<償い>

 

 

 

 

「葛城君、葛城君…」

 

誰、誰なの、私を呼ぶのは…

 

ミサトはゆっくりと目をあけた。目に入る照明の光がまぶしい。目の奥がきりきりと痛むのをがまんして視線を左右にはしらせ、まわりの状況を確かめる。そして目に入ってきたのは白を基調とした清潔だが殺風景な部屋の様子。病室のヘットの上だった。どうやら患者は自分一人らしい。記憶の糸をたぐってみる。確かシンジをエレベーターの中へと突き飛ばし、後は出血のため、倒れてそのままその場にうずくまったはず…

 

「葛城君、わかるかね? 私だよ、冬月だ…」

 

コウゾウがかたわらに立ち、顔をのぞきこんでいることに気づく。そのため白髪頭が照明の光をさえぎり、目をしかめずにすむようになった。どうやらミサトのほかはコウゾウ一人らしい。

 

「副司令…」

 

そう答えるのがやっと。

 

「もう大丈夫だ。よくやったな、ゆっくり休むといい」

 

そう言ってコウゾウはミサトをねぎらい、その額に右手をかざして軽く触れる。その手のぬくもりが疲れた眼球を通して感じられ、とてもいい気持ち。ずっと緊張の連続だった心がゆっくりとだがときほぐれていく感じだ。心が安らぐ…

 

「副司令、みんな生き延びたのですか?! シンジ君は、アスカは、レイは、リツコは…」

 

私はみんなの安否を問いただす。それが唯一にして最大の気がかり。

 

「大丈夫だ。だから心配せんで今は早く治ることだけを考えてくれたまえ。みんなも心配しているからな」

 

コウゾウはミサトの不安を打ち消すよう、つとめて平静を保つ。しかし、その声は傷ついた我が子を心配し、いつくしむような響き。

 

やさしい声…。そして人を気づかうしぐさ…。いつも私が困った時になると必ず手を差し伸べてくれるんですね…。みんなあの時といっしょ。そう、いっしょ…

 

 

 

 

 

 

 

 

2002年 国連南極調査船

 

 

 

 

「ひどいな、これは…」

冬月コウゾウは小さくつぶやいた。

 

ここは南極調査船。国連がセカンドインパクトの真相を解明すべく、南極に派遣した正式の調査隊である。その船内の第二隔離施設。白を基調とした明るいが家具などの調度品がまるでないだだっ広い部屋の中。その殺風景な部屋の中には、ひとり少女が椅子にぽつねんと座っていた。目はうつろで生気がまるで感じられず、焦点も合っていない。なにか遠くを見つめているようなその面影からは、遠い昔に思いをはせているよう。ひとが何を語りかけようとも一切反応を見せず、その口は堅く閉ざされたまま。医者の話では極度のショックから心に傷を負い、それが原因で失語症に陥っているとのこと。その原因となった場所を再び訪れることで、なにがしかの進展が得られればという親族の願いから今回の調査隊に同行してきたという。ただ、どんな反応を見せるかまったく予想し得なかったので、念のため隔離施設に収容されていたのである。

少女の名は葛城ミサトといった。碇ゲンドウを除いた三年前の葛城調査隊唯一の生き残り。年は確か十五、六。もっとも多感な頃にどんな経験をしたのか誰にもわからない。しかし、一人の少女から言葉を失わせ、みずからの殻の内に閉じこもらせた出来事とは並たいていのものではなかったはず。ただそれは想像するほかはなかったのだが…。

 

「碇、本当に連れてきてよかったのか? 私はむしろちゃんとした施設で治療を施した方がいいと思うがな…」

コウゾウは、つい心に思ったことをもらしてしまう。それはその道の専門家でなくても、この少女の容体を見れば誰でもそのように思うはず。それに対して、ゲンドウの答えはそっけない。

「なに、専門の施設で治療を行っても同じことですよ。要は本人に生きたいというはっきりとした意志があるかどうかです。それなくしてはどこで治療を受けようとも同じことですからね。それに彼女の親族の方にも事情がありまして。亡くなられた葛城博士とその奥さん、どうやら不仲だったらしいんですよ。近々離婚も考えに入れていたらしい。そうした矢先にあの事故でしょう。自分より夫の方になついていた我が子をこれ幸いと放り出したんでしょうな。坊主憎けりゃ袈裟まで憎いですか。かわいそうなもんですな」

