バウ・ワークショップ
【恋天狗/おーい春風さん】

作:植田紳爾 演出:鈴木 圭/演出:稲葉太地


星組/宝塚バウホール/03.1
出演:涼 紫央、柚希 礼音 ほか

連作公演第二弾。新進スターの初主演に加え、期待の研1生が鮮烈なデビュー。ベテランと新人の演技のバランスも良。

【恋天狗】

 今回のワークショップでは初登場、しかもプロローグがつくので厳密には2幕ものと、他の作品よりちょっとばかり優位なスタートのこの作品。
 ほのぼのとした中にもテンポの良さがあり、充分に笑える舞台にしあがっていました。生徒ひとりひとりが何より光っていました。おそらく、この作品で準主役ともいえる小天狗の役を研1生である麻尋しゅんにつけたことも、いい意味で刺激になっていたように思えます。
 一人一人の持ち味は光り、ピンで場面を引っ張ることは出来ていたのですが、逆をいえば人数が集まる場面での芝居、特に笑いをとる場面は、生徒同士が相手の出方をうかがうような、ちょっと遠慮のようなものが見えました。でも欠点というほどでもなく、全体をみればコメディとして、ハイクラスな仕上がりだったと言えます。
 また、宙組の「おーい春風さん」「春ふたたび」、また併演の「おーい春風さん」では、専科やベテラン陣の演技が突出してしまい、主演の若手が食われてしまう、という現象が起こってしいましたが、この作品ではそういうことはなく、主演、ヒロイン、新進の準主役と、作品のメインキャストがしっかり見られたことも、評価できるポイントです。

  • 涼 紫央(弥太)……
     涼 紫央は、星のプリンスと称された紫苑ゆうのファンを公言していただけあり、今までの舞台からは正統派男役に近付こうとする姿勢が見て取れました。しかし個人的に彼女の役者としての魅力はプリンス的男役とは違うのではないかと思っていました。
     今回の主演でそれがハッキリしました。彼女は正統派二枚目よりも、愛嬌系の演技の方がずっと映えます。なによりこの作品では、「男役はこうあるべき」的な呪縛から逃れたように、イキイキと役を勤めていたのが、非常に観良いものになっていました。
     この弥太という役は、小天狗が弥太に化けるというストーリーから一人二役の妙がポイント。その演じ分けを非常に分かりやすく、客席は「麻尋しゅんの小天狗のまねをする弥太」の面白さに笑わせられます。
     また本物が下手に引っ込んだら偽物が上手から登場といったように、出の忙しさも笑いのツボの一つ。演じ分けの妙も加わって、涼が引っ込むたびに次は何が起こるのかと期待が膨らみます。なかなかのコメディエンヌぶりでした。
     注文をつけるなら、小天狗との対決で、はずみで小天狗を倒す演技、もうすこし芝居を詰めて「うっかり」感を出してくれると面白かったかも。

  • 麻尋しゅん(小天狗)……
     タイトルロールにして、脅威の研1デビュー。いやはや、すごい研1生がいたものです。見た目は華やかで、カツラやメイクもしっかりしているし、台詞まわしも達者。全体に明朗でかわいらしさが溢れています。舞台度胸も満点で、涼・仙堂を相手に一歩も引かない存在感はたいしたもの。なにをしていても目をひくもので、この作品の主役といってもいいくらい(ある意味主役なんですが)でした。
     あまりにあどけない顔立ちなので娘役かと思ったら、どっこいこれが男役。男役にしてはかわいらしすぎるとは思うものの、観客を魅了し、人に愛される魅力は男役・娘役に関係なく、大きな強みです。今後の成長を期待とともに見守りたいです。
     演技は体当たりという感も若干しますが、とにかくお八重が好きで好きで、彼女には弱いという演技がものすごくストレートに伝わってきます。最後には弥太とお八重のカップルを見送り、寂しさで「おかあさ〜ん」と叫ぶ、そんな年頃の、かわいい初恋を表現し、見事に芝居を締めていました。

     

  • 仙堂 花歩(お八重)……
     コメディエンヌといえばこの人も。弥太に思いを寄せる村娘で、小天狗が密かに思いを寄せている相手でもあります(この図式でいくと、村で一番強いのは八重なのかも)。
     好きな人にはストレートに迫る、悲しい時には泣く、そんな一途で元気な女の子を、実にイキイキと快演。また一人台詞に一人芝居が多い役ですが、長台詞もソロも危なげなく、舞台度胸の良さを見せてくれました。
     弥太に迫りながら唄う「もやもや…」の歌や、弥太に逃げられてガックリきたところから強引にソロに入る面白さなど、娘役にしてはクッキリしたキャラクターながら、痛さや嫌みが泣かったのもこの人ならでは。
     彼女や花組の遠野あすかは、宝塚でも「新しい娘役」と言われる要素を持っていますが、そんな彼女のきわめて現代的な魅力が、伝統的な民話の世界とうまくマッチしていたように思います。

