|
||
もうすでに知っている人も多いとは思うのですが、私がホモ扱いされるに及んだ、 とても不幸な事件の顛末です。今思えば、なんでここから私がホモ扱いされるに及んだのか、 いまだにわからないのですが・・・。 あれは新世紀の1月か2月だったと思います。不幸な事件は起こりました。 私が転勤する前、まだ大阪にいた頃の話です。 ちなみにどなたでも分かりやすいように、関西弁は標準語的に変換してあります。 その日は人とあう約束をしていました。人づてにあって欲しい、と頼まれたのです。 その前年、丁度世紀末にしてミレニアムのクリスマスのときに告白されたのですが、 その告白してきた相手です。 私は一度そのときにはっきり断っているのですが。無論、そのときには相手のことをよく知りませんでしたし。 綺麗な人、というだけでは私の心は揺らぎません。 会社帰りの私は足早に指定された待ち合わせ場所に急ぎました。 私は本当は会いたくなかったのですが、この日は楽器店に行く用事もあったので会社を早めに出ますから、 まぁいいかなぁ?程度に考えていました。何分相手の連絡先を知らず、人づてのみだったせいもあります。 まさか待たせっぱなしの立ちっぱなしはエゲツナイですから。 冬模様の街を足早に過ぎ、約束の場所には10分前につきました。既に相手は来ていて、 寒い最中、待たせてしまったようです。 「ゴメン、待たせた?」 ちょっと息を切らしながら、挨拶をします。 「うぅん、全然。今、来たばかりだから」 その割には寒そうです。これこそ恋人同士なら、 「ゴメン、まった?」 「うぅん、全然。来たばかりだもの」 「うそばっかり・・・こんなに冷たくなってるじゃないか」 「・・・アナタの手、暖かい・・・」 などの挨拶が交わされて。腕でも組みながら歩いていくのでしょうけど。 残念ながら今日は全然ワケが違います。 「とにかく、ここじゃ寒いから・・・」 喫茶店に誘います。正直、早く話を済ませて帰りたかったので。 喫茶店では当たり前のコトながら向かい同士にすわります。しかし座ったはいいのですが、 掛ける言葉がない。私は女あしらいが下手なので、こんなときに気の利いた冗談の一つもだせません。 精々「何を頼む?」って聞ける程度です。 向こうも何を話して良いのか分かっていない様子で、 「えっと・・・今日、ちょっと寒いよね」 みたいなことしか言えません。そして続く沈黙。一種、針の筵です。ようやく向こうが口を開きました。 「スーツ姿、初めて見ます」 「そう、だっけ?まぁ、そういえばそうかなぁ・・・」 確かに日頃の私を見かけるときは、私服でしょう。会社でもない限り、スーツなんぞきません。 「おっさんくさいだろ?」 「そんなことないです!凄く似合っています!」 勢い込んで否定してくれる様がいじらしく見えます。 「ありがとう。それで、用件は?」 私は空気が詰まったような時間が、どうにも苦手です。早々と切り出します。 「えっと、やっぱり・・・好きだから・・・」 気持ちは痛いほど分かります。怯えて小さな肩が震えています。もの凄く申し訳なく、 胸に刺さる罪悪感。それでもやはり一切の感情を持てない状況では・・・。 「ゴメン。恨みたかったら恨んでもいいよ」 後ろから刺されるぐらいの覚悟をして、きちっと応えました。純粋な気持ちを踏みにじるわけですから。 せめて精一杯の誠意で。 「じゃ、悪いけど・・・」 もう殆ど逃げるようなカンジです。上着を掴んで立ち上がろうとしました。 実際にはもう少し言葉の応酬はありましたが、あまり細かくまで覚えていません。 「待って!」 悲痛な声が背中に刺さります。 振り返ると、相手の瞳が濡れているのを見ました。 今の声を聞いた周囲の客は皆、こちらを見ています。正直、「みせもんちゃうぞ、ボケェ!」と 文句の一つもいいたかったわけですが、いえるわけありません。 「どうして?どうして私じゃダメなの?私、可愛くないから?何がイケナイの?」 必死の眼差しを向けられると、辛いです。正直心が痛いです。そして周囲の視線が特に痛いです。 かなり可愛い子なので、それはもう周囲はきっとこのヒロインを応援しているのでしょう。 痛すぎるほどの非難の視線が私に刺さります。 「違う、違うんだよ。恋愛の感情を一切何ももってないから、付き合えないんだよ・・・」 私はそこまでいうと、口をつぐみました。音が一気に静かになります。 周囲が固唾をのんで見守るのがわかります。 コーヒーをいれている店員の音だけが聞こえてきます。 そして何もいえない私に、更にその子は叫ぶように言いました。 「私が元・男だからダメなの?」 ・・・え?今なんておっしゃいました? 一瞬空気が凍り付きました。横でコーヒーを飲んでいた人も、カップが空中で止まっています。 誰も何もいいません。いつしか店員のコーヒーをいれる音も聞こえなくなっています。 時間が、その空間の時間が完全に止まりました。 しかし神は悪魔よりも無情でした。更に空気をどん底に突き落とす一言が飛びだします。 「でもちゃんととったモン。エッチだってできるもん!」 論点がズレているのはこの際問題ではありません。いやもう何というか、空気が痛いです。 時間は再び流れ出します。周囲にザワつきがもどり、凍っていた血が一気に逆流します。 私をみる視線はまだいくつかありましたが、既にその視線は質を変えていました。 私は真っ白に燃え尽きました。 <後日談> 実際の話し、実はこの人、めちゃくちゃいい人でした。ネタにするのは気が引ける程です。ある意味本物の女性より、女性らしいです。ただ、生まれたときが男性であった、というだけです。以上、この人の名誉のために。 |