「2月3日は節分です」

(副題「豆まきレイちゃん」(命名者高原さん))

ぷれぜんてっと ばーい ぱかぽこ   


2月3日

  

特務機関NERV本部の某所で交わされた会話。

  

「碇、今日は2月3日だな」

「・・・・ああ」

「分かっているとは思うが、今年もあれをするからな」

「・・・・分かっている」

「では、さっそく赤木君に頼んでおくからな」

「・・・・・ああ」

  

 トイレに行ってさっぱりした冬月は、その足でさっそく発令所へ向かった。

 休憩なのか、リツコがマグカップのコーヒーをすすっていた。

「赤木君、今日が何の日か分かっているね」

 チェアをターンさせ、リツコが答える。

「え・・・・はい、分かっております」

「では、今年も宜しく頼むぞ」

「了解しました」

 リツコは再びチェアを元の位置に戻し、ノートパソコンのキーボードをたたき始めた。

 冬月は実に嬉しそうな顔をしながら執務室へと戻るのだった。

  

 冬月の執務室には畳が敷いてあり、さらにその上にはこたつがのっかってご丁寧にみかんまで用意されていた。

 執務室に冬月はこたつにもぐり込むと湯飲みに煎茶を注ぎ、みかんを手にとって皮をむき始めた。

「ふう、やはり冬はこれに限るな」

 幸せそうな顔でひたすらみかんの皮をむいては房を口に運ぶ。

 そんな時間がしばらく流れた。

  

 やがて、その時間がやってきた。

「ふむ、そろそろ行くか」

 冬月は名残惜しげにこたつから離れると、まるで儀式のように体を一度ふるわせて執務室を後にした。

  

「赤木君、準備のほどはどうかね?」

 再び発令所に戻ってきた冬月は、真っ先にそのことを訊ねた。

「いつでも開始できますが」

 さっきよりも暖かそうなコーヒーを手にしたリツコは、眼鏡を外すとそう答えた。

「うむ。では、さっそく始めるとしようか」

 冬月はマイクを手に取ると、いつもと変わらぬ調子でしゃべり始めた。

「総員に告ぐ。これより恒例の豆まき大会を行う。MAGIによる鬼の抽選を行うので、各員、その場に待機しているように」

 マイクのスイッチを切り、リツコに開始を促す。

 リツコがファンクションキーを押すと、ノートパソコンと、それにつれてメインスクリーンの画面が切り替わった。

 NERV職員にそれぞれ番号がつけられたリストが表示され、その横には凝った3Dのルーレットが浮かび上がった。

「では、抽選を開始する」

 冬月の宣誓と共に二つの球が投げ込まれ、ルーレットが回転を始めた。

 その様子はNERVのありとあらゆるモニターに表示され、職員の誰もがその様子を固唾を呑んで見守っているはずだった。

 やがてルーレットの勢いは弱まり、二つの玉は00番と3番に止まった。

 様々なところからどよめきが起こる。

 冬月が再びマイクを手にし、静かに告げた。

「当該番号のものは発令所まで出頭するように。その他のものはおのおの準備に入れ」

 00番はNERV司令の碇ゲンドウ、そして3番はエヴァンゲリオン初号機パイロットの碇シンジだった。

  

「ねえ、豆まきって何なの?」

 なぜか発令所までついてきたアスカはシンジに尋ねたが、顔面蒼白のシンジがそれに答えるはずもなく、代わりにミサトがそれに答えるのだった。

「豆まきって言うのは日本の風習でね、鬼、つまり厄をはらうために家の中に豆をまくのよ。『鬼は外、福は内!』って言いながら、ね」

「ふーん。日本って変わった風習持ってるのね」

「鬼には豆をぶつけて厄をはらうの。これが豆ね」

 ミサトは大豆がぎっしり詰まった升を一つアスカに手渡した。

「そして、厄をはらい終わったら年の数だけ豆を食べるのよ。そうすれば長生きできるって言い伝えだから」

 それを聞いたアスカの顔は怪しくゆがんだ。

「分かったわ。要はこれをシンジと司令にぶつければいいのね」

 ミサトは声をひそめる。

「そうよ。日頃の恨みを司令にがんがんぶつけてもいい、ってこと。がんばりなさい」

 二人は邪悪な笑みを交わすのだった。

  

