Sunday Afternoon
----鈴原邸----
ぷるるるる・・・・
ぷるるるる・・・・
ぷるる・・かちゃ
「ふぁい、鈴原です・・・・」
『お、トウジか?』
「ふぁあ〜。なんや、ケンスケか? ワシまだ寝とったんやで」
『何言ってんだよ。もう昼だぜ。
そんなんじゃ、またナツミちゃんに怒られちゃうぞ』
「ほ、ほっといてくれ!」
『ま、それは置いておいて。な、オレ見ちゃったんだ』
「何を?」
『シンジと霧島』
「?」
『あの2人のラブシーン』
「何ィ〜?」
『駅前に出る、ほら栄通り。
シンジの奴、いきなり霧島のコト抱き締めちゃってさぁ』
「ホンマか?」
『ああ、驚いたぜ。あのシンジが昼間っから、
いくら裏通りだからって人目もはばからず、だモンな。
案外出来上がってるんじゃないの? あの2人』
「かー、うらやましいやっちゃのォ〜」
『(オレから見れば、お前も同類なんだけどな)・・・・。
ま、それは冗談だけどさ。何か深刻そうな話してたし。
でも、失敗だったなぁ。
こんな時に限ってカメラ持ってなかったんだからなァ。
アレ撮っとけば、当分シンジにタカれたんだけど・・・・。
お、ナツミちゃんだ。じゃな。プッ。ツー、ツー』
「ふ〜む、シンジと霧島がなァ・・・・。おっしゃ!」
----洞木邸----
ぷるるるる・・・・
ぷるるるる・・・・
ぷるる・・かちゃ
「はい?」
『あ、洞木さんのお宅ですか? ワシ、鈴原いいますけど・・・・』
「エ? あ、何? 鈴原・・君? どうしたの、急に」
『ああ、委員長やってんか。いや、今な。ケンスケから電話あったんや』
「うん・・・・?」
『ほんで、ケンスケが言うには、シンジと霧島。出来てもうたらしいで』
「ウッソォ〜!!」
『(耳を押さえてしかめっ面)そんな大きな声出さんと・・・・』
「あ、ご、ゴメン。でも、それホント?」
『ああ、ホンマや。なんや、駅前でラブシーン見せとったらしいで。
こう、シンジの奴が霧島抱き締めて離さんかったらしいんや。
霧島も抵抗せんかったそうやし』
「あの、碇君が?」
『ワシも話聞いて驚いたで。人目も気にせんと、凄かったらしいわ』
「でも、それじゃアスカと綾波さん・・・・」
『ああ、ワシもそれが気になってのォ。そんで委員長に電話してみたんや。
悪かったかの? せっかくの日曜やっちゅうのに』
「ううん、そんなコトないよ。ありがとう」
『そか、なら良かったわ。で、どないする?
なんなら、ワシがシンジにパチキかましたっても・・・・』
「ダメよ。アタシそれとなくアスカに訊いてみるわ。
それから対策考えましょ」
『そやな。うん、そしよ。ほんじゃ、明日学校でな。プッ。ツー、ツー』
「信じられない・・・・碇君が・・・・」
----惣流邸----
ぷるるるる・・・・
ぷるるるる・・・・
ぷるる・・かちゃ
「はい、惣流です」
『あ、アスカ? アタシ』
「エ? なんだ、ヒカリ? どうしたの?」
『えと、そのォ・・・・』
「どうしたの?」
『あのネ! その、碇君・・・・』
「シンジがどうかしたの?」
『え? あの、碇君この頃変わったコトない?』
「? 別にィ。いつも通りボケボケってしてるけど」
『今日は?』
「ん〜? 家にいるんじゃない? アタシ、さっきまでレイと買い物行ってたから」
『そ、そうなの? めずらしいね、アスカが碇君誘わないなんて』
「だって! 今日は下着とか、ナプキンとか、その・・・・」
『あ、あ、そうね。さすがにそれは誘うの無理ね。』
「でしょ? ・・・・でも、どうしたの? なんか、ヒカリいつもと違う」
『そ、そんなコト、ないよ』
「ダメよ。このアタシに隠し事する気?
ホラ、言っちゃいなさい、ん?」
『う、うん・・・・実は・・・・碇君が霧島さんにプロポーズ・・・・』
ヒカリの話が終わる前に、受話器を置くのももどかしく、アスカは家を飛び出していた。
----碇邸----
ピンポーーン!
バタン!!
