決戦の夜


 これを読んでいるあなた、今までにデートをしたことはありますか? 無かったとしてもそれなりの想像をしたことぐらいあるでしょうし、 或いはドラマなどで恋人同士がデートしている様ぐらい見たことはあるかと思います。
 よく「男はみんなオオカミなのよ」なんて言いますが、 手当たり次第に頂く狼さんでなくても、やはり好きな人との「機会」はねらっている物で。 当然そこはそれ、ムードとかに心配りなんぞするわけです。そして・・・

 さてさてくまのプーさんのような私でも、やはり女性を口説こうとするときは、 それなりにムードとかに気配りするわけです。不可能も雰囲気のマジックで可能になることもあるわけで。
 やはりデートといえば一種昔から定番の「ドライブ」です。 当然ドライブだけする場合もありますが、この日は食事その他を色々してきたわけで。 いわゆるその日の総決算というか、本番というか、まさしく勝負所なわけでして。

 車は夜の街を走り抜け、海沿いの高速道路にのります。 車も少なく、オレンジ色の電灯が並ぶ快適な道。風が心地よく頬をなでつけます。
 ハンドルを片手にギアを5速にいれ(当時私の乗っていた車はMT車だった)速度をあげます。 チラリと横目に見た彼女も、割と楽しげな感じです。BGMはそれなりに雰囲気の良い曲を選んであります。
 ちょっとアルコールも入っている状態(良い子は運転なんかしちゃいけません!)で、 ピンク色に染まった頬には緊張は見えず、




「これはいけそうだ・・・」




 確かな手応えを感じます。しかし焦りは禁物です。更に深く包み込み、夢の中で思考ストップ状態にせねばなりません。 古の兵法家である孫子も勝算がたたなければ勝負は時期尚早といっております。

 車はその間も走り続け、海岸近くまで来ました。 そう、私にとってまさしく勝負をかけるべきポイントにさしかかったのです。 ここのポイントで感動させ更に雰囲気を高めて、そしてこの先の夜景の見える展望台で駄目押し・・・
 完璧な作戦です。勝利の方程式です。アトモスフェア・マジックです。

 微笑をたたえながらおもむろに車の窓の外を指して




「ほら、こっちをみてごらん」




 夜空に煌めく光。

 恐らく工場やビルの「飛行物」等に対する存在誇示の為の光だと思うのですが、 建物の各所につけてあるライトが幻想的で、海に浮かぶ大型艦船の各所に電灯がともったような、 そんな雰囲気を受けてしまう夜景です。

 神戸は百万ドルの夜景には遠く及びませんが、あの光の洪水と違って逆に控えめな味があります。 そう、まずはここで露草の花のように、控えめながらも美しい夜景こそ、 この後に連れて行く展望台での夜景を引き立たせる序曲になるのです。

 そう、これが魔法のはじまりなのです。




「わぁ・・・」




 思わず口から漏れてきた声。続く歓声に変わる前のこの声音が勝利を確信させます。 とっておきのスポット。ここ一番、という時のために取っておいたカードです。
 さぁ言うがいい、素直に思った感想を!勝利の第一歩を!(勝利の微笑)




















「勿体ない、電気消せばいいのに・・・」





















・・・・・・・
・・・・・
・・・




 序曲で砕け散った音楽会はもう壊滅です。魔法は終わりました。

 その後、トドメの切り札である眺望最高・雰囲気最高の展望台に行くも、 私の精神は砕け散っていて、ろくすっぽ記憶がありませんでした。




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