扉をくぐり、真っ暗な夜空の下に出ると、熱帯夜特有のむっとした空気が全身を包み込んだ。 冷房の効いた室内からいきなりこの気温差だ。たちまち汗がどっと噴き出る。 僕は胸元を締め付けるボタンを一つ外すと、大きく伸びをしながら一歩、足を踏み出した。 ・・・・僕、という言い方はやはりおかしいだろうか。 時々そう思う。二〇歳も数年を過ぎると、もう昔のようにはしゃぎまわることもない。それでも癖だろうか、この『僕』という話し方だけはなかなか止めることができなかった。 街は、活気にあふれていた。酒を飲んで騒ぐ大学生。ゲームセンターから流れ出る機械音。行き交う車、ネオンのきらめき。 第二新東京市は、変わらぬ夜を迎えていた。 いつもなら車を使って帰るのだけど、今日は用事があって車は家においてきている。僕は繁華街を抜けて、目的地へ向かって歩いていった。 この街の雰囲気は、嫌いじゃない。 でも、何かが違った。 あの、第三新東京市とは。 ・・・・度重なる使徒との戦い。そしてそれに続くゼーレとの争い。それらの中で、あの街は傷つき、そして病んでいった。 すべての事が終わったとき、あの街は回復不能なほどのダメージを受けていた。完全に崩壊した高層ビル。横転する車や装甲車。そして一面焼け野原の家々。政府が閉鎖区域指定を決定したのも納得できる。 第二九放置区域。それが、今の第三新東京市の名称。 かけがえのないものを得て、そして失ったあの街は、もうない。 それが、一抹の寂しさを僕に与える。 それを振り払うように、僕は歩みを急いだ。 目的地は、すぐそこに見えていた。 小さなビル街の一角にある、瀟洒なたたずまいの喫茶店。その扉を、僕はゆっくりと押し開けた。 「いらっしゃいませ!」 明るい女性の声が、僕を迎えてくれた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ |
徳永英明の同名曲「JUSTICE」をモチーフに送る小説。挿絵は夏にすばらしいイラストをいただいたeosの東2さんにいただきました!
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