【長い春の果てに】
原作:アレクサンドル・アルカディ  脚本・演出:石田昌也
【With a Song in my Heart -君が歌、わが心に深く-】
作・演出:岡田敬二
月組/宝塚大劇場/2002.8
出演:紫吹淳、汐風幸、湖月わたる、大空祐飛、大和悠河、霧矢大夢、汐美真帆、映美くらら ほか


 石田氏お得意のバラエティーショーの手法が光る、笑いと涙が軽やかにミックスされた現代劇。回転寿司的見せ方で、観客を飽きさせない。笑いにも涙にも深く立ち入り過ぎない現代人にピッタリのロマンス作品。

【共同通信社 配信原稿】

  本年後半の宝塚歌劇のラインナップは重厚な大作が目立つ。その中で独特の軽やかさと心にしみるストーリーで話題を集めているのが、現在月組で公演中のミュージカル・ロマン「長い春の果てに」である。脳外科のステファン(紫吹淳)は手術中に患者を死なせて以来、酒に溺れる生活を続けていた。そんなある日、彼を慕うエヴァ(映美くらら)という少女がアパートに転がり込んできた。エヴァに生活をかき乱されながらも、少しずつ人生に希望を感じはじめるステファン。しかしエヴァは手術困難な脳血管腫を患っており、手術に成功しても記憶か視力を失うという。ステファンはエヴァの為、そして自らの為にこの危険な手術に挑む決意をする。アレクサンドル・アルカディが描いたフランス映画「世界で一番好きな人」をモチーフにした作品。
 ステファンは心に傷を抱えながらも、自暴自棄にもなりきれず、なんとなく毎日を過ごしている。エヴァをはじめとする周囲の女性たちにも振り回されっぱなしだ。ダンディズム溢れる男役を得意としてきた紫吹が、この愛すべき情けない男を演じたことに驚きと、新鮮な魅力を感じた。男役としての引き出しをまた一つ増やしたようだ。
 ヒロインの映美は14歳の少女を演じ、無理がないことにまず驚かされた。エヴァは閉塞感がただよう大人たちの世界に突然舞い降り、ステファンと彼を取り巻く人々の運命を変えてしまう、一種の天使ともいえる役所。天使を演じるのは難しい。映美は計算では表現できない天性の魅力で、エヴァをいきいきとチャーミングに演じ、物語を根底から支えていた。
 脚本・演出はアバンギャルドな作風で話題作が多い石田昌也。医療の現場を舞台に生と死を扱いながらも、笑いと涙がほどよくミックスされ飽きさせない。ショーアップされたテンポ良い作品に仕上げている。併演はミュージカル・レビュー「With a Song in my Heart」。生誕百年を迎える作曲家リチャード・ロジャースの音楽をテーマにしたレビュー。九月三十日まで。東京公演は十一月一五日から。
(了)

【雑感】
 異端児・石田昌也先生がやってくれました!
 革命も事件もおこりません。豪華なコスチュームも出てきません。大スペクタクルなセットも出てきません!ステファンのアパートの玄関も開きません!(余計なお世話)それでも心に響く作品です。
 かつての宝塚歌劇の観客は、とにかくデラックスで豪華なものを求めていました(それがなんちゃってでも)。それが実を結んだのは「ベルサイユのばら」です。こうした生きるの死ぬのの大悲劇を、観客自らが紅涙をしぼり差し出すエネルギーをもって迎えました。
 それは昭和40年代の、足りないものを満たそうとするエネルギーそのものだったといえます。
 しかし残念ながら、今の客席にはそこまでのパワーはありません。
 むろん、今でも大掛かりな悲劇やグランドロマンは受けます。無くてはなりません。でも、その一方で、歯の浮くような悲劇に、さめた視線を送る余裕もあるんです。こんな今だからこそ、ググッとツボに入ってくる、さりげない、心温まるストーリーが心にしみるんだと思います。今回のような。
 前門に「鳳凰伝」、後門に「エリザベート」と、ドデカイ作品に挟まれ、チケット売れ行きも苦戦しているようですが、だからこそ、ふらっと劇場に足を運んでほんわかしてくる、こんな楽しみ方もできる作品ではないかと(しかし、石田先生は大作前ばかり回ってくる……)。
  • 紫吹淳(ステファン)……
     トレードマークのリーゼントもくずして、ペタンと作ったヘアスタイルがまず新鮮。そして女たちに手こずらされる芝居もまた新鮮。こゆ〜い役や敵役が得意だっただけに、トップになってからカラーの出し方に悩んでいたようですが、ようやく本作あたりから「いいひと」リカさんも、しっくりきたようです。
     リカファンの知人は今回の役をして「半透明の役」と言っていましたが、言い得て妙。舞台の真ん中で芝居をしているのですが、相手役たちをまず際立たせつつ、自分も存在しているというか。しかし、エヴァの手術を決意し、自分自信を取り戻しはじめてからは、徐々に透明度が下がっていきます。見失った自分を取り戻す段階が見えるようでした。
     いつもの「こゆ〜い」リカさんファンには、ものたりないかもしれませんが、私はこのステファン好きです。    

