そうだね。じゃ、おやすみ。」
「・・・お、おやすみ・・・。」
『おやすみ』。レイにとっては、初めて使う言葉。
シンジは、さすがに何も無い床では寝転べないので、壁にもたれ掛かって寝ること
にした。
「?・・・碇君、寝ないの?」
「いや、ここで寝るから。」
「大丈夫。二人で寝れるわ。」
レイは、ベッドの開いている部分に手を置いて言う。
「いや、僕は、これでいいよ。」
「そう・・・。」
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみ。」
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朝・・・。
「んん〜〜っ・・・。(自分で目が覚めるなんて珍しいな。何時だろう・・・。)」
アスカは、おもむろに腕を伸ばして、枕もとの時計をとり眺める。
「??・・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!寝過ごしちゃったじゃない!
シンジのやつ、なにやってるのよ!!・・・・・・あ・・・そうか・・・。」
シンジは出て行ったのだと再認識する。
「今日は、謝らなきゃ・・・。って、早くしないと遅刻しちゃう。」
顔を洗い、歯を磨いて、髪を梳かし、制服に着替えて、ダッシュで駆けていく。
(謝っても許してもらえなかったらどうしよう。無視されたらどうしよう。あれだけ
怒ってたから・・・。それに、どんな顔して会えばいいのかな・・・。ちゃんと謝
れるのかな・・・。)
距離が進につれ不安は増していき、足取りが重くなっていく。
しかし、自分に言い聞かせるように呟く。
「いいえ、大丈夫!シンジは優しいから許してくれる。だから・・・だから、とにか
く謝ろう。心を込めて謝れば、分かってくれるわ!!」
再び、駆け出していく。
校門を抜け、教室へ辿り着いた。遅刻は免れたようだ。
そして、教室を見渡す・・・。
(いない・・・。シンジがまだ来てない。もう、HRの時間なのに。)
やがて、担任の教師が現れ、HRが始まる。
(どうしたんだろう。どこに行っちゃったのよ。昨日の夜はどうしたのかな・・・。
まさか、野宿でもしたんじゃ・・・。)
「アスカ・・・アスカ!!」
ヒカリが呼んでいるのに気付いた。
「あ、ヒカリ。なに?」
「先生が呼んでるわよ。」
「え?あ、先生、なんですか?」
「惣流、碇はどうした?」
「あ・・・あの・・・シンジは・・・・・・風邪で・・・そう、風邪で休みです。」
「そうか。碇は、風邪で欠席・・・と。じゃ、HRを終わります。」
まさか、喧嘩したので家出をしました。なんてことは言えない。アスカは、悲しげ
な表情を浮かべ俯く。
「ねぇ、アスカ。碇君は大丈夫なの?」
「あ、ヒカリ・・・。うん・・・大丈夫だよ。・・・軽い風邪みたいだし。」
でまかせを言うアスカ。罪悪感が心を痛める。
「じゃ、きっと明日は出てこられるわね。」
「うん。」
(そうよ。明日になれば、出てくるわよね。)
そんなアスカを、レイは見つめていた。
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昼休みになり、昼食の時間となる。
アスカは、パンを買ってきてヒカリのところへ来た。
「ヒカリ、おまたせ。」
「じゃ、食べましょ。」
アスカは、パンの袋を開け、一口食べる。
「・・・。」
二口、三口・・・
(おいしくない・・・。)
シンジの弁当に慣れて舌が肥えているのもあるし、なにより、不安と寂しさが、そ
う感じさせている。
ふと、ヒカリを見ると、クスクスと笑っている。
「なに?」
「だって、アスカって、すごく寂しそうに食べてるんだもん。そうよねぇ、やっぱり、
碇君の作ってくれたお弁当じゃないとねぇ。」
冷やかし半分に言う。こうやって冷やかすと、アスカは必死になって否定する・・・
はずなのに、今日のアスカは違った。何も言わずに、ひとつ目のパンを半分ほど食べ
ただけで袋へ戻した。
「・・・。」
「アスカ・・・どうしたの?」
「もう、いらない。」
「気分でも悪いの?碇君の風邪が移ったのかな・・・。」
「違うの・・・。」
「何か心配事でもあるの。」
アスカの肩が微かに反応する。
「もしかして、碇君の風邪って重いの?」
親友のヒカリをこれ以上騙すわけにもいかないので、周りに聞こえないないよう、
小声で話す。
「・・・ヒカリ・・・ホントはね・・・・・・違うの。」
「なにが違うの?」
「ホントは・・・喧嘩したの・・・。」
「え?喧嘩?碇君と?」
「そう・・・。アイツ、昨日の夜・・・出てったの・・・。アタシが怒らせて・・・」
絞り出すように話すと、そのまま肩を震わせながら俯いた。
「出てったって・・・。どこに行ったの?」
「わからない・・・。」
ヒカリも、このときばかりは委員長である前に、一人の恋する乙女なので、アスカ
の心配な気持ちは良く分かる。
「アスカ、碇君を探しに行きなさいよ。」
「でも・・・。」
「無理しなくていいのよ。先生には適当に言っておくから。」
「ありがとう、ヒカリ。」
そう言うと、アスカは、カバンを持って学校を後にした。
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「シンジはどこに行ったんだろう・・・。とりあえず、めぼしい所をシラミ潰しに探
して・・・。」
と、自分のマンションの建物が見えたとき、細身の少年が出てきた。
(あ、シンジ!!)