 どこからかゲンドウを引っぱってきた冬月は、鬼役の二人に紙で出来たお面を手渡した。

「二人ともこれをつけるように。本部の外に出るまでは豆を投げられ続けるからな、がんばりたまえ」

 シンジは素直にお面を受け取ったが、ゲンドウはなかなかそうしない。

「・・・・冬月、私をはめたな」

 恨み言の一つも言ってみるが、

「何を言っているのかね、碇。機会は全員に平等ではないか。何と言ってもMAGIに任せておるのだからな」

 冬月にあっさり跳ね返された。

 結局、ゲンドウも渋々お面をつける羽目になるのだった。

  

「君たちに10秒間の猶予を与えよう。その間にがんばって逃げてくれたまえ」

 冬月はあくまでさわやかな笑みで二人に接する。

 しかし、その後ろに来るべき復讐の時に胸を躍らせる職員達が控えているのは明らかだった。

 緊張の面もちで冬月の合図を待つシンジ。

 シンジの右手は拳を握りしめる運動を繰り返していた。

 ゲンドウの表情は色眼鏡に隠されて伺うことは出来なかった。

「では、開始だ」

 冬月が手を振り上げると同時に、碇親子は発令所を飛び出した。

  

 彼らに与えられた猶予はたったの10秒。

 その間にどれだけ逃げ切れるかが勝負となるはずだ。

 本部の構造を良く知っている彼らは同じルートを選び、並んで走っていた。

「シンジ、後先短い父親に先を譲ってやろうという気はないのか」

 ゲンドウが都合のいいときだけの父親面をして見せたが、シンジはそれを黙殺した。

「ふっ、まあいい・・・・後でどうなるか覚えているがいい」

 ゲンドウはあくまで前方を見据えながらそんなことをつぶやく。

 さすがにシンジは動揺し、ゲンドウに一歩遅れた。

「ふっ、さらばだ」

 ゲンドウはちょうどそこにやってきたエレベーターに飛び込んだ。

 しかしそこには。

「お待ちしておりました、司令」

 日頃の恨みをいかにして晴らそうかとさんざん頭をめぐらせていたNERV職員の面々が待ちかまえていた。

 その中には当然の如く冬月やリツコやミサト、そしてレイもいた。

「ま、待て。私はこのNERVの最高責任者だぞ。おまえ達は分かっているのか」

 間一髪でエレベーターに突っ込むのだけは回避したゲンドウは職務権限を振りかざしてみたが、皆が今日は特別な日だと言うことを重々承知していた。

「それ、鬼は外ぉっ!」

 ミサトの威勢のいいかけ声と共に大豆のマシンガンが火を噴いた。

 文字通り鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたゲンドウは慌てて外に飛び出す。

 しかし、マシンガン軍団がその後を追いかけるのは必然とも言えた。

 もう一人の鬼・碇シンジは放って置かれたまま、壮絶な追いかけっこが開始された。

  

 台風が通った後のようにものが散乱したエレベーターホールに取り残されたシンジは、彼のためにあるようにそこにあった地上への直通エレベーターに吸い込まれるように乗り込み、そしてボタンを押した。

 音も立てずにエレベーターの扉が閉まった。

  

 ゲンドウは複雑な構造のNERV本部内をただ駆け回っていた。

 何度も職員達に遭遇し、今では自分がどこにいるのかすっかり分からなくなってしまっていた。

「ふ・・・・問題ない」

 彼は本当に弱ったときの口癖を思わず口にしていた。

 走り回っているうちに疲れたゲンドウは走るのをやめ、あてどもなく本部をさまよい歩いていた。

  

