新人公演
【春麗の淡き光に】

作:植田紳爾 新人公演担当:大野拓史


花組/宝塚大劇場/03.1.21
出演:音月桂、山科愛、天勢いづる、聖れい ほか

「和物の雪組」は今後も健在!主役から敵役までしっかりした演技と、音月桂のフレッシュさで清々しく見応えある作品に。

【雑感】

 ハッピーエンドではないストーリーですが、見終わった後に不思議なすがすがしさが残る新人公演でした。これはフレッシュでキュートな主演の音月桂の魅力と、近作「月の燈影」で心の温かさをしっとりと描いた大野拓史氏の演出がうまくかみ合ったからでしょう。
 大野演出は落ちつきがあり、へんに力んだところもなく、また分かりやすい受け狙いもない反面、解釈や演出オリジナリティが光り、その違いもまた楽しませていただきました。
 本公演では二番手が頼光、三番手(別格)が知親を演じていましたが、この新公ではそれを逆転させています。

  • 音月桂(朱天童子=藤原保輔・保昌)……
     正義の怪盗、さらに兄弟一人二役と、3つの顔をみせることができる役でしたが、二役の演じ分けはそれほどではありません。しかし全体的に骨太な、内から突き上げるような日本物の強い芝居が出来ていました。本公演では立樹・壮に続く若手三男坊的ポジションでアイドル的なかわいさが印象に残る人でしたが、ここまでしっかり男役芝居ができるとは思いませんでした(朱天童子の銀橋ソロは、勢いこみすぎたのか歩き方が「番長」のようでもありましたが、それもご愛嬌と)。
     男役としては小柄で、かわいらしさすらただようのに、人の上にたって、手下を率いる演技では、度量と落ちつきがしっかりあり、安心してみていられます。その反面、フレッシュで清々しい魅力もあり、ラスト法師となり、友とも恋人とも手下とも別れてひとり旅立つシーンは本来悲しさや寂しさがあるはずなのに、明るい未来への旅立ちのような明るい印象を受けました(これには友や恋人との絆があっさりしているというのも理由の一つでしょう)。音月桂のお披露目公演のようだった……というのは言い過ぎでしょうか。
     

  • 天勢いづる(野依知親)……
     全国ツアーの時もスター的な目立つ役をもらっていましたが、正直活かしきれていない印象をうけました。でも実力と力量はある人なので、今回のような脇から存在感を放つような役は期待しておりました。
     が、それに先立って驚いたのはチョンパで始まるプロローグをセンターで一人で背負って踊る「花の若衆A」をもらっていたこと!そしてそれを見事に果たしていたことです。パッと電飾がついた瞬間、五十名の総踊りを背負ってセンター踊る姿にはハッとする華がありました。衣装の着こなし、お化粧も見事。水もしたたる、といった風情。まったく、彼女の成長ぶりには驚かされました。
     また知親の役づくりも、本人のアイデアなのか、大野演出によるものなのか、本公演の未来版知親とはまった変えているのも特徴。未来版知親はどこまでも泥臭く、地下人になっても朱天童子を追いつめるという、地を這うようなガッツとパワーがありました。いうなれば脚で稼ぐ叩き上げの刑事といった印象。それに対し天勢版は知的な情報部員、スパイといった雰囲気。
     ドーランも若干白塗り近く、クールさがただよいます。兼家に殴られても蹴られても表情を崩しませんが、自分の生き甲斐にしている仕事を取り上げられた時だけ、恐ろしい表情をうかべます。そこで「一介の下人となりましても、朱天童子を負い続けます!」の台詞を、この知親は兼家をにらみつけながら口にします。めったに切れない人物が切れた瞬間、そしてその恐さがありありと表現されていました。
     そして朱天童子との再会と対決のクライマックス。童子を切れない苦しさと辛さよりも、彼を許そうとする愛、また妻・忍(舞咲りん)をいたわる愛と、この場面の知親は愛に溢れています。許しに至る心の動きが明確で、愛を知らなかった知親が心に暖かいものを取り戻した、そんな風にうけとれました。
     と、力説してしまいましたが、なんといっても新公学年、つたない面ももちろん目に付きます。しかしそれでも表現せんとするところを、伝えられている点を高く評価したいと思います。

  • 山科愛(若狭)……
     トップ娘役が演じるには少々物足りないキャラクターでもあので、新公初ヒロインでも取っ付きやすかったのではないでしょうか。感情をうまくのせられていたように思います。小柄なところもキム(音月桂)と良く合っていました。
     この人の武器はなんとっても独特の声でしょう。美声や歌って映える声、というのではありませんが、ハキハキして特徴的で印象に残る声質。台詞も明朗で声優的に声で芝居が出来ていたように思えます。
     が、日本物の楚々とした雰囲気や、スッキリしたお化粧はまだまだ研究の余地あり(「白扇花集」の森奈みはるを思い出してしまった)。

  • 聖れい(源頼光)……
     残念ながら非常に印象が薄くなってしまいました。また知親のウェイトをあげたぶん、頼光の存在感が薄くなったという演出のバランスもありますが、何より本人が台詞と役の大きさに飲まれて固くなっていたようにも思えます。衣装の着こなし、お化粧の仕方などもこれからと言った感。

  • 凰稀かなめ(源頼信)……
     バウ「ホップスコッチ」のダンスシーンで観客の目を釘付けにし、いよいよ新公でも大きな役がつきはじめました。「かなめ」つながりではありませんが、ふとした表情が涼風真世を思わせる時もありますが、本質的な持ち味は違います。男役としての線の太さと押し出しはしっかりあり、さらに独特のムードが備わっているのが大きな武器。着物の着こなしや白塗りもきれいに決まっていました。芝居はまだまだ体当たりの域ですが、将来楽しみな存在感です。

  • 白羽ゆり(周防)……
     出番も台詞も少ないもののさすがの存在感。今回はヒロイン経験者には我慢しどころ、と思っていましたが、やはりセンターで芝居をした人はどこにいても目立ちます。可憐なヒロインよりもこういうキビキビしたキャラクターの方が、遠慮なく自分を出せていたようです。ハリのある声に思わせぶりな表情や芝居といい女っぷりでした。本公演もですが、この人は日本物のお化粧も上手。

  • 奏乃はると(藤原兼家)……
     新公の老け役は一種損な役回り。若手が年よりを演じても無理が目立つばかり……という常識を覆すほど、非常に落ち付いた大きな芝居を見せてくれました。若手にありがちなキンキンしたところや、逆に老け役に作ろう作ろうとする背伸びがありません。メイクもしっかりつくってあり、平安もの独特の台詞まわしや貫禄ある発声法など、演技の老成ぶりも本当に新公学年(山科愛と同期!)なのかと目を疑うほど。今回の本公演が安心して観られた要因のひとつです。

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