とっさに身を隠す。よく見ると、手にカバンを持っている。
(アタシったら、隠れてどうするのよ。・・・でも、アイツ、何しに来たんだろう。
あ、カバンと教科書を取りに来たのか・・・。それで、休んだのね。そんなことで
休むなんて、とんでもないヤツね。まったく、人の気も知らないで。)
シンジの姿を見たとたんに安心してしまい、重要なことが頭の奥へ引き込んでしま
う。
(どこに行くんだろう。)
アスカはシンジの後をつけて行く。
(それにしても、こんなに簡単にシンジを見つけちゃうなんて。やっぱり、アタシの
日頃の行いが良いからだわ。)
やがて、シンジは団地群の中の一つへ入っていった。
(なによ、ここ。ボロボロの団地じゃない。ほとんど人が住んでないみたいだし。
まさか、いくらボロだからって、不法居住してるんじゃないでしょうね。)
シンジが建物の中の一室に入っていったのを確認すると、その部屋の前まで来る。
(ふ〜ん、ここにいるのか。居場所さえ分かれば簡単ね。こんなボロい団地に暮らし
ていれば、そのうちアタシが恋しくなって帰ってくるわ。さ、帰ろっと。)
すっかり、自分とシンジの立場が擦り変わった思考をしてしまっている。
アスカは、シンジの居場所が分かって安心しきっていた。
去り際に、ふと表札へ目をやる。
アスカは、表札に書かれている名前を見て愕然とする。
[ 綾 波 ]
「!!!」
(そんな・・・・・・。)
あまりの衝撃に、何も考えられない。周りの時間の流れから、自分だけが取り残さ
れる。血が全身を駆け巡り、地に足が着いていないようだ。
アスカは、すぐにその場から去った。これ以上、あの場所にいると、ドアを開けて
しまう。ドアを開ければシンジの姿を見ることになる。レイの部屋にいるシンジを。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。涙が頬を伝って流れ落ちていく。それに構
わず、ひたすら走り続けた。疲れを感じている余裕すらない。
一刻も早く遠ざかりたかった。あの場所から・・・シンジがレイの部屋へ入ってい
った現実から・・・。
(そんなバカな・・・。信じられない・・・。夢よ。そうだ、夢だわ。単なる質の悪
い夢・・・。そうに違いない。起きなきゃ・・・。早く起きて目を覚まさなきゃ。
早く覚めてよ!!)
涙に濡れて視界が悪くなっているにも関らず走っている。しかも、足元に対する注
意など払っている余裕など無い。
アスカは、つまづき倒れた。
(痛い・・・・・・。)
涙が乾いた路面を濡らす。濡れた部分は広がるばかりで、乾くことがない。
(痛い・・・。痛いよ・・・。こんなに痛いのに夢から覚めない。)
その痛みは、アスカが見たものが夢ではなく現実のものであるということを、容赦
なく刻み付けるだけであった。
アスカは、涙を拭くと、ゆっくりと立ち上がり歩き出した。
(ファーストの所にいたなんて。あの女の所に・・・。あの女、学校に来てた。なの
に、何も言わなかった・・・。あの女が、いちいちそんなことを言うわけないか。
でも、何で、シンジがあの女の所に行くのよ。・・・シンジは、やっぱりあの女の
ことが・・・)
シンジとレイは、アスカが日本に来た以前から時間を共にしていた。
シンジがレイのことを意識しているの分かるが、シンジの態度からは『レイのこと
が好きだ』ということは読み取れなかった。それでも、もしかして・・・、と思うこ
とは何回もあった。
だが、今は違う。『もしかして』ではなく『やはり』。この二つの言葉の間の違い
は大きい。
(シンジが、アタシの元から離れて、あの女の所に行った。・・・シンジは、あの女
のことが・・・・・・・・・好き・・・だから・・・。そうよね。当然よね。アタ
シみたいな文句しか言わない女より、あの女の方を好きになるのは当然よね。結局、
アタシは相手にされていなかっただけ・・・。)
どこをどう歩いてきたのだろうか。気がつくと自分の家のドアの前にいた。
ドアを開け、中へ入る。
いつもなら、「ただいま」と言うのだが、今は口には出せない。自分で自分を苦し
めるだけ、ただ辛いだけ・・・。シンジの返事は返ってこないから・・・。
無言のまま上がり、自分の部屋へ行き、そのままベッドに横になる。
(アタシは相手にされてなかった・・・。前にヒカリが言ってたっけ・・・。)
『アスカは碇君に構って欲しくてしかたがないのよね。』
(あのときは、そんなことないって思ってたけど。ヒカリの言う通り、構って欲しか
ったのか。だからいつも、からかったり怒ったりして・・・。でも、シンジは軽く
受け流して、一方通行だった。こんなことなら、早く気付けば良かった・・・。そ
うすれば、シンジに言えてたかもしれないのに・・・。)
辺りは薄暗くなっている。あの衝撃の瞬間から、アスカだけが時間から取り残され
ていたが、やっと自分の時間を取り戻すことが出来るようになってきた。
「もう、こんな時間か。食欲無いな・・・。」