「むごいことだな…」

ポツリとコウゾウはつぶやいた。

「所詮、子供というのは親の所有物です。生まれる時から生殺与奪の権利は親に握られているんですから。今までの配偶者との関係が終わればその合作である子供との関係も終わり、別の異性を配偶者とすべく新たなる関係を求めていく。そういったもんでしょう。Familyの語源はFamilia、家畜っていう意味じゃないでしたっけ? まさに煮て食おうが焼いて食おうが親の自由って訳ですな。それが嫌なら早く独立するしかないんですよ」

ゲンドウのまさに皮肉たっぷりの言葉を耳にしながらも、コウゾウの目はその少女をじっと見つめていたのである…。

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトくん、ミサトくん…

 

 

 

 

 

 

誰かが呼んでいる…

 

遠くで誰かが…

 

そう、誰かが…

 

でも、知らない人…

 

そう、私の知らない人…、とうさんとは違う…

 

とうさんは死んでしまったもの…

 

私を助けるかわりに…

 

そう、かわりに…

 

あの日、セカンドインパクトが起こった時…

 

傷ついた私をカプセルに入れてくれて…

 

本当だったら自分が入って助かることもできたのに…

 

本当だったら歩くことさえできなかったはずなのに…

 

それでも最後の力を振り絞って運んできてくれた…

 

自分の命と引き換えに…

 

引き換えに…

 

そして私が最後に目にしたのはとうさんの笑顔…

 

『もう大丈夫だよ』って声は出さなかったけれど、そう言っていたに違いない…

 

あんなにかあさんとのことで責めていたこの私を…

 

本当だったらほっといていて当然なのに…

 

嫌って、憎んで、ののしってくれていても当然だったのに…

 

それでも私の言うことはちゃんと聞いてくれた…

 

激しい言葉、胸をえぐるような言葉、心をささくれ立たせるような言葉、

そして本当は身に覚えのないようなことまでも…

 

いつも悲しい目をして、それでも黙って耳を傾けてくれていた…

 

無理をしてくれていたんだ…

 

私のストレスを発散させるために…

 

きっとそうに違いない…

 

違いない…

 

今ならわかるような気がする…

 

嫌になるほどわかるような…

 

でも…

 

でも、それなのに…

 

私は勢いに任せて、あなたのことを責めてばかりいた…

 

どうしよう…

 

どうしたらこのことを償えるのか…

 

わからない…

 

わからない…、たとえわかったとしても、もうあなたはいないもの…

 

私って最低…

 

他人のことも考えずに、自分の気の済むままに振る舞っていた…

 

こんな私なんてこの世にとどまる価値もない…

 

価値もない…

 

そう…、価値もない…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬月教授、ご熱心なことですな。そんなにあの子のことが気になりますか?」

冬月コウゾウは今日もあの少女のところへと足を運んだ。専門医ではないので効果的な治療のようなものはできないが、たえずコミュニケーションをはかろうとすることで、何がしか心を開くきっかけでも見出せないものかと思ってのこと。そんなコウゾウの様子を碇ゲンドウは皮肉ったのである。

「ああ、これでも教育者の端くれだからな。そうでなくともあの姿を見れば誰でも心が痛んで何とかしてやろうという気にもなるさ。大したことはできんだろうがね…」

コウゾウはまたかといった感じで聞き流す。その言葉に対してゲンドウはにやりと口元を歪めただけ。そしてこう付け足した。

「自己満足ですか? まあ、先は長いんですからいい時間つぶしにはなるでしょうがね。でも、二人っきりになるとはいってもくれぐれも変な気は起こさないでくださいよ。これ以上、彼女の心に傷を付け加えるようなことになったら、それこそとり返しのつかないことになりますからな」

「失敬な!」

そう言ってコウゾウはおもわずもむきになってゲンドウを罵倒する。本当は口をきくのも嫌だったのだが。

「君は何でそう物事を斜にしか見れんのだ! それは君自身、彼女に何か引け目があるからじゃないのかね? そもそもなんで君だけが都合よくセカンドインパクトの直前にあの場所を離れることになったんだ? こうなることを知っていたんじゃなかったのかね? もしそうだとしたら、この子の父親を含めた調査隊全員を君は見殺しにしたんだぞ!」

