注意:本作品は『Welcome』の外伝、分岐世界です。
夏の日射しが降り注ぐ午後。
湖畔の芝生に座る少年と少女。
「ホントに・・・・、もう逢えないんだ」
少年がポツリと呟く。
少女が応える。
「・・・・いつか・・・・いつか、逢いに来るよ」
「待ってる」
全ての感情をねじ伏せて、少年はそう言った。
引き止めるコトは出来ない。
少女がこの世界で生きていくコトを望むなら。
この国のどこかで暮らすコトを望むなら。
少年は、少女の言葉を信じた。
いつか
どこかで
きっと
また逢える
きっと
約束は果たされる・・・・
「・・・・マナ」
その一言がこの朝の惨劇を招いた。
久々にシンジが本格的に寝坊したようで、
アスカとレイはその寝込みを襲おう、と意見の一致をみた。
2人は忍び足でシンジの部屋へとやって来た。
部屋に入ると、当のシンジはフトンにくるまり、いまだ夢の世界の住人であった。
2人はこっそりと笑い合うと、そっとフトンに手を掛けた。
その時シンジは呟いた。
一粒の涙と共に。
アスカとレイの顔から血の気が、すーっと引いてしまった。
2人はたっぷり5分間は固まっていた。
その気配にようやく目を覚ましたシンジの平和な言葉で、2人の呪縛は解けた。
「・・・・、ふぁ。ん、あれ?
どうしたの?2人とも」
我に返ったアスカとレイの、まさに刺すような、という形容がぴったりの
視線にシンジは身を縮めた。
そして無意識の内に後ずさっていたが、退路は無かった。
「シ〜ン〜ジィ〜!」
「シンちゃあん!」
3人が碇家を出たのは、それから18分36秒後だった。
どうにか間に合った朝のホームルーム。
今日も朝から御機嫌なミサトが、転校生を紹介する。
「喜べ、男子!噂の転校生を紹介する」
「霧島マナです。よろしくお願いします」
(マナ!)
シンジの心は様々な感情で沸き立っていた。
決して忘れられない想いが胸に溢れる。
つらい日々を送った、あの世界での出会い。
束の間の安らぎ。
芦ノ湖でのデート。
みんなで食べた夕食。
戦闘。
別離。
失望。
再会。
喜び。
そして、別れ。
シンジの心に刻み込まれた大切な瞬間。
その時間を与えてくれたマナ・・・・
そんなシンジの様子に気づきもせずにミサトは話を続ける。
「それじゃあ、霧島さんの席は・・・・と、シンジ君の右ね」
自分の想いに囚われていたシンジは、ミサトの言葉と、
それに続く男子一同の嫉妬と羨望のまなざしで現実へ引き戻された。
一方、教壇に立つミサトとマナには、殺意の込められた視線が
2つほど向けられていた。
しかし、そんなコトには構いもせずに、ミサトは伝達事項を伝えると、
あからさまに楽しそうな表情でシンジとその周囲に視線を向け、
そして教室を後にした。
「よろしくね、シンジくん」
「よ、よろしく」
ニッコリと微笑むマナ。
それは夢の中で少女が浮かべた笑み。
懐かしく、切ない想いで胸が一杯になる。
シンジは、その笑みをまぶしそうに見つめながら思った。
(また・・・・逢えたんだ)
(約束、・・・・守ってくれたんだ)
(マナは、ボクのコト・・・・憶えてないんだろうな)
(それでも、・・・・うれしいよ、マナ)
シンジは、これまで誰にも見せたコトがない
やさしい表情を浮かべて微笑みを返した。
2人の間には、何者にも犯し難い雰囲気が形成されていた。
アスカも、レイも、そしてカヲルも。
誰にも口を挟めなかった。
「ね。この学校、屋上行けるの?」
お昼休み。
マナからシンジに話し掛けてきた。
授業の合間、マナはずっとクラスメート、特に男子、の質問攻めにあった。
マナはその1つ1つに笑顔で応えた。
その姿をシンジは黙って見つめていた。
シンジの常ならぬ様子は、トウジたちですら容易に近寄れないモノを含んでいた。
「え?」
マナの言葉にシンジは我に返った。
しかし、シンジが聞いていなかったのも一目瞭然だった。
そんな様子にマナは、やれやれ、といった表情を浮かべてもう一度、
今度は一言一言区切るように声にした。
「碇くんに、屋上まで、案内、して欲しいんだけど、ヨロシイでしょうか?」
そのオドケた言い方にシンジは表情をなごませて応えた。
「うん。いいよ、マナ」
どよッ
シンジは何気なくマナの名前を呼び捨てにした。
この一言に2年A組の教室はどよめいた。
ついで、水を打ったような静寂が訪れた。
「え? ど、どうしたの? みんな」
突然のコトにシンジは戸惑ってしまい、辺りを見回した。
トウジとケンスケ。
2人は視線で合図を交わしていた。
ヒカリ。
目を見開き、両手で口元を押さえていた。
レイとアスカ。
真っ青になって凍り付いていた。
カヲル。
窓の外に向かって、何事か叫んでいた。
「と、とにかく、行こうよ」
クラスメートの反応に怯みながらも、
気を取り直してマナに呼びかけた。
「うん」
マナは相変わらず笑顔のままだった。