起き上がり、シャワーを浴びるために浴室へ入る。
蛇口をひねると、勢いよくお湯が飛び出す。
シャワーの音は、アスカを無心にさせてくれた。無心のまま、機械のように髪を洗
い体を洗う。
しかし、シャワーの音は、アスカの気持ちを紛らわしたり、洗い流したりはしない。
ただ、悩むことを中断する手助けをしただけにすぎない。
アスカは、蛇口を閉め、シャワーを止める。
(心の中に冷たい風が吹いてるみたい・・・。きっと、心に穴が開くって、こういう
ことを言うのね。)
再び部屋に戻り、ベッドに寝転ぶ。
もう、何もする気が起きない。
(いつかは、シンジと離れるときが来る。考えてみれば当たり前のこと。でも、今ま
で、そんなことを考えたことが無かった。考えたくなかったからかな。シンジと一
緒にいたから安心してただけ。安心感にかまけて、そんな恐いことを考えることか
ら逃げてただけ・・・。)
夜は刻々と深けていく。
「ただいま。」
ミサトの声。
ミサトがアスカの部屋へ近づいてくる。
「アスカ、起きてる?」
「・・・。」
アスカは答えない。
「開けるわよ。」
戸を開けてミサトが入ってくる。アスカはミサトのほうは見ない。
「なに?」
「やっぱり、起きてたのね。」
「ミサト・・・、シンジがどこにいるか知ってる?」
アスカは、わざと聞いてみる。なぜそうしたのかは、自分でも分からない。
「さ、さぁ・・・。知らないわ。」
「そう・・・。」
嘘。昼間、シンジから電話があって、ミサトは知っているのだ。レイの所にいるこ
とを。
シンジが電話で、しきりにアスカの心配をしていたことを言おうと思っていた。し
かし、それを話すには、シンジが今、レイに所にいることも告げなければならない。
アスカの様子を見たら、そのことを言うことなど出来なかった。
「アスカ、シンジ君は戻ってくるわよ。だから、元気を出しなさい。」
「アイツが戻ってくるわけないでしょ。」
「シンジ君は優しいから、謝れば許してくれるわ。」
「何が優しいのよ!アイツは・・・アイツは・・・・・・。謝ったって無駄よ!!」
「意地を張るのは止めなさい!そうやってばかりいると、本当にシンジ君はアナタか
ら離れていってしまうのよ。」
「・・・。」
「明日、学校に行きなさいよ。」
そう言うと、ミサトは部屋から出ていった。
(意地を張るな・・・。言われなくたって分かってるわよ。わかってるけど・・・。
もう、シンジは離れていってしまったのに・・・。)
涙は枯れてしまったのか、もう出てこない。
(学校か・・・。行きたくないな。休もうかな・・・。)
授業を受けているシンジの姿が浮かぶ。アスカは、そんなシンジの姿を見続けてい
たから。
しかし、もう一人の少女の姿が浮かんでくる。
(アタシが学校に行かなかったら、あの女は笑うんだわ。あの女に笑われる。そんな
の嫌。そんなこと許せない。そんなこと・・・させない!)
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レイの部屋。
シンジは夕食の準備をしている。
ガチャ・・・・・・バタン。
レイが帰ってきた。
「あ、綾波、おかえり。」
「・・・ただいま・・・。」
レイは、そのまま部屋へ入ろうとしたが、動きを止める。
いつもと違う・・・。
床が奇麗になっているのだ。それは、昼間、シンジが掃除をしておいたのだ。
レイは、シンジの靴の隣で自分の靴を脱いで入っていった。
部屋には、小さなテーブルが置いてある。
「・・・碇君・・・これ・・・。」
「あ、テーブルが無いとご飯が食べにくいだろ?買ってきたんだ。」
「そう・・・。」
「夕食を作ってるんだけど、まだ時間が掛かるから待っててね。」
「うん。」
レイは、テーブルの横に座り、料理をするシンジを見つめる。
(碇君・・・。私の部屋にいる。嬉しい気持ち。なにか安心する気持ち。このまま、
ずっと碇君を見ていたい。・・・碇君に触れたい・・・。)
レイは立ち上がり、シンジに近づいていく。
そして、鍋を掻き回すシンジの両肩に自分の両手を置き、首筋へ頬を重ねる。
無意識の行動だった。
「うわぁ!・・・あ、綾波・・・。なに?ど、どうしたの?」
レイは、シンジの声にハッとなり、慌てて離れる。
「あ・・・ごめんなさい。」
「驚いたよ。で、どうかした?」
「あの・・・私も・・・手伝う。」
「ありがと。え〜と、そうだ、キャベツを千切りにしてくれるかな。」
「千切り?」
「うん。こうやって半分に切って、端から・・・こういうふうに。」
「うん、わかった。」
レイは、ゆっくりと切っていく。
「碇君、後はどうするの?」
「あ、出来たんだね。じゃぁ、ザルに入れて水で洗ってから、皿に盛り付けて。」
「はい。」
レイは、シンジに言われた通り、洗って皿に盛り付けていく。
顔には笑みがこぼれている。
『幸せ』という感情。レイには、それがどういう状態をいうのか分からない。しか
