「技術的には説明できますよ。納得はしがたいかもしれませんが」








And live in the world forever

第25話:S2






<Dデイマイナス五日 ネルフ本部>

「この作戦における問題点は、エヴァンゲリオンという機体が建造された際に想定されている技術的な限界にあります」
 日向マコトの台詞と共に、足元の画面にシベリア大陸が浮かび上がった。
「ご存じの通り、エヴァは独立行動を前提に設計・建造されていません。外部動力を別途用意し、安定した動力を供給しなければこの巨体は稼働もままなりません。技術課の方々を前にこの話をすることは申し訳ありませんが――」
 向かいに立つ赤木リツコ、伊吹マヤにちらりと視線を走らせ、彼はさらに言葉を継いだ。
「我々人類は、エヴァというテクノロジーを操るに際し、その体内に内部動力を収めるだけの技術力を持ち得なかった。要約するとそういうことになります。各国で建造していたエヴァ・・・全ては破壊されましたが、そのエヴァに対するS2機関の搭載実験にことごとく失敗した事からもそれは」
 その言葉に、リツコは小さくうなずいた。
「で、その技術的限界が作戦上のネックになっている理由ですが」
 シベリア大陸の一画に赤い点が点る。
「北極海から内陸に約百キロ。山岳地帯の中腹です。ここが委員会の本拠と推定される球状構造体の存在する場所です」
「・・・遠いですね」
 マヤが小さくため息を付いた。
「地上には一切の人工的構造物が存在しないため、このセントラルドグマと同様に地中深くに構造体は存在すると考えられます。当初作戦課はいくつかの侵攻案を考慮しましたが、全てさきほどあげた問題から放棄せざるをえませんでした。上空からの降下作戦は、外部バッテリーの増設によっても稼働時間はわずか一〇分。これでは戦うことなどおぼつきません。また北極海に原子力潜水艦を展開させての陸上侵攻ですが、一〇〇キロメートルのアンビリカブルケーブルなど、引きずるだけで何トンになるかもわかりません。当然ながら球状構造体の周辺に、エヴァへの電力供給を可能とする発電所、動力源などの存在は全く存在しません」
「・・・・その所在地自体が、彼らにとって天然の要害となるわけだ」
 冬月コウゾウが、手だてなし、と言う風に首を振る。
「で、作戦課としてはどうするつもりなのかね? 葛城三佐」
 冬月の呼びかけた相手は、しかしその言葉に応えなかった。口を開いたのは、やはりマコトだった。
「今お話ししたとおり、今回の作戦におけるネックは、エヴァの設計自体が独立行動不可能な点にあります。しかしながらこの点について、我々作戦課は解決が可能であるという結論に達しました」
 なんですって、という声を上げたのは、リツコだった。
「我々技術課の結論は」
「知っています。既存の技術では不可能でしょう。いや不可能でした。その点については全く同意します」
「ならば」
「思い出してみてください」
 彼の言葉と同時に、画面に映ったものがあった。
「これは」
 マヤとリツコが、顔色をわずかに変えた。
「エヴァ・・・?」
 そこに映っていたのは、弐号機、参号機と戦闘をするエヴァの姿だった。
「先の第三新東京市侵攻戦で、八機のエヴァが委員会側の尖兵として我々の側のエヴァと交戦しました。戦闘後、技術課が破壊されたこれらのエヴァを解析したレポートがこちらにも回ってきましたが、特に異常と見られる点は見受けられませんでした」
「確かに。侵攻してきたエヴァの破損のひどい部分以外を調査した結果、委員会側で行われたと見られる改修の痕跡はなかった。ダミープラグはわれわれの作成したものと寸分違わない。念のため各国から取り寄せた設計図と比較した結果、全て各国で作成されたエヴァと同じ状態だったわ。で、それがいったい」
「そうです。全く設計上の改修はなし、オリジナルのままです。ではなぜ、彼らはやってきたのでしょうか?」
「?」
 マヤもリツコも、言っている意味が分からなかったようだ。マコトは繰り返すように再び言った。
「彼らはなぜ、やってこれたのでしょうか」
 この、第三新東京市に。
 しばし、場に沈黙が満ちた。
 あ、と声を上げたのはマヤだった。
「そうだわ。そういえば」
「そう、彼らのうち少なくとも五機は、この第三新東京市に『歩いて』やってきました。海を越え、陸地を歩み、この第三新東京市へ。アンビリカブルケーブルも、外部電源パックもない状態で、です」
 直線距離では数十キロ。しかしながら五体のエヴァは、数時間に及ぶ行動を、外部からの電源供給なしに
「かつて参号機が使徒に乗っ取られた際、同じように外部電源なしで数時間に渡る行動を行ったケースがあります。しかしあれは使徒という要因があってのことで、今回のようにオリジナルのエヴァが行動を可能としたそれとは根本的に異なります。我々はこの点に注目しました。オリジナルのエヴァが、なぜ行動可能だったのか。我々は、大きな見落としをしていたのではないか、と」