  • 映美くらら(エヴァ)……
     パンフレットの石田先生の言葉によると「今までみたことのないような娘役」だそうですが、まさにそうでした。こんなトップ娘役はじめてです。そう言う意味でも新鮮でした。
     しかし難しい役です。一歩間違えると、同性が一番嫌う「子供ぶりっこ」「わがまま娘」になりかねない難役です。よくここまで好感度高く演じたと感服します。
     まったく違うタイプなのですが、かつての月組公演「PUCK」で麻乃佳世が見せた典型的美少女・ハーミアを思い出しました。ハーミアはエヴァよりも素直で純粋で、悪意のかけらもありませんが、こちらもへたすると「ブリッコ」「ウソくさい」と攻撃されそうな役所。それをヨシコちゃんは、天賦の演技力を持って、見事に演じきり、同性から絶大な支持を集めました。今回もそれに通じる快演だったように思います。
     映画のエヴァは嫌な少女だと思うひとが多いそうですが、エミクラのエヴァにはそうした要素がないのは、彼女の中の母性を出した結果でしょう。ステファンの元婚約者ナタリーも、GFのフローレンスも「彼に何かをしてもらうか」を考えていましたが、エヴァだけが「彼に何かをしてあげる」ために行動していました。女も年齢あがって仕事持つと、守るものが多いんだから当然。何も持たない子供に全力投球されたら、そりゃ負けますって(苦笑)。

  • 湖月わたる(クロード)……
     メインキャストの中でカップルにならない、少数派の一人。孤独にせり上がってます(笑)。
     貧しい家庭に育ち、貧乏ゆえに母を失ったクロードは、優秀な医師でありながらも、どこまでも金に執着していきます。そのガツガツ感が、サラリとした芝居の多い中で、いい意味で目立っていました。
     ポイントは、手術ミスをすっぱぬいたジャーナリストのジャン(汐美真帆)を金の力で買収しようとするシーン。
     「私はもうトップ屋じゃないんです!」
     と泣きの入った声でつっぱねるケロ(汐美真帆)も、いい芝居してますが、はねのけられて散らばったお札を、地面に這いつくばって卑しさ丸出しでガツガツ拾い集める姿が強烈です。
     また、終盤エヴァと同じ病気に倒れ、死期が迫った姿も見逃せません。医者として自分の病状をカルテに書き留めようとしているのですが、病状の悪化ですでに目はみえず、ペン手にとるのもやっと。それでも手探りで血液検査をする場面は鬼気迫るものがありました。遠慮やカッコ良さを考えず、演技に徹した姿が逆に潔さと男役のダンディズムを感じさせていました。
     今ならば、今のわたる君ならば、「エリザベート」のルキーニももっと力強く演じられることでしょう。

  • 汐風幸(ナタリー)……
     この方も専科にいって、外部出演を経験して、ひとまわり大きくなりました。芝居・ショーともに、女役姿をみせていますが、化粧のせいもあるのですが、芝居ではナチュラルに「女性」、ショーでは「男役が演じる女役」と、ちゃんとタイプ分けができていました。これも「私生活」での女優経験のたまものでしょう。

