シンジ達の演奏は盛大に行われ、大成功のうちに終了した。
 観客はスタンディングオベーション状態で、涙を流しながら盛大な拍手を、
シンジに贈った。
 シンジはその拍手に笑顔で答えたが、シンジの視線は、アスカにしか向けら
れていなかった。アスカもシンジを見ていた。
 人が地球を離れゆく時だというのに、年季の入ったチェロを奏でる彼は、い
つもより格好良く見えたのだ。彼女も感動の涙を流している。
 その涙が、シンジには輝いて見えた。
 拍手が鳴りやむ気配がないため、劇場側は仕方なくゆっくりと幕を下ろした。
幕が下りたった後でも、拍手は鳴りやまなかった。


 すべてが終わった後、アスカはシンジの控え室の前に来ていた。しかし、な かなか入りづらい。演奏し終わったシンジは、少しナーバスになるのだ。  しかし、アスカは決心した様子で、ノックをすると、控え室に入った。 「シンジ……」 「アスカ…どうだった?」 「よかったよ、感動しちゃったんだから…バカ…」  アスカはいきなり涙を流すと、シンジに抱きついた。 「そうか、よかった。ちゃんと感動してくれたんだね」 「もちろんよ…」 「今日の演奏は、アスカの為に弾いたようなものだからね…」 「えっ……」  アスカは素っ頓狂な声を上げると、シンジの顔を見つめた。そして、再び涙 で顔をクシャクシャにすると、シンジの胸元に顔を埋めた。  シンジは、胸元に広がるアスカの涙の温もりを感じて、自分はアスカを愛し、 そして、アスカは僕のことを愛していることを実感していた。  アスカも泣きやみ、落ち着いてきたところで、控え室のドアからノックの音 が聞こえた。そこから現れたのは、目を真っ赤にしたレイだった。 「碇さん、今回の演奏お疲れさまでした。感動しました」 「ありがとう、綾波」 「それでは、次のスケジュールですが……」  アスカは、そこまで聞いて退室した。そして、部屋の横の椅子に腰掛けると 目をつぶって先ほどの演奏を頭の中で反芻した。  シンジがアタシの為に演奏してくれたのは、これで何度目だろう。  数えるほどしか無いことに気がついて、アスカはちょっと寂しくなった。  しかし、そんな事はどうでもよかった。ようは、シンジがアスカの為だけに 演奏したという事だけなのだ。それだけでアスカは満足であり、例え、それが 大勢の観客の前であろうと、その気持ちに変わりはないのである。  丁度その時、シンジとレイが控え室から出てきたのでアスカは立ち上がると、 シンジに満面の微笑みを向けて、腕を組んだ。 「シンジ、ホテルに帰るんでしょ?」 「ごめん、アスカ。これからクィーンベルサイユの人たちと飲みに行くんだ」 「そう……」 「あ、よかったら、アスカも来る?僕はその方が…」 「そうね!」  一瞬、暗い顔を見せたアスカであったが、シンジが素早く気を利かせたため、 すぐに明るい顔になると、絡ませていた腕をさらに密着させた。  シンジは、レイに苦笑いを見せると、ごめんと口だけ動かした。
 会場は、落ち着きのあるレストランだった。VIPルームらしいが、その部 屋は座っているだけで緊張しそうなレストランではなく、綺麗であるが煌びや かではない。ましてや豪華なんていう言葉は似合わないぐらい質素な部屋であ る。そこに急遽椅子を一つ増やしてもらい、みんなが席に着くと、反省会と称 した飲み会が始まった。  最初は、緊迫した空気が流れていたが、メニューも後半になってくると、次 第に飲み会の本性が現れてくる。和やかなムードの中、次から次へと注がれて いくワインを飲んでいるシンジの顔が見る見る赤くなっていくのをアスカは楽 しそうに眺めていた。 「お嬢さん、ちょっといいですか?」  その時、アスカに少し年輩の男性が話しかけてきた。年輩といっても見た目 がそうであって、ゆうに1ヶ月は剃っていないだろう無精髭がなければひょっ としたら若いかもしれない。 「はい、いいですよ。あ、ワイン飲みます?」  なにげにアスカはその男性にワインをすすめた。その男性はワイングラスを アスカに差し出し、アスカはそのワイングラスに持っていたワインを注いだ。 その男性は、リョウジと名乗ると、アスカの隣に座った。丁度レイが座ってい たところだ。レイは、立ったままシンジや他の人たちにお酌をして回っている。 「君は、シンジ君の奥さんなんだって?」 「え、同棲はしていますけど、まだ私たち17歳ですし…」 「でも、いずれするんだろ?結婚」 「はい……シンジは、なんか遠い世界に行っちゃったような気がします」  一瞬だけシンジの方を見ると、アスカは寂しそうにリョウジの方を向いた。 シンジは相変わらず赤い顔をしてワインを飲んでいる。 「寂しいのかい?」 「………多分…でも、シンジにとってチェロは生き甲斐だと思うんです。だか ら、私にはどうすることもできなくて…」 「でも、寂しいんだろう?」 「はい…正直言うと…」 「それじゃ、君もネルフのスタッフになったらどうだろう?」 「えっ!?」  急なことにアスカは、今日2度目の素っ頓狂な声をあげた。  酔っぱらっているのだろうかと、リョウジの顔をじっくりと観察してみるが、 全くその気配はない。 「どういうことですか?」 「なに、簡単なことさ、シンジ君のマネージャーにならないかと言うことだよ」 「なれるんですか?」 「なれるさ、君なら」  リョウジの自信に満ちた顔を見て、アスカは自信がついた。 「わかりました。明日から、いいえ、今日、今からでもシンジのマネージャー をやります!やらせてください!」 「いい返事だ。期待してるよ。惣流…いや、碇アスカ君」 「はい!」  リョウジは、その元気のいい返事を聞くと、満足したのか席を立った。  そして、飲み会は三本締め(笑)で幕を閉じた。  外は、とっくに真っ暗になっていて、冷たい風が頬に当たって気持ちいい。 アスカは、高速タクシーをとめると、泥酔しきったシンジをタクシーに詰め込 んで足早にホテルへ向かった。まぁ、未成年なので流石に2次会、3次会と、 飲み屋をはしごする訳にはいかないであろう。  あっという間に、ホテルに到着したアスカとシンジを迎えてくれたのは、先 ほどのリョウジと、レイであった。後ろには、もう一人女性の人がいる。 「どうしたんですか?」 「帰国だよ。アスカ君。シンジ君には悪いけど、いろいろ手続きがあるんでね」 「もう、帰っちゃうんですか?」 「何かやり残したことでもあるのかい?」  