ガラガラガラ・・・・

「ヘイ! っらっしゃい!!」

週末の午後7時。
店はなかなか込み合っていた。
次々と発せられる注文に追われて包丁を振るっている為、
来客の気配にも主人は顔も上げずにただ大声で迎えた。

「雰囲気、変わってないわねェ」
「なんだか、すごく忙しそうだなぁ」
「ヘェー、おじ様こんなトコでバイトしてたんだ」
「うむ・・・・」

そんな会話に主人はオヤ?と思い顔を上げた。
そこには夫婦とおぼしき人物と、中学生くらいの子供が2人立っている。
夫婦の方には見覚えがあった。

もしや・・・・

「あ・・・・、ひょっとして、六分儀さん?」
「今は結婚して碇だよ、トシキ君」

主人の自信無げな問い掛けに、男はキッパリと答えた。
その少し尊大な語り口が、彼の記憶を確実に掘り起こした。

「じゃ、やっぱりゲンドウさん!? いやぁ〜、お久しぶりです」
「お父上は元気かね?」
「オチチウエ、って柄じゃないですけど・・・・
 親父なら元気ですよ。今もお袋と日本全国食い倒れツアー!
 なんてやってるくらいですから」

主人はキマリ悪げに頭を掻きながら答えた。
それから傍らの淑やかな美人に目をやった。

「エ〜と、奥様・・ですか?」
「はい、そうです」
「確か、ゲンドウさんがバイトしてた頃、よくいらっしゃいましたよね?」
「はい。私もよく憶えてますわ。
 おぼつかない様子で大きな食膳を運んでいたかわいらしい小学生のコト」

ユイの思い掛けない奇襲に主人は今にも頭を抱え兼ねない様子だった。

「やめて下さいよォ。これでもこの店の主人なんですよ、私。
 そんな旧いコト、掘り起こさないで下さいよォ。
 それでなくたって、親父があるコト、ないコト、
 店員もお客も見境無く吹聴して回ってるんだから」
「なんだ、親父さんの道楽かと思ったが、旅行っていうのは君の策略か?」
「い! いいじゃないっすか。
 それより、早く座ってください。腕を振るいますから」

どうやら、図星だったらしく主人はうろたえながら、カウンターの席を示した。
対するゲンドウは、と言えば悠然としたモノだった。

「ふむ・・・・。それでは、トシキ君の腕前、見せて貰おうか」
「ふ、任せて下さい。・・・・カウンター、4人さん。ご案内」

ゲンドウの言葉に主人は少々青冷めながらも、不敵な笑みを浮かべていた。


「さて、何になさいます?」

作りさしの料理を片付けると、主人は碇一行にそう声をかけた。
男の子と女の子は、一生懸命メニューに見入っていた。
しばらくすると、女の子がぽつりとつぶやいた。

「・・・・お子様ランチ、ありません?」

思わぬ言葉に主人は目が点になった。

いつだったか、友人たちとデパートに行った際、
レイは初めて体験したお子様ランチにすっかり魅了されてしまったらしい。
以来、外食の度にお子様ランチ、コレにはアスカを筆頭に皆すっかり呆れている。
それがどれほど徹底しているかと言えば、こんな居酒屋でまで口にするほどだ。

呆然としていた主人だったが、何とか我にかえると頬をひきつらせながら、
次の様に提案した。

「あぁ〜、未成年向けの料理を適当に、ってのではどうでしょうか?」
「あ、それでいいです」

レイはあっさりと頷いた。

「それじゃ、 ボクも」

相変わらずシンジは主体性無く、日和ってしまう。
ココにアスカがいれば、

「自分の意見、言いなさいよ! なっさけないわねェ〜」

などと、噛み付かれていたコトだろう。

苦笑しつつも主人は軽く請け負った。
そして、大人たちの方に目を向ける。

「それで、ゲンドウさん達は?」
「一任する」
「へ?」
「君に全て任せる」
「は、はぁ」

にべもない台詞に要領なくうなづくと、

よし、一丁この人を唸らせてやる!

