【Switch】
-75thコラボレーション-

構成・演出:藤井大介
宝塚バウホール/2002.10
出演:伊織直加、嘉月絵理、美穂圭子、湖月わたる

 出演は同期生4名のみの人海戦術がお家芸とさえ言われる宝塚では特例中の特例ともいうべき公演。しかし、中身は濃密かつ贅沢で一級のエンターテイメント。75期生14年の重み。

【共同通信社 配信原稿】

プライベート観劇の為ありません。



【あらすじ】
 一幕は映画「フェイス・オフ」にヒントを得た、正義と悪の外見交換物語。任務のため、世界で一番憎む男の顔を身に付けることになった男の苦悩と戦いを描く。外見を交換する二人に伊織と湖月が挑む。刑事の妻役に美声の美穂、狂言回し・医者・クラブシンガーなど、その他5役に挑むのは名バイプレイヤー嘉月。
 二幕はコンサート形式のショー。

【雑感】
 見終わった今もあの舞台がたった4人の出演だったのが信じられません。あの濃密な中身、奇想天外な設定にもかかわらず、登場人物の切なさ、哀しさが痛いほど伝わる芝居、そして観るものを惹き付けるショータイム……。
 「入団から14年たって、40人いた同期がたった4人になりました」
 というのは、MCでのナオちゃんのトークでしたが、4人それぞれが、今の宝塚で無くてはならないポジションを築いてきた14年。その実力がストレートに出たパフォーマンスでした。
 ダイナミックで刺すような視線の湖月わたる、人を惹き付ける演技の伊織直加、歌姫・美穂圭子、表現力豊なバイプレイヤー嘉月絵理。単にそれぞれが上級生で芸達者というだけではなく、この4人が初めて組み合わさったことにより、それぞれの個性や持ち味がより一層膨らみました。また4人それぞれに全力で取り組める役所を用意した藤井先生の手腕も評価したいところ。
 同期という対当の関係、遠慮のなさは、何ものにも変えがたいものです。
 残念ながらこの同期バウは、出演者のスケジュールの都合で東上はしませんが、これ以後も同期生たちが舞台を務める幸せを、そしてそれを観客が観る幸せを、与えてほしいと思う公演でした。

  • 伊織直加/湖月わたる……
     二人の人物の中身が入れ違って……という設定の作品は過去にドラマシティーで上演された「Action!」のミラクル・クリスマスがあります。入れ替わるのはバリバリのロッカー・麻路さきと、天然ボケ系のお嬢様・白城あやか。ただこちらはライトなコメディだったこともあり、完全な入れ替わり劇をみせるというよりも、おカマっぽいマリコさんと、リリしいあやちゃんを楽しむという演出でした。
     しかし、今回の作品では、伊織ー湖月が本格的な人格入替え劇に挑戦しました。

     愛嬌者でクセのある悪党が似合う伊織直加と、長身でシャープな湖月わたる。まったく持ち味の違う二人がその間をうめられるのかという不安はありましたが、それは全くの杞憂でした。
     むしろ、外見的なイメージが違えば違うほど、見事な入れ替え劇が鮮やかに浮かび上がる結果に。
     伊織直加は、冒頭は悪魔のようなテロリストとして登場。彼を息子の仇と狙う刑事(湖月)に狙撃され、意識不明の最中に顔を交換(Switch)。中盤からは「世界で一番憎い男の顔」を身に付けた刑事役として演技を進めていきます。これでもかと言うほど毒々しい「悪の花」っぷりも板についていますが、刑事にSwitchした時のショックの表情、そのままの姿で妻に語りかける優しさ溢れた語り口など、中盤以降はまさに別人。
     特出扱いの湖月わたるは、これとは逆に正義の刑事→悪のテロリストにSwitch。悲劇を背負い正義を貫こうとする清廉な表情から、一転して人の神経をさかなでせずには入られないような、憎たらしい表情に。二人ながら、人はここまで変われるものかと、まざまざと見せつけてくれました。
     しかしただキャラクターが豹変するだけではなく、それぞれの役に入れ替わったと思わせる、計算されたしっかりした演技が光ります。
     これは役を自分にひき付けるのではなく、きちんと役のキャラクターを設定した上で伊織・湖月の両名が、演技で二役に近付いていったからでしょう。入れ替わった後の人格にブレがありませんでした。これは見事という他ありませんでした。
     また入れ替えを強調するため、キャラクターに特徴的な仕草やクセを設定していたのも、効果的な演出でした。

  • 美穂圭子……
     透明感のある歌声から、迫力の歌声まで。センターの歌からカゲソロ系の歌まで。さすがの歌唱力です。雪組東京公演宙、休演日に日帰りで宝塚まできて振付けを受けたという、ハードな稽古期間を乗り越えての舞台でした。
     抜てきの多いバウで、このキャリアの娘役がバウでヒロインをはれるというのも、本当に数少ないこと。安心できる演技と歌唱力に酔わせていただきました。

  • 嘉月絵理……
     なんと脇役5つを演じ分けた、今回の功労者。たった4人の出演ということを感じさせず、芝居に奥行きや幅を出せたのも彼女がいたからでしょう。男役・女役・中年・子供……とそれぞれの演じ分けもすばらしく、またカツラや衣装の早変わりも実に巧み。特に女役の色香は新鮮。4人しかいないと分かっているのに、二人めの女役が登場すると「えっ!誰?!」と一瞬でも思ってしまうほど。
     間違いなく、本作で一番「Switch」した演技者でした。お見事!

       研14という重要ポストの彼女たちが、全力で歌い、踊り、走り、汗だくだくになりながら見せてくれた、最高のエンターテイメント。4人の同期で舞台を務められる喜びに満ち、その喜びがまた客席にもダイレクトに伝わった名舞台でした。

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