  • 星風エレナ(お春)……
     庄屋の娘で、お八重の恋敵役。美人娘役が醜女に扮すると、突き抜けた怪演を見せることがしばしばあります(「銀ちゃんの恋」檀れいの玉美役など)。今回はこの人です。やってくれました。マヌケメイクに肉襦袢つけまくりの太い胴体。こんな女に負けられない!というお八重の歯ぎしりが聞こえてきそうな役づくりです。
     見た目の滑稽さにくわえ、アクの強いナマリと、コミカルな仕草に会場の爆笑を独り占めといった感があります。これで客席降りまでするのですから、たいしたものです。
     ちなみに、星風エレナは併演の「おーい春風さん」では影コーラスです。彼女の役者根性に乾杯。

  • 【おーい春風さん】

     先立って上演された宙組では地蔵が主役かと思える舞台でしたが、今回は子供たちと親方の愛情の物語といった作品。演出の違いを比べるならば、宙組版よりも冒頭の群舞の人数を増やし、楽しさやにぎやかさがアップ。また群舞の中でもキャラクター同士になにやらドラマを感じさせ、脇役の芝居を観る面白さも。台詞の無い生徒までしっかり芝居をしていたのも印象に残ります。
     角兵衛獅子の一団が登場してからは雰囲気が一転。ちょっとのことで天にのぼり、地に落ちる子供の心の動きが、芝居の空気にダイレクトに反映されていて、主役が子供たちであることがビシビシと伝わってきます。

  • 柚希礼音(清太)……
     前回の新公では中年の刑事という泥臭い役所でしたが、今回はうってかわって子供役。子供っぽい気持ちをストレートに出せない、そんな子供の天の邪鬼な芝居が驚くほどに板についています。食べ物も火も差し出されたら意地を張って断るくせに、見ていないところで(芝居のメインがよそに移っている時に)コッソリ手を出している。そんな目が離せない存在。清太として一番重要な観客が「気になる」という存在感をちゃんと出せていました。
     そんな清太が次第に地蔵に心を開いていく、その微妙な心理の動きもわかりやすく、ラストの地蔵の言葉を素直に聞き入れる演技がとても自然でした。
     歌は及第点でしたが、「歌なら清太」といわるのなら、もうちょっと聞かせてほしかったかな?

  • 未沙のえる(地蔵)……
     前回の一樹千尋がどこまでもどこまでも子供に優しい「慈愛の菩薩」といった雰囲気だったのに対し、こちらは広く大きく人を救う「大仏」といった印象。本来の持ち味を活かし、ひょうひょうとした独特の雰囲気。
     親方を罰する時も、直接手を下すのではなく、法力であやつって自分の拳を自分にあてさせるなど、個性的なキャラクターを活かした演出も見物。

  • 英真なおき(親方)……
     もうひとりの主役、といっていいほどの名演でした。
     角兵衛獅子の元締として、酒に酔って子供たちに厳しくあたるものの、心の奥では子供たちを愛しく思っていた、そんな素直になれない大人の気持ちがよく出ています。
     地蔵にいさめられ、子供たち一人一人の汚れを落としてやる愛情深いしぐさは、やや長く単調に感じられたものの、人としての暖かさはしっかりと強く感じられました、あそこは長くなっても省略してはいけません。
     そして絶妙だったのは、子供たちに今夜の予定を話す台詞。朴訥に、とぎれとぎれに、 「あたたかいものを食う」と伝えたときの、その表現力豊かな台詞まわしに、強く胸を打たれます。
     なるほど、結局は子供が好きだから、この仕事をしているのだろう、と思わせる納得の「親方」でした。
     英真さんは先の本公演でもヒロインの父親役で、非常に愛に満ちた演技で芝居巧者ぶりを発揮。深い愛を表現できる貴重な役者であるといえましょう。これからも叶う限り長く長く、宝塚を支えていってほしいと願う生徒の一人です(余談ですが彼女の地蔵様も観たかったかも)。

  • 陽月華(喜久)……
     宙組の彩乃かなみとはまた違った役づくり。少々のことではヘコたれない、芯の強さというかガッツに溢れた喜久であり、柚希の清太との血のつながりをより強く感じました。
     角兵衛獅子の踊りでもキビキビしたところをみせ、ダンサーぶりを活かしていました。
  • 華美ゆうか(まさ)……
     CSのキャスターをつとめている時はややベタついた話し方が気になりましたが、公演では別人のように張りのあるいい声質を披露。
     
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