アクセス1300件記念小説

秘密のプレゼント


「ううう、暑い」

 シンジは、つい呟かずにはいられなかった。

 12月24日。今日はクリスマスイブ。

 イブといえばサンタさん。サンタさんといえばあの赤い暑苦しいコート。

 ちなみに、第3新東京市にはクリスマスは来ても冬は来ない。

 冬は来ないが、サンタは必要。

 でも、夏と変わらぬ気温の中、あんなコート着たがる奴はいない。 

「だからあんなに時給がよかったのか・・・・・うううっ」

 バイト情報誌で広告を見つけたときのことを、シンジは思い出していた。

『一日だけの簡単なお仕事。時給は破格!作業は簡単!』

 確かに仕事は簡単だわ。立ってるだけでいいんだから。

「しかし、この暑さだけは何とかしてくれよぉ・・・・」

 もう一回、シンジはぼやいた。口の周りを覆う綿のつけ髭のせいで、顔中汗だらけ。コートの下に来ているTシャツは、汗ですでにべとべと。まだ、バイトが終わるまで2時間もあるというのに・・・・。

「こんなことなら、まっとうなバイトで地道に稼いでればよかった・・・・」

 12月4日のアスカの誕生日に、プレゼントを買った。気がついたら、財布の中はすっからかん。カレンダーの日付は、12月22日。シンジは焦った。

 クリスマスプレゼントが買えない!!

 あわててコンビニに走り、バイト情報誌を買い、そして、シンジは今ここに立っている。

「アスカは、当然のようにプレゼントを要求するからなぁ・・・・あ、あれ?」

 独り言を呟きながら何気なく見回した視線の先に、シンジはそれを見つけた。

「やばっ、アスカだ・・・・」

 バイトをしていることは、アスカに秘密にしている。

 お金がないのを知られたくないからという、実にシンジらしい勝手な理由だが。

 あわてて後ろをむきかけたが、自分の格好を思い出して、少し安心した。

「口ひげやらなにやらで、僕だって気づかないよなぁ。・・・・ん?」

 再び視線をアスカに戻したシンジは、彼女の横に、もう一つの人影を見つけた。アスカはその人影と、親しげに会話を交わしている。

「・・・・だれだ、あれは?」

 相手は、すらりとした長身の男だった。年齢は、シンジとそう違わないだろう。甘いマスクにセンスのいい服を着込み、アスカの横にぴったりとついている。

「・・・・・・」

 言い様のない不安が、シンジの胸をよぎった。

 二人は、シンジの変装したサンタの横を、気づかずに通り過ぎていく。

「プレゼントかぁ・・・・・何がいいの?・・・・」

「・・・・だから・・・・それで、とびっきりのを・・・・ね、お願いっ・・・・」 

「ん、じゃあ、僕がとびっきりのを見立てて・・・・」

 喧噪に紛れて多くは聞き取れなかったが、アスカとその男とは、どうやらクリスマスプレゼントについて、話をしてるらしい。

 ・・・・・・。

 二人が傍らを過ぎ去った後、シンジはしばらくぼーぜんとしていた。

「・・・・・・・・」

 何か、胸のうちにぽっかりと穴が開いたような気分。アスカが、僕以外の男の人と一緒に・・・・。

「・・・・どこに、行くんだろう」

 プレゼントを買うだけではあるまい。今日はイブだ。その後は・・・・。

「ううううううううううう」

 シンジは道の真ん中で頭を抱えてうずくまった。通行人が好機と怯えの混じった視線でそんな姿を見ながら傍らを過ぎていく。まあ、苦悩するサンタクロースなんて、そうそういるもんじゃない。

「・・・・ついていって、みよう」

 しばしの後、シンジはそう決意した。

 バイト先からは、「街中」で「看板をもっていればいい」といわれた。一カ所に立っていろとはいわれていない。移動しても、怒られはしない。

「しかし、なんかストーカー入ってるなぁ・・・・」

 シンジはそう呟きながら、アスカたちの歩いていった方向へと駆け出した。

  

