11月30日中日新聞三河版の記事

 

賀川豊彦「一粒の麦」を再版

 豊橋、蒲郡、旧津具村(現設楽町)など東三河を舞台にした賀川豊彦(一八八八-一九六〇年)の小説「一粒の麦」を、同じキリスト教の信者らが二十四年ぶりに再版した。「郷土の文学に触れ、みんなで生きるということを見直してもらいたい」と願っている。

 「一粒の麦」は一九三一(昭和六)年に発行されてベストセラーになり、無声映画にもなった。八三年に社会思想社が出した文庫版を最後に、絶版になっていた。賀川が豊橋に来て百周年にあたる今年の再版を目指し、賀川が創立したイエスの友会三河支部やみかわ市民生協を中心に「再版する会」をつくり、遺族の許可を得て準備を進めてきた。

 小説は、津具の貧しい家に生まれた主人公嘉吉がキリスト教に出合って人生観を変え、他の青年とともに山村の生活向上に取り組むというストーリー。猿回しと旅行したり、以前の勤め先でごまかした金を返したりしながら嘉吉が精神的に成長していく様子を、清明な文章でつづる。

 本はB6判、三百十四ページ。一冊九百円で、三千部刷った。口筆の詩画家星野富弘さんが表紙絵を描き、聖路加国際病院の日野原重明理事長が推薦文を書いた。日野原さんは賀川の主治医だった。再版する会の長谷川勝義事務局長(六五)は「本を手に取り、協働や隣人愛の精神を思い出してもらえたら」と話している。

 十二月八日午後一時半から、豊橋市公会堂で再版記念会を開く。賀川豊彦研究者の鈴木武仁さんが講演し、アニメ映画で生涯を振り返る。本代を含めた入場料干円。問い合わせは再版する会事務局の鈴木貞男さん 電0532-52-8757へ。(日下部弘太)

 

かがわ・とよひこ 神戸市生まれ。19歳のとき、キリスト教伝道のため訪れた豊橋で肺結核が悪化。一時危篤に陥ったが奇跡的に回復し、蒲郡や津具に移って療養した。著名な文学者であり、協同組合運動など多くの社会運動にも尽力。ノーベル平和賞の候補になった。

 

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