そしてそれから外伝



前編 シンジとカヲルの日常


カヲル「渚カヲルです。よろしく。」 

そう言ってカヲルが微笑む。自己紹介を終えたカヲルは優雅な動作で席に着き、窓の外を眺めた。
物憂い表情で窓の外を眺めるカヲルを見て、クラスの女性の大半が入学早々の幸運を喜んでいた。
カヲルの実態を知らないだけに・・・・・そして、この世界には知らない方が幸せなことも多々存在して
いるのだった。


アスカ「あんたばかぁ?早く高校に行きなさいよ。あんた今日から高校生でしょ。」
カヲル「ううう、シンジくんと離ればなれになるなんてぇ。」
シンジ「ほんの少しの間だよ。放課後、迎えにいくから。」
カヲル「僕は一時たりともシンジくんのそばを離れたくないんだ。」

カヲルに手を握りしめられてシンジは赤くなった。

アスカ「そこで何で赤くなるのよ、シンジは!」
レイ「もう時間がないわ。」

アスカはシンジに詰め寄り、レイは冷静な声で指摘する。

カヲル「新しい学校でいじめられたらどうしよう・・・・・」
シンジ「大丈夫だよ、カヲル君なら。」
カヲル「もしそうなったら、慰めてね。シンジくん。」
アスカ「くだらないこといってないでさっさと学校に行けえええええ!!!」

アスカの剣幕に押されてカヲルは渋々と高校に向かった。

アスカ「全く、あの馬鹿のせいで私たちまで遅刻しそうよ。」
シンジ「しょうがないよ。カヲル君だって不安なんだよ、きっと。」
アスカ「あのカヲルが〜?まさか。」
レイ「いそぎましょ。本当に遅刻してしまうわ。」


カヲルは今朝のことを思い出して溜息を付いた。そのとき丁度、チャイムが鳴った。ホームルームが終わる。
それと同時にカヲルの席の周りは女生徒でいっぱいになった。カヲルは少し驚いたようだったが、すぐに
微笑んでにこやかに対応する。
カヲルが女子と仲良く話すのを見て、男子生徒は嫉妬と羨望の眼差しを送るのだった。



その数週間後、カヲルとアスカは喧嘩をしていた。


カヲル「やきもちかい?アスカ。」
アスカ「なっ・・・・・・なにいってんのよ。」
カヲル「僕が女の子と仲良くしているのが気に入らないんじゃないのかい。」
アスカ「そんなわけないでしょ!あんたらもね、迂闊にカヲルに近づくと妊娠しちゃうわよ。」

それを聞いて何人かの女生徒が心持ち身を引く。カヲルは憮然とした表情になって、

カヲル「根拠の足りない言いがかりは止めてくれないかい。」
アスカ「もう。カヲルの馬鹿ぁ。」

それだけ言うとアスカは走っていってしまった。

「あのー、カヲルさん。今の子は・・・・」
カヲル「僕の妹だよ。」
「そうなんですか。よかった。」

カヲルはアスカの走っていった方を見つめていたが、少ししてから女の子たちと別れてアスカを追いかけ
始めた。

アスカはどこともしれない場所を全力で走っていた。

アスカ「(シンジのそば以外に私の居場所はない。他の誰もこんな力持ってないもの。誰もこんな力を
持っている自分を受け入れてくれないもの。なのに・・・・・・・ううん。悪いのは私。レイもカヲルも
仲良くやっているもの。今の生活になじんでいないのは私だけ・・・・・)」

ふと、気が付いたときアスカはガラの悪い10人ほどの連中に取り囲まれていた。

アスカ「どきなさいよ!」

アスカの鋭い眼光に多少ひるんだようだが、それでも数を頼んでか引き下がろうとしない。

「そんなに邪険にしなくてもいいじゃねえか。」
「ちょっとつきあえよ。」

ふと、アスカは殺意を覚えた。自分がこんなに苦しんでいるのにこうやって何も考えずに生きて、
そして自分を汚そうとしているこいつらに。

力を使えば3秒たらずで決着は付く。だが、さすがにためらっていると男たちの一人がアスカに手を
伸ばしてきた。

「なあ・・・・・」

それと同時にアスカは、いや、この場にいた全員が凄まじい殺気を感じて振り向いた。

カヲル「止めろ。」

静かだがよく響く声でカヲルが告げる。男たちはカヲルの殺気に一時は躊躇ったが見た目は華奢なカヲル一人
ならどうと云うことはないと思ったのだろう。
何人かがカヲルの進路を妨害し、さらに何人かはアスカににじり寄った。