コウゾウの強い口調にもゲンドウは動じない。

「いえいえ、たまたまですよ。ただ運がよかっただけで。それともなんですか? 私がセカンドインパクトの起きることを予想していたなどという証拠でもありますかな? 冬月教授?」

ゲンドウの口元にはいつものニヤリ笑いだけが浮かんでいたのである…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…かあさん…

 

かあさん、なんでそんなにとうさんを責めてばかりいたの?…

 

仕事ばかりで家族のことを顧みなかったから?

 

自分のことを見つめてくれなかったから?

 

話しかけても相手にしてくれなかったから?

 

責めても黙ったままで言い返してこなかったから?

 

そんなとうさんをあなたは責めてばかりいた…

 

何度も何度も…

 

数え切れないくらい…

 

朝から晩まで…

 

それこそ顔を突き合わせればいつも…

 

そばにいる私のことは考えもしないで…

 

どうしてなのかしら?…

 

 

 

 

いえ、かあさんもわかっていたはずよ…

 

とうさんが取り付かれていたものの正体に…

 

その心をしっかりと捕まえ、離さなかったものの正体に…

 

S2機関という魔物に…

 

それは学者ならば誰しも心奪われるもの…

 

太古の昔から学者すべてが求めてやまなかった夢、永久機関…

 

その魔物にとうさんは魅入られてしまった…

 

その魅力にとうさんは抗えなかった…

 

自分を犠牲にし、私を犠牲にし、かあさんを犠牲にしてまでも…

 

そんな魔物に勝てるわけはない…

 

かあさんも心の底ではわかってたはず…

 

でも、とうさんを渡したくはない…

 

渡したくはなかったからあんなに責めていたのよね…

 

昔の二人の写真を見るとよくわかる…

 

あのころの二人はとっても幸せそうだったもの…

 

そのとうさんが心変わりをしたようで許せなかった…

 

そうでしょ?

 

そうなのよね、かあさん…

 

そうだといってよ…

 

ねぇ、かあさん…

 

そうだといって…

 

 

 

 

 

 

 

 

さむい…

 

さむいよ…

 

なんだかとってもさむい…

 

からだの芯から冷えるような…

 

ふるえが止まらない…

 

あの時といっしょだ…

 

カプセルに入れられて海を漂っていたときと…

 

そう、あの時も…

 

あの時も寒くて寒くてたまらなかった…

 

一人ぼっちで寂しかった…

 

けがをした体が痛んだ…

 

でも、助けの船なんかぜんぜん見えず…

 

目に入るのは波しぶきと遠く向こうに見える赤い大地だけ…

 

そんな中、私はカプセルの中で縮こまっていた…

 

もうどうでもいいやって思いながら…

 

ただただ、じっと縮こまっていた…

 

知らないうちに時が過ぎ…

 

つらいこの世から去れることを願って…

 

もうこれ以上、悲しい目にあわなくてもいいようになることを願って…

 

でも、体のほうはそんな私の願いにお構いなく勝手に動いていた…

 

歯の根が合わなくガチガチと音を立て…

 

吐く息もまっ白…

 

まるで今の私の心みたいに…

 

からっぽで何もない…

 

私もこれで死んじゃうのかな…

 

でも、それでもいい…

 

だって…、だって、もう誰も私のことなんか気にしていないもの…

 

こんなに自分の父親を責めていた女のことなんて…

 

当然よね…

 

そう、誰も私のことなんか気にしてなどくれない…

 

こんな私のことなんか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ん?