<Dデイ シベリア>

 タイフーン級原子力潜水艦<ミハイル・ゴルバチョフ><ボルゴグラード><ユーリ・ガガーリン>。その三隻の船体から氷原に投げ出されたアンビリカブルケーブル。まず初号機が、そして参号機が、ややおくれて弐号機がそれぞれ、手にしたケーブルを自らの体に差し込んだ。同時に背中のバッテリーが切り離され、氷原に白煙をたてて落下する。
「アンビリカブルケーブル接続確認。外部電源モード稼働」
 事前に説明されたマニュアルを思い出しながら、シンジは電源モードの切り替えを確認した。続いてインダクションレバーを押し下げ、初号機を待機モードに設定する。鈍い震動と共に三機のエヴァはやや前傾姿勢となる。
「綾波がいくら人並みはずれてるいうても、6人相手じゃそうそうもたんからな。急がなあかんで」
 同じく待機モードに設定された参号機から、トウジのせっぱ詰まった声が聞こえてきた。モニターと回線だけを残して機体が動きを止めたのを確認して、シンジはシートから体を起こした。
「ええと、次はシート背後の、と・・・ごっつ狭いとこにあるの」
「ぐちゃぐちゃ言わない! さっさと引っ張り出しなさいよ!」
 とはアスカの弁。
「メンテナンスコンソール・・・これね!」
 彼女の声と同時に、シンジもシートの裏からコンソール端末を引っ張り出した。
 ノートパソコンほどの大きさの端末を起動させると、事前に教わった通りの起動画面、流れるコマンドは彼には何を意味するのか全く分からない。
「シンジ、そっちは?」
「今起動中!」
「ワイのもや。なんや画面がぐちゃぐちゃうごいとる」
「ぐちゃぐちゃなんて初心者みたいなことを言わない!」
「ワイはコンピュータは初心者なんじゃ! それのどこが悪い!」
「はいはい、さすが三バカだけのことはあるわ。ええと、アタシのでみると、大体今で4割くらい・・・・ってとこね」
「三バカ、言うな!」
 焦燥感を紛らわそうと必要以上に口論をするトウジとアスカ。それを聞き流しながら、シンジはじっとコンソールを見つめていた。
 早く、早く、もっと早く!
 綾波が今、あっちで戦っているんだ。
 一人で、あんなにたくさんの相手をして。
 いくら綾波が強いと言っても、あの力があると言っても、僕はできるだけ綾波には戦って欲しくない。
 あの日、面と向かって彼女と話したこと。彼女は自分の意志で、みんなを守るためにあの力を使うと言っていた。力に流されることもなく、自らの意志で。自らの望むことのために。
 でも、それでも彼女は、綾波だって一人の女の子なんだ。
 そんな力、使わずにすめばそれでいいんだ。
 だから、少しでも彼女の助けになるように。
 僕たちが、早くやるべき事をやってしまえれば!
