【SLAPSTICK】
作・演出:小柳奈穂子
月組/宝塚バウホール/2002.6
出演:霧矢大夢、紫城るい、月船さらら 他

 小柳奈穂子氏のデビュー作、霧矢大夢単独初主演、紫城るい娘役転向初ヒロインと、ういういしさ三重奏公演。登場人物一人一人を丁寧に描いて心温まる。タカラヅカ初の(たぶん)パイ投げもあるぞ!

【共同通信社 配信原稿】

プライベート観劇の為、掲載原稿はありません。

【雑感】
 まずフィルム型の縦長スクリーンで、モノクロ無声フィルム、「SLAPSTICK」コメディが流れるところから始まります。出演はもちろん生徒。舞台化粧のアップはやや度肝を抜かれますが、そのままの格好でパイ投げに移行。わりと長めのフィル上映ですが観客を飽きさせません。このあたりから、このテーマを長い間温めてきたという、小柳先生の意欲をひしひしと感じます。

 物語はスラップスティック・コメディの騎手となるマック・セネット(霧矢大夢)のサクセス・ストーリーと、彼を取り巻く共演者、スタッフ、ライバルたちの悲喜こもごもをからめて、ノスタルジックな香りに仕上げています。

 ストーリーは、霧矢の舞台挨拶にあった「人生ってそんなもん」という言葉に集約されるでしょう。ヒロインと心を通わせはしますが、恋愛が成就する訳でもなく、それなりにトラブルはありますが、大きな悲劇とも言えず(死人は出てますが……)、映画の成功はあっても、所詮無声映画は時代と共に忘れ去られてゆき……と、心温まる要素と少しの寂しさがつきまとう、そんな作品です。

 またタイトルに反してコメディ性はそんなに強くありません。一幕の幕切れでスラップスティックの代名詞、パイ投げを持ってきて、笑いを誘ってはいますが、主流はシリアスドラマであり、無声コメディに携わった人々を、ひとりひとり丁寧に描く群像絵巻ともとれます。客席と舞台が近い、バウホール向きの作品です。

 ただ、脇役ひとりひとりを丁寧に描いてはいるものの、伏線をはったり、複数のドラマを平行して描くのはあまりウマくないかと。あっちの人の話、こっちの人の話と、ひとつひとつのエピソードが切れ切れとびとびの印象を受けてしまいました。この点は小柳先生改善の余地があるかと。
 てなわけで、地味な作品ですが、ここ数年の作家デビュー作としては、かなりハイレベルであったのは確かです。大劇場デビュー目指して、小柳先生の今後に期待です。
  • セネット(霧矢大夢)……
     コメディエンヌ(男役だからコメディアン?)っぷりを存分に発揮した演技。声の伸びも申し分無く、聴かせ・魅せ・笑わてくれます。競馬の借金がばれて苦笑するシーン等、ちょっとした仕草に愛嬌と面白さが出せる人。初日・千秋楽の挨拶も、このひと独特のナチュラルな言い回しで笑いを独占していたのが記憶に残ります。

  • 紫城るい(メイベル)……
     男役の時は「いつ娘役になってもおかしくない!」と大絶賛でしたが、いざこうして組むと、娘役としてのキャリアの浅さを感じることも若干。当初の問題は大人びて妖艶さすら感じられる外見と、幼さを残す独特の声のギャップでしょうか。
     第一部、おてんばの跳ね返り娘という設定で飛び出してくるメイベルは、緊張からか気負いからか、少々から回り気味でしたが、コメディ女優としての地位を確立した第二部は、しっかりした女役でやっと調子づいてきた感じです。カツラやお化粧を勉強すれば、演技の幅も広がるでしょう。

  • 月船さらら(ルドルフ)……
     愛華みれ似と評判をとっただけあって、人に愛されるタイプの若手男役でしょう。ひとなつっこい、かわいらしい俳優志願青年から、焦燥感で酒浸りになるコメディ俳優へと、劇的だけれど不自然さのない変化を見せてくれます。

  • その他のキャスト……
     セネットに「スラップスティック」を教える、フランス系ベテランコメディアン・ヘンリー役の嘉月絵理は、すでに大ベテランの貫禄。適確な演技は観ていて安心できるだけでなく、好印象。これで湖月わたる、伊織直加と同期かよ!と驚愕。このまま組長・専科コースを爆進し、舞台を存分に引き締めていただきたい。
     シナリオライターで、ルドルフの身を案じるジェニファーに瀧川末子。いつもの濃さを期待すると物足りないかもしれないが、一歩ひいた落ち着いた演技もかなりの見物。大人の女の包容力がありました。でもダメな男ってのは、出来た女に疲れたら、ついヴァージニア(後述)みたいなタイプと遊びたくなるもんです。そう言う意味でも、彼女は完璧な役作りです。
     映画に出るために、ヘンリーとルドルフに二またかけた挙げ句、急性アル中で死亡するヴァージニアは憧花ゆりの。後半の舞台を動かすキーパーソンであり、出番も少なく無い、美味しい役。容姿は愛らしいし、華もある。役柄にどおり台詞回しや声に欲望の色を覗かせて適確な演技。ただカツラに冠られてる印象が強かったのは残念。
     ルドルフと駆け落ちするが、さっさと弁護師に乗り換えるマルグリットを演じた城咲あいは、白城あやか系の容姿・立ち姿で注目株。大人びた人なので今後老け過ぎないよう心配も少々。

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