学園ドラ&エヴァ



この高校にも週番という制度が存在していた。

時代錯誤、とまでは言えないが、学生達にとってはかったるい業務であることに変りはなく。

一週間交代でなければ、誰もが制度の廃止を訴えていただろう。

一人居残って日誌を書く、ということにどれだけの意味があるのか―――

無論、学生の不満なんてモノは、なくなるような性質のものではないが。

週番が無くなれば、違う制度がかったるくなってくるだけだろう。

そして文句を言い出すのだ。

「こんなん、たるくてやってらんねーよ。」と。

高校生活なんて、そんなものだろう。

そんな風に、流れていくものなのだろう。特別な事ではなく。


今週の週番は、綾波レイだった。

待ってもらうのも悪いので、いつも一緒に帰っているシンジとアスカを先に帰す。

そして一人教室に残り、机を並べたり、カーテンを閉めたりと、仕事をこなす。

人の姿が少なくなった教室―――

一段落ついた頃、がらがら、と教室の扉が開いた。

レイもまた、その音に反応し視線を送る。

入ってきたのは、鈴原トウジだった。

アイデンティティーたるジャージを着る機会は、高校に入って少なくなったものの、

今でも上着としてつっかけているところが彼らしい。

綾波レイ達とは、言うまでもなく中学の頃よりの知り合いである。

シンジ達三人が成長したように、鈴原トウジもまた高校生らしく成長していた。

昔から精悍だった顔は、更にたくましくなり、体つきは男らしさそのものの具現。

無論、両足とも在る(なんだそりゃ)。

「よう、綾波。週番か?」

「ええ。」

もうひとつのアイデンティティー、関西弁は、長期の東京生活で段々と薄れている。

誰もが惹かれる笑みを浮かべて、レイは返事を返した。

もっともその笑顔が、トウジになんらかの影響を与えることは出来ない。

彼は既に、校内ベストカップルの一組だったから。

「綾波は真面目やなあ。わいやったら、とっとと帰っとるで。」

奇麗に整頓された教室を感心したように見回し、トウジは言った。

「それで委員長に叱られるんでしょ?」

悪戯っぽい口調。

だが、トウジにも余裕はある。それが成長したという事なのか。

にやり、と笑うと、

「まあ―――な。」

平気な顔で切り替えしてきた。

それを見て、レイはわずかに溜め息をつく。

トウジもまた、その様子に良心の呵責をわずかに感じたものの―――

「綾波、さっきシンジから伝えてくれー、言われたことがあるんやけど。」

「え?」

シンジ、という言葉に敏感に反応するレイ。

ますます心に痛いモノを感じたが、今更契約は破棄できない。

「……シンジが明日、買い物に付き合ってくれって、いうとったで。」

「……シンちゃんが…?」

「二人で、買い物がしたいんやと。明日、十一時に駅前の広場のいつもの場所で待っとる、と。」

レイは、逡巡するような素振りを見せていたが―――

「……アスカちゃんは?」

わずかに、いつもの声より小さくなった声音で問う。

トウジは首をかしげるようにして、

「二人で―――みたいな事、いうとったけどなあ……。」

そこまで言うと、契約は完了したとばかりに、

「ほんなら、伝えたから。」

言って、荷物をまとめて教室から出る。

これ以上はさすがに耐えられなかったからだったが―――

後には、綾波レイ一人ばかりが残る。

青い髪の少女は、妙に浮きたつ心に不快感を覚えつつも、喜んでいる自分を否定できなかった。

ちなみに。

青い髪は染めたわけではないが―――この高校は生徒の髪型、自由でもある(フォロー)。



一方、碇シンジの方は。

隣に住むアスカと別れ、帰宅。

「ただいまー。」

言って、靴を脱ぎ捨てる。

シンジとアスカの家はマンションの隣同士で―――などと説明する必要はないだろう。

二人は幼い頃からの幼なじみであり、要するにそういう関係だった。

「おかえりー、シンちゃん。」

彼の母親、ユイさんの声が響く。

「丁度良かった。ケンスケ君から電話よ。」

言って、台所の方から電話を持って、シンジに手渡す。

「ケンスケから……?」

なんかあったっけ?と考えながら、受話器を受け取る。

「はい、シンジだけど。」

「おお、碇か。捕まえられて良かったよ。」

受話器からは聞き慣れた相田ケンスケの声が伝わってくる。