し、今のレイの心を満たしている未知の感情は、その『幸せ』であるのは間違いない。
「碇君、次は何をすればいいの?」
「この鍋が沸騰したら、この溶き卵を入れてくれるかな。で、その後、また沸騰した
ら、すぐに火を止めてね。」
「はい。」
「・・・・・・。」
シンジは、レイの顔に目を奪われる。
「碇君、どうしたの?」
「あ、いや、綾波が、すごく楽しそうな顔してるから。そんなに楽しそうな顔を見た
の初めてだなって思って・・・。」
「だって、私・・・楽しいもの。」
「そう。よかった。」
シンジは、レイが料理の楽しさを知ってくれて嬉しかったのだが、レイは少し違う。
シンジと一緒に料理をすることが楽しいのだ。
夕食の準備が終わり、テーブルに向かい合って座る。
「いただきます。」
「・・・いただきます。」
初めての言葉。シンジが来てから、いくつもの初めて使う言葉を口にしている。
「おいしい。」
「そう。よかった。綾波も手伝ってくれたしね。」
その言葉に、レイは頬を染める。
「明日は、綾波のお弁当も作るからね。」
「・・・うん。」
レイは微笑みながら肯く。
しばらく、会話もなく食べ続けていたが、シンジが口を開く。
「あの・・・綾波・・・。」
「なに?」
「・・・えっと・・・その・・・アスカは・・・遅刻しなかった?」
「ちゃんと来てたわ。」
「そう。」
シンジは、ホッと安心した顔をする。レイから笑みが消える。
「で、どんな感じだったかな?・・・その・・・不機嫌そうだったとか・・・。」
「分からない。」
「そう・・・。そうだよね。」
「あの人のことが気になるの?」
「え?・・・いや・・・。」
「喧嘩・・・したんでしょ?なぜ、あの人のことを気にするの?」
「そうだね・・・。僕って変だね・・・。」
なにやら、気まずい空気が漂う。
シンジは、静かなのは好きだが、このような気まずさがあると話は別である。まぁ、
誰でもそうであるが・・・。
「綾波ってさ、夜は何してるの?TVとかが無いけど・・・。」
「本を読んでる。」
「ふ〜ん。いつも本を読んでるよね。本が好きなんだね。」
「いろんなことが分かるから。」
本は知識を与えてくれる。だが、それは単なる知識でしかない。
様々な感情を表わす言葉は、知識として知ってはいても、実際にどのような状態を
差すのかまでは教えてくれない。
夕食が終わり、食器を片付け、シンジは食器を洗い始める。
「私も手伝う。」
「あ、いいよ。少ないから。」
「お願い、手伝わせて。」
「そう。じゃ、お願いしようかな。」
こうしてシンジと同じことをして同じ時間を共有する。
レイの心を何かが満たしている。
(碇君と一緒。・・・うれしい。)
洗い物はすぐに終わった。
「おかげで早く終わったよ。ありがと、綾波。」
「私こそ、ありがとう。」
レイは頬を染める。
一息ついた後、シンジが、
「綾波、先にシャワーを浴びてきたら?」
「・・・碇君、一緒に入ろ。」
「なっ!!・・・なに言ってるの。だ、ダメだよ・・・そんな・・・。」
「なぜ?」
「なぜって、昨日も言ったじゃないか。そんな・・・恥ずかしいよ。」
「そう・・・わかったわ。」
「ちゃんと、服を着てから出てきてね。」
レイは残念そうな顔をして浴室へ入っていった。
(あせった。綾波って、もしかして僕をからかってるのかな・・・。でも、綾波が人
をからかうなんて考えられないし。なんで、一緒に入りたがったんだろう・・・。
分からないな。)
鈍感なシンジには、直接言わない限り永遠に分からないだろう。
そして、シンジは、時計に目をやる。
(アスカ、今頃何してるんだろう。夕食は、ちゃんとしたものを食べたのかな・・・。
昼間、帰ったときに作って置いておけばよかったな。あれ・・・こんなこと考える
なんて、つくづくお人好しだな。喧嘩したときはホントに頭にきてたけど、今はそ
うでもないし。謝っちゃおうかな。でも、許してくれそうもないし。明日の昼は弁
当を作って渡すから、そのときに謝って・・・。でも、受け取ってくれなかったら。
あれだけの喧嘩をして出てきたから難しいし。)
シンジは、綾波の弁当箱を買うとき、やっぱりアスカの分も・・・ということで、
余分に買っていた。アスカはパンが嫌みたいだから、アスカの分も作るために、なん
となく買った。
(謝るべきなのかな。でも、ここで謝ったら、一生頭が上がらなくなるような気がす
る。・・・一生?・・・そうか、別にアスカとずっといるわけじゃないんだ。いつ
かは・・・。あれ?こういうこと考えると恐くなるな。なんでかな・・・。でも、
いつかは・・・。)
レイが出てきた。シンジは気がつかない。
時計を見つめているシンジを見る。
「・・・・・・・・・碇君。」
シンジは、ビクッと反応する。
「あ、出たんだね。じゃ、僕も入ってくるよ。」
「・・・。」
レイは、浴室へ入っていくシンジを目で追っていた。
(碇君・・・。あの人のことを考えていたのね。なぜ、あの人のことを気にするの?
