【愛 燃える -呉王夫差-】
雪組/宝塚大劇場/2001.10

 「次の公演、いつ観にいきましょう〜?」と共同通信の担当記者にメールした時、サブジェクトを「愛燃える」にしたもんだから、
 「宝塚の事をすっかり忘れていたので、山本さんの愛が燃えるのかとびっくりしました」
 となんとも拍子抜けの返事が返ってきたこの公演。仕事の観劇日以外にも、久々に自腹切って観にいってしまった、ゴージャス・アジアン・ベルばら。

【共同通信社 配信原稿】

 ある会社の二代目社長は苦労に苦労を重ね、最近父の代からであった目標を達成したばかり。五月病気味のところに目についたのは一人の美女。社長は彼女に溺れ「金儲けするのが空しくなった」と働く意味まで見失ってしまう−。
 なんとも歯がゆいが、今述べた話は雪組公演「愛燃える -呉王夫差-」(宝塚大劇場)を大胆に脚色したものである。春秋時代、呉王夫差(轟悠)は宿敵越を打ち破った。越王からは従属の証として絶世の美女西施(月影瞳)が献上される。西施は呉を傾国に導く密命を帯びていた。夫差は西施の恋が偽りと知りつつも彼女を愛するようになる。西施もまた夫差の優しさに惹かれ、愛情と使命の間で苦悩する。
 夫差は戦乱の世では優しすぎ甘すぎた君主である。当時の中国で平和を求める王は、今の世で働くことを厭う社長と同じである。当然国も命も失ってしまう。
 しかし、こんな情けない男でも客席の女たちは彼を見捨てない。それは彼こそが「ベルサイユのばら」のヒロイン、マリー・アントワネットの男性版に他ならないからである。両者に共通するのは愛を求めて義務をおろそかにし「豪華な悲劇」を招いたこと。一人の女性の愛を求めて国を失った愚かな王の物語は、つましい幸せを与え続ける貧乏人のそれよりも、はるかに女のロマンを駆り立ててくれるのだ。特に落城のラストシーン、鎧の上に布をまとっただけという夫差のいでたちに対し、西施は平時以上に飾り立てて登場する。明日のお米の心配しながら長生きするより、贅を尽くした暮らしを堪能し、恋人と炎の中に絶えた方が楽、そんな女の「ゴージャスな滅亡願望」を具現化していると言えよう。
 ただ一つ残念だったのは、夫差を演じる轟がパーフェクトな軍人君主に見えたこと。男役としての才を買われ、トップスターとしては十六年ぶりの異例の専科入りが決定している人だけに、戦争を厭い恋に迷うヤワな男に見えないのである。十一月十二日まで。東京公演は2002年1月2日から。
(了)

【雑感】
 現在執筆中……しばらくお待ち下さい

▲もくじに戻る▲
Copyright(c)1996-2002 Chizu Yamamoto.