抵抗

抵抗はおもに,電圧の調整に使用されています。
佐久間さんの住む千葉県の館山市は,家庭用のコンセント電源は50ヘルツです。しかし,60ヘルツの地域で回路図通り作ると,電源トランスの効率の問題から,回路に流れる電圧は,回路図に指定されている電圧より高くなってしまいます。
このような電圧とずれがあった場合は,抵抗値を変更して,指定された電圧にしなくてはなりません。そのためにはオームの法則を利用して抵抗値の計算おこないます。

抵抗値の計算

もし回路図に書いてあるとおりの抵抗値のものが,なければ複数の抵抗を組み合わせて,目的の抵抗値とすることができます。
回路図で,市販されていない抵抗値の抵抗が記載されていたら,回路図はひとつですが,実際のアンプには複数の抵抗を合わせたものがハンダづけされている,と考えてください。

まずは,抵抗を接続したときの抵抗値の計算の仕方です。
直列接続の場合 二つの抵抗値を単純に足し算してください
たとえば,100Ωと50Ωをつなぐと,150Ωになります。
100Ωと50Ω,もうひとつ200Ωをつなぐと

100+50+200=350
350Ωになります。

なお,ワット数は抵抗値の計算に関係ありません。
3Wの10オームの抵抗と20Wで1KΩの抵抗を接続すれば,抵抗値は1010Ωです。
抵抗の計算にワット数は使用しませんが,抵抗を組み合わせる場合は,同じワット数のものを合わせてください。

並列の場合,これも初心者の場合は,同じ抵抗値のものを繋いでください。
同じ抵抗値の抵抗2本を並列に接続した時,抵抗値は1/2になります。
3本繋いだ場合は1/3になります。

100Ωの抵抗2本を並列に繋ぐと,50Ω
0.3Ωの抵抗3本を並列に接続した場合は0.1Ωになります。

なお,値の違う抵抗値の抵抗やワット数の異なる抵抗を組み合わせることは,いろいろな問題も生じてきます。
初心者は直列接続の場合は,同じワット数の抵抗を,並列接続の場合には,同じ抵抗値とワット数の抵抗を接続してください。

抵抗の役割

抵抗は電圧の調整のほかにも,別の働きもおこなっています。そういう抵抗の値は変更してはいけません。 回路図6-1で,抵抗役割を説明します。



抵抗1,抵抗2,抵抗3は,それぞれカソード抵抗と呼ばれ,真空管のカソードに接続され,真空管が動作するために必要な抵抗値になっています。
たとえば,5691の下のカソード抵抗の横には,3.4Vと記載されています。この3.4Vの電圧は5691を動作せるために必要な電圧で,この抵抗1によってこの電圧を発生させています。

抵抗3は801Aのカソード抵抗です。
真空管1本に対して,抵抗1個が接続されています。
2本使用してある801Aもそれぞれに抵抗を接続するのですが,ここでは,2本のカソード抵抗を並列に接続して1本の抵抗で代用しています。
プッシュプルの場合,このように2本の真空管のカソード抵抗を1本にすることも可能です。
しかし,ドライバーと終段が同じ真空管であっても,この場合にはそれぞれカソード抵抗が必要で1本にまとめることは不可能です。
ドライバーならドライバー,終段なら終段のプッシュプルの真空管2本は,1本ずつカソード抵抗をつけなくても,1本でまとめることができる,ということです。
詳しくはこの後説明しますが,2本のカソード抵抗を1本にしたときには,流れる電流が真空管2本分に増加します。また,2本の抵抗を並列に接続するので,抵抗値は1/2になります。このアンプの801Aそれぞれに抵抗を付けた場合,抵抗値は2KΩですが,1本にまとめているので,抵抗値は半分の1KΩとしています。

流れる電流が2倍になればワット数も2倍になりますので,使用する抵抗のワット数にも影響してきます。
佐久間アンプの場合は,余裕をみたワット数をが指定されていますが,801Aではなく845などのたくさんの電流が流れるアンプでは,プッシュプルでも,1本の抵抗でまとめるには,大きなワット数の抵抗が必要で,実用的ではありません。