 二人は、駅前のデパートの中へと入っていった。

 以前、アスカと二人で服を買いに来たことがあるデパートだ。女性向けのアクセサリーやら衣服など、豊富にそろっている。クリスマスプレゼントを選ぶには、まあ最適だろう。

「・・・・どうしよう」

 しばしの逡巡。電柱の影にまたもやうずくまり、シンジは考える。

 こんな格好でデパートに入っていっていいんだろうか。いやいや、しかしアスカたちの後をついていくためには・・・・いったん見失うと、もう見つけることは困難だから・・・・。

「さんたさん、なにやってるの?」

 と、背後から声をかけられた。

 振り向くと、まだ小さな子供が、好機に満ちた視線でシンジを見ている。

「こそこそして、なにやってるの?」

 汚れを知らない無邪気な声。シンジにはそれが、いよーにむかついた。好きでこそこそやってるわけじゃないんだぁっ!

「坊や・・・・汚れたと感じたとき、僕の、サンタの気持ちが分かるよ

 ドスの聞いた声でそう言うと、シンジはさっさと立ってデパートへと向かっていく。後には、おびえて泣き出す少年の姿があった。

 ずかずかずか。

 さも当然のような顔をして、シンジは自動ドアをくぐった。館内は冷房が効いており、コートを着ていてもそれほど暑くは感じない。

「さて、どこに行ったかなぁ・・・・」

「・・・・あのぉ・・・・お客様・・・・」

「ん?」

 シンジは、背後からかけられた声に振り向いた。「案内係」と書かれたプレートをつけた女性・・・・おそらくデパートの店員が、困惑した表情でシンジの前に立っている。

「ええと、当デパートに・・・・どのようなご用で・・・・」

買い物です」

「・・・・・・」

 店員が、言葉に詰まった。

「ええと、その・・・・格好で、でございますか?」

「サンタも買い物くらいします。配って歩くプレゼントだって、無料じゃないんですから」

「あ、いえ、そういう意味ではなくて・・・・」

「何か、不都合でも?」

「・・・・・・」

 店員、完全に沈黙。シンジは、アスカの姿を求めてデパートの奥へと入っていった。

 ・・・・しかしシンジ、性格壊れてきてるなぁ・・・・。

  

「あ、いた」

 アスカたちを見つけたのは、紳士服売場だった。二人で仲良く、Yシャツやらジャケットやらを見ている。さすがに遠すぎて、会話までは聞こえてこない。

「うぬぬぬぬぬぬ・・・・」

 知らず知らず、シンジは拳を握りしめていた。

 あ、アスカとあんなにぴったりと・・・・むむむむむ、こら、何だその手は! 肩にかけるんじゃない! ぬああああ、アスカまであんな顔して・・・・。

 悶々と心の内で叫ぶシンジ。自分では気づいてないが、付け髭の下の形相はすさまじいものになっている。買い物客は、そんなあやしいサンタを遠巻きに見つめて近づこうとしない。

「くそ、くそ、僕がアスカのために必死こいて働いてお金稼いでいるっていうのに、アスカは、アスカは・・・・」

 おい、シンジ君。アルバイトは街中で立つことだぞ。今君は何をやっている?

「ちちちちくしょおおおおっ!!」

 叫んでしまってから、シンジはしまった、と思った。叫び声に、そのフロア中の客がさっとシンジの方を見る。その一人に、アスカも含まれていた。怪訝そうな表情で、こちらを見つめている。

「や、やばっ・・・・」

 アスカにばれた? ま、まずい・・・・。後をつけていたことや、バイトをしていることが知られたら、かなりまずい・・・・。

 こそこそこそ。

 シンジは、あたふたとその場を後にした。

 逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、・・・・でも今は逃げる!!

