「誰よこいつ」
鏡の中には、ウエディングドレスに身を包んだ美しい女性の姿がある。
そりゃ美しいわよ。なんたって、アタシ、なんだから。
惣流・アスカ・ラングレー。24歳。日本人とドイツ人のクォーター。
あふれる知性に輝く美貌。誰もが認めるパーフェクト・レディ。
そのアタシが、あのへっぽこシンジの妻に、なろうと、している。
おかしい。ヘンだ。
わからない。理解できない。何かの間違い?
そおよ、何かの間違い、きっとそうだわ。
シンジのとこに行って、はっきり言わなきゃ。
「これは何かの間違いよ、
結婚なんてヤメ。ヤメにするの!」って。
そしたら?
アイツはきっと、眼を丸くしてちょっと驚いて。
ふっと笑ったような顔になって。それで言うのよ。
「・・・いいよ、アスカ。アスカがそう言うなら」
そしてほんの一息おいて、こう続けるんだわ。
「・・・でも、ホントに、アスカはホントに、それで、いいの?」
・・・えいちくしょう。
ちくしょうちくしょうちくしょう!!
スタンドの足をがしっとつかむ。姿見に投げつけようとして−思いとどまる。
お、落ち着くのよアスカ。
このアタシともあろうものが、こ、この程度でうろたえるもんですか。
深呼吸。もう一回。
考えるのよアスカ。
こんなことになってしまった原因を。
原因がはっきりすれば、対策もはっきりするわ。
そうよ。
なんで?
どうしてこんなことに?
「・・・アスカ?」
ドアの外から声がする。アイツの、声だ。
「アスカ?
いるんだろ?」ノブが回る。ドアが開く。
「あ、バカ!
だめよ!式が始まるまで、新郎は新婦を見ちゃ、いけないんだから。」
「あ、うん、知ってるよ。
だから、さ」
ダメだ、っていうのに、アイツは部屋に入ってきた。
ドアを細く開けて、隙間に体を入れて。
後ろ手でそっとドアを閉める。
「これなら、いいだろ?」
って、目をつぶってるだけじゃない!
バカ!
「・・・何の用よう」
「うん、ちょっとね。
式の前に、アスカに会いたかったんだ。それだけ」
ウソだね。
こいつは、アタシが式の直前になって暴れてないか、見に来たんだ。
釘差しに来たんだ。そうに、決まってる。
「・・・」
「アスカ?」
「・・・」
「返事、してよ」
「・・・」
「アスカあ」
「―ッ」
すそをちょいと上げて、シンジの前に歩み寄る。
床は絨毯なんで足音は鈍い。
演出効果としては失敗だわ。ちえっ!
「・・?」
シンジの両肩を両手でわしっとつかんで、そのままドアに押し付ける。
「目ぇ、開けなさいよ」
「え、だめなんだろ?」
「いいから!
アタシを見なさいよ!」そしてシンジはゆっくりとアタシを見つめる。
そう。この視線だ。
ほんとはわかってた。
いつからかこの視線が、アタシを見ていたことを。
アタシを支えていたことを。
アタシを生かしていたことを!
気づいてしまったのだ。
だからアタシは――
だからアタシは今、ここにいる。
視線を逸らす。
いつからだろう? 視線を逸らすのが、いつもアタシの方からになったのは。
やっぱり、ちょっと、くやしい。
もう一度、視線を絡ませる。
「シンジ、キス、するわよ」
「−うん」
一回軽く触れて。そして、きつく。襲いかかるように。
それは誓いのキス。
神様でも、他の誰にでもなく、ひたすらに、
お互いがお互いに誓う宣戦布告。
「いいわねシンジ。幸せになるわよ」
「OK、アスカ。やっつけよう」
そして二人は、扉を開けた。
END
管理人(その他)のコメント
アスカ「な、な、なによぉこれはぁ!!」
ミサト「あっらぁああああああらあらあらあら(にやり)、アスカったらまあまあまあまあ」
アスカ「なに近所のおばちゃん同士の会話みたいなことを延々くっちゃべってるのよ!!」
カヲル「ぶんけいさん、ようこそこの分譲住宅へ・・・・」
ミサト「コンフォート17マンションでしょうに!!」
がっしゃぁああ!!
カヲル「ビール瓶で・・・・殴らないで・・・・がくっ」
ミサト「しっかし、アスカとシンちゃんがねぇ・・・・にやり」
アスカ「いい? へ、変な勘違いしないでよね!! あ、あたしはシンジが好きだから結婚するんじゃなくて、シンジを下僕にするために結婚するんだからね! あいつが屈服したら、即離婚よ!!」
カヲル「ほーそうなんだー」
ミサト「いつになることやらねー」
アスカ「あ、あんたらねぇ!!」
ミサト「ま、できないことは言うもんじゃないわよ」
カヲル「そうそう。ミサトさんが結婚するって言うのと同じことだよ」
ミサト「にっこにっこにっこにっこ」
べきっ!!
アスカ「・・・・笑いながら殴り倒すか・・・・汗」
カヲル「ぴくぴくぴく・・・・・」