Welcome外伝
霧島家の一族
ムサシの独白

Kaisaku(怪作) 作
みきひろかず 加筆・装丁





俺の名はムサシ。霧島ムサシ。
今日は俺が『霧島ムサシ』になった頃の話をしよう。


俺は『ムサシ・リー・ストラスバーグ』として1999年に生まれた。

俺の生まれたストラスバーグ家は、
大航海時代最初に新大陸へ移住した冒険者の末裔だそうだ。
南北戦争でひと山当てて、
ゴールドラッシュでさらに大儲けしたラッキーだけが頼りの成金だった。
そんなラッキーがそうそう続く訳がない。
だから俺の親父の代にはすっかり駄目になっちまっていた。

親父は呑んだくれてばかりで、仕事をしているところを見た記憶がない。
あれではアルコール依存症で死んだのも無理もないと思う。

母親は日系3世だった。
『ムサシ』という名は母の祖父が偉大な先祖にあやかってつけたものだ。
そう聴いている。
しかし、これがいかに怪しげな話か、日本に来るまで全く知らなかった。
ちなみに曾祖父の姓は『宮本』だった。

母はメイドだった。カタコトながら日本語が話せたので、
「タンシンフニン」の日本人に評判が良かったそうだ。
そんな中の1人があの人だった。
レストランを経営する彼は、
アメリカでのチェーン展開を進めるために渡米していたのだった。

そんな彼が遠い親戚だと偶然分かった。
以来、母はずうずうしくも子育ての為の援助と称して、
彼から金品をせびっていたらしい。
挙げ句の果てに、若い男と駆け落ちする際、
幼かった俺を彼に押しつけて行ったのだった。
うわさによると、その後母は相手に逃げられ、行方不明になってしまった。
多分死んだのだろう。

途方に暮れながらも、彼は俺を受け入れてくれた。
ひねくれた嫌味なガキだった俺に笑いかけてくれた。
俺は彼に手を引かれ、太平洋を渡り、見知らぬ街の門をくぐった。
その頃は読めなかったが、表札には『霧島』と書かれていた。




思い出せる限りでは、今の母さんとマナとの顔合せはこんな風だった。

「いらっしゃい、ムサシ君。今日からこの娘のお兄さんになってあげてね」
「・・・・」
「マナ、お兄さんに挨拶は?」
「は、はぢめまして・・・・」
「・・・・」

俺はマナを睨みつけた。ヒナ母さんはにこにこしていたが、
マナは泣きそうな顔・・・にはならなかった。
それどころか、人なつっこく俺に笑いかけてきた。
俺は戸惑い、しばらくの間この新しく出来た妹に
どう接すればいいのか分からなかった。


シンジに出会ったのもこの頃だ。
シンジの第一印象は『嫌な奴』だった。

「ボク、シンジ! なかよくちよ。
 ・・・・ねえ、なんでおかおのいろがちがうの?」

今なら分かる。それは他意のない純粋な子供の疑問だ。
しかし、その時の俺には『余所者』と言われたように思えたのだ。
俺は奴を睨みつけた筈だが、奴は気にもとめず、
「おもしろいかお」とかぬかしやがった。

俺はなにも言わずにひっぱたいってやった。
奴はキョトンとして、泣き出しもしなかった。
シンジの第二印象は『鈍い奴』だった。

もっとも、これが原因でマナとは1週間口をきいて貰えなかった。


ある日のことだ。
与えられた部屋でボーっとしていると、マナがやって来た。
いつものようにニコニコと笑みを浮かべたマナは、
俺の手を取ると街中を案内してくれた。
帰り際マナが俺に尋ねてきた。

「ムサシおにいちゃん、いつもオッカナイかおしてる・・・・
 マナのこと、キライ?」

俺はその問いには直接答えず質問で返した。

「マナ、・・・・ヒナ母さんはやさしいか?」

自分でもなぜそんな質問をしたはわからない。
俺にとって大人は『やさしい』とか、『たよれる』とかいう美徳とは
無縁の存在だったはずだった。

「うん!マナはママだぁいすき!」

その答に俺は頬をひきつらせた。
マナの満面の笑みが憎らしく思えた。
何の躊躇いもなくそう答えられるマナが疎ましく思えた。
気が付くと俺は懐からペンダントを取り出していた。
その輝きに実の母親の面影を見ている自分に言い様のない怒りが沸き起こってきた。

