冠婚葬祭は田舎の方が派手だといいます。
娯楽に飢えてる分、結婚なら披露宴、葬式なら通夜ぶるまい・精進落しなどで、天井知らずに盛り上がってしまうからでしょう。
特に都会に出てしまった男性などは、普段郷里の同窓会になど顔を出せないことが多く、そんなレアなメンバー(郷里の友人にしてみれば)も集まってしまう、通夜ぶるまいの夜は、思いもよらない「簡易同窓会」と化し、ますます田舎の友人は大フィーバーしてしまうのです。
その上、田舎の人は素直というか、ハラに一物ためるのが苦手な人が多いので、うれしい!なつかしい!という気持は、友人宅の不幸を痛む気持ちを超えてしまい、通夜ぶるまいを大宴会化してしまいます。
こうなってしまうと、故人の思い出話など隅の方にうっちゃられてしまいます。
そろそろビールも切れるし、なによりもう夜中だし、今夜は寝ずの番もしなくちゃいけないし、その上明日は本葬で朝も早い。そろそろお開きにしたいんだけど…と、女手各位は台所で気をもみはじめます。
京都名物「ぶぶ漬でもどうでっか?」攻撃で、逆効果を狙った追加の一品をもっていっても、浮かれ気分でイッパイのお客さんは、
「ああ、奥さんすんませんなぁ……ああ、どうもどうも。
そいで、あの時なぁ…」
と、頭が高いのか腰が低いのか分からない態度で、サッサとツマミを口にいれ、何事も無かったかのように、会話の流れを戻してしまうのです。
とにかく、ひさしぶりの再会がうれしくて仕方が無い、自分が何の目的でここに来てるのかわからないほどの、ビバお通夜!ビバお葬式!ってカンジなのです。
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厄介なのは、目的を忘れてやたらと長っ尻の弔問客だけではありません。日頃まったくといっていいほど会っていない遠縁まで一同に会すのです。普段は何とも思っていないのに、血だけは他人よりも濃いので向こう様も
「なんとか仲良くしなくっちゃ!」
というオーラがバリバリ。こちらも
「忙しいけどほったらかしには出来ないし、
さりとてコキ使える程親しくは無し」
なる葛藤がアリアリ。
ですから、あたりさわりの無い会話に精を出すハメになり、共通の話題が見つかると、たとえそれが蜘蛛の糸ほども細かろうとも、グイグイくらいついていくほかないのです。
私の曽祖母が亡くなった時のこと。親族の方々にお酌をして回っていた時、どういう続柄になるのかサッパリ理解していないけれど、きっと血のつながりはあるのだろうオバさまに
「コンピュータ関係のお仕事してらっしゃるんですって?」
と、問いかけられました。たしかに、当時私は会社勤めをしていて、WEBデザインを主に仕事をしておりましたので、一応「コンピュータ」に関係が無い訳ではありません。しかし、この仕事を「コンピュータ関係」と言っていいのやらどうやら…と迷っていたところへ、オバさま追い討ちで
「ワタシもね、CGとかやるのよ」
と、きたのです。さて、こういう時どうこたえて良いものやら。
「それってどういうカンジのですか?」
というふうに、会話を盛り上げるべくくらいついていくべきなのか?