  • 大空祐飛(フローレンス)……
     初日が明いた瞬間より、各方面より「デカイ、デカイ」との感想が相次ぎました。たしかにデカい。中盤ウサギの幻想なんか、耳をつけたものだからなおデカい。そんなわけで、セクシー系美女というより、迫力系美女でした。迫力のある美しさとでもいいましょうか。これならステファンを振り回せます。あ、でも決して色気がないというわけではなく、ポロ競技場のシーンでの乗馬服に身を包んだ姿は、男役と同じ姿でありながら、なまめかしさがあって、「最近の男役さんは女役うまいなぁ〜」と感心しました。

  • 霧矢大夢(アルノー)……
     地方で美容整形外科を開業して大儲け。利益は趣味のF1カーいじりにつぎこんでる医者です。「高●クリニック院長ですか?!」とツッコみそうになったり。
     それはともかく、いつもながら明瞭な発声と台詞まわしが光ります。車好きの骨太な男役、それでいて不思議と母性本能をくすぐられるような不器用さもあり、ナタリーとのやり取りでは、さりげない台詞で、笑いをとる点に長けた部分を見せてくれました。

  • その他の出演者……
     今回は役のあるキャストが少ない上、専科から3人も天下ってきたために、有望株もずいぶん台詞らしい台詞に恵まれませんでした。が、逆にそれが励みになったのか、舞台の隅々まで下級生のがんばりが目についた作品でもありました。
     ステファンが手術に失敗する女優役に紫城るい。この役としては冒頭の回想シーンのみの登場で、すぐに死んで競り下がるのですが、競り下がりの瞬間、マイクは入っていないながらも「ありがとう、ステファン」と口が動いているのが分かりました。そのときの表情が実にいい。彼女はバウを観た時はやけに大人びていて(声のぞく)女役路線だと思ってしまったのですが、こうして大劇場に乗せてみると、実に舞台映えがします。心配した声の点も向上が見られました。後は色気だ!
     クロードに賄賂を渡す社員役に嘉月絵理。台詞もわずかで名前すらない役ですが、あくどい役どころを下品にならずに、それでいて濃く表現できたのは演技派の面目躍如といったところ。
     その他、台詞の無い下級生たちも、舞台のあちこちで熱演を繰り広げています(熱すぎて、メインの芝居を食ってしまうことも……)。病院の待合室では、ステファンたちが会話している後ろで、手と首と足を怪我した3人組(夏輝れお、姿樹えり緒、朝桐紫乃)が力関係をうかがわせる芝居を見せます。また、ナタリーとアルノーが食事するレストランの後ろの席では、城咲あいを巡る三角関係が、かなりドロドロと展開(指輪を返すから、部屋の合鍵かえせとか……)。最後に未練ですがる星条海斗がコップの水をひっかけられたり。このあたりのプチドラマも見どころのひとつ。千秋楽にむけて、どうドラマが進化するのか気になります。

     

  • ショーの雑感……
     岡田先生の安定した作風のショー。ロマンチック・レビューシリーズから外してはいるものの、異色作「アジアン・サンライズ」よりもはるかに、ロマンチックシリーズに近い一作です。
     よく言えば非常にゆったりとした、悪くいえば眠くなりそうなレビューです。特に、振付けの妙が光る第2章「少年時代」と、エキゾチックな振付けの第4章「オリエント・ファンタジー」。じっくり描くという点ではいいのですが、少々長さを感じてしまいます。
     逆に短かったのは、リカさんが女役で登場、ワタル君との夢の競演〜脚線美を披露する第5章「チャイナドール」の場面。内容的にも異彩を放っていますが、短いだけにかえってくっきりと印象に残りました。
     全体的にリチャード・ロジャースの音楽に頼るところが大きいショーでした。ロジャースの曲をテーマにするというのと、曲の持つ魅力におんぶにだっこになるのとは、違うかと……。大作曲家の力は偉大だと再確認したレビューでした。


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