抵抗4と5はそれぞれ,5691のプレートと42のプレートへ供給される電流の電圧が指定の値にする働きをしています。
詳しくは,あとで説明しますが,完成後のアンプの電圧が回路図と異なる場合,これらの抵抗の抵抗値を変更しなくてはなりません。
終段とドライバーが同じ真空管の場合は,プレート電圧を下げる必要は無いので,抵抗の代わりにチョークトランスをしようしているアンプもあります。
前にも説明しましたが,佐久間さんのアンプでは,このようなアンプで,チョークなしで直接終段とドライバーを繋ぐ場合がありますが,トラブルの危険があるので,からなず,チョークを入れてください。
また,プレートからドライバーへ電源を供給する場合,抵抗やチョークで電圧を下げた後,必ずコンデンサーを挿入します。こればドライバーの電圧をさらに下げて初段に供給した場合,また,終段からドライバーと初段に供給した場合も同じで,必ずコンデンサーを挿入します。図の回路図でも,電圧調整の抵抗と真空管の間に電解コンデンサーが挿入されていることを確認してください。

抵抗6は5691の動作のためのもので,この値は変更できません。

抵抗7(2本)もイコライザーアンプ素子の一部で,抵抗値の変更はできません。
なお,イコライザー素子の抵抗は,規格で定められていますが,佐久間さんは独自の値の抵抗を使用しています。

抵抗8は,グリッド抵抗と呼ばれ,真空管のグリッドに接続され,真空管の動作を安定させています。
5691のグリッドには,音色の問題で挿入されていません。
真空管のグリッドは,佐久間アンプの場合,250KΩまたは500KΩが使用されます。
アンプ完成後,このグリッドの値を250KΩから500KΩへ変更すると,再生音の高域が多く再生されます(高域が延びる)。

可変抵抗9(2個)は,ハムバランサー(ハムバラ)ですので,値を変更することはありません。
また,パワーアンプやプリメインアンプに使用されるボリュームも値を変更することはありません。

オームの法則

学校で習ったオームの法則の知識が必要ですでの,ここでおさらいをしておきます。
さきほども述べましたが,電圧の調整は抵抗値を変更することでおこないます。
ヒーターの電圧が高いと真空管のためによくないので,抵抗値を高くして,電圧を下げなくてはいけません。
そのため,パーツを購入するときは電圧調整用の抵抗は余分にかっておいたほうが良いでしょう。

オームの法則は,電圧,電流,抵抗の関係を式にしたものです。

電圧値をV
電流値をA
抵抗値をRであらわすと以下のような式がなりたちます。

V = I X R ・・・(1式)

I = V / R  ・・・(2式)

R = V / I ・・・(3式)

この時,注意しなくてはいけないのは,電流値はアンペア(A)の値で計算されるということです。
真空管のヒーターはアンペアで表示されますが,(たとえば,300Bのヒーターは5.0V,1.2A),ほかの電流値はほとんど,ミリアンペア(mA)ですから,計算の時に注意しなくてはいけません。計算してみると随分小さな値になることがほとんどです。これはアンペア(A)ですので,1A = 1000mAで換算してください。
また,抵抗値はΩに換算します。ですので,1KΩは1000Ωに換算して計算します。

抵抗の電流を調べる

回路図6-2をご覧ください。初段を抜き出した物です。
この抵抗Aに流れる電流を計算で求めてみましょう。



この場合は,電圧と抵抗値が分っていますので,2式を使います。

I = V / R  ・・・(2式)

I = 3.4V / 3.4KΩ
 = 3.4V / 3400Ω
 = 0.001A
= 1mA
この電流が,5691を流れる電流です。 プレートにはこの電流が流れます。

もし,プレートに1mA流れることが分かっており,カソードに3.4Vに必要なことがわかっていれば,

R = V / I ・・・(3式)

を使用して,

R = 3.4V / 0.001A
= 3400Ω
= 3.4KΩ

と,求められます。
なお,真空管は,カソードに流れる電流とプレートに流れる電流が同じ値です。

真空管を使用する場合は,真空管の規格表にしたがって真空管に流す電流などを決めますが,佐久間さんは自分の聴いて,望ましいと考えた電流を流すように抵抗等の値を決めています。

