第15話:試用期間の終り?半年が過ぎて
て、そんなこんなでこの会社に勤め続けて早半年。いよいよ試用期間も満了です。たしかにノンキャリアからたったの半年なので、仕事がものすごく出来るようになった、などということはありませんし、そんな自信もありません。
須賀さんと私との間で、雇用条件確認のミーティングが開かれたのですが、ハナからこの会社の社員登用のハードルの高さは知っていて、自分でも自信がないことを理解している私と、「コイツじゃ社員はムリだろうなぁ」という感情がなんとなく伝わってくる須賀さんとでは、話の流れも一本の他なく、
「まだ、社員志望なんです。」
「まだ、むずかしいんじゃないかなぁ。一応上には伝えとくけど。」
「お願いします。」
といった、形式的なもので完結し、「目指せ正社員!」の旗印は依然、高く掲げたまんまです。

も、私もただのバカじゃありません。川島さんからいままでの従業員のいきさつなどを聞いているからには(第14話参照)、くいさがる部分はくいさがらないと。
「今後も社員を目指して実力をつけるというのはいいんですが、
 今の日給を考え直してほしいんです。
 入社当時はまったく経験が白紙の状態だったから、
 日給も一番低い設定からスタートしましたけど、
 今はそれなりに成長した部分もあると思うんで…
 もちろん、今すぐ社員になれるほどではありませんが。」
社員になれないからといって、給与まで現状維持というのは納得いきません。ぶっちゃけた話、納得うんぬんよりも生活が持ちません!(実際すごい薄給だったしー)
さて、この訴えにどういう返事がかえってきたのでしょうか?
話は先の正社員登用問題(と、かくと大問題のようですが、冷静に見ればなんてことはないのよね)とからめて、須賀さんよりもさらに上の村上さんから直々にお話があるということで、ミーティングの日時を設定されました。さあ、正念場です。
おそらく前例からみて、私の願いは両方からめてズバっと一刀両断されるでしょうけれど、どのように説明されるのか見物です。


までの記述でもお分かりかと思いますが、この会社は実にミーティングが多い会社です。仕事上のことはもちろん、人事面での通達や要望などにわたるまで、上司・部下の間で簡単に意見を交せるのです。
これは、上下関係に左右されず、よい意見は尊重しようという気質の現われで、そういうところは実に風通しがいい会社だといえるでしょう。(前の会社とはえらい違いや…)
しかし、意見を発する場が多いということは、それだけ弁がたち、上にも下にも自分の意見を論理的に主張する人種に活躍の場が多く、また評価が高くなりがちです。
営業マンが多いので、こういう面は評価されて当然といえば当然なんですが、この会社の極端なところは、
「不可能を予測して、発言・提案しない人材逆よりも、
 たとえ机上の空論であっても、積極的に発言・提案する人材の方が好ましい」
という評価がまかりとおっていたところです。つまり、いいだしっぺばかり多くて、すすまない計画がやたらと多いということ。
おまけに、こういう人材ばかりに片寄ってしまうと、現場レベルでも困ったことが起こります。
まず、普通のミーティングでも、理論VS理論の“論争”ににもつれこみやすい。いいだしっぺが多いので机上の空論もバンバン飛び出す。そいいうわけで、小さなミーティングもやたらダラダラ長引きがちです。最後には実際に最善のプランよりも、最終的に論破した人のプランが、チャンピオンとして通ってしまう、つまり違うなぁ、と思っていても、論争に負ければ正論も泡と消えてしまう、危険性があるのです!
さらに、部下に芽生えた不満なども命令ではなく、論理的に説明することで、心の底から理解し受け入れてもらおうとしてしまいます。時には説得だけで2時間も3時間もかかってしまい、(その間の業務は当然ストップね)あたかもカルト教団の勧誘のようになってしまいます。他人を心の底から共感させるなんて並大抵のことではありません。適当なところで割り切って仕事すればいいのに、そういうのはダメみたいです。

なにやら頭でっかちのバンカラ学生が毎晩哲学討論しているむさい下宿屋みたいですね。

なもんで、とにかく弁の立つものが勝というこの職場でも、百戦練磨の呼び声高い村上さんと、給与アップについていちおう“論争”するハメになってしまったもんですから、私も自分の意見くらいはまとめなくちゃいけないなぁ。でももともとダメそうだし…。などとやる気なくゲンナリしていたところ、須賀さんが見かねたのか、
「山本、給与のことについて、村上さんと話すんやったら、  業績資料をまとめなあかんな。」 ぎょ、業績資料?
須賀さんは、入社から今までに請け負った仕事、その仕事単価をリストアップし、業務成績を出すことと、半年の間で習得した技術を解説する資料を作れとおっしゃるのでした。
と、いうのも村上さんは、上司といっても直接私たちの事業部の仕事をしているわけではないので(営業マンだった)、他部署の人物を説得しやすいようにこのようにする必要があるのだとか。
ここで正直ゲンナリです。今まで、デザイン関係の仕事をしてきて、同じ業務の上司にかこまれて、仕事の出来不出来は作品を見れば一目瞭然という職場にいたのです。そこに自分から「アタシはこんなにすごいのよ!見て見て!」とアピールするわけですから、気がめいります。