ここでヘンに専門的なハナシで盛り上がって、あんまり話が脱線するのも困るし…。
それに、くらいついていったところで、オバさまの「CG」はいったいどのようなのので、プロ級なのか単なる趣味の年賀ハガキレベルなのか、はかりかねるだけに、安易にツッコんでシラけさせては元も子もない。
ほんの1、2秒の間でしたが、当時接客慣れ、葬式慣れしていなかったあワタシは頭の中でズザザザザーッとめくるめく考えてしまい、結局
「えーっそうなんですかぁ〜」
と、バカなコンパニャーのように答えて、次の席にお酌に移ったのでした。
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しかし、長っ尻の客でも、相手するのが難しい遠縁でも、まだマシ!本気で困るお客はまだ他にあるのです。
話は私の祖父の通夜に戻ります。
祖父の通夜が葬議場の花洪水の中で執り行われたことは、前章で述べましたが、同じその葬議場にある宴会フロアで、引き続き通夜ぶるまいが行われました。
自宅の通夜ぶるまいと違い、食器は洗わなくてもいいし、ビールやジュースが無くなる心配も無く、その点は非常にラクチン。
また、自宅が会場では無い分落ち着かないのか、長っ尻の客も出そうに無く、ますます結構な雰囲気でした。
さて、パラパラと出入りする弔問客の中に、叔母の同級生だという初老の紳士のグループがありました。叔母も久しぶりの再会のようで、和やかなムードでビールなど酌み交わし、しばし歓談しておりました。
そして程よい頃合で、紳士のグループは遺族に挨拶を済まし、叔母に見送られながら帰路についたのです。ここまではまこと、あらまほしい弔問の姿といえるでしょう。
ところが、事態は急転直下。遺族も弔問客もビックリの事態がこの後起こったのです。
事態の第一報は、葬議会社の社員からもたらされました。
今なお和やかに通夜ぶるまいが続く宴会場に、その若手の社員はこけつまろびつ駆けこんできて、
「山本様のご弔問の方のお一人が、ちゅ、駐車場で…
その、お酒を少々過ごされていたようで…」
と、口上の様に報告しはじめるではありませんか。
会場はそれまでのムードをうって変わって、水を打ったように静まり返り、誰もが
「すわ、酔っ払い運転の事故?!」
と、最悪の事態を予想しました。そんな緊迫した面持ちを前に、若手葬儀社員は報告を続けます。
「お車に乗り込まれる時に、足を踏み外されまして、
ころんで、頭を怪我されました!」
まずは、対物や対人の事故で無かったことはホッとしたものの、怪我した場所が頭だというので、一同は改めてざわめき立ってしまいました。そして、トドメがこれ。
「それで、出血が激しかったので、先ほど救急車を呼びまして、
山本様のご遺族の方がお一人、病院まで付き添っていかれましたっ!」
ヒエー!なんと、救急車が出動してしまったのです!ウチの通夜で!
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さてたいへんだったのは、それからです。
まず、直接の責任は無いものの、道義上無視できない重荷を負ってしまった遺族。救急車が病院につき、治療がすむまでは怪我の具合もよくは分かりませんから、
「ウチのお通夜に着ていただいて大怪我…」
と、葬式の忙しさに加えて、ブルーな気持ちがダブルパンチ。
会場にいた他の弔問客も、和やかに故人を偲んでいたムードがブチ壊しになり
「◯◯サン(怪我した紳士ね)、大丈夫やろか?」
と、一転して怪我紳士を思う会へと変わってしまいました。
そうこうしている間に、怪我紳士につきそって救急車に同乗した叔母から、その後の第一報が寄せられたのですが、それも
「◯◯サンの怪我なんだけど
酔ってて足を滑らせてまず頭を打って、
もちろん出血はしたけれど、
それより深刻だったのは、むしろ一緒にぶつけた腕の方で
レントゲンとったら、骨が折れてたのよ!
それで、入院することになったから」
という、安心していいやらもっと深刻になるベキなのやら分からない内容。
ともかく全員、一息つくと、やっと意見らしい意見がでてきました。
「◯◯サン、酔って足踏み外した、っていうてるけど、
そんなに呑んでたかぁ?」
「それより、ヒドイのはあの葬儀会社の人よぉ!
あんなにお客のいる所に、
大声で、怪我やぁ救急車やぁ!て、言わんでも…
せめて、物陰でそっと誰かに言うてくれてたら…」
と、今さら言うてもせん無い事ではありますが、葬儀社の人へ恨みの言葉も漏れるのでした。
そして最後に、事態をもっとややこしくしたのは、怪我紳士の身の上。
この怪我紳士、実は小学校の校長先生だったのです。
祖父が逝ったのは、夏休みもまっさかり。この校長先生も、ご多分にもれず夏休み前に
「休みの間はくれぐれも、病気や怪我に気をつけるように」
と、口を酸っぱくして子供に告げていたことでしょう。
それなのに、休み明け三角巾で腕を吊して登校するのが、他ならぬ校長自身だなんて。
くれぐれもお酒には気をつけたいものです。
(あと、葬儀社の人も、も少し気を使ってね。お願い。)
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