私といるのに、あの人のことを考えるのは、なぜなの?私は碇君のことしか考えて
いないのに・・・。)
レイはベッドに横になる。
(碇君は寂しそうな顔をしていた。私といるのに、なにか寂しそう。碇君は、いつも
あの人のことを考えているの?そんなの嫌。でも、碇君が寂しそうにしているのを
見るのは、もっと嫌。どうすればいいの?私は、どうすればいいの?私とあの人と
何が違うの?)
シンジが出てきた。
「あれ?もう寝るの?」
「ええ。することないもの。」
「そうか、早く寝るから学校に来るのが早いんだね。」
「早い・・・。目が覚めたら学校に行くから。」
「そうか。じゃ、僕も寝ようかな。」
シンジは、昼に買ってきた寝袋を用意しだす。
「碇君・・・ここで寝て。」
昨日と同じように、ベッドの半分を開ける。
「いや、これを買ってきたから大丈夫だよ。」
「お願い、ここで寝て。」
レイは、口調を強めてシンジを直視する。
これでは、無理に断れない。
「うん・・・わかった。」
シンジは、ベッドの半分開いた部分へ入る。
シングルなので、レイと体を触れさせないと寝れない状態だ。
「碇君、おやすみ。」
「おやすみ。」
二人は目を閉じる。
(そういえば、アスカが寝ぼけて僕の布団に入ってきたことがあったっけ。あのとき
は驚いたな・・・。)
シンジは、こんな早い時間に寝れるかどうか分からなかったが、昼間に掃除や買い
物をしていて疲れていたのだろう。ほどなくして、寝息をたてていた。
一方、寝付けないのはレイのほうだった。シンジが間近にいる。その嬉しさで、中々
寝付かれないのだ。
(碇君が側にいる。こんなに近くにいる。)
しばらく、シンジを見つめていたが、体をシンジの方へ向け、シンジの体に手をま
わして自分の体を密着させる。
シンジは既に夢の世界の住人なので反応しない。
(碇君・・・。)
こうしてシンジの体に触れていると心が休まる。
そうして、レイも深い眠りへと入っていった。
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朝。
レイは目を覚ます。
隣に寝ていたはずのシンジがいない。辺りを見渡すと、台所にいた。
「碇君・・・おはよう。」
「おはよう。昨日は早く寝たから、ずいぶん早く目が覚めたよ。」
シンジは、起きたとき、レイが自分に体を密着させていたことに驚いたが、レイを
起こさないようにしてなんとか起き上がった。
そして、朝食と弁当を作り出した。
「もうすぐ、朝ご飯が出来るから待ってて。」
「手伝うわ。」
「じゃ、ご飯と味噌汁をテーブルまで持っていってくれる?」
「はい。」
そして、レイがテーブルへ置くと、シンジが残りのおかずを持ってきた。
「じゃ、食べようか。いただきます。」
「いただきます。」
二人は食べはじめる。
窓から、柔らかい日差しが差し込んでいる。その中での朝食。レイにとっては、初
めての朝食。
朝食も終わり、食器を洗って片づけた。
シンジは弁当を持ってやってくる。
「綾波、昼のお弁当。」
「ありがとう、碇君。」
レイは、シンジの手に弁当箱が2つあるのに気づく。
(2つ・・・。そう、あの人の分なのね。)
あえて聞かなかった。聞けなかった。
「学校に行こうか。」
「うん。」
並んで登校する。シンジにとっては、いつもより早めの登校。
いつもは、アスカにつきあっているので、どうしても遅くなってしまうのだ。
ポツリポツリと会話をしながら歩いていたが、突然、少女の声がする。
「あ!!碇君・・・。」
聞き覚えのある声に、シンジは後ろを振り向く。
「あ、洞木さん、おはよう。」
「あ、おはよう、碇君。綾波さん・・・。」
「おはよう。」
ヒカリは、シンジがレイと一緒に登校していることが気になったが、親友の問題の
方が重要だった。
「碇君。ちょっと来てくれる。」
「え?なに?」
「いいから。」
「う、うん・・・。綾波、悪いけど先に行っててくれる?」
「わかったわ。」
ヒカリは、シンジを連れて人気の無い所へ行く。
「碇君!アスカから聞いたわよ。」
「・・・そう・・・。」
やっぱり・・・といった表情をする。
「ねぇ、アスカのことを許してあげるってこと、できないかな?」
「・・・。」
「二人の問題に口を出すのは余計なことかもしれないけど、でも、あんなアスカを見
るのは辛くて・・・。」
「辛い?」
「そう。だから、早くいつものアスカに戻って欲しいのよ。」
「そう・・・そんなに機嫌が悪いの・・・。」
「はぁ?・・・(ホントに鈍感ね。アスカに同情するわ。)」
シンジは、『最悪』といった表情をする。ヒカリは呆れてものも言えない。
ヒカリは、いっそのことアスカのシンジに対する気持ちを言ってしまおうかと思っ
たが、そんなことをすると、アスカが意地になってしまい最悪の結果を招く恐れがあ
るので躊躇した。
シンジは溜め息をつきながら、カバンからアスカの分の弁当を取り出す。
「あの、これアスカの弁当なんだけど、僕が渡すと受け取ってくれないだろうから、