※作者注:後々になって思えば、こういう経験も過分に役にたったのだけど、このときはイヤでイヤでしょうがなかった。

しかも自分の仕事の未熟な点を分かった上で、同じ社内の上司を相手にするのですから、手の内を見透かされるようで、気恥ずかしいものがあります。ついでに言うと、業務そこのけでこういう作業をしているので、なんのために会社にきているのか…
ともかく、マゴマゴしているわけにもいかないので、入社当初の誰の目にもヘボヘボと分かる仕事から、最近のそこそこ形になったものまで、すべてファイリングし、収益を記し、おまけに自分でも思い上がるな!といいたくなるような、アピール文を添えて、資料を制作しました。
しかし、何度も書きますが、たかだかバイトから正社員にあがるだけで、この大騒ぎ。資料が出来上がったころには、心身ともに滅入ってしまって、正直
「もう、どっちゃでもええ。早う終わってほしい
そういう気持ちでした。

備万端ととのえて、約束の時刻にミーティングは始まりました。用意した資料は事前に村上さんに手渡され、検討されてており、純粋な結果発表です。
ミーティング用の二人ブースに村上さんと二人ではいると、さっそく用意してきた照れ臭い資料を前に解説がはじまりました。
「えっと、資料は読みました。
 そろそろ入社から半年ということで、雇用期間もおわりますから、
 社員への登用を検討してみました。
 結果をいうと、まだちょっと社員になる力はないということですね。」
ほら来たよ〜。ここまでは予想済み。
この時、私、かなり投げやりな顔でもしてたんしょうか。村上さん、あわててフォローに回ります。
「あ、でも山本がこの会社にむいていない、
 正社員になるのは絶対無理やというわけではないんです。  いままでの仕事ぶりをみていても、
 まだ山本ひとりで仕事が完結できないけれど、
 これからもがんばっていけば、社員の力はつくと思いますよ。
 ですから、社員になれないから、即やめてくれとかいうのではなくて、
 もうしばらくこのままで様子をみましょうと、まあ、そういうことです。」
様子をみましょう、ですか。いい言葉ですね。
でも、見る方は今まで通りでよくっても、私は今まで通りじゃキツイんです!

ろそろこちらも反撃にでましょうか。なんたって論争するものに勝利ありですからね。この会社では。
「それでは、もうしばらく試用期間を延長するということですか?」
「そうですね。」
「では、試用期間中の日給のお給料ですけど、
 これは入った当初の未経験を前提にした給与体系ですよね?
 あれから半年たちましたし、こちらは見直してもらえないんですか?」
さあ!どういう論法で答えが返ってくるのでしょう!楽しみです!
「えー、給与ですね。
 今は、試用期間ということで、日給・*千*00円でやってもらっているわけですね。
 こちらの方は…今、会社全体の昇給の時期とずれているので、
 次の昇給の機会に一緒にあげるということで、
 それまで、とりあえずこのままでいてください。」
え?!!!ずれているって言われても…入社時期がもともとずれているんだから仕方ないのでは…?
「次までこのままなんですか?」
「そういうことです。
 えーっと次は春ですね。」
おいいおいおいおい〜!!春ですねって、簡単にいうけど、次の昇給シーズンまで半年以上もあるやんけー!! 結局現状維持じゃないの?!

静に考えてみれば、中途採用もバンバン行っていて、アルバイトやら契約社員やらで、昇給ペースなんて全体では不確定もいいところ。どうしてそこのところをつついてやらなかったのか悔やまれます。
それにこのように、さまざまな昇給ペースの人材がいりみだれているわりには、正式に給与換算したりする部門ってなかったんです。(総務と人事が兼任している部門がやっていた)だから、なるべく管理しにくいことは避けたかったんじゃないでしょうか。憶測ですが。
でも、当時はそんなところまで頭と論理が回らず、「春ですね」の一言にショックを受けて、絶望と不信のあまりそのまま“論争”は敗退。未熟者です。結局昇進も昇給もかなえられぬまま、約束の試用期間はズルズルベッタで延ばされていったのでありました。
あーあいつになったらフツーの会社員になれるの?
ここの正社員って、国家公務員よりなるのむずかしいの?  

■次回■
第16話:事業部拡張人員増員!


Chizu Yamamoto
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