「なんだてめえは!」
「邪魔するんじゃねえ。いいところなんだからよ。」

そう言ってアスカの腕を掴む。アスカは激しい嫌悪感を感じてその男の手を力任せにふりほどいた。
その男はまるで独楽のように回転してしりもちをつく。

「てめえ!」

そう言ってアスカに何人かが掴みかかる。アスカも身構える。そのときカヲルが再び口を開いた。

カヲル「アスカに・・・妹に触れるな。」

アスカはカヲルがいつもの無表情ではなく、かすかに怒りを浮かべているのに気が付いた。
同時に強い力の迸りを感じる。次の瞬間には男たちは全員凍ったように動かなくなっていた。

アスカ「何を・・・・・・やったの?」
カヲル「動きを封じただけさ。初めて使った割にはうまくいったようだね。もう、彼らに出来るのは
死にゆく自分を見つめるだけ・・・・・・」

カヲルは微笑んでいた。だが、その微笑みはシンジたちに向ける優しいものでも、偽りの仮面でもない。
氷の如き残酷さを湛えていた。
カヲルは何もせずにただそこに立っていた。ただ立っているだけなのにカヲルの影が大きく伸びて異形の
魔獣を形作る。
アスカは声も出せずにその光景を見つめていた。カヲルの影が人を喰らっていく様を。
動きを封じられているため男たちは声を出すことすら許されない。ただ不気味な咀嚼音だけがその場に
響いていた。それだけにアスカにはこの出来事がいっそう非現実的に感じられた。

一分もかからずに全員を喰らいつくし、カヲルの影は元に戻った。後には何も残っていない。
あまりの出来事に口も利けなかったアスカだが、ようやく心を落ち着けてカヲルに詰め寄る。

アスカ「助けてもらったのは嬉しいけど、もし誰かに見られたらどうする気だったの?」
カヲル「見られないように細工はしてあるさ。」
アスカ「でも、だからって・・・」
カヲル「じゃあ、あのまま好きにされてもよかったのかい?」

カヲルの冷静な指摘にアスカは詰まった。

アスカ「そ、それは・・・・・・だけど!」
カヲル「アスカがあいつらに対して殺意を覚えたのは感じていた。」
アスカ「え?」
カヲル「でも、成り行きであいつらを殺せばアスカはきっと後悔する。」
アスカ「誰が!あんな奴ら、あんたに助けられなくったって・・・・・」
カヲル「簡単に殺せただろうね。だけどアスカはためらっていただろう。まあ、悩むのは人として当然だけど
ね。」
アスカ「あんたはどうなのよ。」
カヲル「僕は使徒だからね。他人を傷つけたくないから黙ってやられるだとか、アスカを見捨てるなんて
今の僕には出来ないよ。・・・・・別にアスカにこうなれって言う訳じゃない。アスカを悩ませるくらいなら
僕が殺した方がいい。それだけだ。ただ、戦いでの躊躇いは時として死を招く。これだけは覚えておいた方が
いいよ。」

カヲルの言葉には真摯な響きがある。アスカはその内容をよく噛みしめ、一つ尋ねた。

アスカ「カヲル・・・・・・どうして私を助けてくれたの?」

さっきあんなに酷いことをいったのに。いつも生活になじめない私のせいで喧嘩してばかりなのに。
そう、心の中で呟く。
だが、カヲルはさも当然そうに云った。

カヲル「兄妹だからね。当然さ。それだけじゃ、だめかい?」
アスカ「ううん。ありがとう・・・・・・」


アスカは今までカヲルが理解できなかった。微笑みは偽り。本心を隠すための仮面。レイと同じく感情が
ないんじゃ無いかと思っていた。でも違う。激しい感情を内に秘めていた。それに気が付いたとき、
アスカは少しだけカヲルやレイと分かり合える気がした。