 

なにか手に触れている…

 

コーヒーカップだ…

 

誰かがコーヒーカップを手にあてがってくれている…

 

中には何か注がれていた…

 

きっと温かいんだろうな…

 

湯気が出ている…

 

そのぬくもりが、つけている手袋を通してじんわりと伝わってくる…

 

手のひらが温かい…

 

それと、手の甲も…

 

コーヒーカップを私に握らせ、落ちないようにと両手で包んでくれている人がいる…

 

大きな手…

 

まるでとうさんのみたい…

 

ごつごつしているわけではないけれど…

 

でも、女の人のものとは違う力強さがあるような…

 

私のことをしっかりと包み込んでくれるような…

 

そんななつかしさを感じさせるような手のひらだ…

 

温かい…

 

この中身もきっとそう…

 

きっとそう…

 

 

 

 

そしてミサトはコップの中身に口をつけたのである…

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬月教授、あの子に何を持っていってやったんです?」

ゲンドウはコウゾウに質問した。ここ何日か、船内の発電機の調子が思わしくなく、暖房のほうもあまり効いていない。場所が場所だけにここではそのことは命取りにもなりかねないのだ。自閉症患者のようにみずから体を動かして暖を取ろうとしないものにとり、それはまさに死活問題。そんなミサトに対してコウゾウがどんなことをしてやるのか、ゲンドウには興味があったのである。

「ホットコーヒーだよ、ただしブランデーを少し入れたね。アルコールとカフェインでしばらくはからだが温まるだろう」

コウゾウはいやいやながら答える。どうせ、皮肉られるだろうということを予想して。

「ほう、コーヒーはともかくとして、よくそんなものがありましたな。たしか国連からの支給品のリストには載っていなかったはずですが?」

やっぱりというような顔をしてコウゾウは答える。

「そうだ、私が持ちこんだ物さ。長い船旅だ。そうじゃなければやってられんと思ったんでね」

「そうですか、あなたのものならば別に文句を言う筋合いはありませんな。でも、ほどほどにしておいてくださいよ。まだ若い身空でアル中ってことにはさせたくありませんから。それともいっしょに添い寝でもしてやったらどうです? でも、変な気はくれぐれも起こさないようにしてくださいね。ここには出産用の機材なんかは用意してないんですから」

やっぱり口をきくべきではなかったと後悔するコウゾウだったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

温かい…

 

温かい…

 

からだの芯から温まる…

 

あの人が持ってきてくれた飲み物のおかげだ…

 

あれから幾度となく持ってきてくれた…

 

それを飲むと体が温まるだけでなく、心までも安らぐ…

 

いやなことを忘れることができる…

 

三人がいっしょにいたころの楽しい思い出が次々とよみがえってくる…

 

ずっとこのままの気持ちでいたい…

 

できることならば…

 

 

 

 

でも、誰だろう?…

 

誰が持ってきてくれるのかな…

 

そういえばかなり前から私に会いにきてくれていたような…

 

名前も知らない人…

 

背が高く、やせていて髪の毛には白いものが目立つ人だ…

 

私に話かけるときには身をかがめ、目の高さを合わせようとしてくれる人…

 

決して人を邪魔者扱いしない…

 

だからといって医者のような事務的な冷たさもない…

 

私に話しかけるときの目には戸惑いにも似た表情が浮かび…

 

その言葉からは気恥ずかしさが感じられる…

 

口調もぽつりぽつりと言った感じ…

 

ああ、この人はあまり女の人と付き合ったことがないんだ…

 

そんなことがこの私にでもわかる…

 

かなり勇気が必要だったんだろうな…

 

なんだかおかしいよ…

 

私のとうさんと同じぐらいの年なのに…

 

そんな人っているのかな…

 

なんだかおかしい…

 

おかしい…

 

 

 

 

そしてミサトの顔には何ヶ月ぶりかの笑みが浮かんだのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬月教授、なんだかうれしそうですね。何かいいことでもあったんですか?」

ミサトの隔離されている部屋に向かうコウゾウを乗員の一人が見つけ、声をかけてきた。

「ああ、葛城君に笑顔が戻ったんだ。ほんの少しの間だったんだがね。でも、前からすればいい兆候だよ。それにこのごろは私が行くと、なにがしかの反応を見せてくれるようにもなったしね」

「あの子にですか? そうですか、それはよかった。私たちも心配はしていたんですが何にもしてやれませんでしたからね。やっぱり大学の先生は違いますな」

その乗員は感心したように言う。

「いや、私はたいした事をしておらんよ。専門も違うしね。すべてはあの子次第だったんだ。強いてあげればあの子にもまだ生きたいという願望があったんだろうな。それを運よく引き出せたというところさ」