「わー、きれいなペンダント」

マナが感嘆の声をあげた。
何故かそれが気に触った。

「ふん・・・・」

俺は近くの用水路にそれを投げ込んだ。

「あーっ、きれいなのにーっ! どうしてすてちゃうのーっ?」

「いらないからだよ、こんなの。
 ただアメリカのママがもってたっていうだけの・・・・
 がらくたさ!」
「そんなら、やっぱりすてちゃダメ!」

俺は用水路に入ってペンダントを拾おうとするマナの手をひっつかむと、
家にひきずるようにして連れ帰った。


翌日、マナは朝早くからどこかに出かけていなかった。

約束をしていたのか、父親に連れられてシンジが来た。

「マナちゃん、いないの?」

勝手に俺の部屋に入り込むと、開口一番のセリフがそれだった。
うるさい奴だ。

脅して追い返した。


昼になってもマナはいなかった。
いつの間にかシンジの奴も消えていた。

さすがにヒナ母さんは心配になってきたようだ。

夕方。

シンジの父親があちこち捜して回り、ヒナ母さんは電話の前で番をしている。
それでもマナは見つからない様子だ。

「あ、ゲンちゃん。どうだった?・・・・そう、・・・・ええ、それじゃ」

カチャン。

「ふう・・・あの子どこにいったのかしら?」

マナがどこにいったのか・・・俺も少し心配になってきた。

マナが帰ってきたのは、結局日が暮れてからだった。
泥まみれのマナは、大事そうに両手で包んでいたモノを俺に差し出した。

「はい、これ・・・・」
「それは・・・・!」

俺は絶句した。俺の捨てたペンダント・・・・

「なんでそんなもの・・・・」

「すてちゃダメ! だいじなものだモノ、ムサシおにいちゃあぁん!」

最後は泣声でマナは言った。
この妹が泣いている所を見るのは、これが初めてだった。
その時俺の中で何かが融けていった。

「オレにはもういらない・・・・」

俺のセリフにマナはますます顔を歪めた。
俺は慌てて、言葉をつないだ。

「今の母さんはヒナ母さんだから、・・・・」

そう言って、俺はマナに笑いかけた。
多分、マナに見せた俺の心からの笑顔はこれが初めてだったろう。
言葉の意味は分からなくても、そんな俺の雰囲気を察したのだろう、
マナはぱぁっと笑顔を綻ばせていた。

その後ろでシンジの奴もニコニコしていたのは気に入らなかったが、
俺はそれどころではなかった。
嬉しくて、・・・・嬉しくて、涙があふれてくるのを堪えるのに必死だったから。
この日俺は初めて本当の家族を手に入れた。


それからずっと俺とマナは一緒だった。

シンジがいないときは、だが・・・・




ある日、俺はマナに俺のことをどう思うか聞いてみた。

「うん、マナはおにいちゃんのことがだぁいすきだよ」

気を良くした俺は冗談めかして聞いてみた。

「それじゃマナはずっとオレといてくれるかい?」
「うーん、・・・・むりだよぉ」
「・・・・なんでだよ」

期待していた答と違う返事に、俺は内心ムッとしながら聞き返した。
再び返ってきた答えは、さらにとんでもないものだった。

「だってマナは、シンジくんのおヨメさんになるんだもの!
 シンジくんとやくそくしたの!
 うまれるマエからきまってたって。ママ、いってたもの!」


・・・・そうだな。

・・・・マナにとって俺は『兄』でしかないんだ。

・・・・


なぜか裏切られたような気がした。
マナに、ヒナ母さんに・・・・
俺は口を閉ざして、自分に割り当てられた部屋に入った。
そしてずっと天井を眺めていた。
なんだか何をする気にもなれなかった。




その次の日、あの事件は起きた。
先日のお礼にと、菓子折を持たされた俺は、
ヒナ母さんの代理で碇家に向かっていた。

たまたま公園のそばを通りかかると・・・・見覚えのある女の子、
それから・・・・

・・・・碇シンジ


夕べの会話が脳裏に浮かび俺の機嫌は急速に悪化した。
マナの言うところの『オッカナイ』顔をしていただろう。
なんとなく俺はそっと近づくと物陰から2人の会話に耳を傾けてみた。

「ね、シンちゃん。やくそくよ!」
「うん、レイちゃん。おおきくなったらおよめさんにしてあげる!」

・・・・なんだと。

俺は飛び出して奴をはり倒したい衝動に耐えながら、シンジの後をつけた。

・・・・見失った。そう思った時女の子の声が聞こえてきた。

「ばかしんじぃ!」
「あ、アスカ・・・・」

シンジが小さな声でぼそぼそと反論してる・・・・

「あんたは、あたしとケッコンするの! シンジがいったんだから!」

・・・・シンジの奴、何を考えているんだ?と俺は思った。




「シンジ・・・・オマエ、マナのことはどうするんだ・・・・」

女の子がいなくなると、俺はシンジを捕まえて問い詰めた。
冷静に、と思いながらも、声が震えないようにするのは大変だった。


「マナちゃんもだいすき! だから、みんなボクのおよめさんにするんだ!」

天真爛漫な笑顔で答えるシンジ・・・・

気がつくと俺は、シンジに向かって・・・・




        叩



        殴



        殴



        蹴



        打



        殴



        蹴



        ・・・・




そこから先のことは良く覚えていない。
ただヒナ母さんの怒った、でもひどく哀しそうな表情と
マナの泣き顔は良く覚えている。

あれから一ヶ月マナは俺と口をきいてくれなかった。





それから暫くしてのことだ。
シンジが俺に会いたいと言ってきた。

シンジの顔は腫れあがり、歯も何本か欠けている・・・・かと思っていたが、
平気な顔で笑ってやがる!