とばかりに張り切って包丁を握り直す。
そして、現在の店にある食材で最良のメニューを組み立てる。
わずがな時間で、あたかも鉄人のように。

ゲンドウの性格を十分熟知している主人は、つけ出しから全く手を抜かなかった。
あの事件は主人にとって子供心にショックだったのだ。
料理人としてのプライドを守るためにも、最善を尽くした。

「・・・・ほぉ」
「アラ、これすごくおいしいわ」
「おいしい・・・・」
「すごいや。どうすれば、こんな味が出せるんですか?」

おそらくこの一行から引き出せる最高の賛辞に主人もすっかり安堵した。

「腕を上げたな、トシキ君」
「いやぁ〜。ゲンドウさんに比べたら、まだまだ・・・・」
「アラ、謙遜するコトないわ。ホントにおいしかったわ」

そんな褒め言葉に主人はすっかり有頂天になった。

「そこまで褒められる程じゃないんですけど・・・・
 でも、碇ご夫妻にそこまで言われると、ホント嬉しいですよ。
 あ、そうだ。天ぷらでもどうです。
 最近いい職人入れたんです」

それは主人にとって、そしてゲンドウにとって、破滅を呼ぶ台詞となった。




コン、コン・・・・

「学園長。・・・・と、碇め。今日もすでにいないとは!」

両手一杯に抱えた書類を握り締めながら、冬月教頭は歯ぎしりしつつ呟いた。
この一週間というもの、碇ゲンドウを放課後に目にした者は、
第壱学園には存在しないだろう。
終業のチャイムと共に巧妙に素早く下校してしまう。
お陰で冬月の元には、未決済の書類が日本アルプスを形成しているかの如き有様だ。

今日こそは、と思っていた。
僅かな気配も見逃すまいと神経を張り巡らしながらも、
足早に学園長室へとやってきたのだ。
見落としなど絶対なかったはずなのだが・・・・
しかし、敵は冬月のはるか上を行っていたようだ。
忌々しげに舌打ちをすると、踵を返して歩き出した。
廊下を戻る足取りは引きずるようで、
抱える書類を実際以上の重さに感じているに違いなかった。

「冬月せぇんせ!」

そんな冬月に黄色い声が掛けられた。
重そうに頭を巡らすと、第壱学園名物教師のトリオが立っていた。
葛城、赤木、伊吹各教諭である。

「なんだね、葛城君」

彼の立場を考えれば、思わず迷惑そうな語調が含まれるのも仕方ないだろう。
まぁ、もっと露骨であっても気にする相手ではないから、問題はないが。

「今晩、ちょっと行きません?」

そう言って、ミサトはクイっと盃を飲み干す真似をした。

「残念ながら・・・・。ホラ、この有様だからね」

抱えた書類を示して、冬月は乾いた笑いを浮かべた。
普通なら、ココで遠慮するものだが、彼女らに常識は通用しない。

「アラ、たまにはパァ〜っと発散しないと、怖いですわよ」
「な、何がだね。赤木君」
「いえ、先生のご年配の方は、根を詰めすぎてポックリ。
 という症例が、統計的にもかなり多いんです」
「おい、おい。脅かしてくれるなよ」

度量が広いのか、特定の人物の相手で慣れてしまったのか、
冬月は苦笑いを浮かべただけで、リツコの失礼な言い種を聞き流していた。

「冬月先生、いつも一生懸命なんですから、今日くらい・・・・」

おずおずと、マヤも口を挟む。
その心配そうな口振りに、さすがの冬月もそれもそうかと思い直す。
そんな様子を見て取ったミサトが畳みかける。

「そうですよ、先生。それに、すっごくイイ店見つけたんです。
 ぜぇ〜ったい!先生も気に入りますよ。賭けてもいいです」

ミサトの自信満々な台詞に冬月も興味深気に問い返した。

「ほぅ、どんな店だね」
「それは、行ってのお楽しみ!って奴ですよ」
「さぁ、行きましょう」
「早く、早くっ!」
「ま、待ち給え。ちょっと、支度をするから・・・・
 こら、そんなに引っ張るんじゃない」

