前回は送り出す側の衣装について書きましたので、今回は送られる側の衣装、死装束を取り上げます。
仏式の葬儀が多い日本では、自ずと限られてしまうのがこの死装束、白い仏衣(経帷子)です。病院でなくなった場合、専門の方が湯灌をしてくださって、白い経帷子を「左前」に着せてくれます。自宅で亡くなり、遺族が湯灌をする場合も、特に希望が亡ければこの「白装束・左前」で横たわることになります。
その後、棺に入れるまでにまだまだホトケさんには、身につけてもらわなくっちゃいけないものが、イロイロございます。
ウチの祖父の時は病院で亡くなり、死装束で帰宅しましたが、その後葬儀屋さんがドタバタとやってきて、
「ハイッ、これが仏さんのお支度です。
いちおう“あの世への旅立ち”
ということになっておりますので、基本的に旅装束になります。
手には手甲、足には草履に脚絆です。
ああ奥様ですか?こちら、結んでいただけますか?
あ、草履やなんかの紐はダンゴ結びっていうんですか?
結びっぱなしで、蝶結びにはしないでくださいね。」
と、いうテンポで、ドカドカッと着付けを開始されてしまいました。
なにせ、納棺直前のタイトなスケジュールなもので、最中に、
「なんで、ダンゴ結びなんですか?」
など、ふとした疑問を問うてみたところで、葬儀会社の人も、
「昔からの決まりごとなんですよぉー」
と返事もそぞろ、気もそぞろで、着々と手を動かすばかり。
引き続いて、
「最後に、手に数珠を持たせてあげてくださいね。
あと、こちらの頭陀袋も首にかけてあげてくださいね。」
と、遺族に指示は飛ぶものの、さて、この頭陀袋もいったい何なのやら。
中には三途の川の渡し賃ということで、六文銭が入っているそうなのですが、じゃあなんで六文なの?という問いも、御用繁多な葬儀会社の人は例のごとく
「さあーなんででしょうねぇー?
これも昔からの決まりごとなんですよぉー」
の鉄の一言で片付けてしまうのです。
とにかく、経験の浅い家族にとって、お葬式というのは、日時を選ばず、心の準備もなく、突発的に発生する割に、勝手の分からないルールにのっとって、限られた時間内にあらゆることを決定・実行・速やかに完結しなければいけない、非常にハードで摩訶不思議な儀式になります。
ですから、何が何だか分からない遺族は、葬儀会社から「昔からの決まりごと」といわれると、たいていのことには
「ハァ、さいでございますか」
と、唯々諾々と従ってしまうのです。
ウチの一家の場合、死装束の着つけの段階から、早くもこの「ハァ、さいでございますか」が出はじめ、この後数日間は、何をするにもついて回りました。
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話が若干それましたが、納棺前の死出の装いはもう少し続きます。
最後に顔をキレイにする作業が残っているのです。男性はヒゲを剃り、女性はお化粧をするのが一般的です。頬がコケている人には綿を含ませたりするそうです。
それから、化粧では無いのですが、棺の中で首が横を向いてしまう人もいるので、そういう時には横に支えになるものを布の下にいれてやります。
あと、耳や鼻にも綿を詰めます。病気やケガで無くなった方は、綿を詰めても血が止まらなくて、たいへんなこともあるそうですが……。
ともかく、日本の場合、死装束と装いは、こんなもんです。オーソドックスといいましょうか、シンプルといいましょうか。
実は、これがアメリカになると、死者の装いはびっくりするほど派手になります。
こでは根本的に宗教の違いに起因するものらしいんですが、なんたってキリスト教はジーザスの復活思想がありますから、棺に入る時も思いっきり美しく、ドレスアップして入ります。
アメリカでは、まずドクターが死亡を確認し、診断書にサインすると、葬儀社がひきとり、専門のスタッフ血を抜いたり病原菌を殺したりして、防腐処置を施すのです。
映画やミュージカルの「エビータ」で有名な、アルゼンチンの大統領夫人エバ・ペロンは、死んで後、反ペロン派の陰謀で遺体が行方不明になるという憂き目をみましたが、十数年たって発見された時も、防腐処理されていたおかげで、それはもう生前のようにウツクシーお顔だったそうです。