洞木さんが作ったことにして渡して欲しいんだけど・・・。」
「でも、これは碇君が・・・。」
ヒカリは、シンジが自分で渡すようにと言おうと思ったが、少し思案を巡らし、
「そうね、わかったわ。ありがとう、碇君。安心したわ。」
そう言うと、ヒカリは走って学校へ行った。
そして、シンジも学校へ向かって歩みを始めた。
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教室に着く。
まだ、早めの時間なので、アスカの姿はなかった。
レイは既に座っており、本を読んでいた。
シンジは、自分の席へ行き座る。
「よう、シンジ。風邪は、治ったようやな。」
後ろからトウジが声をかける。
シンジは何の事だろうといった表情で振り向く。
「は?風邪?」
それを見たヒカリは、ハッとなってトウジの所へ駆け寄る。
「鈴原!アンタ、週番でしょ!!日誌は持ってきたの?」
「まだ早いから、ええやないか。」
「ダメよ。そうやって、すぐに忘れるんだから。いいから早く持ってきなさい!!」
「しゃぁないなぁ。ほな、取りに行くわ。」
そして、ヒカリはシンジのところへ行き、小声で話す。
「碇君は、昨日は風邪で休んだことになってるから。」
「あ、そういうことだったの。分かったよ。」
シンジは片肘で頬杖をつく。
何気なく窓の外を眺めていたが、レイが横目でこちらを見ているのに気付く。
レイは、シンジが自分に気付いたのが分かると、目を逸らして前を向いた。
(そういえば、最近、綾波と目が合うことが多いな。始めの頃は、外しか見てなかっ
たのに、最近は教室の中に目を向けるようになってる。変わってきたんだな。)
ガタン!
シンジの右斜め後ろの席の椅子が引かれる音がした。
アスカだ。
シンジの体が強ばる。振り返ることが出来ない。
「あ、アスカ、おはよう。」
「おはよう、ヒカリ。」
アスカにヒカリが声をかけている。
ヒカリは、シンジとアスカの間に張り詰める緊張した雰囲気にたじろぎながらも、
場を和まそうと勤める。
「あの、アスカ。今日は、余裕の登校だね。」
「当然よ!アタシは、ちゃんと自分で起きてるんだから。」
「そ、そう・・・。あ、そうだ、昨日のTVのドラマ、見た?」
「えぇ、見たわよ。ホント、一人だと、ゆっくり見れていいわ。」
「そうなの・・・。」
「あぁ、一人だと気楽でいいわね。うっとおしい邪魔者はいないしさ。」
「そ、そういえば、おいしいケーキ屋さんを見つけたから行ってみようか。」
「あ、いいわね。夕食はケーキにでもしようかな。わざとアタシの嫌いなものを食べ
させるヤツがいないから、好きなものを食べれて満足できるわね。」
「アスカ・・・。」
ヒカリが、いい加減にしなさい、という表情で睨むと、アスカは目を逸らす。
シンジは相変わらず頬杖を突いたまま。だが、意識は右斜め後ろへ集中している。
ケンスケとトウジがシンジに話し掛ける。
「シンジ、なんか、いつもの喧嘩と雰囲気が違うけど、どうしたんだよ。」
「そやそや。シンジも、なんや知らんけど、後ろ向かんと無視しとるし。」
「べつに・・・そういうわけじゃ・・・。」
「ほなら、後ろ見て文句の一つも言ったれや。男らしゅうないで。」
「鈴原ぁ!!アンタ、ちょっと黙ってなさいよ!!」
「なんや、委員長。そないに、怒らんでもええやないか。」
アスカがシンジのほうを見て口を開く。
「鈴原の言う通りよ。アタシはうるさいでしょ。だったら、言ってみなさいよ。こっ
ちを向いて言いなさいよ。」
「アスカ、そんな言い方・・・」
「ヒカリ、悪いけど黙ってて。」
このアスカの口調と態度で、今まで以上に緊張が高まる。周りにいるヒカリたちは
声を出せない。
アスカは、レイがこちらを見ていることを知っている。シンジが自分の問いかけに
反応して自分のほうを見るかどうか試したかった。
しかし、シンジは、両腕を机の上で組み、ややうつむき加減で動こうとしない。
「どうしたのよ。こっちを向いて言ってみなさいよ。この前みたいに『うるさい』ってね。」
(なんで、アタシのほうに向いてくれないのよ。シンジ、こっちを見てよ。こっちを見て『うるさい』って言えば、アタシは謝れるのに・・・。)
「・・・・・・・・・。」
(なんでだよ。なんで、そんなことを言うんだよ。そんなことを言うためだけに、アスカのほうを見るなんて出来ないじゃないか。)
レイは、そんな二人の様子を見つめ続ける。
(碇君が苦しんでる。あの人の言う通りにしないのは・・・あの人との関係が壊れるのが恐いから。だから、辛いのね。・・・私じゃダメなのね。碇君は、あの人のことが・・・。)
担任の教師が入ってきた。HRの時間だ。
(シンジ・・・。こっちを見てくれなかった・・・。)
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結局、アスカとシンジは目を合わせないまま昼休みとなった。
「アスカ、はい、お弁当。」