 ぐるぐると、脳裏をそんな言葉が駆けめぐっていた。

   

「・・・・・ふう」

 何度目のため息だろう。

 家に帰ってからも、シンジの苦悩はつきなかった。キッチンでクリスマス用の料理を作りながら、先ほどまでのことを思い出している。

 あれから。

 デパートを飛び出し、仕方なくまたバイトをしていた。看板をもって立っていても、先ほどまでの暑さなんか微塵も感じられなかった。とにかく、アスカのことだけ考えていた。

 バイト料をもらい、プレゼントを買いに行った。以前から目をつけていた、赤いブローチ。アスカの胸元につければ、きっと似合うだろうと思っていたものだ。店員がブローチをきれいに包んでいる様子を見ながら、どこか切なかった。

 僕は、何をやっているんだろう・・・・。

 アスカの後をつけて、あんな馬鹿なことして、それでも、アスカのためにプレゼントを買う。

 僕のことなんか、見てくれていないかも知れないのに。

 料理を作る手の動きも、どこか緩慢だった。今日は、料理をしていても全然楽しくなかった。

「たっだいまぁ〜〜〜。シンちゃん、料理できてるぅ?」

 ミサトさんが、帰ってきた。なにやら金属のふれあう音がするところを見ると、しこたまビールを買い込んできたようだ。

「いえ、まだです・・・・」

「あらシンちゃん、今日は何か暗いわねぇ。ま、いいわ。アスカが帰ってくる7時くらいには、ちゃんとできるようつくっておいてね。うふふふふっ、何ができるか、楽しみだわぁ」

「あれ・・・・アスカ、帰ってくるんですか?」

「何馬鹿いってんの。帰ってこないでどうするのよ」

「あ、いえ・・・そうですか」

「さ〜て、じゃパーティの前に一杯やるか」

 シンジの言葉にミサトは反応せず、さっさと奥へ行ってしまう。自分の様子に気づかれなくて、シンジはほっとした。 

 一応、帰ってくるんだ。アスカ・・・・。

 それでも、シンジの心はどこか晴れなかった。

    

