生命の木の実

「不老不死ではないんです。不老ではあります、が不死ではないのです。人・・・リリンですね」
ここまで言うと、彼は僅かに苦笑したように見えた。その笑いは、彼女、綾波レイに向けられたものなのかは解らない。
「人・・・リリンですね、彼らに比べれば倍以上の寿命を備えていることは確かです。でも無制限ではないですよ」
「それがどうしたというの」
無反応の音声化、そう評したくなる声だった。彼はまた僅かに笑った。予想していた反応だった。
「今の貴女には解らないでしょう。いや、貴女がわかりたくないのだ、などと申し上げるつもりはないのです。貴女は・・・彼らと同じように生命の木の実を手に入れた・・・ように見える」
「彼らは貴女と同じように空色の、美しい髪をもっていました。考え方は限りなく相対主義的で、ま、月並みな言葉で申し上げれば『悪い人たちじゃなかった』」
「私は『ふつう』の、つまり生命の木の実とも、知恵の木の実とも縁遠い人間です。いや、過去形で申し上げるべきか」
彼の髪の色は、レイが認識できる限りごく当たり前のダークブラウン。同じ瞳の色を持ち、年齢の判別しがたい容姿をもっている。つまりは美形なのだ。
「この姿ですか・・・仮の姿ですよ」また僅かに笑う。
「私がその人たちだと同じだと、どうしてわかるの、あなたには」
「フェアではない方法で、です。あなたの遺伝子には・・・操作が加えられている。誰がそうしたのか、迄は存じません」
レイの瞳が、すっ、と僅かに小さくなる。異質な光が漏れる。
「私は彼らとともIに、半生を過ごしたのです。私が人並みに老いたとき、私の周囲にいた人々は」
「昔のままでした」
彼は彼女の変化にかまわず、さらりといった、彼の人生でもっとも他人を苦しめたそのひとときのことを。
「わたしは物心ついたときから、彼らの中に溶けこもうとしていて、実際わたしの若い頃までは溶けこんでいたんですよ」「わたしは精神と、体が同じように老いた。当然ですね、『人』ですから」
「しかし『彼女』は」
主語が変わった。「かれら」ではなく「彼女」だ。レイは敏感にそのことに気づいた。
「しかし『彼女』は精神が老いても、体は老いなかったのです。わかっていても・・・わたしは寂しかったですよ。いや、わたしは寂しいくらいですんだ。そして交流を絶ったんです」
「誰」と交流を絶ったのか。彼は話さない。「わたしが死の床にあったとき」
言葉がふるえる、切れる。「『彼女』が来ました・・・来てはいけない・・・といってはあったのですが・・・」
”わたしはなにもしませんでした””なにもなかったんです”
実際、彼の声はどこから聞こえるのだろう。レイは少し、気にした。
言葉が続く。
「わたしが傷ついたのではありません。私は散々・・・覚悟ができていましたから」「私の周囲の人物は、わたしと、彼らが異なる時の流れにいたことを、残酷なまでにはっきりと悟らされたんです」「しかし彼らは聡明です」「すぐに理解した」「私以来、彼らと行動を共にする『人』はいません」「彼らの方から拒むからです」
ようやく言葉をきる。そして、彼女の反応を確かめる。「たんなる私の老婆心です。心の片隅に留め置かれれば幸いです」
彼は姿を消した。


「わたしは・・・知恵の木の実を手に入れた存在」
彼女が看取るであろう人々。彼らが悉く絶えても、彼女の生は未だ、その半分を全うしたにすぎない。彼女と共に・・・時の流れに身を任せるものはいない。悲しみすら風化しそうな、長い時間。彼女は独りぽっちだ。
彼は誘っているのだ、彼岸へ。生命の木の実をなげうって、こっちへ来いと、そういっているのだ。
「いや、違う。私はわたしの時の流れで過ごすしかないもの。悲しむのは、悲しんでくれるのはわたしのまわりのみんな」「碇君」
彼女は生命の木の実を得た存在。あってはならない存在。

カンタンダ、ヒガンニイッテシマエバイイ
セイメイノコノミダッテカンタンニテニハイルノダカラ

そして、時に忘れられていく存在。


あとがき
「彼」のモデルはロック・ジントです。ご存じの方、どうかお許しを・・・


楊 威利さんへの感想はこ・ち・ら♪   
そして楊 威利さんのぺえじはこ・こ♪   


管理人(その他)のコメント

ミサト「同じ時間の流れの中で生きていけないと言うのは、つらいことよね」

アスカ「ミサト、どうしたのよ!」

ミサト「愛する人が老い、仲間たちが次々と世を去っていくのをみつめていなければいけない。そして最後に残るのは自分自身。そこには孤独しか残っていない」

アスカ「ちょっとミサト!」

ミサト「不老不死・・・・そのどちらもあこがれかもしれない。でも、それを自分自身だけが手に入れてしまったとき、そこには死にも勝る苦痛が現れるのよ・・・・」

アスカ「ミサトが、ミサトがおかしくなっちゃったぁぁぁ!

 ぽかっ!

ミサト「誰がおかしいのよ! 失礼なこと言わないで頂戴!」

アスカ「だって、だって、ミサトがいつもと違ってまじめなことしか言わないんだもの!これがおかしくなったと言わずして・・・・」

 ごすっ!

ミサト「そんなこというもんじゃないわよ! ひっく」

アスカ「だってだって・・・・ん? 『ひっく』?」

ミサト「この内容は重要なんだから〜うい〜」

アスカ「ミサト・・・・なによこの酒の山は・・・・」

ミサト「うい〜むにゃむにゃ・・・・」

アスカ「こ、この酔っぱらい・・・・汗」

ミサト「ぐ〜すぴ〜」



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