神話を作りし者
プロローグ
救急病院に運ばれた少年を見て看護婦は声を上げた。
「オペの準備は?」
「できています」
「先生は?」
手術室の確認をすると太りめの看護婦は聞いた。
「まだです!」
無理もないだろう。午前3時のこの時間におきている医者はまずはいない
「 脈拍落ちています」
「間に合わないか!?早くしなければ!」
・
・
・
・
「またか」
・
「どうして」
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「なぜ」
・
「どうして僕は死なないの」
・
「君はもういないのに・・・」
・
「どうして僕だけ生きてるの」
・
「カヲル君・・・」
・
「けれど、もうすぐ会えるよね」
「先生!このままでは危険です」
若そうな看護婦が声を上げる。
「手首からの出血を止めるんだ」
「輸血が追いつきません」
「出血が多すぎます」
「なぜこの少年はこれほど死のうとするんだ?」
「この一ヶ月でもう12回目です」
「死への執着か・・・」
そう言って医者は少年の左手首を見た。
おびただしい血に隠れた左の手首には13本のナイフの傷が見て取れた。
・ 「違うんだ」 ・ 「君の方が・・・繊細だった」 ・ 「なんで君は・・・敵だったんだ」 ・ 「僕を裏切った」
『好意に値するよ』
「違う」
「違う」
・
・
・
「僕が裏切ったんだ」
・
・
・
「なぜ殺した」
・
・
「本当に?」
「本当にそれだけ?」
「命令だったんだ」
「命令で仕方なく・・・・・」
「仕方なく?」
・
「だから・・・」
・
「殺した・・・」
「結局、自分がかわいいだけだろ?」 「人のせいにすればそれでいいのかい?」 「それで自分に罪が無いと思うのかい?」 「彼はそれで許してくれるのかい?」 「それでいいのかい?」
「みんな満足してる!!
それでいいじゃないか!」
「彼はもう・・・いないんだから」
「思い出は残るさ・・・少なくとも君の中ではね」
「忘れるさ!」
「忘れれば生きて行けるさ!」
「認めようよ」
「わかっているだろう?」
「僕は君さ!」
「君の中の碇シンジ」
「君が認めたくない碇シンジ」
「君は恐れたんだ」
「心の中に入ってこられるのを恐れたんだよ!」
「自分がまだ弱いことを誰かに知られるのを!」
「まだ逃げてる事を知られるのを!」
「逃げてる自分に対する評価を!」
「脅えてる自分を!」
「人に嫌われるのを!」
「自分の居場所が無くなることを!」
「そうだよ」
「恐かったんだ」
「でも・・・」
「カヲル君を殺して戻ってきた時、誰も僕を責めなかった」
「みんな『よくやった』『しょうがない』『つらかったね』しか言わない!」
「『どうして殺したんだ?』って誰も言ってくれなかった!」
「責めて欲しかったのに・・・」
「罵声を浴びた方がまだ良かった」
「友達を殺して何で誉められなくちゃいけないんだよ!」
「『人殺し』ってひとこと言って欲しかった・・・」
「そうすれば苦しまずにすんだ」
「カヲル君・・・」
「僕はまだ生きていなくちゃ駄目なの?」
「残る種族は本当に僕たちなの?」
「本当に君はもういないの?」
「カヲル君・・・」
『歌はいいねえ』
『人との接触を避けているんだね』
『待っていたよ、シンジ君』
『カヲルでいいよ』
『僕にとって生と死は等価値なんだ』
『僕を殺してくれ、シンジ君』
『死こそが絶対的自由なんだ』
『僕にはわからないよ・・・』
・
・
・
・
・
・
・
『君たちは滅ぶべきじゃない』
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・
・
『つまり好きってことさ』
「カヲル君・・・」
「カヲル君・・」
「カヲル君」
「僕もね・・・好きだった」
「わかったんだ」
「僕たちは同じだっていうこと」
「カヲル君は知っていたのかな」
「どっちが死んでも同じだったって言うこと」
「破滅はすぐそこまで来ていること」