「お邪魔します!!」
アスカは返事も待たずに勝手に上がると、
リビングに駆け込むような勢いで入って来た。
「あら、いらっしゃい。アスカちゃん」
「アレ? どうしたの? アスカ」
いつもと変わらぬのんびりとした雰囲気のユイ。
血相を変えた親友の様子に驚いているレイ。
2人の様子など目にも止めず、アスカはキョロキョロと室内を見回した。
そこに望んだ顔はなかった。
「シンジは?」
問い詰めるような語気でレイに訊ねる。
訳は分からないが、只事ではないアスカの態度に首を傾げながらレイは応える。
「出掛けてるけど」
「何処に?」
「さあ、鈴原君か相田君の処じゃないの? ネ、おじ様」
ゲンドウはまるで表情を隠すかの様に新聞を広げていた。
その手が微かに揺れて、カサカサと紙の擦れる音が聞こえる。
アスカの様子。
ゲンドウの態度。
そして、シンジの不在。
たったコレだけの材料で、ユイは全てを了解した。
「大丈夫よ、アスカちゃん。あの子にそんな度胸ないわよ。
まぁ、それで2人とも苦労してるんだし」
くすくす笑いながら、ユイの結構過激な発言。
レイだけは何が何だか判らない。
「何? なんなの? 一体」
「アスカちゃん教えてあげてね」
ここでクルリと首を廻すと、そこにはコソコソとリビングから逃げようとするゲンドウの姿。
「あなた」
「は、はい!」
棒でも飲んだようにゲンドウはピンと直立不動の姿勢。
「お話は書斎でゆっっっっくり、聴かせてもらいますから」
「・・・・はい」
Monday Morning
----2年A組教室----
「あ、おはよ、アスカ。遅かったネ。・・・・ど、どうしたの?」無言の迫力に一歩退くヒカリ。
「ヒ・カ・リ・・・・」
「な、何? あ、綾波さんも・・・・」プラス一歩。合計2歩大きく後退。
「・・・・」
「あ、ああ、あの、ね。昨日のTelで言ったコト、どうだったの?
や、やっぱり間違い、だったの、かな?
あ、アハ、アハハ・・ハハ」
「・・・・」
「・・・・」
「えと、あ、あのね。アレは、その、す、鈴原に聴いて・・・・。
それでアタシ、びっくりしちゃって。
そ、それで、その、友達として黙ってるのも・・ネ?
だから、あの、教えてあげなきゃって・・・・」
「鈴原ネ?!」
「そう、鈴原君・・・・」
ついと2人はヒカリの前から歩き去った。
始めて見る2人の親友の迫力に、ヒカリはヘビに睨まれたカエルの気分だった。
気丈な彼女が二度とお目に掛かりたくない、そう心から思う程に。
どっと力が抜けて、ヒカリは崩れるように椅子に腰掛けたのだった。
----2年A組教室・弐----
がらがらがら・・・・
「おっはよう、さん」
「ずぅい分ご機嫌ね、鈴原くぅん」
「な、なんや、綾波」
「ヒカリに聴いたわよ。シンジがマナにプロポーズしたって」
「そ、そら、委員長の勘違いや。ワシ、そないなコト言うてへん!」
「・・・・」
「・・・・」
「あ、あ、わ、ワシはウソ、言うてへんで」
「・・・・」
「・・・・」
「そ、そら話盛り上げるんに、少々オーバーに言うたけど、
そんなモン誰でもやっとるやろ?!」
「・・・・」
「・・・・」
「それに、ワシはそこまで言うてへんで。
シンジが大勢の前で抱きおうてた、ちゅうたけど・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「あ、そ、そんでワシに教えたんはケンスケや! ワシは見てへんのや!」
「そう、相田の奴・・・・」
「やっぱり出所は相田君なの・・・・」
ついと2人はトウジの前から歩き去った。
始めて見る2人の迫力に、トウジはヘビに睨まれたカエルの気分だった。
常に男の面子を気にする彼らしくもなく、口から出るのは言い訳だけ。
それでも、ふぅ〜っと、安堵のタメ息をついたが、まだ早かった。
ッガ!!
後頭部に加えられた2つの衝撃に、
不覚にもトウジは放課後まで赤木教諭の側で過ごすコトとなってしまった。
----2年A組教室・参----
「ん? あれ?(と、カメラのファインダーから視線を上げる)
どうしたんだい? 2人とも。
な、何怖い顔してんの?