その数ヶ月前、レイとアスカは喧嘩をしていた。


シンジ「アスカ、止めろよ。」
アスカ「何よ!シンジはファーストの肩を持つってぇの?」
カヲル「アスカ。落ち着いて。」

カヲルにたしなめられてようやくアスカは少し落ち着いた。レイが静かに口を開く。

レイ「いいの。その人が云うとおり、私は補完計画のために生み出された人形だもの。補完計画が中断した今、
私がいる意味なんて・・・・・・・・」

レイは悲しげに俯く。しかし、レイの言葉をシンジは強く否定した。

シンジ「そんなこと云うなよ!きっと・・・・・きっとあるはずだ。レイがいる意味が。」
アスカ「全ての人の存在に意味があるとでも思っているの?何の意味もなく死ぬ人だっているわ。
その人たちの死に意味を求めるなんて傲慢なのよ!」
シンジ「そんなの分かってるよ!無意味な死だって確かにあることくらい。」
カヲル「シンジくん・・・・・・・・」

シンジはいつものシンジからは考えられないほどの強い口調で言葉を紡いでいく。
激情に駆られて叫んだアスカもシンジの言葉に黙って耳を傾けていた。

シンジ「ずっと悩んでいた。なぜ僕たちにはこんな力があるのかと。僕たちが今この力を持っていることに
何の意味があるのかと。生にも死にも、そしてこの力にも意味はないと割り切って考えるならそれもいい。
けど、僕らだけにこんな力があるのはきっと何か意味があるはずじゃないか。僕はそれが知りたかった。
何もしないで後悔はしたくなかった。だから僕は・・・・・・・・・」

シンジの台詞は自分に向けたものでもあった。それを聞いてアスカがぽつりと言った。

アスカ「生きる意味か・・・・・・・・・それが知りたくて、生きているのかもしれないわね。」
シンジ「そうかもしれない。それならそれでいい。自分が納得できればそれでいいんだ。・・・・・・・
別に僕たちが他人と違う優れた存在だとは思わない。そうなりたいわけでもないんだ。だけど・・・・・
僕は自分が何のために生まれたのか、自分が何者なのか知りたいんだ。」
カヲル「いいじゃないか。今は分からなくても。」

カヲルがあっさりと断言した。

シンジ「カヲル君・・・・・・・・・」
カヲル「きっといつか力の意味に気が付く日が来る。それは今かもしれない。もしかしたらずっとこない
のかもしれない。それにはきっと時間が必要なんだよ。」

しんみりとしたカヲルの口調は全員を納得させるに足る説得力を持っていた。

アスカ「そうかもしれないわね。・・・・・・・・ごめんなさい。ファースト・・・ううん、レイ。
少し言い過ぎたわ。」
レイ「・・・・・いいの、私こそごめんなさい。アスカ。」
カヲル「ほら、二人とも仲直りの握手をして。」
レイ「ええ。」
アスカ「なんだか照れるわね。」
シンジ「ほほえましい光景だね。二人が仲直りしてくれてよかった。」
カヲル「世はすべて事もなし、さ。」




数ヶ月後、アスカとレイはリビングでくつろいでいた。   

アスカ「シンジとカヲルはどうしたの?」
レイ「どこかに出かけているみたいよ。」
アスカ「また?ここのところ毎日じゃないの。晩御飯はどうするのよ。」
レイ「心配いらないわ。私が作ったもの。」
アスカ「レイが?何を作ったの?」

興味津々で台所に移動すると、そこには皿によそられた豆腐があった。

アスカ「・・・・・・・・・何これ。」
レイ「見て分からないの?冷や奴よ。」
アスカ「まさかこれだけじゃないでしょうねぇ。」
レイ「そんなはず無いでしょ。はい、これ。」

そう言ってレイは鍋を持ってきた。

アスカ「・・・・・・・・・・・何これ。」
レイ「あなた意外に料理のことを知らないのね。湯豆腐よ。」
アスカ「そうじゃなくて!何で豆腐づくしなのよ。」
レイ「アスカは肉を食べ過ぎだわ。たまにはこういうものを食べなければだめよ。それに・・・・・・・」
アスカ「それに?」
レイ「今日は豆腐が安かったんだもの。」