「カヲル君が僕に不幸を押しつけるわけないか」
「知らなかったんだろうね」
「僕は一人でなら生き残れるんだ」
「けれど一人で生き残るのなら意味が無い」
「どうすればいい?」
「みんなで死ぬか、一人で生き残るか」
「カヲル君ならどうする?」
「カヲル君なら『君となら死んでもいいさ』って言うのかな」
「それとも『二人で生き残ろう』とか言うのかな?」
「カヲル君?何を怒っているんだい?」
「しょうがないよ!相手が・・・」
「だって・・・」
「たとえ僕が・・・」
「そりゃあ、守りたいよ・・・」
「僕にとってはみんな大事なんだ」
『大丈夫だよ、シンジ君』
「だって相手は100体の・・・カヲル君なんだよ!」
『それは僕じゃない』
『僕はいつでも君の思い出の中にいる』
『そして君を守る』
『それこそが僕の選んだ道なんだ』
『君はやりたいことをしていればいいのさ』
「カヲル君!」
僕は飛びおきた
ここは・・・
「知らない天井だ。ここは病院か?」
最近、夢遊病だと医者に判断された
そして、左の手首にどんどん傷が増えている。
それを心配してくれたミサトさんはひとまず病院に入院させてくれた。
効果はあがらなかったが怪我をしてもすぐに医者に見てもらえるのはありがたいことだった。
今の自分の状況が整理ついたので今まで見ていた夢について考えていた。
カヲル君の夢を見るのはいつものことだった。
ネルフ本部での戦闘。そして・・・
あまりいい夢とはいえない・・・いつもなら、ぼくがカヲル君を握り潰すところで終わる・・・
しかし、今日のは・・・
あまりにもはっきりしているのに肝心なところをすべて思い出せない。
こんな事は始めてだった。
「夢なのかな・・・」
所々欠けているような夢を無理矢理思い出そうとした。
けれど思い出せない。僕の言ったことは少しぐらいは覚えている。
しかし、どうしてそんな事を言ったのかがよくわからない。
僕とカヲル君が同じ? 世界の破滅? 100人のカヲル君?
頭がはっきりしない、そしてそれらの言葉の心当たりもない。
その時の僕には何か起きそうだな・・・と思う事しかできなかった。
管理人(その他)のコメント
カヲル「いらっしゃい、armchair detectiveさん。この分譲住宅へようこそ。僕は待っていたよ」
アスカ「armchair detectiveね・・・また珍しい名前の作者が来たこと。察するに、パイプを加えて紫煙をくゆらせながら探偵業にいそしむ男ってところかしら。映画で見る分にはかっこいいけど、現実にいたとしたら怖い存在ね」
シンジ「あの〜・・・・armchair detective、って日本語で何て言うのかな・・・・」
アスカ「はあ? あんたほんっっとにバカね!! 表の入り口になって書いてあった? 『安椅子探偵事務所』ってどでかく書いてあったでしょ!! そのまんまじゃない、そのまんま!!」
シンジ「あう、そうか(ぽんっと手を打つ)」
アスカ「はああああああああああ。シンジのバカはいつもどおりだけど、今日は輪をかけて酷いわね。表の看板すら読むのを忘れるなんて・・・・だ〜から、こんな使徒のことを考えて自殺を計ろうとするのよ」
カヲル「こんなとはなんだい、こんなとは。失礼だね、君も」
アスカ「こんな、って呼ばれるのがいやなの? じゃ、この程度の使徒のこと、でいいわよ」
カヲル「この程度・・・・君、僕のことをゴキブリ・ネズミやなにかと同じように見ていないかい?」
アスカ「まーだゴキブリ、ネズミのほうが愛嬌あるわ。なにしろあれらはシンジにからまないからね」
カヲル「代わりに、驚いた振りをした君が、「きゃーっ♪」とか叫びながらシンジ君に抱きつくんだね」
アスカ「だ、だ、誰がそんなことを!!」
カヲル「したことがない、って言いきれるかい?」
アスカ「・・・・・(無言)」
カヲル「さーて。どうやら僕の出てくる話らしいからね。アスカ君が沈黙している間に、次を読もうか、次を」