そう言って謙遜するコウゾウだが、その顔は自然とほころんでいた。近頃ではミサトと会い、話しかけることはコウゾウの楽しみとでもなっていたのである。たとえまだミサトが返事を返してくれなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

2016年  碇ゲンドウが収容されている病室

 

 

 

だだっ広い白を基調とした病室。その中で碇ゲンドウは一人ベッドの中におり、かたわらには冬月コウゾウが勧められた椅子にも座らずに後ろ手を組んで立っていた。ゲンドウに背を向けて。つい先日までは必要とされていた生命維持装置ももはやなく、今はただ体力の回復を待つのみの体のゲンドウ。普段はリツコが付き添っていたのだが、今は席をはずしてもらっている。そんなゲンドウに対してコウゾウは長年の疑問を口にした。

「なあ、碇。おまえがあの時、葛城君を南極調査団に同行させたのは何かもくろみがあってのことだったんだろ? でなければ計算高いおまえのことだ。足手まといになるような子供を連れて行くはずはあるまい」

コウゾウはその姿勢を崩さず、背を向けたまま少しうつむき加減で問いただす。面と向かっては話さない。

「ええ、あの事件に関係したものを調査団に同行させることでマスコミから隔離しようと思ってのことです。へたな探りでも数が増えれば思わぬところからぼろが出ますから。それを避けたかったんですよ。それだけのことです。ただあの子が立ち直るとは夢にも思いませんでしたけれどね。冬月先生、あなたのおかげです。でも、ネルフの作戦部長に収まるとは思いもよりませんでしたよ」

ゲンドウはベッドに半身を起こして視線を宙に泳がし、冬月と決して合わせようとはせずにその問いに答えた。

「そうか…。でも、おまえが私にあの子の面倒をみさせるように仕向けたんだろ? 皮肉を言えば私がむきになることも計算のうちで。私を調査隊に誘ったのもそのためか。ちがうかね?」

コウゾウは視線を天井のほうへと移し、ゲンドウの答えを待った。

「いいえ、ともに同じ道を歩むべき人にはできる限り本当の事を知っておいて欲しかったからですよ。ユイにあなたの事を聞き、失礼ですがいろいろと調べさせてもらいました。この計画を進めるにあたって信用できる仲間を必要としていましたからね。その結果満足すべき結果が得られ、仲間に誘おうときっかけを作ろうと思ったわけです。で、一番あなたの気を引きそうなことを申し出てみたわけでして。それにあなたも応じてくれたということです」

ゲンドウは淡々とコウゾウの質問に受け答える。その声には感情というものが含まれておらず、ただ事実のみを述べているにすぎないような感じ。それに対してコウゾウも深くは追求しない。そして次の質問をゲンドウにする。

「そうか…、じゃあ、葛城君が立ち直った後、父の敵を討つためにその生涯をささげ、ひいてはネルフに籍を置くなんてこともおまえの計算外だったってことだろうな。加持という男と関係を持つようになるなんてことも含めてだよ?」

「ええ、そこまで一個人の人生に影響なんか与えられませんよ。私とて全能の神ではない。でも、あのときの関係者がネルフに籍を置いてくれたのは保安上好都合でしたがね。葛城三佐にはたまたまその素質があっただけです。神というものがいるならば感謝していますよ」

「ほう、そのための学資やら進路相談の時のカウンセラーへの工作などとは行っていないと?」

「ええ、それにそんなことを私がやったにせよ、最後に決めたのは彼女自身ですから。違いますか? むしろあなたの方が何かにつけ、彼女のことを気にかけているように私には思えましたがね。あしながおじさんも顔負けなくらいに」 

ゲンドウのもっともらしい答えにコウゾウは何を聞いても無駄だなとあきらめる。ゲンドウの鉄面皮は今始まったことではない。

コウゾウはなおもを会話をつづけようとするが、ちょうどそこへ発令所から連絡が入り、話を打ち切らざるを得なくなる。

「そうか…、ではそろそろ退散するとするよ。外ではリツコ君も痺れを切らしていることだろうからな。」

「ええ…」

最後まで感情をあらわにしないゲンドウである。そして部屋を辞そうとするちょうどその時、思い出したようにコウゾウは一つゲンドウに問いかけをしてみる。

「なあ、碇。そもそも葛城調査隊に対する救援要請をしたのはおまえじゃあなかったのか? 結果を知っていたから前もって救援要請をしていたんだろ? でなければあんなに早く救援隊がたどり着くことなどできなかったはずだ。ま、そのおかげで葛城君は助かったんだがな。あの傷だ。もう少しで手遅れになるところだったそうだよ…」