やっぱりレイはよく分からない。そう思ってアスカは溜息をついた。以前レイと大喧嘩をして、そして
カヲルの本心に触れて、アスカは自分なりにレイやカヲルのことが分かってきたつもりだった。
しかし、完全に分かり合うことなど出来はしない。
だが、それでもいい。アスカはレイといることに安らぎを感じていた。
食事をしながらレイといろいろなことを話す。今日の出来事、次の休日の予定、欲しい服のこと、料理のこと、
そしてシンジやカヲルのこと・・・・・・・
以前のアスカからは考えられなかった光景がそこにはあった。

或いはそれは能力でレイと自分が同じ力を持つものだと分かるからかもしれない。仲間とともにいることが
実感できるからなのかもしれない。
だが、アスカは過去の経緯や力のことを抜きにしても、シンジとカヲルとレイと自分の4人での生活が
気に入っていた。ずっとこうしていたい。そう思いながらも、レイの豆腐料理の薄い味付けに、やはり
料理はシンジにして欲しいと思うアスカだった。



同時刻。シンジとカヲルは誰もいない草原に立っていた。

カヲル「どうだい、シンジくん?」
シンジ「まだまだだね。こんなことじゃ、完成にはほど遠い。」
カヲル「ATフィールドを自在に制御する訓練か・・・・・・・・それによって使徒として生まれつき持つ
能力のみならず様々な力を自在に操る。僕にはとうてい思いつかなかったよ。」
シンジ「もう、あんな事はしたくないから。」

数ヶ月前、シンジは特殊部隊とおぼしき集団7人に襲われた。逃げる間もなく銃で撃たれ、殺されたと思った。
だが、死んだのは彼らの方だった。このとき、初めてシンジは自分の中に宿る力に気が付いた。弾丸はすべて
ATフィールドに跳ね返され、同時にシンジの理性に関わりなく繰り出された最初の一撃で4人の首が宙を
舞った。彼らは自分がどのような目にあったのか、理解することはなかっただろう。逃げだそうとした残りの
3人もあっという間に追いつかれ殺された。
気が付いたとき、シンジの周りにはかつては人間だった肉の塊が転がっていた。自分の力がもたらした結果に
シンジは呆然として立ちすくんでいた。少ししてそれに気が付いたカヲルが半ば強引にシンジを連れだして
証拠を隠滅したのだ。それ以来、シンジはこうしてカヲルと二人で訓練を重ねている。ATフィールドを
自在に制御し、さらにS2機関で発生するエネルギーを制御する。それはいわば一種の「魔法」だった。
かつての戦いで使徒が見せた能力の模倣に始まり、今では戦闘用のみならず様々な能力を扱えるようになって
いた。

カヲル「まだ気にしているのかい。彼らはシンジくんを殺す気だった。だったら自分たちだって殺される
リスクを負って当然だよ。自分たちだけは安全で一方的に相手を殺せるはずがないんだ。僕らも含めてね。」
シンジ「それは分かっているよ。殺さなければ自分が死ぬという状況に陥ったとき、どうするかという
決断は既に済んでいる。ターミナルドグマでの戦いで。ただ、自分の意志によらずにああするのが嫌なだけ
さ。」
カヲル「強力な自己防衛本能による自動防御か。自らの身を守るはずの力故に苦しむことになるとはね。」
シンジ「うん。それに、レイもアスカも力を持つ以上きっと戦いに巻き込まれることになる。でも、彼女たち
にこんな思いはさせたくないから。」

だから自分が悩み、苦しみ、そして強くなればそれで良い。
そんなシンジの思いが伝わってくる台詞だった。
だが、それを聞いてカヲルは軽く首を振った。

カヲル「強い力があったところで他人を助けてやれるわけじゃない。自分自身だって怪しいものだよ。」
シンジ「分かっているよ。強い力があれば他人を救えるなんて思い上がりに過ぎない。それでも、与えられた
力をただ漫然と使うよりも、いかにして有効に力を使うか研鑽を重ねるのは決して無駄にはならないと思う。
現に人間が相手なら相手が何をしてきても対応できるだけの力を手に入れたんだ。・・・・・・それも単なる
自己満足に過ぎないのかもしれないな。」
カヲル「置かれた状況が同じでも、ただ流されていると感じるのか自分の意志で選んだことだと感じるのかは
大きな違いがあるよ。それでいいんじゃないのかな。」
シンジ「・・・・・・・・・そうだね。」