屋上はめずらしく人影がなかった。
さわやかな風が2人を包み込む。
短めの髪をそよがせながら、マナは気持ちよさそうに街を見下ろす。
「キレイね」
「街が、じゃなくて、あの山が、だよね?」
シンジの言葉に、マナは目を見張って振り返る。
イタズラっぽい表情を浮かべたシンジの顔をしばらく見つめる。
そして、何か考え込んだ後、わずかにためらってから口を開いた。
「ね。アタシ、シンジくんと逢ったコト、無いかな?」
「え?」
「あのね。アタシ、どうしてもシンジくんと初対面、って気がしないの。
それに『マナ』って名前で呼ばれたとき、うれしかった。
シンジくんとは、どこかで逢ってる。
ずっと前から、ううん、ひょっとすると生まれる前から知ってる。
別れたくないのに、離ればなれになってしまった大切な人。
そんな気がするの」
そう言うと、マナは少し頬を赤らめた。
「おかしいよね。・・・・これって、きっとデ・ジャ・ヴ、よね。」
マナは胸に浮かぶ想いを1言、1言、ゆっくりと確かめるように言葉に紡ぎ、
最後にニッコリと微笑んだ。
シンジは、うれしかった。
たまらなく、うれしかった。
(マナは・・・・ボクのコト、憶えてくれていたんだ)
(記憶はなくても、魂が忘れずにいてくれたんだ)
溢れ出す感情に、シンジは己の行動を抑え切れなかった。
気がつくと、しっかりとマナの身体を抱き締めていた。
「ちょ、ちょっと!シンジくん!?」
いきなり抱き締められて、マナはうろたえた。
今度は首まで朱に染まっていた。
「ご、ゴメン。でも、・・・・うれしかったんだ。
マナが、ボクのコト、憶えてくれいてくれて。
そうだよ、ボクらは逢ったんだ。
この世界とは別のところで出逢ってるんだ。
ボクは、・・・・マナのコトが好きだった。
・・・・いや、違う。今、今も・・・・マナのコトが好きなんだ!」
突然の告白にマナは目を丸くしてしまう。
シンジの微器用な、でも心を込めた言葉。
マナの眼を覗き込む真剣なまなざし。
マナは頬を染めながら、シンジの顔を見つめていた。
そして、マナの胸にも忘れられていた想いが甦ってきた。
シンジへの想いが・・・・
「シンジ・・・・」
やがて、マナはそっとまぶたを閉じた。
「・・・・マナ」
2つの影が1つに重なる。
遠くからセミの声が聞こえてくる。
この日、シンジとマナはずっと捜していた人、
想いに巡り逢えた。
決して離さない。
決して離れない。
いつまでもこの日を忘れない。
シンジは今、至福の時を得た。
<Welcome異聞 完>
ひろかずの言い訳
ども、『Welcome』作者のみきひろかずです。
ええ〜、冒頭にも書いてあります通り、本作品は『Welcome』の分岐世界です。
霧島マナ嬢は元々登場させたいな、と思ってました。ゲームやる前から。
で、「鋼鉄のガールフレンド」を終えて、マナちゃん登場のシーンを思い描くと・・・・
ココにある通り、話が終わっちゃいました。
コレはまずい、この話は封印せねば・・・・そう思ったんです。
しかし、勿体ないお化けが出てきまして、ココに公開してます。
うう、下の方から何か冷たい気配が・・・・
そ、そんなワケで、コレはあくまで異聞です。
外伝です。分岐世界です。アナザーワールドです。
(って、『Welcome』自体分岐世界だけど・・・・)
本編では別な展開を用意してます。
というコトでよろしいでしょうか?アスカ様。
では、本編の方で、またお逢いしましょう。
※でも、シンジ君がキッパリ誰か1人を選ぶとすれば、この展開しか思い付かない
みきひろかず
管理人(その他)のコメント
カヲル「ふんふんふん〜今日のコメントはみきさんか〜」
かちっ
カヲル「ん?」
ちゅどむっ!!
カヲル「ひええええぇぇぇぇぇぇ(ひゅうううっ)」
アスカ「ちいっ、アホ使徒がひっかかっちゃったわ」
シンジ「ああっ、カヲル君!! アスカ、何てことするんだよ!」
アスカ「うるさいっ!! アタシはあのマナって女がどうにも我慢ならないのよ!」
シンジ「だからって・・・・ま、まさかこれでマナちゃんをこ、殺すつもりだったんじゃ・・・・」
アスカ「あの女なら地雷くらいじゃ死なないわよ。なにせ『鋼鉄の』女だものね」
シンジ「ひどいよ、アスカ・・・・」
アスカ「そうそう、それはそうとしんちゃん〜(じろり)」
シンジ「・・・・びくっ・・・・(大汗)」
アスカ「上のあれはなんなのかな〜(じろっ)」
シンジ「・・・・いや、なんなのかな〜・・・・っていわれても・・・・汗」
アスカ「いきなり抱きしめちゃったりして〜(じろ)」
シンジ「いや、だから、その・・・・・」
アスカ「・・・・(ぎろっ)」
シンジ「・・・・・・・・・」
アスカ「・・・・(ぎろりっ)」
シンジ「うう、だれかぼくを助けてよ・・・・」
カヲル「・・・・ぼくも・・・・助けてほしい・・・・ぐはっ」
上のぺえじへ