彼女も居なければ、取りたてて特技もない―――

普通の高校生でしかないが、シンジ達との付き合いは続いている。

「いやさ、さっき綾波に頼まれたんだけど、お前明日暇かって?」

明日は祭日で学校は休み。

シンジに特別な予定はなかった。

無論、調べはすんでの事だったが。

「いや……別に何もないけど。」

「そうか、良かった。―――綾波が買い物に付き合って欲しいってさ。」

「買い物?」

「そう、明日十一時、駅前の広場で待ち合わせで、買い物したいってさ。」

……なんだか綾波らしくないな……。

そんな奇妙な違和感を感じたシンジだったが、問いただすほどのことでもない。

「うん、分かった。アスカにも伝えておくよ。」

しかし、ケンスケは慌てて言う。

「いっ、いや…。惣流には伝えないで欲しいってさ。二人っきりで買い物したいんだろ。」

「ふーん…?」

ますます違和感を感じるシンジ。

だが彼の頭に在るのは『僕と二人で買い物……アスカに内緒……アスカの誕生日って何時

だっけ?』などという、あまりにも平和なモノだった。

レイが内緒にして、などというのは、こっそりと誕生日プレゼントを買おうとしているくらいの発

想しか、彼には無いのだ。

だが、なんにしても断るべき何者もない。

「うん、分かったよ。秘密にしておく。」

シンジの快活な返事が返ってくる。

「そうか、助かったよ。伝え忘れたもんでね。それじゃよろしく頼むぜ。」

言って、ケンスケは電話を切った。

そして、ぐふぐふ、と無気味に笑う。

「シンジのヤツめ……。たまには痛い思いもしてもらわないとな。」

眼鏡をきらーん、と光らせ、ケンスケは哄笑するのだった。



第二話:サンライフテイオー



「一見、あの三人組は仲良しに見えるけどね。」

スネ夫は、ジャイアンに解説をぶつ。

「私が見るところ、綾波レイは碇シンジに未練たらたらだね。」

新しくポップコーンの袋を開けながら、スネ夫はそう言った。

「ほう、そんなもんか。」

ジャイアンにとっては興味深い内容だった。

何せ、小学生時代から純情一途。こういった事に関しては、シンジと並ぶほど奥手。

「ああ。まあ……それでもアスカちゃんとシンジの仲を邪魔したくない、と身を引いては

いるようだけどね。……心に嘘をつけるものでもないさ、そう簡単にね。」

妙にしみじみと語るスネ夫。

「自分がシンジへの好意をさらけ出しちゃあ、三人の仲に亀裂が走るからねえ。軋轢とでも

いうべきか。だからこそ、自分の気持ちを押し殺しているわけだけど―――」

もがもがと、ポップコーンを頬張りつつ、

「やっぱし好きな気持ちに嘘はつけないさ。煽ってやれば簡単に火は点く。」

「それが『レイちゃんを利用して、二人を別れさせよう作戦』ってか?」

スネ夫は無言で頷いた。

「ふむ……。具体的にはどうやんだよ?」

「簡単さ―――」

スネ夫の目は何故か異様に冷め切っていたが、ジャイアンはそれに気付かない。

「レイとシンジをデートのひとつでもさせればいい。それで充分、火に油は注げるよ。」

ジャイアンは眉根にしわを寄せた。

「んん?だけど、それをどうやってするよ?つーか、不可能だろ、俺達には。」

その言葉に対し、スネ夫は静かにかぶりを振る。

「確かに私達に、二人のデートのお膳立てを整えるなんてのは無理だけどね。」

「だろ?」

「それなら人を使えばいいさ。単純な事だよ。」

「ああ?!」

「それが資本家ってモノさ。労働は、下賎にやらせればいい。」

そう言ってうそぶくと、スネ夫は傍らの缶ビールのタブを引き開ける。

そしてくびぐびと飲みだした。ちなみにスネ夫は16である。

「下賎ねえ……。」

呆れたようにいうのは当然ジャイアン。

「いるだろ、私達の知り合いには?金に弱い商人(あきんど)が、さ。」

「……鈴原と相田のタコ助の事か?」

「いえす、しゃるうぃーだんす。」

酔っ払ったわけでもないだろうが、意味不明な事を喋りはじめたスネ夫を無視し、

「だけどよお……俺達、あいつらと仲悪いじゃねえか。」

誰とも無しにそんな事を言う。

スネ夫は当然の如く聞きつけ、

「まあね。」

飲み干した缶ビールを静かに床に置くと、声を発した。

鈴原トウジ、相田ケンスケ―――この二人と、ジャイアンスネ夫のコンビは犬猿に近い。

入学当初から仲が悪かったわけではない。むしろその逆だった。