一瞬顔を赤くして俯いて、恥ずかしそうにこう言った。 「おみやげとか…その、友達に…」 「おみやげなら、ほら、これを渡せばいい…」  そう言って、リョウジは紙袋を見せる。  シンジの荷物ももう一人の女性が持っている。いつの間に飲み会の席から姿 を消したのか、レイもしっかり荷物をまとめてバスに乗り込んだ。  何もかも準備は整っているようだ。それを確認したアスカは、シンジをリョ ウジと二人でバスに乗り込ませて、自分は隣に座った。  シンジは既に心地よい寝息を立てており、気持ちよさそうに寝むっている。 「アスカ君、このまま日本に飛ぶよ」 「え?許可とかとってあるんですか?」 「大丈夫。この車は、そんなものはいらないんだ。葛城、頼む」 「わかったわ」  葛城と呼ばれたその女性は、コンソールパネルを操作する。転送先を日本の ジオフロント、ネルフレコードのガレージにあわせると、転送と書かれた赤い スイッチを押した。次の瞬間、バスは闇の中に吸い込まれるように消えた。  ネルフレコードのガレージ。いつもは何もないところに、光が舞い降りる。 そしてその光が雪のように降り注ぎ、バスの形になっていく。光が止むと、ほ んの今までスペインにあったはずのバスがそこに姿を現す。 「はい、到着。シンジ君はそのままにして、アスカ君だけ来てくれるかな?」  リョウジは何もなかったかのようにバスから降りた。葛城と呼ばれた女性も その後を続く。もちろんレイもだ。アスカは信じられない顔を辺りに振りまき ながらバスを降りた。  その後、アスカはすんなりとネルフレコードの社員となり、シンジの専属マ ネージャーとなれたのだ。やけにあっさりなれたことに疑いの眼差しを隠せな かったが、契約書にサインをして、社長の挨拶が終わる頃には、その眼差しも 無くなっていた。  すべての手続きが終わり、自分の家に帰ったアスカはシンジの寝顔を見なが ら気持ちの整理をしていた。  もう後戻りは出来ないわ。シンジ…あなたにずっとついて行くわよ。  シンジのつぶった目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。アスカはその涙を指で すくうと、アスカは目をつぶってシンジに寄り添った。
 博物館の中にゆっくりと音楽が流れている。  その大ホールの中央に今ではここに来ないと見れなくなった、弦楽器が置い てある。そして、その隣には8センチCDが寄り添うように置いてあり、そし て、幸せそうに寄り添う男女が写った写真が置いてある。  よく見ると、プレートがガラスに張ってあり、 ”21世紀最高のチェロ演奏者シンジとその妻子にしてマネージャーアスカ”  と記されている。その下には、 ”この曲を先立ったアスカと世界の人々に贈ります”  と記されてある。ここを訪れるカップルの数は後を絶たないが、ここで流れ ている曲を聴いて、泣かなかったカップルは居ない。そして皆、更に幸せそう に帰っていくのだ。  その博物館からそう離れていない場所に、レイは一人で来ていた。一年に一 度は必ず、この墓地に来るようにしている。  綺麗に飾られた花束を目の前に置くと、目を閉じてお祈りをする。  墓石には、 ”碇シンジ、碇アスカここに眠る”  というものが、5カ国語で記されてある。  レイは、座ったまま、一人つぶやきだした。 「碇さん、アスカさん。私もそろそろそちらに行こうと思っています。そちら では、碇さんの演奏が生で聴けるんでしょ?私はそれが聴きたい。例えそれが アスカさんの為に演奏していたとしても、隠れていてでも聴いていたい」  レイは涙を流しながらつぶやいていた。 「私今、入院中で…抜けてきたんです。だからもうちょっとしたら…」  力無く、その場に横になるレイ。 「ほら、もうすぐ…二人の所に…行くよ…」  目をつむり、息も絶え絶えのレイに二人の天使が舞い降りる。片方は女で、 赤を基調としたローブをまとい、もう片方は、チェロを器用に演奏している男 のようだ。二人はゆっくりと側に降り立つと、レイの顔を優しくなでる。する とレイの体からもう一人、レイが出てくる。 ”碇さん…アスカさん” ”綾波…迎えに来たよ” ”そんなに、私たちの側にいたいのなら、こっちに来ればいいのよ” ”はい、ありがとうございます” ”さぁ、綾波。行こうよ…”  何も言わず、レイは頷く仕草をシンジに向けると、下を向いた。そこには、 冷たくなっていこうとしている自分の姿を見て、さよならと口を動かした。  誰も見ることの出来ないそんな3人の姿は、光が漏れる雲に向かって昇って いく。やがて、雲の隙間に消えていく3人。その後、透き通るようなチェロの 演奏が鳴り響いた。その演奏は、世界各地、宇宙の果てまで響きわたっていっ た。 終劇
作者とチルドレン達のあとがき OHCHAN:ようやく、ようやくです。 アスカ:なぁーんか、すっごい期間が開いているようだけど… OHCHAN:それは言わないでください…仕事が忙しかったんです。 アスカ:それで?どうして急に書き始めたわけ? OHCHAN:それは、24時間テレビに感化されたんですよ。僕も頑張ってみよう!     ってね。 アスカ:ふぅーん… レ イ:OHCHANさん。大円団で終了おめでとうございます。 OHCHAN:ありがとう…レイちゃん。次は、レイちゃんのやつに手をかけようと     思って居るんだ。 シンジ:それってひょっとして、あの猫のやつですか? OHCHAN:そうだよ。そろそろ終わりにするんだけどね。 レ イ:終わりですか?(ギロ) OHCHAN:うっ……でも、ハッピーエンドだから安心して… レ イ:(ジロジロ) OHCHAN:シ、シンジ君。いつの間にか死んじゃってたね… シンジ:は、はい…(いつの間にか、本編の説明に戻ってる) アスカ:私もよ!!!どうして死んでる訳? OHCHAN:えーっと、なんか、そんな風景が思い浮かんだというか、設定がそう     なっていたというか… アスカ:単なる思いつきなのね?んん? OHCHAN:……………パチン!!  その瞬間、チルドレンの足下に亜空間が広がる。 アスカ:あ!こら、また! シンジ:それじゃ、また呼んでくださいね。 レ イ:OHCHANさん、よろしくね(ギロン!キュピン!)  チルドレン達は、亜空間に姿を消した。 OHCHAN:はぁ…さて、次に取りかからなければ…