惣流に綾波」
「昨日・・・・」
「鈴原・・・・」
「? ・・・・あ! アレは。・・・・その、ホラ。
だって、ちょっと驚いちゃってさ。
そんな時って、誰だって人に話したくなっちゃうだろ?」
「大勢の前で・・・・」
「ラブシーン・・・・」
「そ、そんなコト、オレ言ってないぜ。
それはトウジの勘違いだよ。
アイツが拡大解釈したんだよ、きっと」
「・・・・」
「・・・・」
「それで、あの、だから、その、・・・・ゴメンなさい!!」
ドカッ!!
ズカッ!!
【以下五分間に渡って、あらゆる擬音が響く】
あまりの迫力に誰一人、委員長・洞木ヒカリも、碇シンジも近づけなかった。
すでにHRの時間なのに、担任葛城教諭は未だ現れない。
それもケンスケにとって不運だった。
そのため、止めに入る者もいないまま、
相田ケンスケはボロ雑巾のようになってしまったのだった。
----2年A組教室・四----
「ふぅん、ふ〜ふ、ふ〜ん、ふぅ〜ん。と、アレ?
何だい? この物体。
やあ、おはよう。アスカちゃん、レイ」
いつものように軽やかなハミングとともにやってきたのは、
もちろん渚カヲルだった。
完全に遅刻だというのに、特に慌てた様子もない。
そう、今教室に入ってきたところだ。
ゆえに、2人の様子に気付くのが完全に遅れた。
ゆえに、2人に対する反応もまた完全に遅れた。
その後の経過を記載するには、彼があまりにも不憫で割愛させて戴く。
<了>
月刊オヤジニスト(番外編・あるいは責任のなすりつけあい)
トウジ 「もとはといえばケンスケ! おまえが訳のわからんことを言うからや!」
ケンスケ「それを言ったら、いいんちょが惣流に電話なんかするからだろ!」
ヒカリ 「なによ、鈴原がラブシーンだとか私の所に言ってくるから親友として確認しただけじゃない! そもそも鈴原が誇張するから!」
カヲル 「無関係なのに殴られた僕の立場はどうしてくれるんだい? まだ痛むよ身体のあちこちが」
トウジ 「ケンスケ、おまえがもうちょっと状況を的確に報告してくれれば、ワイも納得してこないなでかい騒ぎにすることはなかったんや! ジャーナリスト気取りでカメラまわすんやったらもうちょっと的確に情報を伝えんかい!」
ケンスケ「人の話を誇張して伝えたトウジが悪いんじゃないか! おかげで僕はあの二人組にどれだけ殴り倒されてどつかれたことか!」
ヒカリ 「相田君も鈴原も、どうしてそんな無責任な情報を私に伝えたのよ! ああ、アスカったら絶対私のこと馬鹿だと思ってるわ! どうしてくれるのよ!」
カヲル 「だから僕は全然無関係なのにあの二人のとばっちりを食ったじゃないか。冗談じゃないよまったく」
ケンスケ「あーあーたしかにトウジの言うことは正しい。でも僕だってあの状況だったらああ見るしかないじゃないか」
トウジ 「そりゃたしかにそうや。でもってワシやってケンスケのその話を聞いたらいいんちょにたしかめずにはおれんわ」
ヒカリ 「で、私だってそんな話を聞いたらはっきりアスカに問いただしたくもなるわよ。鈴原だってそんな私の性格は知ってるでしょ?」
ケンスケ「たしかに、そりゃそうだな」
トウジ 「そらそうや」
ヒカリ 「結局、だれもわるいってわけじゃないんじゃないの。今回のことは仕方なかったってあきらめるくらいしかないのね。みんな何かしらの原因があってその被害を被ってるんだから」
ケンスケ「ま、しかたないか。今回のことを教訓に次はもうちょっとまともな情報収集をしよっと」
トウジ 「たしかにな。無責任に電話かけたわいもわるかったんや」
ヒカリ 「私もふたりのせいにしてごめんなさい」
カヲル 「じゃあ、僕はいったいこのやり場のない怒りをどこにぶつけたらいいんだい?」
ケンスケ「そもそもそうだ。君がもうちょっとあの二人の鬱憤を発散してくれていれば、今回のようにすごい事態にはならなかったんだ」
トウジ 「そやそや。もうちょっとあの二人のガス抜きしっかりしてくれやー」
カヲル 「僕は避雷針じゃないんだけどな〜」
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