「―――エヴァンゲリオン各機、聞こえているか? こちらはソビエト海軍所属、<ユーリ・ガガーリン>。聞こえているか? 私は戦略打撃軍大佐、アレクセイ・キシモトだ」
 その言葉に、はっとシンジは我に返った。
 雑音の後に流れ出てきたのは、意外にも流ちょうな日本語だった。
「ネルフ本部よりの要請に従って、君たちのエヴァへの支援任務を行う。聞こえていたら返事をしてくれないか」
「キシモト、大佐? 潜水艦の艦長?」
「ああ。そうだ。ちなみに通信は全て日本語でかまわんよ。名前の通り、私の祖母はれっきとした日本人だった。付け足すならば、ソビエト国連派遣軍で昨年までネルフとの連絡業務に携わっていた事もある。君たちのことは、よく知っている」
 潮風にしゃがれたであろう野太い声は、通信機の向こう側で豪快に笑っていた。
「本艦と<ミハイル・ゴルバチョフ><ボルゴグラード>の三隻はすでに原子炉の圧力を限界値まであげている。君たちに必要とする電力の供給は問題なく行える。こちらはいつでも良いぞ。できれば早いほうがいい」
 なぜ、とはシンジは聞かなかった。事前に聞かされている説明で、その理由は知っていたからだ。ただ、事前の話と違う点もある。
「護衛の潜水艦は、いないんですか?」
「あいにくと君たちの国でいう地獄とやらに向かって全艦突撃中だ。我々にとっては共産主義の楽園とでも言えばいいかな」
「では、あなた達は自分たちを守ることが」
 我ながら、声が引きつっているのが分かった。ミサトから聞いた説明では、電力供給に全てのエネルギーを回す戦略原潜には、各艦数隻の護衛が付くはずだと。
「まあ、予定には齟齬がつきものだ。気にしなくていい。それに我々がやられるときはどっちみち護衛の船など役にたたんよ。彼らは、間違いなくあの子供達にやられたんだからな」
 はっと振り向くと、氷原の中、激しく戦いを続けるレイと子供達の姿が見えた。連続して立ち上る爆煙とATフィールドの輝きは、その言葉に十分以上のの説得力を与えていた。
「達観、してるんですね」
「なに、私の祖母に比べればまだましだからな。我々―――君たちを含めてだが、我々にはあの少女という護り手がいる。祖母はその護り手がまっさきに逃げ出した満州で、絶望的な逃避行を続けていたのだから。結果私が生まれたとはいえ、それが全ての免罪符となるわけではない。子供の頃に聞かされたそんな思いに比べれば、今の状況ははるかにまし。生きるか死ぬかは神のみぞ知るってところだ・・・・おっと、ソビエト海軍士官としてこいつは失言」
 小さく鼻で笑うと、キシモト大佐はごほんと咳を一つした。
「さあ、そんなことより準備の終わった機体からはじめようじゃないか。原潜側の統制は小官が代表して行う。まずはだれから行く?」
「―――OK、起動が終わった。アタシが、一番ね」
 そう答えたのは、アスカだった。