そんな言葉を残してコウゾウは帰っていく。

それに対し、ゲンドウはうつむいたまま何も答えを返さない。そしてコウゾウが部屋を出ていった後にポツリともらす。

「…冬月先生、このごろますます葛城博士に似てきておいでだ…、性格も、そして外見までもね…」

そのあとはただ沈黙のみ。ただ時だけが流れていったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミサトの病室

 

 

 

佐!

 

…三佐!

 

…葛城三佐!

 

 

誰?

誰なの、私を呼ぶのは?

副司令…? リツコ…? マヤ…?

また使徒の襲来…?

いかなくちゃあ…

いってみんなを守らなくちゃ…

みんなを使徒から守って生き延びさせること、それが私のできる唯一の償いなんだから…

とうさんが私にしてくれたことへの唯一の…

何にがなんでもいかなくちゃあ…

でも、体が言うことをきいてくれない…

力が入らない…

体を起こすことさえできない…

情けない…

こんな私が…

使徒と戦うことのできない自分なんか生きている価値がないのに…

ねぇ、そうでしょ…

そうよね、とうさん…

ごめんなさい…

もう無理みたい…

悔しいけど…

加持、ごめん…

あんたの仇、取れなかったね…

味方に撃たれちゃった…

あんたと一緒…

待ってて、もう少しでそっちへいけるから…

そっちで昔の続きをしましょう…

お互い、素直だったあのときの続きを…

でも、お酒ってそっちにあるのかな…

あるといいな…

ねぇ、加持…

そうでしょう…

 

 

 

 

そしてミサトは目を開く。すると目の前には、髪の毛を後ろで束ねたあの男が手を差し伸べていたのである。無精ひげの浮いた顔に微笑を浮かべて。ミサトが一番あいたかったあの男が。

 

 

 

 

おしまい

 

 

 

 







Noikeさんへの感想はこ・ち・ら♪   



管理人(その他)のコメント

アスカ「さて、一過性で終わったケンスケブームの次、久しぶりのNoikeの作品はミサト・・・・かぁ」

カヲル「なにかい? また自分とシンジ君のらぶらぶ〜(はぁと)な話が見られるとでも思ったのかい? 甘い甘い。アメリカ人の食べるケーキ並にその考えは甘いよ」

アスカ「どーいうたとえよそれは」

カヲル「ところで・・・なんだいその,font size=+3>ケンスケブームっていうのは?」

アスカ「ただのくだらない話よ。気にせず忘れていいわ。で、今回の話・・・・なぁんだ。ミサトってあの映画で死んだ訳じゃないんだ」

カヲル「ほほう。でも君はこのころむき〜って狂ってるかがつがつダミープラグエヴァに食われてるかどっちかだったよね」

アスカ「それはいうなぁぁぁ!!」

カヲル「早々恥ずかしがることはないのに」

アスカ「恥ずかしがってるんじゃないいいいっ!」

カヲル「またまた〜♪」

どかっ!

アスカ「まだなにか言う?」

カヲル「・・・・いえ、言いませんでしゅ(大汗)」

アスカ「うみゅ。よろしい」

カヲル「まったくもう・・・・しかし、だ」

アスカ「ん?」

カヲル「Noikeさんの作品、かなり救いの面が多いよね。誰にしても救いが用意されているし」

アスカ「むう。確かにそうね。まあ、あのオヤヂは一回痛い目見てるけど」

カヲル「あの人はしょうがないんだ」

ゲンドウ「なんか呼んだか?」

カヲル「ああ、呼んでないから帰っていいよ」

がたん

ゲンドウ「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

カヲル「あ、ドップラー効果

アスカ「そんなことはいいって」

カヲル「ああ、そうだった。しかしだね、誰にも救いが用意されているというのはいいことだ。そうは思わないかい?」

アスカ「・・・・まあね・・・・」


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