OHCHANさんへの感想はこ・ち・ら   


管理人(その他)のコメント

カヲル「終わってしまったよ・・・しくしくしく」

アスカ「なにが悲しいのよ・・・ってだいたい答えはわかっているけどね。どーせ自分がこれっぽっちもかけらすらでてこなかったから、っていうんでしょ」

カヲル「うぉぉ! なんでどうしてそのことを!」

アスカ「いーかげんあんたの一辺倒なせりふは聞き飽きたわよ」

カヲル「ま、君はご機嫌なんだからいいんだろうけどね」

アスカ「ご機嫌? ふん、まーシンジのバカがそういうから仕方なく一緒にいただけよ」

レイ 「仕方なくだったら、私に代わってちょうだい」

アスカ「だーめよ。アタシはアタシの道を征くの! アンタに邪魔はさせないわ!」

レイ 「あなたが碇君の邪魔をしてるんじゃないの。その暴力と毒舌で」

アスカ「ぬあんですってぇぇ!!」

レイ 「あなた、天使じゃない」

アスカ「じゃあ何だって言うのよ!」

レイ 「頭に、がつく」

アスカ「むき〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぃ!」

カヲル「ほらほらほら、せっかくのラストに、なに二人でいがみ合ってるのさ」

アスカ「はっ、しまったしまった。ここではキレないと決めていたのに」

レイ 「自制心、足りないのね」

カヲル「だから、そうやってあおらないで・・・汗」

アスカ「ふっ、OHCHAN、ご苦労さんだったわね! 仕事死なないように気を付けなさいよ!」

レイ 「せめて一度 碇君ともっと一緒に・・・」

カヲル「はいはいはい、とりあえず、OHCHANさん、最後まで執筆、ご苦労様でした」



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