<Dデイマイナス五日 ネルフ本部>

「根本的な、過ち?」
「そうです。考えてみませんでしたか? なぜわれわれがS2機関の搭載にことごとく失敗したか。エヴァが・・・彼女たちがそれを受け入れなかったのはなぜか」
「設計がまずかったからでしょう。我々はS2について全てを知っているわけではない。あの嵐のような破壊が吹き荒れる前の南極大陸で、たまたま半壊したそれを見つけたに過ぎないのだから」
 リツコが、何を今更とばかりに声を発した。
「設計図すらない、がらくた同然のそれを仮にも『機関』とよばれるまでに再生しただけでも奇跡的だわ。だから、設計にミスがあったとしても、トライ&エラーでそれを見つけ、修正し、完璧なS2に近づけていくしかないのよ。それがまだうまくいっていないだけのこと。S2は、我々にとってはまだブラックボックスなのよ」
「―――本当に、そうなんでしょうか?」
 マコトは、リツコをまっすぐに見つめたままぽつりと言った。
「いえ、S2がブラックボックスであるとの見解はおっしゃるとおりでしょう。確かに我々は、たまたま半壊したS2機関『らしきもの』を見つけました。がらくた同然、まさにその通り。その本当の姿は誰も知りません」
 しかし、とマコトは言葉を継いだ。
「考えてみてください。S2を持っていると言われていた、言われ続けていた今までの使徒。エヴァが破壊したそれらの中から、S2は見つかりましたか? いいえ、ただの一つも見つかっていません。自爆した第三使徒、第四、第五、第六・・・どの使徒においても」
「じゃあ、我々のS2の設計が根本から間違っていると?」
「それも、違います。我々はすでに、S2を目にしているのです」
 え、とつぶやいたのはマヤだった。リツコはわずかに表情を変えたが、無言のままマコトの次の言葉を待った。
「元々S2を持っているところに、もう一つS2を積み込もうとしても無意味なことです。無理矢理積み込めば失敗するのは当然のこと。いわば人間の体に、心臓をもう一つ突っ込もうとするようなものですから」
「一体、エヴァのどこにそんなものが」
「我々人類は、エヴァのテクノロジーを完全に習得したわけではありません。アダムを、南極大陸で発掘されたあの巨人をコピーした結果、たまたまそれが動いただけのこと。動かすためには外部からの電源供給が必要だったこと。しかしそれがどうして動いているのかまでは完全にはわかっていません」
 マコトは視線を背後に向けた。再びスクリーンに映し出された映像に、マヤとリツコは息をのんだ。
 「使徒・・・?」
 そこには、今までエヴァが撃破した使徒達の映像が次々と映っていった。
 自爆した第三使徒、夕闇にたたずむ第四使徒・・・・映像は続く。
 流れる映像の中、はっとリツコが息をのんだ。
「ご覧の通りです。第三使徒の自爆。第四使徒の活動停止。第五使徒、第六使徒。何か忘れていませんか?」
 ネルフは、エヴァは、使徒を撃破することに全ての力を注いできました。彼ら使徒もまた、我々エヴァを撃破すること、そしてアダムにたどり着くことに全ての力を注いできました。
「その中で、興味深い動きをした使徒がいます」
 映像が、切り替わった。
「第、壱四使徒?」
 マヤが、顔色を変えた。わずかに眉をひそめたのは、あのとき感じた嘔吐感を思い出したからかも知れない。
 マコトはうなずいた。さらに画面が切り替わる。横たわるエヴァに、第壱四使徒・・・ゼルエルは攻撃を加える。吹き飛ぶ装甲版。そして。
「第壱四使徒は、エヴァの装甲板の下にある『それ』を破壊しようとしました。そうです。我々もまた、使徒に対して同様に破壊を試みたものにです」
「―――コア、なのね。あなたやミサトの結論は」
 ええ。マコトはうなずいた。
「そうです、コアです。あれこそが、我々の言うS2なのです」