その数週間後、シンジは星を見ていた。

なかなか寝付けないシンジはベランダに立っていた。シンジたちのマンションはどちらかといえば
開発の進んでいない区画に立っており、夜は人工の明かりが少ない。さらに、新月の晩でもあり辺りは
かなり暗かったが、星明かり程度の明かりがあればシンジは十分にものを見ることが出来る。
シンジはもうかなりの時間こうしているのだが、激しい衝動はいっこうに収まらなかった。
力を使えるようになって、力を制御する訓練を始めて以来、シンジはたびたびこういう状態に陥った。
やはり訓練に多少無理があるのだろう。こういう状態に陥る間隔は長くなっているから、そう遠くない将来、
シンジは完全に力を制御できるようになるだろう。だが、今のところはどうしようもない。

その時シンジの感覚に僅かに何かが引っかかった。すぐに室内にはいると足音を全くたてずにカヲルの部屋に
向かう。カヲルは既に起きて着替えていた。シンジが来るのが分かっていたのだろう。

シンジ「カヲルくん・・・」
カヲル「分かっているよ。それじゃ、いこうか。」

二人はレイとアスカに気づかれないように忍びやかに外に出た。シンジは鋭敏な感知能力で自分たちに
向けられた悪意を感じ取っていた。
途中、誰にも気づかれることなく目的地に到着する。
そこには、シンジたちを抹殺すべく派遣された兵士10人ほどがいた。全員起きている。おそらく後僅かに
迫った作戦開始時間に備えているのだろう。遠くから力をたたき込めばそれで決着は付く。だが、シンジは
敢えてそうしなかった。カヲルの方を見てうなずき合う。それで十分意志が通じる。同時に攻撃に移った。
全力で疾走して目標の懐に飛び込み、一撃で殴り倒す。たちまち乱闘が始まった。
力に目覚めてからというもの、シンジの肉体能力は飛躍的に上昇していた。さらにカヲルと十分に戦闘訓練を
つんでいる。この程度の相手なら全く苦にもならなかった。

戦いながら、シンジは力の解放の喜びに打ち震えた。人間と戦っているという嫌悪感は無論ある。
だが、一種の躁状態になっている今では純粋に戦いが楽しかった。だからだろう、シンジは微笑んだ。
敵にしてみれば、それはまさに悪魔の微笑みだった。
たびたびこういう状態に陥るシンジにとって自分たちを狙う敵が攻めてくるのは好都合でもあった。
敵ならば存分に力をふるえるのだから。

戦闘の開始からわずか数分後には、兵士たちは全員死体となって周囲に転がっていた。
ATフィールドさえ使うことがなかった。戦いが終わって躁状態から回復すると、シンジは暗い思いに
捕らわれた。いかなる理由を以てしても自分たちのしたことを正当化することなど出来はしない。
以前カヲルに聞いたところ、

カヲル「確かに僕たちのしていることは殺し合いに過ぎないよ。相手は僕たちが邪魔だから殺しにくる。
僕たちは死にたくないから殺す。それだけさ。」

そう、云っていた。戦いに際してもカヲルは表情を変えることはない。たぶん、単なる手段に過ぎないと
思っているのだろう。確かにカヲルにとって戦いは手段に過ぎない。自分一人で戦うのなら合理的に敵を
消し去ってそれで終わりだろう。だが、シンジと共に戦うとき、カヲルは心が弾んだ。
シンジと共に在ることを強く実感できるから・・・

一方、シンジにとって戦いはある意味目的と化していた。
以前のシンジからすれば信じられないことだが、戦いを喜んでいる自分がいる。
あれほど人を傷つけるのを嫌っていたというのに・・・・・・・