「あ、ヒカリ・・・。作ってくれたの。ありがとう。」
「じゃ、屋上に食べに行こうか。」
「うん。」
アスカとヒカリは屋上へ向かう。
「ねぇ、アスカ。朝のことなんだけど。・・・あれは、ちょっと酷いんじゃない?」
「・・・・・・シンジが言う通りにしてくれたら・・・謝ろうと思ってたの。」
「・・・そうだったの・・・。」
「でも・・・シンジは向いてくれなかった。」
「アスカらしいやり方・・・って言いたいけど、自分で自分を苦しめてるだけなのよ。
もう少し素直にならなきゃダメなのよ。」
「もう、いいのよ。シンジはアタシのことなんて、なんとも思ってないんだし。」
「なに言ってるのよ!そんなことないわ。」
「アイツ、出てってすぐにファーストの所に行ったんだから。」
「えぇ!!・・・あ、だから、朝、綾波さんと一緒に・・・。」
「・・・。」
「あ、あの・・・碇君も、なにか事情があったのよ、きっと・・・。」
「ファーストが好きだっていう事情があるからよ。」
「・・・さ、座ってたべましょ。」
二人は弁当を食べ始める。
「でもさ、碇君は、アスカのことが好きなんだと思うけどな・・・。」
「なんでよ。アイツは、朝、あの女を見てたからアタシのほうを向かなかったのよ。」
「そ、それは、アスカの思い過ごしよ。」
「間違いないわ!」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
少しの間、沈黙が走る。
ヒカリは、アスカが弁当を食べているのを見る。アスカの箸が止まらないことを見
ると、
「アスカ、今日は、食欲があるみたいね。」
「うん。おいしいだもん。ありがと、ヒカリ。」
「そう、そんなに、おいしいの。」
「うん。さすがよねぇ。アタシの口にピッタリと合うもん。」
「そう、アスカの口に合うの。」
「うん。これから毎日作ってくれると嬉しいな。」
「そう、毎日食べたいの。」
「うん。」
「アスカ・・・それね・・・碇君が作ったのよ。」
アスカの箸が止まる。
「嘘。ヒカリが作ったんでしょ?」
「私は、そんなこと、ひと言も言ってないわよ。」
「・・・。」
「碇君がね、朝、アスカに渡して欲しいって持ってきたのよ。碇君は、アスカのため
に作ってきたのよ。分かる?これが、碇君の気持ちなのよ。もっとも、碇君本人が
自分の気持ちに気付いてないみたいだけど。でも、アスカのことを思ってなきゃ、こんなことはしないわ。」
「・・・・・・・・・シンジ・・・。」
アスカの目から涙が溢れ落ちる。
「さ、全部食べちゃいなさい。残すと碇君が、がっかりするから。」
「・・・うん・・・。」
アスカは再び食べ始める。涙が止まらない。でも、嫌な涙ではない。
アスカが全部食べ終えると、ヒカリが言う。
「アスカ、今なら謝れるでしょ?」
アスカは黙って肯く。
「じゃ、碇君を呼んでくるから。涙を拭いて待ってなさいよ。」
「うん。」
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シンジは弁当を食べおわって一息ついている。
そこへ、ヒカリがやってくる。
「碇君、碇君、ちょっと来て。」
「どうしたの?」
「ちょっと屋上まで付き合って。」
「・・・わかった。」
ヒカリはシンジを連れて屋上へ引き返す。
レイは、しばらくシンジ達の出ていったドアのほうを見ていたが、何かを思い立っ
たように教室を後にした。
シンジは、屋上への階段を上りきると、ヒカリに押し出されるようにして屋上へ出
た。ヒカリはドアの側に立って、二人の様子を見守っている。
シンジは、うつむいて立っているアスカを見つけると、ゆっくりと近づいていく。
「・・・アスカ・・・。」
「・・・。」
しばらく沈黙が続く。
アスカは、両手を強く握り締めると、
「あの・・・・・・お弁当・・・・・・ありがと・・・。」
「そう。・・・食べてくれたんだね。」
「うん。」
「よかった・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」
「アスカ・・・。」
うつむいているアスカの顔から光るものが落ちる。
アスカは、シンジへ飛び込んでいく。
そして、堰を切ったように泣きじゃくりながら言い続けた。
「うっ・・・くっ・・・シンジ、ごめんなさい。許して・・・お願い・・・。」
シンジは、アスカの行動に驚いたが、この言葉を聞くと、そっと抱きしめる。
「アスカ、僕も悪かったよ。」
「違うの。・・・シンジは悪くないの。アタシが・・・アタシが悪いんだから。お願
い、戻ってきて。もう、わがまま言わないから、バカって言わないから・・・。だ
から・・・お願い、戻ってきて。嫌なの。シンジがいないと嫌なの・・・。アタシ、
シンジがいないとダメなの・・・。だから、だから・・・。」
「うん。わかった。家に戻るよ。だから、もう、泣きやんで・・・。」
「シンジ・・・。」
ヒカリは、ホッとして、すっかりもらい泣きしている。
「碇君・・・。」