のび太としずかちゃん。シンジ達三人。

かつての友人達が自分達だけの世界を創り上げ、彼らの侵入を阻みはじめた為、当然の

ように、この四人は知り合った。

あぶれた四人―――というには、スネ夫の容姿だけが際立っていたが。

話も合ったスネ夫達四人は、勢いに乗ってバンドを結成する。

その名も『地球防衛ジャイアンズ』

ボーカルのジャイアンに、容姿で人を惹きつけるスネ夫のベース。

中学の頃からバンドを組んでいたというトウジとケンスケ。

この四人によるバンドは成功間違いなし―――と考えられていたが。

たった一度の練習で、バンドは空中分解した。

解散の理由は音楽性の違いだと主張しているものの、明白だろう。

それがあり、スネ夫達とこの二人の仲は、未だ修復されていなかった。

特にジャイアンのこの二人に対する嫌悪感は甚だしく。

小学生時代なら、トウジとケンスケは間違いなく鉄拳の嵐を見舞われていた事だろう。

しかし今のジャイアンは、滅多に暴力を振るう事はない。

彼なりの『滅多に』ではあったが。

「あの馬鹿達に何をさせるって?」

「レイと奴等は友達だからね。伝言を頼むのさ。」

そして、スネ夫はジャイアンに耳打ちする。

そこで語られた計画の概要は―――

「無理があるなあ。」

ジャイアンは深刻そうに唸りを上げる。

「そうかい?」

スネ夫はいつもの、飄々とした態度を崩さない。

「だってよお、シンジがレイの元に確認の電話をしたら、どーすんだよ?」

「その時はアウト。」

「アスカちゃんがこの話を聞きつけたら?」

「その時もアウト。」

「……なんたるアバウト!!さすがてめえの計画だな。」

ジャイアンは溜め息すらついて、言う。

「お褒めに預かって……。」

それに対し、仰々しく深々と頭を下げるスネ夫。

それを見て、更なる溜め息はジャイアン。

「第一、あいつら必ず一緒に帰って、丁度良いチャンスがねーじゃねーか?!」

「ああ、それは大丈夫。綾波は今週週番だから。」

「なるほど……。」

「それに―――だよ。」

ややあってから、スネ夫は指を一本立てて説明する。

「例えば二人が電話で確認を取り合って、計画のボロが出たとしようか?でもね。」

やおら目を細めて、

「綾波の心理で考えてみなよ。折角の二人っきりのチャンスだぜ。多少のいかがわしさって

いうか、不審さがあったとしても、無視するだろうね。それほどに、『二人っきり』っていう言葉

は重い筈だ。」

「なーるほど……ね。」

スネ夫の発想に、わずかな嫌悪感を感じたジャイアン。

人の気持ち云々じゃねーけど……

「スネ夫……てめえ、鬼か?」

なんとなくそんな言葉が口をつく。

スネ夫はふっ、と視線を下げて、

「別に……。私にも色々あってね……。」

そして静かな口調で付け加える。

「それに、失敗しようと成功しようと、それはそれで等価値なのさ―――」

謎めいた言葉だけが、ジャイアンの耳に残った。


つづく



ドラえもん作家の言い訳

えーと、ですね。蛇足ですけど言い訳させて下さい。
この話のスネ夫君は良い奴です。とっても。
というか、善人のスネ夫君を書きたくて、書き始めたようなもんです。
元々、コメディで書いてる訳でもないですし。それでわ。

タイトルは大井競馬場の名馬より(特に、というか全く意味はないです)


高原さんへの感想はこ・ち・ら♪    

高原さんのぺえじはこ・こ♪    


管理人でない人のコメント

トウジ 「おううううう」

ケンスケ「ひゃっほう♪」

シンジ 「・・・・二人とも、何喜んでるの?」

トウジ 「きまっとるやないか!! わいらがついに話にでたんやで!! 「エヴァのスネ夫とジャイアン」と呼ばれるほどの脇役やったワイらが!!」

シンジ 「・・・・なにそれ・・・・」

ケンスケ「そこそこの役回りはあるけど、ぜったいに主役にはなれない、ってことさ」

アスカ 「ふうん・・・・極道ジャイアンがトウジで、ブチ切れ軍人スネ夫がケンスケね。まあ、言い得て妙って奴ね」

トウジ 「誰が極道や!!」

ケンスケ「だれがブチ切れだって!!」

シンジ 「ドラえもん大戦を読まなきゃ分からないネタだね・・・・それは・・・・」


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