3人の美女に囲まれながら、まんざらでもない様子の冬月だった。




ガラガラガラ・・・・

「っらっしゃい!」

週末の午後7時。
店はなかなか込み合っていた。
次々と発せられる注文に追われて包丁を振るっている為、
来客の気配にも板前は顔も上げずにただ大声で迎えた。

「・・・・ほう、これはいい店だ」
「でしょう」

(こ、この声は・・・!?)

確認しなくてもわかっている。それだけ馴染んだ声なのだ。
直感として理解していたが、理性の方が拒んでいた。

(でも、もしかしたら・・・!!)

板前はその淡い期待に縋るようにして入り口を見やった。
見た直後板前は引きつった笑みを顔にへばりつかせたのだが、次いで驚きが
浮かび上がった。

「・・・・っ!」

言葉にならない驚きの声を上げる。

「先生、他はいっぱいみたいだから、カウンターにしましょう」

いつもの冷静な口調のリツコだった。
しかし、頬がぴくぴくと振るえているのは誰の目にも明白だった。
マヤはと言えば、言葉もなく必死で口元を押さえている。

「ふむ、赤木君の言葉に従うかな。
 君、とりあえずビールと何かつまむものを4人分頼むよ」

冬月も柄にもなくにやにやしながら注文する。

「ふ、冬月・・・・」


事態は明白だった。
ゲンドウはかつての過ちを繰り返したのだった。
ゲンドウは再びこの店の授業員を強制リストラしてしまったのだ。
その責任を追及され、こうして十数年ぶりにこの板場に立っている。

あの時、ユイが呟いた台詞が全てを物語っているだろう。

「簡単に性格は直せないモノねェ〜」


以来、第壱学園教師陣はこの店の常連となった。






みきさんへの感想はこ・ち・ら♪   


月刊オヤヂニスト

冬月  「天ぷら

ゲンドウ「だからいいかげんにしろというのだぁ!」

冬月  「刺身

ゲンドウ「き、きさま・・・・」

冬月  「熱燗で一杯頼む」

ゲンドウ「く、く・・・・・」

冬月  「まったく、進歩とか学習とかそう言う文字はおまえの頭の中にはないのか。でかいのは顔と態度だけ、詰まっているのは髭の密度だけか?」

ゲンドウ「貴様・・・・」

冬月  「まったく、ほら、さっさと天ぷら、持ってきてくれんかの」

ゲンドウ「・・・(おのれ・・・目にものみせてくれるわ)・・・」

冬月  「あー茶がうまい、ずずずっ」

ゲンドウ「・・・・食え」

冬月  「・・・・ん? 遅いぞ店員

ゲンドウ「うるさい。さっさと食え」

冬月  「ここの板前は態度が悪いなまったく・・・・ん。なんだこれは?」

ゲンドウ「松の芽の天ぷらだ。いい素材を手に入れた」

冬月  「ほぉ・・・なるほど、こいつはうまいな」

ゲンドウ「ふっ。当然だ」」

冬月  「しかし、こんな松の芽をどこで手に入れたのだ? この近くは今はもう松など生えていないだろうに」

ゲンドウ「ふっ。丹誠込めて育てた物は違うのだよ」

冬月  「そうか。で、どこで手に入れた?」

ゲンドウ「校長室

冬月  「・・・・・・なに?」

ゲンドウ「正確には教頭室か。うまそうな松だったな」

冬月  「・・・・ワシの盆栽か? そうだな、そうなんだな!?」

ゲンドウ「おお、そうだったのか。全く知らなかったよ。ふっ」

冬月  「き、貴様・・・・」

ゲンドウ「どうした、まだ松の天ぷらはあるぞ。食うか(にやり)」

冬月  「うぐぐぐぐぅ〜」




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