<Dデイ シベリア>

「アタシが、一番ね」
 アスカは勢いよくそうつぶやいた。エントリープラグの中、コンソールを放り出すとシートに座りインダクションレバーを握る。
「さっさとやって頂戴。アタシはまどろっこしいのはキライなのよ!」
 せっつくようにレバーを一つ二つ叩くと、それに呼応するようにキシモト大佐の笑い声が聞こえた。
「セカンドチルドレン、惣流・アスカ・ラングレー、だったな。君のエヴァは<ユーリ・ガガーリン>が担当だ。待機モードレベルを1、下げてくれ。神経接続は0.75ポイント増加。フィードバック回路は50%カットだ。エヴァからのデータ流入は極力カットだ。君たちの精神にどんな影響が起こるかわからんからな」
「はっ、そんなのとっくに終わってるわよ。とろくさいわね、ソビエト海軍ってのは!」
「嘘でも良いから、堅実と言ってくれないかね―――では始めるぞ。<ガガーリン>、電力送電開始。60から、秒1パーセント上昇だ」
 キシモトの言葉と同時に一度、二度。瞬くようにスクリーンが明滅し、次の瞬間外部の映像は消えエントリープラグの内壁が視界の全てを覆い尽くした。
 さあ、始まるわ。
 自然、アスカのレバーを握る手にも力がこもる。
 ここから先は、どうなるか誰にも分からない。MAGIのシミュレーションは何度も行った。結果、成功率は70%だった。
「いつもより、二桁は多いわね」
 ぽそりとつぶやいたリツコの言葉に、あきれるより先に笑ってしまったものだ。
 でも、実際のエヴァでは誰もテストなんかしてない。できない。いいえ、テストをした結果だけは知っている。あの悪夢のような第三新東京市の戦闘の中、アタシたちの前に立ちはだかっていたエヴァの群。
 何かに操られるように動く、死人のようなあの姿。
 思い出すと、今でも背筋が寒くなる。自分の乗る弐号機は、もしかしたらああなってしまうのではないか。そう思いもした。
 それでも、やめるわけにはいかない。逃げ出すわけにはいかない。
 自分の存在意義だから・・・・そんな気持ちではない。
 アスカはぎゅっと目を閉じた。
 まぶたの裏に、見えない外界で戦う少女の姿が浮かぶ。
 綾波レイ。ファーストチルドレン。小憎たらしいあの少女。
 戦いの中で彼女が見せた、人を超絶したあの力。素手でエヴァンゲリオンと渡り合うなど、唯人にはできるわけがない。一体あの子は、何なの? そう、考える。
 シンジはどう折り合いをつけたのか、出撃前もいつもと変わらず彼女と話をしていた。アタシは結局、第三新東京市の戦い以降ファーストとは話をしていない。
 どうしても一歩引けてしまう気持ち。
 それでもあの子は、アタシたちを護るために戦っている。ただ独り、自分たちを護るために戦っている。
「それが、私の役目だから」
 レイはそう言った。
 アタシが勝手に畏れているだけなのだろう。あの子はそんなことは気にもとめていないはず。ただ命令されたままに―――いや、違う。
 アスカは出撃前、シンジと話していたレイの表情を思い出した。
 かつての無表情さではない。決意を秘めたまなざしと、自らの意志の籠もった表情が印象的だった。
 命令だからじゃない。ファーストはそうしたいから、戦っている。
 それが、私の役目だから。
 レイの言葉に籠もっていた本当の意味に、アスカはようやく気づいた。
 ―――冗談じゃないわよ。
 ファーストに借りを作るなんて、惣流・アスカ・ラングレー、そんなんでいいの!?
 きっと、目を見開いた。見えないスクリーンの向こうの少女に、心の中で叫ぶ。
 今は借りといてあげるわ。で、今すぐ借りは返すからね!
 ぶうん、という音と共にシート背後のディスクが回転をはじめる。外部からの信号受信を示す小さなビープ音と共に、シートがわずかに揺れた。
 そして。
「―――!」
 耐え難い激痛と共に、悲鳴がエントリープラグに満ちた。