戦いが終わって、いつものように考え込んでいるシンジを見ながら、カヲルは手際よく証拠を隠滅した。
完全に戦いの痕跡を消し去ったが、シンジはまだ考え込んでいた。

カヲル「あまり考えない方がいいよ、シンジくん。」
シンジ「ありがとう。心配してくれて・・・でも何も考えることなく戦うとか、敵だからと割り切って戦う
のはいやなんだ。確かに殺されるわけにはいかないから殺すしかないのかもしれない。でも僕が戦いを楽しん
でいるのも事実なんだ。単に欲望を満たすのに利用しているのかもしれない。だから、僕は自分の犯した罪を
受け止められるくらいに強くなりたい。そう、思うよ。」

生の苦痛に苛まれながらもそれを放棄することを潔しとしない。力のもたらした苦痛の最中にあっても、
真の強さを求めて止まないシンジがカヲルはうらやましかった。

カヲル「・・・・・そう考えられるだけでもシンジくんは十分強いよ。」
シンジ「・・・・・・・・そうかな?」
カヲル「ああ。・・・・・そろそろ帰ろうか。」
シンジ「そうしようか・・・・・・・」




続く


後書き

K「というわけで今回は外伝です。」
アスカ「前回のコメントで次からは最終章とかいってたくせに・・・」
K「まあ、それはおいといて、この話は「もう一つのエヴァンゲリオン」の約1年後、「そしてそれから」の
約1年前の話ですね。」
レイ「・・・何でカヲルが外伝の主人公なの?」
アスカ「しかもこれ、本編の伏線ばかりじゃないの!」
K「ああっ、どうしてそれを!」
シンジ「すぐにばれるよ。」
カヲル「で、次はどうなるんだい?」
K「次回はユカリちゃんが出てきます。」
レイ「7話で出てきたカヲルのクラスメートね。」
シンジ「と、いうことは当然カヲルくんが活躍するんだね。」
アスカ「何でカヲルばっかりなのよ!」
カヲル「シンジくんも活躍するよ。」
レイ「でも、私の出番がないわ。」
アスカ「私だってそうよ!そこんとこどうなっているのか、きちっと説明してもらいましょ〜か。」
K「あうあうあうあうあうあう・・・・・・・・・」
レイ「そう、もう駄目なのね。」

ぐしゃっ

シンジ「あちゃ〜。これじゃ続きが・・・」
レイ「いい、必要ないもの。」
カヲル「ま、まあ次の僕の活躍に期待してね。」
アスカ「私の出番がぁ〜。」




Kさんへの感想はこ・ち・ら♪   



管理人(以外)のコメント

アスカ「・・・・なに、これ」
シンジ「冷奴」
アスカ「そんなことは見ればわかるわよ! あたしが言いたいのは、どうしてこれが晩御飯なのかってこと! まさかあたしにこれだけ食べてがまんしろってことじゃないでしょうね!」
シンジ「まさか、そんなことはしないって。アスカが冷奴くらいじゃ満足しないのは知ってるし」
アスカ「そうそう、さすがシンジ・・・・って、これなによ・・・・」
シンジ「なにって、湯豆腐に決まってるじゃないか」
アスカ「しぃんじぃぃぃぃぃぃ! アンタアタシを馬鹿にしてるの!?」
シンジ「な、なんだよ〜」
アスカ「こんなものを夕食に出すなんて、あんたファーストと同レベルじゃない! もっといいもの出しなさいよ!」
シンジ「いいもの?」
アスカ「ハンバーグとか、ステーキとか、そういうものよ!」
シンジ「あ、ああ、なんだ、アスカそういうのが食べたかったのか。じゃあ早食ってくれればよかったのに。ちょっとまっててね」
アスカ「はん、それくらいわかりなさいよね・・・・・って、なに・・・・これは」
シンジ「なにっていわれても、リクエストに答えて、豆腐ステーキだけど」
アスカ「・・・・まさか、「豆腐が安かったから」とか言うんじゃないでしょうね」
シンジ「さすがアスカ、なんで知ってるの?」
アスカ「・・・・もう、いい・・・・」
シンジ「ん? アスカったら変だな。こんなにおいしいのに、もぐもぐ・・・・」




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