抵抗による電圧調整

たとえば,回路図通りに配線してチェックしてみると,5691のプレート電圧は,回路図では235Vとなってるのに,255Vも出てしまった。住んでいる地域のコンセントの周波数の違いや,コンデンサーの性能により,こういうことはよくあります。

回路図通りに235Vにしたいので,の抵抗の抵抗値を変化させて調整する方法を説明します。
回路図6-3の右図をご覧ください。



電流は矢印に従って流れます。5691に供給されるまでに,50KΩと250KΩのふたつの抵抗を通ってきています。 それぞれの抵抗で電圧は下げられています。
回路図にも,490Vあった電圧が,250KΩの抵抗を通った後では,235Vに落ちています。
なお,オームの法則で計算すると,この回路に流れている電流は1mAなので,計算上は240Vになるはずですが,実際の抵抗は抵抗値の誤差が大きく,大体250KΩくらい,と考えてください。また,真空管の動作も抵抗の誤差程度の電圧差では影響はでません。

さて,先ほど説明したように,250KΩの抵抗は5691の動作のために値の変更はできません。
そこで,抵抗Bの50KΩの抵抗値を変更します。


まず,255Vの電圧を235Vに下げるですから,この抵抗で,255V-235V=20V下げればOK,ということになります。この抵抗に流れる電流は,5691のカソード抵抗を流れている値,つまり1mA=0.001Aです。

R = V / I ・・・(3式)

を使用して,

R = 20V / 0.001A
= 20000Ω
 = 20KΩ

この計算からあと,20KΩの抵抗値の追加が必要であることがわかりました。
この場合,今付いている50KΩを50KΩに20KΩふやした70KΩに取り替えるか 図6-4のいずれかのように,50KΩの抵抗の前か後に,20KΩの抵抗を追加します。 普通は,70KΩに変更したほうが配線もしやすいでしょう。先ほど説明したように,電圧調整用抵抗と真空管の間には,コンデンサーが入りますので,追加する抵抗の取り付け場所もそのルールを守ってください。追加の抵抗をコンデンサーと真空管の間につけてはいけません。



では,逆に235V出て欲しいのに,220Vしかなかった倍場合はどうしたらよいでしょうか?

15V変化させたいのですから,

R = V / I ・・・(3式)

を使用して,

R = 15V / 0.001A
= 15000Ω
 = 15KΩ

電圧を上げたいので,抵抗値を下げます。今付いている50KΩの抵抗を35KΩの抵抗につけかえます。

50KΩ - 15KΩ = 35KΩ

まとめると
R = V / I ・・・(3式)

を使用して,変化させたい抵抗値を出して,電圧を上げる場合は,抵抗値を減らし,電圧を下げたい場合は,抵抗値を上げます。

なお,回路図6-5のような場合,抵抗Cには真空管1と真空管2の双方の電流が流れています。



もし,真空管1のプレートへ供給される電圧を変化させる場合には抵抗Cの値を変化させます。間違って,抵抗Dの値を変えると,真空管2のプレートへ供給される電圧も変化してしまいます。
真空管2はトランス結合ですので,抵抗Eの値を変えれば,プレート電圧は変化します。このさい,トランスに関しては考慮する必要はありません。

電圧のずれですが,トランジスターアンプとことなり,真空管アンプでは少々のずれは無視しても問題はありません。
佐久間アンプの場合,5691のカソードは,2.8Vから3.2Vの間になります。ドライバーや終段になると回路図通りに製作して,カソードで10Vくらいずれていても問題はありません。プレートのずれはもっと大きくなる場合もあります。

なお,例にしているのは,計算の仕方で,実際のアンプでは,245V出ていても,焦る必要はありません。
佐久間さんの他のアンプの回路図を見て,そのような電圧で使用したケースがないかどうか調べてから,電圧調整をおこなってもよいでしょう。
また,真空管は電流を流すほど,良い音がする,と言われていますが,程度の問題です。
初段の5691の電流は,2〜3mAがベストです。


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