この話を聞いた時は、
「ゲッ、死体に防腐処置っ!トキやパンダのハクセイじゃあるまいし、
いくら美人でも、アルゼンチン人の考えることはわかんねっ」
と、ヒジョーにビビッたものでしたが、今にして思えば、死後は粉骨になって土に帰ることしか知らない、日本的な発想というヤツでしょう。
現にワシントン州ではこの防腐措置、もしくは遺体の冷却が義務になっているというから、アチラの世界ではあたりまえの常識なのでしょう。
ひょっとしたら、防腐処置国から見たら、鼻だの耳だのに綿を詰め、夏場はドライアイスをてんこもりにして、「最後のお別れ」をする日本式の方が、よっぽど遺体を「モノ」扱いしているように写るかもしれません。
とにかく、アメリカのお葬式のコンセプトは、「安らかに眠っていただく」ことにあるようですので、遺体に苦痛に歪む表情がある場合など、エンバマーという専門の整形技術をもったスタッフが登場します。
エンバマーは遺族が見るに耐えないような表情でも、安らかな、それこそ眠るが如きお顔に作り替え、遺族の悲しみを紛らせるそうです。
映画「永遠に美しく…」のブルース・ウィリスが、後半やっていた仕事がこれです。映画では、若い奥さんのお腹の上で(!)亡くなった男の、強烈なニヤケ顔をウィリスがなんとかしようとしておりました(あれはどんなエンバマーでもムリじゃないのか?っていうくらいの顔してたけど)。
このエンバマーはライセンス制で、免許がないとなることができません。すばらしいエンバマーになると、安らかな表情だけでなく、例えば社長は社長らしく、教師は教師らしくと、生前の職業・人となりをも思わせる、芸術的な仕事をしてくれるそうです。さしずめ死体整形界(というのがあるのだろうか?)のブラック・ジャックといったところでしょうか。
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さて、防腐処置・整形処置が済み、遺体が遺族の元に帰ってからが、アメリカ式「死出の装い」の本番です。
まず、棺桶からして違う。日本のは火葬を予定した白木の木製で、凝ったところで横に掘り細工を入れるくらいですが、アメリカの棺はキャスケットと呼ばれ、クッションフカフカの、生きてる人でも眠りたくなるような、寝心地バツグンのリッパなもの。
またまた国は違いますが、このあいだ亡くなったイギリスのダイアナ元皇太子妃の棺はゴーカでしたね。非常に立派というか、棺だけでもかなりの重量がありそうで、それがそのまま国家の重みというか、王室の重みってやつを感じましたね(しかも、担がれて教会入りしたからよけい)。
なんせ棺がコレですから、中に入る人も女性はドレス男性はタキシードと、あの世(っていうのかな?キリスト教では)で舞踏会があってもバッチリよ!という格好をしています。
ま、ドレスはオーバーにしても、生前気に入ってた服や、大事にしてた服なんかで、できるだけ楽しそうに、眠りについていただくそうです。
お金が無い場合は、上から見えるところだけドレスアップする、エプロン型のドレスやタキシードというやつもあるそうです。ホンマ、至れり尽せりですな。
それから、日本のように火葬にしませんから、服葬品に燃えないものもOKです(墓荒しの心配はあるかも)。こう書くと日本ってつくづくややこしい国です。
「故人が生前使っていたものなんです……」
といいつつ、未亡人がメガネなんぞ入れようものなら、係のおじさんに
「あー金属はやめてください。燃えませんから」
と、カンパツ入れず止められる。万年筆や入れ歯といった、本当に故人が毎日使っていたものも当然ダメ。おいおい、ここでも分別かぁ〜?!(ま、あたりまえと言えばあたりまえなんだけどね)
で、仕方無く燃えるもの、燃えるものと家中探した結果、いつの物だかさっぱり分からないけど、ずいぶん昔に故人が一度だけ寄稿した文集とかが出てきて、
「これならいいか。紙だし」
と、妥協して入れてしまう。こういう風景がままあるものです。
亡き人も、本人すら忘れていた「燃えやすいもの」と一緒に煙になるなんて、さぞかし驚いていることでしょう。
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