命懸けのスカ○ロ


 もうそろそろ時効だろうから、かいてもいいかなぁ、と思ったので筆を執りました。
 僕はスカトロちっくなマネをしたことがあります。あ、そこ、逃げないで!まぁ最期まで聞いて下さいよ。 今のままだと単なる変態さんとして記憶されたままになっちゃう(汗)

 あれはまだ子供の頃です。小学校4年前後ぐらいのことでしょうか。私は兎に角虫取りの好きな子供で、 夏なんかは朝から晩までセミ採りをしていたものです。いや、このころは単なる蝉とりではなく、 蝉をひっつかまえては爆竹巻きにしてみたりして、ちょっと特殊な遊び方をしていたかもしれません。  ちなみにこのときは弟の為にとってあげる為に、蝉だけでなくカナブン等をとっていました。

 悲劇はそのときに起こりました。

 鋭い痛みが龍祐少年の指先に走ったのです。当初棘だろうとタカを括っていたわけですが、 網につっこんだ手の指先に、よくみると何やら危険配色な生き物が動いています。
 ・・・カナブンをとった網の中に、どうやらスズメバチも入っていたようです。 あの足の長くて細っちょろい、それでいてとてつもなくおっかないアレです。

 こうなったらどうなるか。経験者の方は想像に難くなく、説明を待つまでもないでしょう。 悲惨な痛みが突然来ます。そしてそれは

ズキン、ズキン、 ズキン、ズキン、 ズキン!

もぉ、フェードインするようなカンジで。

 地獄です。小学生の私にはこの痛みは鳴き声をあげんばかりのものでした。


 飛騨少年はよじ登った屋根(公園の掃除用具入れによじ登っていた)を飛び降りるが早いか、 網を放り出して家にダッシュしていました。無論、蜂には既に報復済みです。

 飛騨少年の指先の痛みはどんどん激しく、そして大きくなります。 もう通常のフォントサイズじゃ表せないぐらい。

 飛騨少年は半泣きになりながらも、処置の方法を考えていました。でも蜂に刺されの薬なんて 聞いたことも触ったこともありません。虫さされのかゆみ止めが関の山です。 流石にキンカンをぬって治る、なんて夢にも考えません(実際にきくかどうか知らないけど)

 パニックになりながら、彼は敬愛して病まぬ恩師の台詞を思い出しました。恩師は戦争経験者で、 前線で闘っていた(当人曰く)人です。今思えば「本当?」と年齢的にちと怪しみますが、 定年前ですし、当時純真だった私は疑うことなんかありませんでした。
 授業の教え方が独特で、世間ではごく当たり前な公式に自分の名前を付け「中村流(仮名)」 みたいなカンジで、宝物でも出すかのように教えてくれたものです。 とても凄いモノだと思いますから、私の心に残り、当然そのころの私の成績はかなり伸びました。
 更には授業中に授業以外のことを教えてくれるだけでなく、阪神ファンだったので 教室に置いてあるテレビでデイゲームを見せてくれるという破天荒ぶりです。 ですが学年主任だったかわすれましたが、エライさんになるので、他の先生は文句言えません。

 そんな先生が授業中に教えてくれたコトの一つで、戦場における蜂刺されの対処を思い出しました。 これは学術的に保証されているかどうか、私は知りませんでしたが、


 「戦場にいくとそりゃぁムシにもやられるもんでな、蜂にもやられたもんだ。
  もの凄い痛みなんだが、あおれを止められるのは『アンモニア』という薬だけ。
  でもなぁ、戦場では薬なんてもう殆どないに等しいから、そんな特別な薬があるわけがない。
  あっても精々『赤チン』ぐらいのもんだからな。
  で、そう言うときはどうするか、わかるか?」

 イタズラっぽい目で笑いながら話す先生。生徒らの興味が一身に集まっていることを確認すると、

 「そう言うときはな、小便をかけるのよ。なぁに、別にキタナイと言うほどでもない。
  洗えばしまいなんだから」

 先生の説明する声、顔が次々と浮かんできます。もうこれしかない!そう思いました。 このときの私は余裕ありません。何よりも信じて疑わない先生のおっしゃったことですから。


 家に帰るなり親に蜂に刺されたことを話すと、親はびっくり仰天!でも親も対処は知りません。 私は親に「秘策がある」と意味不明なことをいい、親に紙コップを貰ってトイレに籠城しました。
 秘策というか、秘湯を生み出す『武器』を急ぐ手で出します。当時はまだ小学生。 流石に『最終兵器』としての価値はありません。まだまだ色々な意味で『子供』ですから。

 コップになみなみとつがれた黄金色に輝くその液体。これこそ起死回生のマジックポーションです。 何の躊躇いもなく、いやもう指先の痛みで死にそうな私は躊躇う余裕もなく、指をつっこみました。

 数秒後に、今度は驚く早さで痛みが引いていきます。

ズキン、ズキン、 ズキン、ズキン、 ズキン!

 本当に効果があったのです。いや、実際には他の何かが作用したのか、もう毒素が切れたのか、 それは私には解りませんが、驚くべき早さで痛みはなくなりました。 ブラボー!恩師!あなたの教えてくれたことで、一番役に立ったものかもしれないよ!
 そう、奇跡は起こったのです。



 ですが、奇跡で終われば美談にもなったでしょうが、何分共に痛みが消えていくと、 反比例して回復するのは『人としての意識』と『感覚』です。

 指先に感じるなま暖かい感触。鼻孔を擽るツーンとした香り。

 わかりますか?自分のこのオマヌケ176.28%の姿が。『リーサルウェポン』丸出しで コップの黄色い液体に指をつっこんでいるんですよ?

 痛みからさめるとき、それは朝に目が覚めたときこの状態、みたいなもんですよ。 夢から覚めると現実があるものです。誰もそれを止めることはできません。 ゆっくり指を引き抜くと、今度はもの凄い勢いで水をぶっかけました。 コップの中身はもう魔法の薬ではありません。色鮮やかだけど、色褪せた存在です。 捨て去って手を必死になって洗います。

 5,6回は洗ったんではないでしょうか?それでも何やら指先が暖かいような、 そんないやな感覚を感じました。
 小学生にして、人生の厳しさと駆け引きを体験したわけです。自然は恐ろしいです。 年端もゆかぬものにも容赦なく襲いかかりますから。

 これを読んだ皆さんにいえることは、私の体験談としてもの凄く効果があると言うことですね。 ただし、それは何かと引き替えに、ですけれども・・・。



 ちなみに後日談ですが、この話をするとみんな握手をしてくれなくなるんですが。




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