 いつしか、通路の大分向こうにレイの幻影が立つ姿が見えた。

「む・・・・幻覚を見るとは、これは本当にまずいな」

 ゲンドウは一人ごちていたが、幻影がこちらに駆けてきてさらに豆が飛んでくるに至り、ようやく真の事態を把握することに成功した。

「ま、待て、レイ・・・・」

 ゲンドウの必死の制止も実体のレイには通じなかった。

「副司令が言っていました、司令に豆をぶつけることが司令の幸福につながると」

 レイの紅い瞳に狂信者の光が宿っていたのに気づいたゲンドウは、また走らなければならなかった。

  

 地上にたどり着いたシンジを待っていたのは、大豆がいっぱい詰まった升を抱えたアスカだった。

「や、やあアスカ、どうしたの・・・・?」

 シンジの背筋に寒いものが走る。

「ふふふ、このときを待ってたわよ、シンジ。覚悟なさい」

 邪悪な笑みを浮かべたアスカは升に手を突っ込むと、鷲掴みにした豆をシンジに投げつけた。

「いて、いてててっ!アスカ、もう僕は鬼じゃないよ!」

「うるさい!あたしはこうしたいからこうしてるのよ!あんたなんかにどうこう言われる筋合いはないわ!そーら、鬼は外ぉっ!」

 せっかく地上に出て難を逃れたかに見えたシンジは、鬱憤のたまったアスカの攻撃の餌食となったのだった。

  

「ふ、ここまでくれば誰も分かるまい」

 ゲンドウはダクトの中に入って難を逃れることにした。

 ダクトの中は少々狭くて薄汚れていたが、住めば都という言葉もある。

 私はきっと快適な生活を送ることが出来るであろう。

 ゲンドウにはそう思えた。

  

 発令所には司令の姿のみが見えなかったが、そのほかは通常の光景と何ら変わるところがなかった。

「副司令、司令が行方不明になってから5日が経ちますが、捜索させなくてよろしいのですか?」

 すっかり冷めたコーヒーの入ったマグカップを手の中で遊ばせていたリツコが冬月に尋ねた。

「碇もいい加減出てくればいいものを。いつまで意地を張り続けておるのだ・・・・・ああ、捜索の必要はない。無駄な人員を割く必要もなかろう」

「了解しました」

 リツコは身を翻すともう飲めなくなったコーヒーを捨てるために給湯室に向かった。

 冬月は数々の報告書に目を通しながらみかんの皮をむいては房を口に運んでいた。

  

 NERV本部地下43階のダクトから鬼の面をかぶった髭の男が発見されるまでには、それからさらに7日を要した。

  


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管理人たちのコメント

 ばしっ、ばしっ、ばしっ!!

シンジ「あ、アスカ!! 何するんだよ!!」

アスカ「うふふふふっ・・・・日本の節分はこうやって豆を鬼に思いっきりぶつけるんでしょ!! だからアンタに思いっきり豆を・・・・」

シンジ「べ、別にぶつける訳じゃないんだって!! ふつーに豆をまいていればいいんだよ!! あ、いたたたたっ!!」

カヲル「大丈夫かい、僕のシンジ君」

アスカ「アンタ何やってるのよ!! 誰がアンタのシンジですって!! シンジはアタシのもの!! それ以外の何物でもないわよ!!」

カヲル「ふん、君みたいな乱暴者にシンジ君を渡せるわけがないだろう。ほら、鬼はあっちにいったいった、えいえいっ!!」

アスカ「あいたたたっ!! な何アタシに向けて豆まいてんのよ!!」

カヲル「鬼はー外!!」

 どがしゃぁ!!

アスカ「誰が鬼ですってぇ!!」

シンジ「あアスカ・・・・そう怒らないで・・・・」

アスカ「ええい、じゃあ豆まきはやめよ!! かわりに、別のものをアンタにはくれてやるわ!!」

シンジ「な、なにを・・・・びくびく」

 ちゅっ・・・・

シンジ「・・・・アスカ・・・・」

アスカ「・・・・福は・・・・内・・・・・」


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