<Dデイマイナス五日 ネルフ本部>

「そもそも、コアとは何なのか。それについて、我々はあまりに考えなさすぎました」
 マコトは、つぶやくように言った。
「赤木博士。技術部として、この疑問に何かご意見はありますか?」
「そうね。難しい質問ね」
 リツコは右手をあごに当て、少し考えるそぶりを見せた。
「そう―――コアとは、エヴァの心の器。そう解釈していた、というのが妥当な所ね」
「心の器、ですか」
「発掘されたアダムを元に作成されたエヴァ初号機。母と碇司令の奥様がテストをしていたのは知ってるわね」
 奥様、という台詞にマヤはぴくりと肩を震わせた。しかしリツコの表情も口調も、いささかも変化はない。
「初号機のコアは、南極で発掘されたものをコピーしたものだった。起動実験はことごとく失敗していた。どんなテストを行っても、あれはぴくりとも動かなかったわ。そう・・・・あの日までは」
「碇博士が、エヴァに取り込まれる日までは」
 そう、と彼女はマコトの言葉にうなずきを返した。
「起動実験中の事故として処理されたあの後、今までの事が嘘のように実験は成功していったわ。外部電源による起動実験、エントリープラグによる操縦システム。実験をしていて怖いくらいだったと母は言っていた」
 その実験結果をもとに、プロトタイプである零号機は設計された。設計は完璧だったはず。しかし、ゲージに固定された零号機は起動信号に全く反応しなかった。
「初号機をほとんど丸ごとコピーしていた。それでも全く動かない零号機。何度も何度も一から作り直した。地下のがらくたの山を見ればどれだけ母が悩んだことか分かるわ。何かが違う。初号機と零号機の間には何かが違う」
 そして、赤木ナオコは気づいたのだ。
 事故前後の全てのデータを見直した。初号機に対して送り出すパルス信号のテストを繰り返した。結果、彼女は認めざるを得なかった。
「取り込まれた碇ユイ博士と、コアが融合していることに」
 コアとは、エヴァの心の器。
「そこには最初は何もない。器の中身を満たさなければ、エヴァはエヴァたりえない。それが結論であり、事実零号機以降全てのエヴァは、心の器を満たして作られた」
「・・・・それが、マルドゥック機関によるチルドレンの選抜・・・エヴァの心の器を満たした者の子供、という選び方なのね」
 全員が、言葉の主・・・ミサトの方を見た。リツコは瞬間驚いた表情を浮かべたが、すぐに小さく笑った。
「―――教えてくれたのは、加持君?」
「そういえば、そうだったかもしれない。もう、いつ気づいたかも覚えてないわ」
 瞬間遠い目をしたミサトだったが、しかし視線を元に戻すと、さらに言葉を継いだ。
「心の器。それは間違ってないわ。でも、コアとはそれだけのものじゃないのよ」
「じゃあ、一体なんだと。心を入れる以外に、一体何が」
「人の心は、どこにあるの?」
「え?」
 その言葉に、リツコは声を詰まらせた。ミサトはもう一度、繰り返すように言った。
「人の心は、一体どこにあるの? 心の器なんてものは私たちはどこにも持ってないでしょ? 一方心といってまず思い浮かぶのは、一体どこ? 人の心はここに―――」
 彼女はそう言って、右手を胸に当てた。
「ここにある、って言われるけどね」
「じゃあ、母さんの結論は・・・・間違っていたと?」
 リツコは、愕然とした表情で訪ねた。
「いいえ、ある意味間違ってはいない。ただ赤木博士は狭義にコア、と解釈してしまったのよ。確かに碇博士はエヴァに取り込まれた。でもそれはコアと融合したのではなく、まさにエヴァそのものとなった。そう考えればつじつまは合うわね」
 そしてその心と言われる場所は。
「・・・・心臓。ハート・・・・コア」
 リツコのつぶやきに、マコトはそう、とうなずいた。
「そして、今までのケースを考えてください。初号機が本来活動しえない状態で動き出したとき、何が彼女を動かす契機になりましたか? シンジ君…初号機パイロットの叫びもそうですが、それ以外にも使徒によるコアへの攻撃など外的要因も影響しています。これらによって一時的な……一時的にせよ彼女たちは外部動力という楔から解き放たれました。で、その時に何をもって動いていたかと言えば、それはコア/S2なのです。
「つまり」
 ごくりと、誰かがのどを鳴らす音が聞こえた。固唾をのんで、マコトの次の言葉を待っている。それはある程度予想はされているものだった。彼が何を言うのか、そしてそれが何を意味するのか。
「外部的要因によるコアへの変動強要と、パイロットの精神状態によるコア/S2/エヴァの覚醒。これによって、エヴァによる委員会本部への地上侵攻は可能であると我々作戦課は考えます」





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