ヒカリは驚いて振り向くと、レイが立っていた。
レイの目から涙が流れている。
「綾波さん・・・。あなた・・・もしかして・・・。」
「・・・。」
「ごめんなさい。綾波さん・・・。あの、なんて言えばいいのかわからないけど・・・
アスカが落ち込んでいるのを見るのが嫌で・・・。アスカも碇君が好きだから。」
「いいの・・・。碇君も、あの人のことを思ってるもの。」
「綾波さん・・・。」
「私も、碇君が辛そうな顔をするのを見るのが嫌だもの。碇君が笑顔でいられるのな
ら、それでいいの。碇君が笑顔でいれば、私も笑顔でいられるから。そう、碇君が
笑顔ならそれでいいもの。」
「綾波さん・・・。碇君を愛してるのね。」
「・・・愛・・・。」
「そう。自分を犠牲にしてまでも、相手の幸せを一番に考えるのは、愛してるってこ
となのよ。」
目を伏せていたレイは、顔を上げシンジを見つめる。
「私は、碇君を愛してる。」
− 終わり −
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おまけ
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ミサトの自宅。
シンジはリビングでTVを見ている。
「シンジィ、チャンネル変えるわよ。」
「えぇ!今、いいところなんだよ。」
「あ、そ。わかった。」
アスカはシンジの隣へ座る。
(あれ以来、ちょっと大人しくなってくれて嬉しいな。)
ジーーーーーーーー。
アスカが隣でシンジを見ている。
「・・・・・・。」
ジーーーーーーーー。
「あの・・・なに?」
耐え兼ねてシンジが聞く。
「こんな番組を見ててもつまらないから、アンタを見てるの。」
「・・・そうなの・・・。」
再び、シンジはTVのほうへ顔を向ける。
ジーーーーーーーー。
「・・・・・・。」
ジーーーーーーーー。
「・・・・・・。」
シンジは、いたたまれなくなって、
「わかったよ・・・。いいよ、チャンネル変えても。」
「べつにいいのよ。シンジの顔を見てるほうがいいから。」
「え?」
意外な言葉に、シンジはアスカの方を向く。
と、突然、口を塞がれた。
アスカの唇で・・・。
「んんっ・・・。」
突然の出来事に、シンジはパニックを起こす。
アスカが顔を近づけてきたので勢いがついており、シンジは驚きのために仰け反っ
てしまったので、そのまま倒れ込んでしまった。
「シンジ・・・。」
「あ・・・ちょっと・・・。」
アスカが覆い被さっているので、シンジは身動きが取れない。
しばらく見詰め合った後、また、アスカが唇を重ねてきた。
長いキス。
落ち着きを取り戻したシンジは、アスカの背中へ手を回す。
「んん・・・。」
時間を忘れたかのようにキスを楽しむ。
「ただいま・・・・・・あっ!!」
二人は声のした方を向くと、石化したミサトが立っていた。
慌てて二人は離れる。
シンジは真っ赤になって俯いている。
「ミ、ミサト・・・あの・・・ち、違うのよ・・・その・・・。」
「目の前であんなことしといて、いったい何が違うってのよ。確かに二人は前より仲
良くなるだろうとは思ってたけど、そんなに仲良くなるとは思ってなかったわ。
ったく近頃のガキは・・・。」
「な、なに言ってるのよ!ミサトが帰ってくるのがいけないんでしょ!!なんで帰っ
てくるのよ!!」
パニックで訳の分からないことを言うアスカ。
「ここはアタシの家じゃない!帰ってくるのは当たり前でしょうが!!シンちゃん、
アスカに何か言ってやってよ!」
「でも、ミサトさんも電話の一本くらいくれないと・・・。食事の用意もあるし。」
「そ、そうよそうよ!!」
「何よ何よ、二人して!!・・・うぅぅ・・・こんな家、出てってやるぅぅぅ!!」
「ミサト、二度と帰ってこないでね!!」
こうして、ミサトは家出した。
管理人(その他)のコメント
カヲル「ぬう・・・・」
シンジ「どうしたの、カヲル君」
カヲル「いやね、シンジ君が、僕がいなくなった後の世界でなかなからぶらぶなことをしているな、と思ってね」
シンジ「あ、あれは、その・・・・」
カヲル「綾波レイの家で彼女と抱き合い、アスカ君とはちゅーまでして・・・・僕は悲しいよ」
シンジ「はあ?」
カヲル「そう言うことはぜひ僕と・・・・ぐえっ!!」
ぎゅうううううううう!!
シンジ「あ、アスカ!! なにカヲル君の首にロープなんか巻き付けてるの!!」
カヲル「く、く、首が・・・・しまってるよ・・・・ぐううううっ」
アスカ「アンタにこれ以上何かを言わせると、せっかくの作品が台無しよ! さっさと落ちなさい! うりゃあ!!」
ぎゅうううううううう!!
カヲル「お、落ちる前に一言・・・・杉浦さん・・・・分譲住宅への入居、ありがとう・・・・僕は、待っていた・・・・よ・・・・がくっ」
アスカ「やっと落ちたわね。さあ、シンジ、後はもう二人だけ、何をしても邪魔は入らないわよ!!」
シンジ「・・・・アスカ・・・・(汗)」
館玄関へ