(後で聴いたら、『アレくらいナれてるモン』だと!)


惣流アスカがシンジの後ろにいて俺を睨んでいた。
黙っているとシンジの方から口を開いた。

「・・・・ゴメンね」
「・・・・なんでオマエがあやまるんだよ」
「ボクがマナちゃんとっちゃうって、おこってたんでしょ?
 ムサシはマナちゃんといっしょにいたいんでしょ?
 でも、ボクがいて・・・・」
「もういい」

手をあげて俺はシンジのセリフをさえぎった。

「シンジ、オレをなぐれ」
「???」
「それであいこだ」

シンジは顔を真っ赤にして思いっきり手をふりあげた。

ぺちっ。

これで俺とシンジの間にはわだかまりはなくなった・・・
と思うことにした。


その後、俺たちは一家揃って第三新東京市から引っ越すことになった。
マナは引越しの時泣きやまず、しばらく元気がなかった。
そんなマナの姿を見た俺はなんだかずっと機嫌が悪かった。




あれから10年

今日、登校中シンジに逢った。
相変わらず、綾波レイと惣流アスカがべったりくっついている。

「変わらないなぁ・・・・」

懐かしいような気がして、声をかけようとした時・・・・
いつの間にかマナが奴の側に近づいてきた!
シンジに抱きついている!!


・・・・




・・・・シンジはただの『嫌な奴』なんかじゃない。

『凄く嫌な奴』だ(怒)!!




Kaisaku(怪作)さんへの感想はこ・ち・ら♪   



掛け合い漫才?

ムサシ「わっはっはっはっは! ついにでてきたぞ俺の出番が!!」

カヲル「kaisakuさん。この分譲住宅へようこそ。僕は待っていたよ・・・・ってこの台詞も久しぶりだな」

ムサシ「今までゲームをやった奴しか俺のことを知らず、ゲームをやった奴でも「ムサシ」ってだれだ?とか言い出すくらい影が薄かったけど、それでも俺はついにやってきた! 疾風怒濤の登場強敵撃滅ヤンキーゴーホームだ!

カヲル「この話は、「鋼鉄のガールフレンド」にでてくるマナのパイロット同期生、ムサシという少年を「welcome」に取り入れた外伝ですね」

ムサシ「そもそもマナはゲーム中では俺と一緒に言ったはずなのにそれなのに碇シンジの奴はマナをたぶらかしやがって! おまけになにぃ! 今回はマナと俺は兄妹だとぉ!! 納得いかない、ぜっっっったいに納得行かないぞ!」

カヲル「いまいちムサシくんの性格はゲーム中でもわからなかったので、どういうキャラクターかは僕もいまいち把握してないしね。そもそも僕のでてこないゲームなんか、わさびのない寿司、福神漬けのないカレー、バッテリーのないノートパソコンと同じで何の意味もないんだから」

ムサシ「って人の話を聞きやがれ!」

どかっ!

カヲル「うぐはっ!」

ムサシ「人がせっかく雰囲気を盛り上げようとしゃべってやってるのにことごとく無視しやがって! てめぇ何様のつもりだ!」

カヲル「殿様・・・・っていまいちかな・・・・」

げしっ!

ムサシ「つまんねーよ」

カヲル「うぐはぁ・・・・」

シンジ「カヲル君、大丈夫!」

カヲル「はうあぁぁぁシンジ君の幻が見える〜ぴよぴよ〜」

シンジ「カヲル君、違う世界にいっちゃってるよ!」

ムサシ「ちょうどいいところに来た! 碇シンジ、マナをかけて勝負だ!」

シンジ「え、え、な、なんだよいきなり!」

ムサシ「うるさい問答無用、覚悟しやがれ!!」

どがしゃぁ!

アスカ「シンジに何すんのよこのアホたれ!」

ムサシ「ふぐあっ!」

ばっちぃぃぃぃん!

マナ 「シンちゃんに何しようとしてんのよ!」

ムサシ「マ、マナ(あたふた)」

マナ 「ムサシ・・・・・(ぢぃっ)」

ムサシ「な・・・・なに?(びくびく)」

マナ 「・・・・暴力的なムサシ、嫌い」

ムサシ「がびぃぃぃぃぃぃん!!」

アスカ「あ、石化している」

マナ 「いーのいーの。さ、シンちゃん行きましょ〜」

アスカ「あ、こら待て! シンジをどこにつれていくのよ!」

ムサシ「がびぃぃぃぃぃぃぃん(まだ石化している)」


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