「ただいまぁ」

 アスカが帰ってきたのは、ブルーな気分のシンジが料理を作り終えたところだった。

 玄関までむかえに行くと、ちょうど靴を脱いだ所だった。

「あ・・・・おかえり・・・・アスカ。料理・・・・できてるけど・・・・」

「アタシのはんばーぐは?」

うん・・・・作って、ある・・・・

 アスカの顔を見ると、昼間のことが思い浮かんでしまい、またもシンジは、気分が沈んできた。声も、小さなものになってしまう。

「ああもう、何沈んでるのよ、せっかくのクリスマスなのに!」

 ばんばんと、アスカは僕の背中を叩いた。

「う、うん・・・・」

 しかし、やはりシンジの心は晴れない。そんなシンジの様子にいらだったのか、アスカは、

「ああ、もう、そんなのシンジじゃないわよ! ・・・・ええい、じゃあ、ホントは後にするつもりだったけど、アンタのその沈んだ気分をはらしてあげるわ」

 ごそごそごそ。

 手にもっていたカバンの中を探り、ばっ、と何かを取り出した。

「はい、メリークリスマス!」

「・・・・・・・」

「な、何よシンジ。そんなびっくりした顔して」

 ・・・・アスカが取り出したのは、きれいにラッピングされた紙包みだった。包装紙は、あのデパートのものだ。

「アスカ・・・・これは・・・・?」

「いいから、開けてみなさいよ」

「う、うん・・・・」

 がさがさ。シンジは受け取った紙包みを、ゆっくりと開ける。アスカはそんなシンジの様子を、もどかしげに眺めている。

「・・・・これは・・・・」

 出てきたのは、一枚のセーターだった。落ち着いた色合いの、派手なものを嫌うシンジによく似合いそうなものである。

「苦労したわよ、アンタの趣味に会わせたものを選ぶのに。最近のものは全部派手だからね。まったく、学校の先輩にまでつきあわせて探してもらっちゃった」

「アスカ・・・・」

「ほ、ほんとは自分で編もうかと思ったんだけど・・・・アタシ、そういうの、下手だから・・・・

 シンジは、しばし声もなかった。じゃあ、昼間のあれは・・・・。

 僕は、いったい何を想像していたんだろうか・・・・。

「な、な、なによ! うれしくないの? このアタシが、せっかくプレゼントなんか買う気になったっていうのに!!」

「いや、そうじゃなくて、その、あの、何て言ったらいいのか・・・・」

「何て言ったら、じゃないわよ。こういうときの台詞は、一言でいいのよ。全くシンジは、そんなことも知らないの?」

「・・・・・・・」

「ほら、早く言いなさいよ!」

 アスカは、顔を真っ赤にしていた。恥ずかしいのだろうか?

「うん・・・・ありが、とう・・・・」

「え? よく聞こえなかったわよ。もっとはっきりいなさいよ、男でしょアンタ!」

「・・・・ありがとう・・・・アスカ・・・・」

「・・・・よろしい」

 さらに真っ赤な顔をして、アスカはやっと矛を収めた。

「さ、じゃあごはんにしましょ。酔っぱらいミサトが待ってるわよ!」

「うん、そうだね。じゃ、行こうか」

<了>    


1300人目の来訪者、HiroQさんのありがたいコメント

 初めまして、HiroQ です。 私は文章が書けないので、『アスカ様が出るクリスマス騒動を』と丸山さんにお願いしてSSを書いていただきました。(掲載が遅れたのは私のせいです)。

 シンジ君がストーカーもどきしてるってのは珍しいですね。いつもはアスカ様やへぼレイちゃん(C)の役柄なんですが(笑)。 後はお約束の展開なのですが、この世界のシンジ君は結構アスカ様にらぶらぶのようでシンジ君の憤怒の形相(しかもサンタ)ってのが新鮮で笑えます。 アスカ様は優しいし...でも甘いマスクの先輩ってのが気になるぞぉ!。

 というわけで丸山さんどうもありがとうございます。


モデルルーム管理者カヲルのコメント

 最初の居住者はHiroQさんなんだね。いらっしゃい。待っていたよ。もっとも、本文のほうは逃げた作者が書いたみたいだけど。まあ、本文を現実よりも遥かに秀逸に見せるコメントがこの場のメインだね。

 HiroQさんには、初めてという事で分譲住宅内でも一等地の角地をプレゼントしよう。日当たり良好、南向きの好物件だよ。さあ、このくされ小説を読んで、「この程度ならおれにも書けるやい」と思ったそこの君、こぞってモデルルームへ来てくれないか。作者の数倍もすばらしい小説を、シンジ君と共に待っているよ。


くされ作者のコメント

 みなさま、いかがでしたでしょうか。クリスマスというタイムリーな時期に、このような物を書いてみました。たぶんどのホームページでもクリスマス関連の小説は出るでしょうが、やっちまったもん勝ち、ということで10日以上前にやってしまいます(笑)。

 「遥かなる〜」の続きはどうした! 「へぼレイちゃん」をなぜ書かない! そもそも卒論で忙しいんじゃないのか! そんな考えはまとめてダストシュートに放り込んで下さい(爆)。現実逃避です。はっきり自分で分かっていますから。

 また、ずさんなくされ小説なので作中に明らかにおかしい点があるかと思いますが、もし気がつかれた方はメールでどうぞ。セーターなんか買って、冬でも夏みたいな暑さなんじゃないのか? というコメントは、すでに作者が認識していますのでなしにして下さい。ううう、すいません。その他にもしなにかあれば、メール下さい。可能な限り、修正します。

 HiroQさんコメントどうもありがとうございます。今後ともどうかお見捨てなきよう、お願いします。

 さぁて、5130番目の方は誰かなぁ(爆)。小説書ける人だと、無理やりお願いするんだけどなぁ(さらに大爆発)。・・・・無理やり書かされたくないからってメールくれないなんて事、しないで下さいね(汗)。お願いします。



上のぺえじへ